ウィルスのせいで仕事の終わりが見えない………
過労でぶっ倒れる前に早く終息して欲しいものです………うん、そろそろ限界だよ、マジで。
今回は会話回です。
遊騎視点でお送りします。
それでは本編へGO‼︎
☆
「それでは、私はこれで失礼します。結束さん、認めはしましたが、くれぐれも桜と遊花ちゃんに不埒な真似を致しませんように」
「はい。その信頼を損なわないよう、全力を尽くします」
真剣な表情で俺を見つめる睡蓮さんに、俺は目を逸らさずに真剣に見つめ返す。
そんな俺を見て、睡蓮さんは表情を緩めると邪悪な笑みを浮かべた。
あ、なんか嫌な予感がする。
「………まあ、合意があるのであれば遊花ちゃんのためにある程度は黙認してあげますよ」
「ふぇっ⁉」
「ちょっ⁉︎お母さん⁉︎」
「ふふふ、それでは後は若い子達に任せるわ。桜、あまり遊花ちゃんと結束さんにご迷惑をかけないようにね」
そんな言葉を残して睡蓮さんは逃げるように去って行った。
後に残されたのは微妙な表情を浮かべた俺と顔を真っ赤にしてこちらをチラチラと見ている遊花、そして頭を痛そうに押さえる桜だ。
………どうするんだよ、この空気。
睡蓮さん、いくら『破滅の天使』と呼ばれていたからって空気まで破滅させなくてもいいんですよ?
思わず頭を抱えて悩んでいると、俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、こんなところにいました‼︎闇さん、こっちです、こっち‼︎中庭に遊騎さん達がいますよ‼︎」
「でかした、美傘」
「ちょっ⁉︎速っ⁉︎速いですよ、闇さん⁉︎」
「あれ?この声って………」
「闇と………美傘?」
「何だか珍しい組み合わせね」
俺達が声が聞こえてきた方に視線を向けると、そこには走ってこちらに向かってくる闇と美傘の姿があった。
走ってきた闇はそのままの勢いで俺に抱きついてくる。
「遊騎‼︎無事で良かった………」
「え?あ、ああ。闇も無事そうでよかったよ。遊花から急に帰ってこれなくなったって聞いて心配したんだぞ?」
俺の言葉に、闇は俺の身体に顔を埋めながら闇が申し訳なさそうな雰囲気を発する。
「ん、ごめん。色々あったから………」
「………まあ、闇が無事なら何でもいいけどな」
「闇先パイ、お帰りなさい。無事でよかったです」
「ん、遊花もごめん………帰ってこれなくて………」
「気にしないでください。こうして闇先パイが帰って来てくれただけで私は十分嬉しいですから」
「遊花………ん、ありがと」
柔らかな笑顔を浮かべる遊花に闇も嬉しそうに表情を緩ませる。
本当に、闇が無事に戻ってきてよかった。
「………遊騎に抱きついてることに関してはスルーなのね。いや、別にいいけど」
呆れたような表情を浮かべながら、桜も安心したように胸を撫で下ろす。
少しだけ場の空気が和らいだところで、送れてこちらに向かって走ってきていた美傘が俺達のいる場所に到達する。
現れた美傘は肩で息をしながら、必死に呼吸を落ち着けていた。
「はぁ、はぁ、本当に、速いですって、闇さん………その身体の、どこにそんな力が………」
「勿論、愛の力」
「何故、そこで、愛?」
「だ、大丈夫ですか?美傘さん?」
「だ、大丈夫だよ、遊花ちゃん。遊騎さんが、見つからなかったから、病院中、駆け回ったけど、これぐらい、お夜食前だから、全然、へーき………」
「お夜食前ってわりと能力の限界っぽいですけど………」
「限界が、近くても、気合で、乗り切るのが、エンターテイナー、なんだよ、桜ちゃん………」
「………言ってること、全然分かりません」
「………根性論が必要なものだったかしら、エンターテイナーって?」
息を切らしている美傘に遊花と桜が律儀にツッコミを入れる。
全くもって遊花達の言う通りだと思う。
少なくとも俺の知ってるエンターテイナーじゃない。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないんです‼︎遊騎さん、大変なんです‼︎一大事です‼︎」
「一大事?」
突然深刻な表情を浮かべる美傘に困惑しながらも、俺達は首を傾げる。
困惑している俺達に、美傘達が告げたのはーーー
「昨日からプロ決闘者に行方不明者が出て、その行方不明者の中に御影君や竜河さんがいるんです‼︎」
「さらに治虫を探しに行った炎まで音信不通になった………完全にお手上げ………まだ公にはなってないけど、他にも色々あって………プロリーグ、しばらく中止になりそう」
ーーーーー俺達の日常を侵食する、紛れもない凶報だった。
ーーーーーーー
美傘達から凶報を告げられた俺達は、桜の体調や話が外部に漏れないように考慮し、桜の病室に来ていた。
美傘達から告げられた凶報は、それだけ俺達にとっても深刻なものだった。
「それで、どうしてプロ決闘者に行方不明者が出ているなんてことに気付いたんだ?」
「私、昨日のプロリーグで実況を行なってたんです。そうしたら昨日のプロリーグの試合で無断欠場が相次いだんです。しかも、1試合目には参加していたのにその後の試合前に連絡が取れなくなったプロ決闘者が多くなって、治虫君や竜河さんまでいなくなっちゃったからこれはただ事じゃないなって思って………」
深刻そうな表情で美傘がそう告げる。
当然の話だがプロ決闘者にとってプロリーグでのデュエルは死活問題だ。
生活するためのファイトマネーも含め、無断欠場などすればそれこそ評判にも直結する。
それにも関わらず相次ぐ無断欠場は明らかに異常だと言えるだろう。
「私がプロリーグの試合会場についた時には既に治虫が無断欠場になってた………あの堅物が無断欠場してるのは異常過ぎるから社長や炎に連絡して来てもらって美傘にも手伝って貰って手分けして試合会場を色々調べたの………あらかた調べ終わってお互いの情報を共有しようとしたら今度は炎とも連絡が取れなくなってた………」
「っ、炎さん………」
闇の言葉を聞き、桜が不安そうに表情を歪ませ拳を握る。
桜は不知火さんの弟子だ。
師弟として関わる機会が多かった不知火さんの行方が分からないというのが不安なのだろう。
勿論、俺も内心穏やかというわけではない。
だが、まだ俺達は大事なことを聞いていない。
「………不知火さんのことは1度置いておく。それで、結局プロ決闘者が失踪した原因は分かったのか?」
「遊騎達も想像はついてると思うよ………薄れてはいたけど確かに感じた………失踪したプロ決闘者がいた控え室に残留にした闇の気配」
「闇………ということはやっぱり原因は………」
「ん………十中八九………闇のカード………」
闇の言葉に俺達は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。
想像通りとはいえ、流石に今回の件は規模が大き過ぎる上に厄介度が桁違いだ。
今まで俺達がデュエルをしてきた相手はケルンに住んでいる一般人だった。
勿論、だからといって侮っていた訳では無いのだが、今後はその中にプロリーグでデュエルをしていたプロ決闘者が混ざってくる可能性があるというわけだ。
プロリーグに参加しているようなデュエルにおけるプロフェッショナルが闇のカードにより暴走していることを考えれば、その被害は今までのレベルでは済まなくなるだろう。
それだけプロ決闘者は一般の決闘者よりも強いのだ。
「遊騎さんや闇さんから話は聞いてたけど、ここまで厄介なものだなんて、流石に思ってなかったよ」
「………天神 幻騎の仕業なのか?」
「現在ケルンで起こっている闇のカードに纏わる事件の元凶はアイツ………デュエルアカデミア生の失踪事件のことを踏まえても無関係とは考えられない………」
「やっぱりーーー」
「だけど………実行犯ではないと思う………」
「ーーー何?」
「実行犯ではない、ですか?」
どこか確信しているかのように告げる闇の言葉に俺達は首を傾げる。
闇のカードがばら撒かれているなら、アイツが原因じゃないのか?
「天神 幻騎は昨日、遊花に負けて結構な傷を負ってた………傷を直して動いたにしては流石に早過ぎる………それに、不自然なところがある」
「不自然なところ?」
「遊騎なら知ってると思うけど、プロ決闘者の控え室の前には基本的に警備員がいる………だけど、
「はぁ⁉︎」
俺は思わず驚きの声を上げ、遊花達も目を見開く。
控え室の前にいた警備員に気付かせることなくプロ決闘者を失踪させた?
冗談にしては達が悪過ぎる。
最悪なのは闇が嘘を言っているわけじゃないってところだ。
「プロ決闘者が失踪したと思われる時間帯………確かに警備員は控え室の前にいた。だけど、控え室の中にいたプロ決闘者がいなくなるところを見ていない………それどころか警備員は失踪する程の出来事があったハズなのに失踪した人の声や物音すら聞いていない………明らかに異常」
「控え室の前にいる警備員に気付かれずに控え室に入ったってことですか?そんなことって………」
「勿論、出来るわけがない………でも、それに近いことができる存在を、私は実際に見たことがある………」
「近いことができる存在を見たことがあるって………そんな無茶苦茶な奴がいるって言うの?」
「いる………というより、桜も私と一緒に会ったことがある」
「はぁ⁉︎私も会ったことがあるって、そんな奴私は知らないわよ⁉︎」
闇の言葉に桜が困惑した表情を浮かべる。
そんな桜を見て闇は確信を持ったかのように頷く。
「それが答え………桜はそいつに会ったことがある………だけど、桜の記憶にはそいつの痕跡が残っていない………多分、そいつは他人の記憶や認識に干渉できる………何で私がそいつを覚えているのかは分からないけど」
「他人の記憶に干渉する………」
………なんだ?
どこかで俺はそんな存在に会ったことがあるような気がする。
必死に記憶を呼び戻そうとしていると、闇がそいつの正体を告げた。
「そいつは天神 幻騎から
「っ、
「⁉︎遊騎、知ってるの?」
「………ああ。俺にCNo.とRUMを渡した人物………そして多分、俺がデュエルで負け、持っていたNo.を奪っていった奴だ」
「えっ⁉︎遊騎さんが負けたの⁉︎」
「ああ。そいつの姿やデュエル内容については思い出せないがな。どうやら闇が言うように、記憶に干渉されてるらしい」
闇の言っていた推測を実感してしまい、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
記憶を消してくる相手なんて、対処の使用がない。
下手をすれば、闇のカードを生み出している天神 幻騎以上に厄介な相手だ。
だがそこで、予想外のところから声が上がった。
「
「っ⁉︎遊花、知ってるのか⁉︎」
「ふぇ⁉︎え、えっと、多分ですけど………闇先パイ、その人って銀髪をツインテールにしたデュエルアカデミアの初等部ぐらいの女の子じゃなかったですか?」
「っ、あってる………そいつが
「え、えっと………実はーーー」
戸惑った表情を浮かべながら遊花が話し始めた内容は深刻な状況にも関わらず無茶苦茶過ぎて思わず呆れてしまいそうな内容だった。
俺がマリシャスシードに蝕まれている時に急に現れたこと。
楽しいデュエルを求めてケルンに闇のカードをばら撒いているということ。
そしてーーー
「レイナちゃんは言ってました。絶望神アンチホープ。ダークネスネオスフィア。究極時械神セフィロン。この3枚のカードはどれか1枚だけでも世界を滅ぼせる代物なんだって。そんな闇のカードに適合している私は、いずれ世界を滅ぼす運命にある。だから私に興味があるって」
「遊花ちゃんが世界を滅ぼすって………冗談だよね?」
「………分かりません。でも、強ち否定もできないと思います。私はそれだけ強力な闇のカードを扱えます。それに、かなり特殊な力を持ってることも、知ってしまいました。だから、いずれ、私は………」
そういって、遊花は悲し気に目を伏せる。
そんな遊花に俺達はーーー
「ばーか」
「ん、遊花は馬鹿」
「ええ、馬鹿ね」
「あぅ⁉︎へぅ⁉︎ひゃぅ⁉︎し、師匠?闇先パイ?桜ちゃん?」
ーーー馬鹿なことを口にする遊花に、俺は頭を軽くチョップし、闇は頬をひっぱり、桜はデコピンをした。
全く、何を言い出すかと思えばこの馬鹿弟子は………
「簡単に敵の言葉に乗せられてんじゃねーよ。遊花が世界を滅ぼす?ある訳ないだろ、そんなこと」
「ん………優しい遊花にそんなこと無理。むしろ、遊花が世界を滅ぼしたくなるぐらい酷い世界なら私が滅ぼす」
「いじめられても言い返すことすらしない遊花に世界を滅ぼすなんて大層なことができる訳ないでしょ?馬鹿も休み休みにしなさいよね」
俺達の言葉に、遊花がきょとんとした表情を浮かべたかと思うと、徐々に目尻に涙が浮かんでくる。
「もし、遊花が世界を滅ぼすような存在になった時は俺が止めてやるよ。だから、いらん心配はするな」
「遊騎、間違ってる………俺、じゃなくて、俺達、だよ」
「そうよ。私達だっているんだからね」
「師匠………闇先パイ………桜ちゃん………ありがとう、ございます」
遊花が目を擦りながら嬉しそうに笑う。
全く、本当に世話がかかる弟子だ。
「えっと、とりあえず遊花ちゃんの件はいいとして、何で遊花ちゃんと闇さんはそのレイナちゃんって子のことを覚えてるの?闇さんの話だと、記憶から消えちゃうんだよね?」
「えっと、それは私には何とも………」
「ん、理由は不明………」
美傘の言葉に遊花達は困ったような表情を浮かべる。
確かに、俺と桜の記憶からは消えた
「まぁ、分からないものは分からないでいいだろう。根拠なんて見つけようがないんだし。大事なのは遊花と闇なら
「そうね。闇の話が本当なら私達は見つけても気付けないし、覚えていられない。なら、歯痒いけど対処は遊花と闇に任せるしかないわ」
そう、俺や桜では
相手が記憶を消してくるなら、出会ったところで忘れさせられるだろうし、勝っても負けても情報は手に入らない。
完全な無駄足になる。
どちらにせよ、神出鬼没みたいだから遭遇できるかは運次第だろうがな。
「とりあえず、
「うん。携帯端末の電源も入ってないみたいなんだよね………」
「まさか天神先生達に捕まってるとか………」
「それは考え難い………炎は治虫みたいに闇のカードに耐性がないわけじゃないから操られてる可能性も低いし………あり得るなら始末されてるって可能性だけど、炎だって『Trumpfkarte』のメンバー………生半可な実力じゃないのは遊花達も知ってるハズ………並大抵の決闘者じゃ炎には勝てない………それに、もし始末されてるなら今頃炎の死体やらが発見されてるハズ」
「じゃあ、何で連絡が取れないのよ?」
困惑する桜の言葉に闇は無表情のまま俺達に見えるように指を立てる。
「可能性として考えられるのは3つ………1つ目は敵に捕まった………これは1番可能性が低い………生かしておくメリットが特に無いから………2つ目は始末された………これならやられた証拠が何処かに残ってるハズ………そして最後………3つ目は………自分から行方をくらませた」
「自分から?何のためにですか?」
「そこまでは分からない………あえて推測するのなら厄介な情報を知ったことを気づかれたから身を隠しているか私達を巻き込みたくないから、とか?」
「何かどちらも今更な感じがする推測だな」
俺達を巻き込みたくないもこの件は言ってしまえばケルンに住んでいる全ての人に関係がある。
それを知っているかいないかの差でしかない。
それに身を隠すのも、それこそ俺達に端末で情報を告げるという手がある。
不知火さん………一体あんたは今何をしてるんだ?
「それに面倒事がもう1つある………」
「まだあるのかよ………もうお腹一杯って感じだぞ」
「それも私達だけじゃなくて、全ての決闘者に関わる問題………それもあわさってプロリーグはしばらく休止になる」
「全ての決闘者に関わる問題ですか?それは一体………」
「それがね、マスタールールが変わるみたいなんだ」
「はっ⁉︎まだプロリーグもやってるこのタイミングでか⁉︎」
「ええっ⁉︎」
「嘘でしょ⁉︎」
美傘の言葉に俺達は目を見開く。
マスタールール。
それはデュエルモンスターズにおける競技ルールだ。
マスタールールはデュエルモンスターズの歴史と共に変化していき、ペンデュラムモンスターやリンクモンスターなど、新たな召喚法が増えたりしていく中で様々な変化を遂げてきた。
それがまだプロリーグも終わってないこんな状況で行われるって言うのか⁉︎
「大きな点で言えば、今度のマスタールールでは融合・シンクロ・エクシーズモンスターは、いずれもEXデッキから特殊召喚する場合、エクストラモンスターゾーンに加えて、新たに自分のメインモンスターゾーンにも特殊召喚できるようになるみたいなんだ。ペンデュラム・リンクモンスターを特殊召喚する際のルールは今までどおりらしいんだけどね」
「………なあ、それって嫌な予感がしてくるんだが」
「気付いた?ルールとして融合・シンクロ・エクシーズモンスターが出しやすくなる………これ自体はリンクモンスターが登場したことによりそれまで出来ていた戦術を取れなくなったことによる不満が色々あったみたいだから分からなくはない………でも、あまりに今のケルンの状態では悪手………ううん、言い方を変えればあまりにも天神 幻騎達に
そう、あまりにも都合が良過ぎるのだ。
メインモンスターゾーンに融合・シンクロ・エクシーズモンスターを出せるようになるってことは………
「リンクモンスターがいなくても、No.をフィールドに並べやすくなる………」
「「あっ‼︎」」
俺の言葉に遊花達が目を見開く。
そう、今まではエクストラモンスターゾーンに1体だけだったり、リンクモンスターによる縛りがあったがそれがなくなったということはこれまで以上にNo.が現れる可能性もあると言うことになる。
「………本当に偶然だと思うか?」
「あまり考えたくはないけど………偶然じゃないのならルールに口出しできるような存在が敵にいるってことも考えられるよね、やっぱり。業界の闇を見ちゃった気分だよ。いや、実際闇のカードが相手なんだけどさ」
何とも言えない美傘の感想に俺達は顔を引きつらせる。
本当に、どうするんだよ、この状況。
「こうなってくると問題が山積みでどこから片付ければいいか分からないわね」
「本当だね。それに師匠や桜ちゃんは怪我してるし、私達だけじゃとても手が足りないよ」
遊花と桜が困ったように顔を顰める。
遊花の言う通り、圧倒的に俺達では手が足りない。
何せ俺達の中ですぐに動けるのは遊花と闇しかいないのだ。
かといって、闇のカードに耐性がないのであれば下手な味方を増やしたところで操られる可能性がある。
どう足掻いても手が足りない。
「どうすりゃいいってんだよ………」
あまりの状況に思わず頭を抱えそうになった時ーーー
「だったら、ボクにも声をかけてくれよ、共犯者クン?」
ーーーそんな言葉と共に病室の扉が開かれた。
そこにいたのは、病院内にも関わらず黒いパーカーを深く被った黒髪で中性的な顔立ちの女性。
「全く、君は会う度にボロボロだよね。もう少し何とかならないのかい?遊騎」
「夜⁉︎」
俺の共犯者こと眼竜 夜がそこにいた。
「夜、どうしてここに………」
「美傘から連絡を貰ってね。作戦会議をするって聞いたから寄らせて貰ったのさ。まあ、本命は謝罪とその付き添いなんだけどね」
「謝罪と付き添い?」
「ああ。ほら、いつまでそこに隠れている気だい?早く入ってくるんだ」
「うっ………失礼する」
「失礼します」
夜に促され、病室に入ってきたのは真紅と幸土だった。
真紅は前に会った時の勢いはどこにいったのかと言いたくなるぐらい暗い表情を浮かべており、幸土と一緒に遊花と桜の前に立つと勢いよく頭を下げた。
「すまな………すみませんでした、"
「すみませんでした、栗原先輩‼︎宝月先輩‼︎私達のせいでご迷惑を………」
「えっ⁉︎ええっと………さ、桜ちゃん?」
「何で私に振るのよ………とりあえず、頭をあげなさい、真紅、刀花。闇のカードに操られてたことに対する謝罪なんでしょうけど、私達は別に怒ってないから」
「う、うん‼︎そうだよ‼︎むしろ2人が無事でよかったよ‼︎だから、頭を上げて‼︎ね‼︎」
遊花と桜の言葉に真紅と幸土はおそるおそる顔をあげる。
2人の表情は暗く今にも泣き出しそうだ。
まあ、無理もない話だろう。
闇のカードに操られ、先輩である遊花達を襲い、桜に至っては入院する程の大怪我を負ったのだ。
その罪悪感はきっと俺には正確に慮ることすらできないだろう。
だとしてもーーーその表情では遊花達が浮かばれない。
「真紅、幸土。その表情は違うぜ」
「えっ?」
「何?」
「お前らが浮かべなきゃいけないのはそんな辛気臭い顔じゃなくて、笑顔だ。助けてくれてありがとうって気持ちを込めた輝くような笑顔だよ。そうじゃなきゃ、遊花達が浮かばれないぜ」
「………うん。私も師匠が言うように、2人には笑って欲しいな。闇のカードが原因で2人には悪いところはなかったんだし。笑顔の2人が私は好きだな」
「そんな暗い顔してたんじゃ、こっちだって助けた甲斐がないじゃない。別に悔やむなとは言わないから、せめてアンタ達が助かったんだって実感を私達に与えなさいよね」
そんな遊花達の言葉に真紅達は涙が溢れ出しそうだった目を擦り、歪ながらも精一杯の笑みを浮かべ………
「「助けてくれてありがとうございました、栗原先輩‼︎宝月先輩‼︎」」
「「どういたしまして」」
そんな2人に遊花達も満面の笑みで応えるのだった。
ーーーーーーー
「さてと、一区切りついたところで今後の方針なんだが、どうする?」
真紅達の謝罪も一区切りついたところで俺は今後のことについて切り出す。
正直、状況は不味いなんてレベルじゃないからな。
「とりあえず私は炎や失踪したプロ決闘者を追いながら闇のカードに操られてる決闘者を探していく………どうせプロリーグも暫く中止になりそうだし」
「ああ、頼んだ。操られているプロ決闘者の可能性を考えると、遊花には荷が重いからな」
「任せて………誰が相手だろうと………ブチころがす」
「いや、程々に、な」
無表情ながらも自信満々に胸を張る闇に俺は苦笑を浮かべる。
闇なら本当にこの街の決闘者を斃し尽くしてもおかしくないからな。
「なら、私は情報収集ですね‼︎ 天神 幻騎や行方不明になってるプロ決闘者やデュエルアカデミア生、ついでにルール変更について怪しい点がないか調べてみます‼︎」
「………俺が言うのも何だが、無茶すんなよ、美傘。多分、お前がやることが1番危険だからな」
「にひひ、遊騎さんが心配してくれるなら、元気100倍だよ‼︎」
「美傘の元気が100倍?騒音問題で苦情がきそうだな………」
「そこまでうるさくないですよ⁉︎元気で明るく可愛いとファンから評判の美傘さんになんてこと言うですか⁉︎」
「隠れファンな」
「なんで隠れてるです⁉︎堂々とファンを明言してほしいです‼︎」
「馬鹿、お前。いじめられたらどうするんだ」
「いじめられないですよ⁉︎」
「はいはい、真面目な話をしてるんだから戯れない。だったらボクは美傘の護衛かな?」
「ああ、夜が付いてるなら安心だ。頼んだぜ」
「任せてよ」
「私の信頼低すぎです⁉︎でも、夜ちゃんがいるなら安心‼やっぱり夜ちゃんは私の心のアミーゴだよ〜」
「うわっ⁉︎だからっていきなり抱きついてこないでって‼︎」
美傘に抱きつかれ夜が苦笑を浮かべる。
流石は友人。
なんだかんだでいいコンビなのかも知れない。
「私は臨時の風紀委員として行方不明になってるデュエルアカデミア生を探します」
「ああ。天神 幻騎を倒した遊花に口煩いことは言わない。だが………くれぐれも気をつけてくれ。遊花に何かあったら、俺は自分を許せそうにない」
「‼︎………はい‼︎師匠の期待に応えられるように頑張ります‼︎」
「………あまり気張らなくていいからな」
嬉しそうに気合を入れる遊花を嗜める。
心配ではあるが、遊花は天神 幻騎を退ける程の力を身につけた。
ならば、師匠として弟子の力をもっと信じてやるべきだろう。
「あの、栗原先輩‼︎私達も栗原先輩を手伝わせ貰えませんか?」
「えっ?刀花ちゃん?」
「我らが汝らを傷付けた罪は消えない。ならばこそ、扶翼にて贖罪としたいのだ」
真剣な表情で(真紅の言動はふざけてるように見えるが)頼み込む真紅達に遊花が戸惑う。
真紅達の気持ちは買うが、2人は1度闇のカードに操られている。
だからこそ、2度目がないとは言い切れない。
しかし、そんな2人に思わぬところから援護が入った。
「私は良いと思う」
「闇先パイ?」
「2人は1度闇のカードに操られてる分闇のカードに適応してる………数枚程度なら手にしても問題ないと思う。正直これから新しく闇のカードに適応できる人間を探す方が厳しい………それなら事情も把握している2人に手伝って貰った方がいい」
「でも………」
「最悪2人には闇のカードに操られている人を探すことだけを頑張って貰えばいい………報いる機会を与えないのも2人に失礼」
「………分かりました。でも、絶対無茶はしないこと‼︎それだけは約束してね」
「‼︎ありがとうございます、栗原先輩‼︎」
「感謝する、"
「ほ、本当に感謝されてるのかなぁ?」
頭を下げた真紅を見て遊花が微妙な表情を浮かべる。
まぁ、あれも真紅なりの感謝なのだろう。
頑張れ、遊花。
そして俺と桜は………
「さっさと身体を治して戦線復帰しないとな」
「ええ、遊花達にばかり負担はかけてられないわ」
状況はどんどん悪くなっていく。
だとしても、俺達は抗うことを選んだ。
待っていろ、天神 幻騎。
必ず見つけ出し、お前らの壊した日常を取り戻してやる。
次回予告
3日ぶりにデュエルアカデミアに登校した遊花は風紀委員会で行方不明であった生徒が1人登校してきたという話を聞く。
友人の家に泊まっていたというその生徒を不審に思った遊花は真紅達と共にその生徒に会いに行く。
その生徒の言動はどこかおかしくて………
次回 遊戯王Trumpfkarte
『偽りの骸』
次回は遊花のデュエル回。
いよいよ遊戯王Trumpfkarteのデュエルも新しいマスタールールに変化します。
遊花視点でお送りします。
デュエルアカデミアに迫る魔の手。
遊花はどう立ち向かうのか?
次回をお楽しみに。
それじゃあ今回はここまで。
某ウィルスが猛威を振るう今日この頃、皆様はどうお過ごしですか?
私はどんどん仕事が忙しくなりそろそろ本気で倒れそうです、つらい。
それはそれとして最新弾、ライズオブザデュエリスト、出ましたね。
私も早速新テーマのメルフィーとドラグマを組みました。
メルフィーは可愛くて癒されます、それでいて動きが変則的なのも好み。
可愛いから許す、もふもふ。
ドラグマはEXデッキによって色んな使い方ができて楽しいです、大概ごはんは沢山食べるタイプの聖女が過労死してますが。
灰燼竜バスタードってATK2500DEF2000の何気に主人公エーススペックなんですよね。
ドラグマを使う主人公………うーむ、イラスト的には割とあり?
それでは今回はここでお開き。
次回もなるべく早く更新したいです。
ではでは〜