中盤、書いている自分が引きそうなぐらいどシリアスになってしまいましたのでご注意下さい。
どうしてちょっと明るい話になったかと思ったらどシリアスに突き進んでいくのか………
☆
「出来ました‼︎どうぞ、食べてください‼︎」
「あ、あぁ」
自分の目の前に並べられていく美味しそうな朝食を、俺は困惑した表情で眺める。
その料理を俺に振舞っている遊花はとても嬉しそうな笑みを浮かべている。
「えへへ、誰かと一緒に朝食を食べるのなんて久しぶりなので、つい張り切ってしまいました。どうぞどうぞ‼︎沢山食べてください‼︎」
「お、おぅ」
「残った分はお弁当にしちゃいますね‼︎」
ニコニコとした遊花の笑顔に気圧され、俺は用意された料理を食べ始める。
どうしてこんなことになったのか。
それは前日の夜まで遡る。
ーーーーーーー
デュエルも終わり、満面の笑みを浮かべる遊花を見て、俺も少しホッとした。
今のデュエルで彼女が少しでも前に進むことが出来た。
大好きなデュエルを怖がっていた少女が再びデュエルの道に戻ることが出来たなら、とてもいいことだろう。
「それで、今日はもう暗くなっちゃいましたけど、明日からまた色々と教えて貰えないでしょうか?朝は学校もありますから、会う場所とかも決めておきたいですし………なんだったらお家を教えて貰えればそこに通ったりなんかしちゃうんですが………」
「そうだな、今日はもう遅………」
「師匠?どうかしましたか?」
突然言葉を止めた俺を遊花が不思議そうな顔で見てくる。
だけど俺はそれに反応出来ない程、遊花の言葉により身体から冷や汗が流れていた。
周りを見回すと辺りはすっかり日が暮れていて完全に夜になっている。
この時間だと宿はもうどこも空いていないだろう。
そして俺は今、帰る家がない。
つまりーーー
「やっちまった………」
「師匠⁉︎どうしたんですか⁉︎」
突然崩れ落ちた俺を見て、慌てた様子で遊花が近寄ってきた。
心配させてしまうのは心苦しいが正直今は構っている余裕がない。
「あ〜悪い、とりあえず会う場所はここでいいか?多分今日はここで寝るから」
「えっ⁉︎ここ公園ですよ⁉︎」
確かに公園だが行く場所がないのだから仕方がない。
遊花は困惑した表情を浮かべながら俺に声をかけてくる。
「家に帰らないんですか?」
「あ〜色々あって住んでいたアパートを追い出されてな。ホテルでも探して泊まろうかと思ってたんだが………」
「………この時期に空いてるホテルは無いと思いますよ?実家やお知り合いとかは………」
「………実家って言えるものは今の俺にはない。そして知り合いはぶっちゃけ迷惑をかけたくない。さっき言った通り、俺はこの街では悪名が高いからな」
俺の言葉に遊花が悲痛な表情を浮かべる。
実際、多分頼ればアイツらは手を貸してくれるとは思う。
本人達も世間からの評価なんか気にはしないだろう。
でも、アイツらが築き上げたものを俺が崩してしまうことはしたくない。
幸いなことに季節はまだ6月だ。
野宿をしても風邪をひくことは無いだろう。
そう自分の中で結論付けようとした時、意を決したように遊花が俺に声をかけた。
「だったら………だったら、家に来ませんか?」
「はぁ⁉︎」
遊花の発言に俺は思わず声を上げた。
一体この子は何を言ってるんだ⁉︎
「その、私も1人暮らしですし、それにほら‼︎弟子は師匠のいるところで家事とかを手伝いながら師匠の後ろ姿から学んだりするじゃないですか。だから、一緒の家にいた方が色々教えて貰いやすいかなって」
「い、いやいや。それは師匠の家に下宿する場合であって、弟子の家に師匠が下宿するのはマズイだろ」
そうじゃなくても色々マズイ。
無職の男が1人暮らしの年下の女の子の家に転がり込むとか、その事実だけで俺は心が折れそうだ。
通報されたら1発でアウトだぞ⁉︎
そんな俺の思いとは裏腹に遊花は寂しそうな表情を浮かべる。
「それに………師匠が困ってるのに何も出来ないなんて………私も少し寂しいですから………師匠に貰ってばかりで、師匠に何も返せないのは、嫌ですから………」
「………はぁ〜」
そんな遊花の言葉に俺は何も言えなくなってしまう。
先程のデュエルでも分かったことだが、この子は優しく、純粋で、そして負けず嫌いの頑固者だ。
1度こう言いだしたら止まらないのだろう。
それに、ここまで俺を気にかけるのも彼女の過去が関係しているのだろう。
先程のデュエルでも漏れていた父の形見や失くなったという言葉、そして1人暮らしという現状。
それがどういうことを意味しているのかは、聞かなくても想像がつく。
だからなのだろう。
ここまで俺のことを気にかけているのは。
俺がここで1人で過ごして、何かが起こってしまうことを恐れている。
今日会ったばかりの人間の身に何が起こってしまうのを、心の底から恐れている。
「………普通、今日会ったばかりの人間を家に泊めようとするか?」
「師匠は信用出来る人ですから」
「………そこで即答されるのもな。俺も騙されやすいけど、騙されるとか思わないのか?」
「師匠はそんなことしません。されたなら、それはそれで私の見る目がなかっただけです」
「………信用が重いよ」
「それに、いいじゃないですか、騙されても。何回も誰かを騙す人間より、何回も誰かに騙されて馬鹿を見て、それでも誰かを信じれる人間の方が、私は好きです」
「………はぁ〜」
分かっていたことだが、この子の意思は固い。
このまま俺がここに居座るなら、彼女も居座ろうとしてくるだろう。
流石に、それをさせるわけにもいかない。
「とりあえず、今日のところはお世話になる」
「今日だけじゃなくてもいいですよ?通わなくても済みますし」
「そういうわけにはいかないさ」
「………じゃあ師匠の新しいお家が見つかるまでと言うことで」
その言い方は絶対にすぐには見つからないと分かって言ってるだろう。
俺が呆れた表情を浮かべるとそれを見て遊花はにっこりと笑顔を浮かべた。
「それでは改めて、よろしくお願いします、師匠‼︎」
ーーーーーーー
★
「………えへへ」
「………どうかしたか?」
「あ、いえ、何でもないです」
目の前にいる師匠を見て、思わず笑みが溢れてしまう。
いけないいけない、師匠も怪訝そうな表情を浮かべてる。
普通、普通にしないと。
それでも油断すると笑みが溢れそうになってしまう。
でも、そうなってしまうのも仕方ないと思う。
昨日の事が夢じゃなかったんだってことが分かるから。
こうやって私の家で誰かと一緒に食卓を囲むのは久しぶりだ。
ずっと気にしないでいようとしていたけど、やっぱり1人での食卓は寂しかった。
話しかける相手もいなければ返ってくる言葉もない。
音も私の音しかせず、テレビをつけていないと1人を感じてしまう時間が嫌だった。
正直、師匠を家に呼んだのはとても強引だったと思う。
師匠がどんなことを気にしていたのかだって、ちゃんとわかってるハズだ。
それでも、ほっておけなかった。
もし、あのまま師匠と別れてしまったら、師匠まで居なくなってしまうんじゃないかって、思ってしまったから。
でも、師匠はこうしていてくれてる。
それが本当に………本当に嬉しい。
「そういえば師匠は今日どうするんですか?」
「とりあえず、宿を探す。後は、まだお金に余裕があるとはいえ、仕事を探さないとな。というわけだから、今日は教えてあげることは難しいかもな」
「………宿は探さなくてもいいんですよ?ここに帰ってきてくれれば教えて貰うことも出来ますし」
「それはない」
その言葉を聞いて、仕方がないとは思うけど、少し残念に思う自分がいる。
昨日、私の家に来てからお互いのことについて少しだけ話した。
最初は私の家族のことについて話した。
師匠はずっと優しい目で私の話を聞いてくれて、聞き終わった後も何も言わないでくれた。
何を言うべきか、もしかしたら迷っていたのかも知れないけど、それでもずっと優しい目で私を見てくれていたのが嬉しかった。
それから、私は師匠の追い出された理由や悪名のことについても少し聞いた。
師匠は何でもないかのように話していたが、私はそれを聞いてかなり怒った。
どうして噂だけで、実際の師匠のことを知りもしないのにそんなことが出来るのだろう?
彼と接して、デュエルを見れば分かるハズだ。
彼はそんなことをする人間じゃないってことが。
会って1日も経っていなかった私や空閑君ですら分かったのに、何故彼のことを誰も理解しようとしないのか。
そして何よりも悲しかったのは、それに対して師匠がもう何も感じていないことだ。
怒ればいいのに、悲しめばいいのに、仕方がないと不条理を受け入れて笑うあの表情が、私には辛かった。
「………宿が見つからなかったら、ちゃんと帰ってきてくださいね?」
「帰ってくるって言うのはおかしい気がするんだけどな」
「弟子との約束ですよ」
「………はいはい、師匠としては裏切れないな。まぁ、確かに昨日の今日で見つかるとは思えないから、そうなったらすまないけど泊まらせて貰うよ。俺も野宿は嫌だからな」
そういって師匠が笑う。
きっと私が何を言っても譲らないから諦めたのだろう。
今は、これでいい。
師匠がくれたきっかけで、私は少しでも前に進むことが出来た。
だから、今はどうすればいいかはまだ分からないけど、いつか絶対に師匠に返すのだ。
私にくれたたくさんの恩を、そのきっかけになってくれたこの人に。
「まぁ、それはそれとして、師匠ってものになったのに何もしないって言うのも申し訳ないからな。少しアドバイスとして、カードショップでも行ってみたらどうだ?」
「カードショップ、ですか?」
「ああ。いきなり誰かとデュエルって言うのは厳しいかも知れないし、俺みたいに全くデュエルをしてなかったわけじゃないだろうけど、好んで近づきはしなかったんだろう?なら、その間に増えたカードとかもあるだろう。俺も、昨日戦った空牙団は知らなかったしな」
それを聞いて確かにと頷く。
私もデュエルアカデミアの生徒だから、デュエルが怖かった時期にも少しはデュエルをしないといけなかったけど、自分のことでいっぱいいっぱいで相手のカードなんて全然覚えていなかった。
カードについての知識も、プロ決闘者になるなら大切になってくるだろう。
それに新しいカードの中に私のデッキに役に立つカードもあるかも知れないし、知らない人とデュエルをするのは、まだ少しだけ怖い。
昨日師匠と最後までデュエル出来たのも、実は奇跡に近かったのだ。
「何処のカードショップに行こうか迷うなら、俺が昔、通っていたカードショップでも教えておくけど、どうする?」
「ありがとうございます。それじゃあ今日ははそこに行ってみます」
「ああ、あの店なら遊花でも大丈夫だ。頑張ってこいよ」
そういって師匠がカードショップの場所を教えてくれる。
師匠が通っていたカードショップか………一体どんなところなんだろう?
そんなことを考えながら、朝食の時間は穏やかに過ぎていくのだった。
ーーーーーーー
「おはようございます」
公園で師匠と別れた私は少しぎりぎりの時間に堂々と声をかけて教室の扉を潜ると、向けられるのはいつも通り冷ややかな目線。
私はそれを気にも止めず自分がいつも座っている教室の1番隅の席に着く。
とりあえず、今日師匠はもう1度泊まれる場所を探しに行ってから働ける場所を探しに行くようだ。
それでも荷物を全て持ち歩くわけにはいかないから今日は最低でも私の家に戻ってきてくれるらしい。
そのことが堪らなく嬉しい。
帰ってくる人を待つなんて、いつ以来だろう?
出来ればこのまましばらく私の家に住んで欲しいけど、それは私のわがままだ。
いくら寂しいからって、それで師匠に迷惑をかけるつもりはない。
それにしても、早く放課後にならないかな?
師匠が通っていたと言っていたカードショップ、早く行ってみたいのに。
幸いなことに今日の私が受ける講義は午前中だけだから、お昼になったら向かうことが出来る。
でも、うぅ〜待ちきれないよ〜
「おはよ、今日も遅かったわね。それで、何そわそわしてるの?」
「あっ、桜ちゃん。おはよう‼︎」
「へっ?」
いつものように声をかけてくれた桜ちゃんに近づきながら手を振って挨拶をすると、桜ちゃんは変な声を出して驚いた表情を浮かべる。
それを見て、周りの人達もざわざわし始める。
?どうしたんだろう?何か私変なことしたかな?
「きょ、今日は随分機嫌が良さそうね。何かあったの?」
「えへへ、少しね。そうだ‼︎桜ちゃん、今日は講義っていつまであるの?」
「講義?私は夕方までだけど………」
「夕方まで………そっか。お昼までなら一緒に行けたのに………」
きょとんとした顔で桜ちゃんが答えてくれる。
出来れば桜ちゃんも一緒に行けたらよかったんだけどな………夕方まで待つと帰りが遅くなっちゃうからダメだよね。
少し落ち込んだ私を見て桜ちゃんが戸惑いながら声をかけてくる。
「何?何処か行きたい所でもあったの?買い物とか?」
「ううん、ちょっとカードショップに付いてきて貰いたかったんだけど………夕方までは待てないから、1人で行ってくるね」
「そう、カードショップに………って、ええっ‼︎⁉︎」
「あ、もう講義が始まっちゃう。それじゃあまたね、桜ちゃん」
「ちょっ‼︎ちょっと待っ、遊花⁉︎」
何故か更にざわざわし始めた教室を尻目に、私は自分の席に戻って頬杖をついた。
カードショップ………楽しみだな〜
ーーーーーーー
「ここが、師匠が通ってたカードショップ」
デュエルアカデミアの講義も終わり、すぐに教室を出た私は師匠に聞いたカードショップにやってきていた。
師匠に言われて来た場所にあったのはケルンの中にあるカードショップの中ではかなりこぢんまりとした店だった。
店名は『
私は深呼吸してから中に入る。
「こ、こんにちは」
「いらっしゃい………おや、随分可愛らしいお客さん
お店に入るとレジのところでコーヒーを飲んでいた50代ぐらいのおじさんがすごく驚いた表情でこちらを見る。
お店の中にはそのおじさん以外に人がおらず、ゆったりとした雰囲気が漂っていた。
おじさんはカウンターにコーヒーを置いて私の前に近づいてきた。
「改めて、ようこそ『Natural』へ。見ての通り、こんなおじさんしかいないような寂れた店だが、ゆっくりと見て行くといい」
「い、いえ‼︎あの、今日は、その、カードがみたいなって」
「それはまぁ、カードショップだからね。どうせ一握りの常連か偶々見かけて入ってくるような客しかいないんだ。そんなに緊張しなくてもいいんだよ」
「あぅ………」
おじさんにそう言われ、少し顔が赤くなる。
それを見ておじさんは微笑ましそうな顔をした。
「ははは、大丈夫だよ。どんなカードがお求めかな?」
「あ、あの、私しばらくデュエルモンスターズに触れれていなくて、できれば色々なカードが見たいんですが」
「おや、この街でデュエルモンスターズに触れれていないとは珍しいね?いいとも、それじゃあ私もついでにショーケースの手入れでもするから好きに見るといい」
「あ、ありがとうございます‼︎」
そういうと手を軽く振りながらおじさんがショーケースの方に移動したので私もそちらに移動する。
ショーケースの中に飾ってあるカードには、やっぱり私が見たことがないカードがたくさん入っていた。
「雷神龍-サンダードラゴン………サンダードラゴンってテーマ化してたんだ………混源龍レヴィオニア………このカードは私のデッキにも入るかも………」
「ふふっ」
つい思考の海に沈んでぶつぶつと呟いていた私を見て、店員のおじさんが微笑ましいものを見る目で笑う。
「あ‼︎す、すみません‼︎」
「あぁ、ごめんごめん。別にいいんだよ。ただ、懐かしい反応が見れたからね」
「懐かしい………ですか?」
「あぁ。何年も前に君のように、そうやってショーケースに張り付きながら、毎日自分のデッキをどうするか考えていた男の子がいたのさ」
そういうおじさんの目はその時のことを思い出したのか凄く優しい目をしていた。
なんて声をかけていいのか分からず、つい辺りをきょろきょろと見渡すと、私の目に額縁に入れられた昨日見たばかりのカードが飛び込んできた。
「あ………絵札の三銃士」
「………あぁ、なんであんなカードを飾っているのかって思うかい?」
「い、いえ‼︎私も昨日知ったばかりなんです。遊騎さんのカードが悪く言われてるって」
「‼︎ますます驚いた。君は彼の知り合いかい?」
「あ、はい‼︎と言っても昨日会ったばかりですけど………その、私の師匠で、今日も、このお店を教えて貰って………」
しどろもどろになりながら説明する私におじさんは一瞬目を見開くと、何処か納得した顔で頷いた。
「そうか………なら、少しおじさんのお話に付き合って貰えないかい?その代わり、何か君にカードをプレゼントしよう」
「えっ⁉︎いや、お話に付き合うのはいいんですけど、カードは結構ですよ‼︎」
「何、そもそもこの店自体、今やおじさんの趣味みたいなものだから構いやしないさ。さぁ、そこのテーブルの所にでも座ろうか」
「………あの、はい、失礼します」
おじさんに促されるままにテーブルの所にある椅子に座る。
おじさんは私の斜め横にある位置に椅子を持ってきて座った。
「まずは彼の知り合いなら自己紹介をしておこうか。私は島(しま)という。まぁ、おじさんと呼んでくれて構わないけどね」
「私は、栗原………栗原遊花っていいます」
「遊花君か………名前まで彼に近いとはね」
「あの、島さんは師匠のことを知っているんですよね?」
「あぁ、彼は私の1番最初の客でね。人がいない店内の中、小学生だった彼はさっきの君のようにショーケースの前でずっとカードを眺めているような子だったよ」
そんな島さんの言葉に私の顔が少し赤くなる。
つまり、今の私は小学生の頃の師匠と全く同レベルだったということだろうか?
うぅ〜恥ずかしい〜
「ははは、そう恥ずかしがることはないさ。何なら今の彼でもやるだろうからね」
「師匠が、ですか?」
「まぁ、私が見ていない2年の年月が彼をどうしようもなく変えてしまえば分からないが、それはないと私は思っているよ。それで、今の彼の話を聞かせて貰ってもいいかな?」
「それはいいんですけど………私も昨日会ったばかりなので、そんなに詳しくは知りませんよ?」
「今の彼の様子が知れたらそれだけで十分だよ。私にとって、彼は本当の息子と変わらないからね」
それから、私は自分のことを踏まえながら昨日あった出来事や師匠から聞いた話を島さんに話した。
島さんは相槌を打ちながら、寂しそうに、それでいて師匠が師匠のままでいることを嬉しそうに聞いていた。
一通り話終わった後、島さんは目を閉じて深く息を吐いた。
「ありがとう。君にも少し辛い話をさせてしまったね」
「い、いえ………それでも、今の私は師匠に会えたことが本当に嬉しいんですから」
「………本当に似ているんだね、君達は」
そう呟いた島さんの言葉にはとても多くの感情が込められている気がした。
島さんが不意に額縁に飾られてあった絵札の三銃士を見る。
「あそこに飾られてるのはね、彼が1番最初に使っていた絵札の三銃士なんだ」
「えっ?それじゃあ今持っているのは………」
「彼がプロになってから手に入れたものさ。1番最初に持ってたものはプロになった際に私に持っておいて欲しいって、絶対有名になって人がいないこの店を立て直して今までの恩返しをするからってさ」
「えっ?それじゃあ師匠がプロになった理由って………」
「勿論、他にも理由は沢山あったし、彼自身にもその頃に君のように抱えていた問題もあった。それでも自分の居場所だったこの店を守りたかったというのも、理由の1つ何だろうね」
そう語る島さんの表情に私は胸が締め付けられる感覚がした。
「………君は彼から実家って言えるものがないって聞いているんだよね?」
「はい………だから、私の家に泊まっているわけですし………」
「なら、これは話しておいても構わないだろう。私が話してもいいと思った人には話していいと言われているしね」
「えっ?いや、あの………」
「彼もね、プロ決闘者だった両親が亡くなっているんだよ。君と同じデュエルアカデミアの1年生の時期にね」
「えっ………」
その言葉に今度こそ私は自分の心臓を掴まれたような気がした。
「あの時のことは今でも忘れられないよ」
そうして島さんが語るのは師匠の歩んできた道筋。
「死因は火事だった。出火の原因は放火じゃないかと言われているが、まだ犯人は捕まっていないね。ちょうどその日はこの店で小さなカード大会をやっていたんだ。最も、常連だけの、彼を入れてもたったの3人しかいない小さ過ぎるものだったけどね。その日はたまたま両親が2人共休みで、両親に優勝してくるからご馳走を用意して待っててと言って出てきたらしい」
その時のことを懐かしむように、哀しむように島さんは語る。
「3人しかいない小さなものだったけど、試合は白熱してね。終わった頃にはすっかり夜になっていた。1人は大学生だったから良かったものの、流石に子供を夜道に1人で返すわけには行かなかったからね。彼と同級生の子の2人を家まで送ることにしたんだよ。その頃からほとんど客は来ていなかったから閉めるのも簡単だったしね」
島さんはその頃の光景を思い出しているのか目を閉じている。
「彼の家の方が近くにあったから、まずは彼から送ることにした。そうして彼の家が見える所まで来た時、彼の家は既に燃え尽きる寸前だった。彼に残ったのは、それこそデッキとデュエルディスク、そしてその身体だけだよ」
それは、どれだけ辛いことなのだろうか。
私がまだ私を保てていたのは、家族の記憶が残っているものが私の周りに沢山残っていたからだ。
それまで無くなってしまった師匠は、どれだけ辛かったのだろうか?
「その上、彼の両親はどうやら駆け落ちをしていたらしくてね。彼には親戚と言えるものまでまともにいなかった。最終的には彼を知っている私が彼を引き取ることにしたんだ………私にも、その頃色々あったからね」
そういう島さんの表情は重い。
きっと島さんもその頃に大変なことがあったのだろう。
「あの頃、彼は物凄く荒れていたよ。私が話しかけるのだってぎりぎりだった。後で同級生の子に聞いて知ったけど、いじめも受けていたらしいし、本当に世の中全てが敵に見えていたんだろう」
島さんが語る師匠の過去に、私は何も口を挟むことが出来ない。
胸が苦しい………どうしようもないぐらい、傷んでしまう。
「でも、それからしばらくたったある日、そんな彼を救ってくれる子が現れた。それは本当に偶然の出会いだったが、それから彼は昔の、私の店に来てデュエルを楽しんでいた頃の彼に戻っていった」
「‼︎」
その言葉に私は思わず島さんの顔を覗き込んだ。
だってそれは………私と師匠の出会いと同じで………
「それからしばらくは穏やかな日々が続いていた。でもある日、元々少なかったこの店の経営が本格的に辞めなければならない所まで行ってしまった。その時には色々なことがあった………本当に、直ぐに語りきれない程色々なことがあったんだ。その時だね、彼がプロ決闘者になることを選んだのは。実際、彼がプロ決闘者になってから経営は回復したんだ。知っている人は少ないが、彼が所属していたプロチームのメンバーは全員この店の出身だったからね。その子達は今でも来てくれるし、新カードを手に入れる際には全部この店を頼ってくれるようになったから、ほぼそのチームの専門店みたいになっているしね」
そういう島さんの目に移るのは後悔。
もしかしたら、こう思っているのかも知れない。
自分が最初からカードショップを経営していなければ、師匠が両親のことで苦しむことも、プロ決闘者になって世間から蔑まれることにもならなかったのではないかと。
「………本当はね、プロ決闘者を追放され、この店から彼が出て行った時、あの額縁は外しておいてくれって言われたんだ。拾ってくれたのに、何の恩返しも出来なくてごめんなさいって………」
そう呟く島さんの声は、本当に悲しみに満ちていて。
「馬鹿だよねぇ………彼には、彼の存在で私が一体どれだけ救われたのかが分かってない。買い物なんてほとんどしなくても、誰もいない店の中に毎日来てくれたことがどれ程嬉しかったのか………この店を続ける為にプロ決闘者なんかになる道を選んでくれた時、どれだけ泣きそうになったのか………本当に大馬鹿だ………彼がいてくれた日々が、私の1番の宝物だったというのに………」
島さんがお店の天井を見上げる。
それが何を意味しているのか分かってしまう。
ようやく分かった。
なんで師匠が私を気にかけてくれて………それでいて私を自分から遠ざけようとしたのか。
私に自分を重ねて、その上で自分のようにはなって欲しくないからこそ、教えながらも一定の距離を取ろうとするのだ。
本当に不器用な人だと思う。
でも………それは
それじゃあ意味がない。
私が目指そうと思った姿は………私が救われたのは………師匠の背中なのだ。
だから………だから、私に出来ることはーーー
「………島さん」
「………なんだい?」
「私は………プロ決闘者になります」
「………」
「師匠の
「⁉︎それはーーー」
「辛い道かも知れません………謂れ無い罵倒も受けるかも知れません………それでも、私はあの人の弟子として、証明したい‼︎」
貴方によって救われた人がちゃんといるといことを。
「あの人が歩んで来た道は、誰にも非難される謂れはないと‼︎」
誰かを助ける為に、運命に抗い続けた貴方を、ちゃんと見ている人がいるということを。
「私が、証明してみせます‼︎師匠は、プロリーグから追放されるような、卑怯者じゃない。誰かの為に戦うことが出来る立派な決闘者なんだって‼︎」
それが、私を暗闇から救ってくれた師匠に出来る、1番の恩返しだと思うから。
「そのことを証明出来るまで、私は絶対に折れません。もう諦めることだけはしないって、師匠に誓いましたから」
師匠はずっと過酷な運命に抗い続けてきた。
なら、弟子の私だって運命なんかに負けるわけにはいかない。
「もし、私が島さんから見ても立派はプロ決闘者になれたら、その時は私のカードも師匠のカードと一緒に飾ってくださいね。私も、このお店のことが気に入っちゃいましたから」
「………本当に、君は彼に似ている。彼がなんで君を弟子にしたのか、少しだけ分かった気がするよ。」
そういって島さんが本当に嬉しそうに笑った。
「ならば、過去に遊騎君に送った言葉を、君にも送ろう。抗いなさい。誰に何を言われようと、その思いを違えず、真っ直ぐに進んで行きなさい。絶望の先には、必ず希望が待っているハズだからね」
「はい‼︎」
「いい返事だ。私も、少し報われた気がするよ。ありがとう」
そういって島さんが頭を下げようとするが、私は手を差し出してそれを止める。
感謝されるにはまだ早過ぎる。
「頭を下げるのは、私が本当に約束を果たせた時にしてください。そのことを思い出すことも、私が折れない理由になりますから」
「………ははは‼︎なら、まだこの頭を下げるのは取っておこう。その代わりに、私も未来のプロ決闘者に何か送らせて貰おうかな」
「えっ⁉︎いや、あの、それは悪いですよ‼︎」
「気にしない気にしない。彼の弟子であるならば、私には孫のようなものだよ。さて、どんなものがいいかな?」
そういって島さんがショーケースやファイルの中からカードを探し始める。
うぅ〜そんなつもりじゃなかったのに。
どうしようかと思わず店内を見回すと私が座っているテーブルの下に1枚のカードが落ちているのが見えた。
目の錯覚なのか、そのカードは少し黒ずんでいるように見える。
落としたままなのも悪いので、私は島さんに声をかけながらそのカードを拾おうとする。
「島さん、ここにカードが落ちてますよ?」
「ん?おかしいな、店内は掃除したばかりだからカードが落ちているハズは………⁉︎それに触ってはいけない‼︎」
「へっ⁉︎」
島さんの声に驚くがもうカードには触ってしまった。
その瞬間、カードが一瞬鈍い闇色に光った気がした。
も、もしかして、もの凄く高いカードだったとか?
そのカードを見ると、見たこともないモンスターだった。
こ、これは本当にマズイぐらいレアなカードなのでは………
ただただ慌てている私を見て、島さんは大きく目を見開いた。
「………君には本当に驚かされる。そのカードに
「へ?平気、ですけど?あの、何か触れてしまったらダメなカードだったんでしょうか?肌が荒れちゃう薬品とかで綺麗にしてるとか?」
「………どうやら本当に平気のようだね。君の
島さんは何かを確認するように呟く。
周りの子達って、どういう意味なんだろう?
島さんにその意味を聞こうとした時、店の扉が開かれ、同年代ぐらいの男性が入ってきた。
それを見て、島さんが私の方を見て申し訳なさそうにしながらその男性の方に声をかけた。
「いらっしゃい」
「随分と寂れた店だな。こんな場所にカードショップがあるなんて気づかなかったぞ」
そんな男性の言葉に私は少しムッとした。
それを見て島さんは苦笑しながらも接客をする。
「まぁ、見ての通り小さな店だからね」
「ふん………ん?」
蔑むように鼻を鳴らす男性の視線が額縁に入ってある絵札の三銃士に向いた。
それを見て、男性は嘲笑する。
「なんだ、この店はあの卑怯者のカードを飾るような店なのか。それは寂れるわけだ」
その言葉に私の中で何かが切れた音がした。
「………それはあんまりな言い草だね」
「事実だろう?イカサマをするような決闘者のカードを推しているんだ。この店ではイカサマが平然と行われていると思われても仕方がないだろう?そもそも、そうでなければ彼の功績はおかしい。プロになって経った2年で自分が所属している新規チームを世界ランキング2位に押し上げるような実力。そんなもの、それこそイカサマと言えるだろう?」
そう言ってせせら笑う男性。
この人は一体何を言っている?
この人は一体何を知っている?
師匠の思いを、島さんの願いを、何も知りもしないのに、どうして知っているかのように語っている?
「だからこの店はーーー」
「それ以上、口を開かないで下さい」
私の口からとても冷たい声が出る。
突然口を挟んできた私に男性は怪訝な顔で私を見る。
「何?」
「この人達のことを何も知らない癖に好き勝手なことを言わないでください」
「なんだ?あの男のファンだったか?卑怯者のファン風情がどの口を聞いてーーー」
「口を開かないで下さいと、言いました」
強い口調で、睨みつけるようにその男性を見る。
その事に気分を悪くしたのか、忌々し気に鼻を鳴らす。
「ふん、卑怯者を慕う雑魚風情が………」
「なら、デュエルをしましょう」
「何?」
デュエルをするのは、まだ怖かった。
それでも、ここでだけは退くわけにはいかない。
この人達の思いを、侮辱することだけは赦せない。
師匠の弟子として、結束 遊騎の弟子である栗原 遊花として、それだけは耐えてはいけない‼︎
「私が勝ったら、さっきの発言を撤回してください。貴方が勝ったら、私を含めて貴方が何を言おうが、何をしようが認めましょう」
「ほぅ………面白いことを言う。良いだろう、その言葉、違えるなよ?」
「それはこちらの台詞です」
「遊花君………」
そう言ってお互いにデッキをデュエルディスクにセットして構える。
それを見て、島さんが心配そうな声を出す。
そんな島さんに、私は首を振って応える。
「大丈夫です。私は、絶対に勝ってみせます。あの人の思いも、島さんの思いも、私が否定なんてさせません。2人の思いは、私が守ってみせます‼︎」
「名前を聞いておこう。負けた後に約束を反故にするために逃げられたら困るからな」
「栗原遊花です。それならば私も聞いておきましょう、逃げられると面倒ですから」
「‼︎言ってくれる………響 顕示(ひびき けんじ)だ。後悔するなよ‼︎」
「こちらの台詞です‼︎」
『決闘‼︎』
遊花 LP8000
顕示 LP8000
次回予告
自分の師に対する侮辱の言葉に怒りを露わにする遊花。
堂々としたデュエルで強力な顕示のモンスターを簡単に打ち倒していく。
しかしそれは、顕示のデッキに眠る新たなモンスターを目覚めさせることになる。
次回 遊戯王Trumpfkarte
『独善の狂想曲』
次回、遊花のデュエル回。
なんだか長さ的に前後編に分かれそうです。
伏線増し増しでお送りした今回ですが、果たして全部回収しきれるか………頑張らないと、ですね。
そしてどんどん明らかになっていく主人公達の過去。
ぶっちゃけ1番最初の構想時はここまで重くしないつもりだったんだけど、どうしてこうなってしまったのか。
それではまた次回。
ではでは〜