傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第110話 やがて帰り来む

 森から飛び出してきた男は5人。

 全員、ボロボロの格好だけど、ひと目でそれが鎧だとわかる。

 つまり、こいつらは、なんらかの武装集団だということ……。

 

「さ、山賊!」

 

 その子供の言う通り、山賊の可能性がもっとも高い。

 

「た、助けてぇ!」

「逃げろ!」

 

 その山賊風の男たちを見て、子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「ちょっと、待てぇい、こらぁ!?」

「聞きたいことがあるんだ!」

 

 その男たちが子供たちを追いかけまわす。

 

「きゃああああ!」

「怖い、怖い、怖いぃ!」

 

 子供たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

「た、助けて!」

「お、大人の人呼んでくる!」

 

 と、一部の子たちが広場から駆け出しいく。

 

「だから、待てと言っているのがわからんのか、ガキどもがぁ!?」

「話を聞け、ぶち殺すぞ!?」

 

 男たちが広場から出ようとしている子供たちを阻止しようと、その背後から猛追する。

 

「ひぃいいいい!?」

「やぁああああ!」

 

 子供たちが泣き叫ぶ。

 

「やめろ、山賊!」

 

 その男たちの前に立ちはだかったのは、

 

「タジン!」

 

 そう、あの最年長の少年だ。

 

「おまえたちは行け、ここは俺にまかせろ」

 

 手には立派な木刀がしっかりと握られている。

 

「なんだ、てめぇはぁ!?」

「そこをどけ、小僧!!」

「ぶっころすぞぉ!?」

 

 と、山賊風の男たちがタジンを恫喝する。

 

「落ち着け、子供相手に熱くなるな、まずはここが目的の場所かどうか確かめるのが先だ」

 

 男たちの中で一番年配と思われる男がそう話す。

 

「しかし……」

「でやぁあああ!!」

 

 会話の途中でタジンが木刀を打ち込む。

 その木刀は先頭の男の顔面を捉える。

 

「うがああああああ!?」

 

 顔面を打たれた男が両手で顔を覆い、激しく痛がる。

 

「てめぇ!?」

「ぶっころしてやる!!」

 

 男たちが剣を抜こうとする。

 

「やめろ、穏便に済ませろ、俺たちは略奪に来たのではない」

 

 と、また年配の男が仲間をさとす。

 

「くっそぉ」

 

 剣の柄にかけた手を放す。

 

「ですが……」

 

 と、顔面を打たれた男が言い、

 

「やろおおおおう!!」

 

 そう叫び、タジンの顔を思いっきり殴りつけた。

 

「きゃぁああ!」

「タジン!」

 

 タジンは吹き飛ばされて地面の上に大の字に倒れる。

 

「素手ならいいんすよねぇ? こいつにきっちり教育してやりますわ」

 

 と、男が倒れているタジンの元に歩み寄る。

 

「ほどほどにな……」

 

 年配の男もそれを容認する。

 

「タジン!」

 

 最年長のもう一人の子、フェインがタジンに駆け寄ろうとする。

 

「くるな!」

 

 タジンはそれを手で制する。

 そして、ふらつく足取りで立ち上がろうし、手の甲で鼻や口元の血を拭う。

 

「くっ、まだだ……」

 

 木刀を杖代わりにして、やっとの思いで立ち上がる……。

 

「た、タジン……」

 

 フェインも両手を固く握り締めてその雄姿を見守る。

 

「お、俺は、ファーイースト・ドラゴニック・コーアの団長だ……、山賊なんかに負けやしねぇ……」

 

 ぷるぷる、ぷるぷる、と、足が震えている。

 

「しょうがないなぁ……」

 

 私はぶらん、ぶらんを止めて立ち上がる。

 

「なんだ、その目は、気に入られねぇんだよ、クソガキがぁ!!」

 

 再度、男がタジンを殴ろうと、その拳を振り上げる。

 

「うっ!?」

 

 でも、その動きは止まる。

 私が男の背後から、その振り上げた拳の手の甲の上に私の手を重ねたから。

 

「なっ!?」

 

 男は振り返り、私を確認しようとした瞬間、その手の甲を握り、内側にひねる。

 

「きっ!?」

 

 男は苦痛に顔を歪ませる。

 そして、そのまま、軽く奥に押す。

 

「あっ!?」

 

 と、バランスを取ろうと瞬間に今度は逆、手前に思いっきり引っ張ってやる。

 私は闘牛士が牛をいなすように半身になり、さらにそこから、足を出して、相手の足をひっかけてやる。

 

「あぎゃああ!?」

 

 すると、男はズザーと顔面から地面に勢いよくダイブする。

 

「子供に手を上げるのはやめてもらえるかなぁ?」

 

 ダイブしたそいつを見下ろしながら言ってやる。

 

「こ、こいつ!?」

「な、なにをした!?」

 

 と、他の男たちが柄に手をかけ叫ぶ。

 

「ああ、やめておけよ、剣を抜いたら殺す、マジで」

 

 一応、子供相手に武器は使わないで手加減してくれたから、私のほうも忠告してあげる。

 でも、剣を抜いたらそこまで、全力で殺しにいく。

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 男たちが剣を抜く姿勢のまま私を睨みつける。

 

「そ、そこまで、そこまでぇ!」

「お待ちください、ナギ様、誤解です!」

 

 と、広場にナスク村の大人たちが乱入してくる。

 うしろには子供たちもいるから、その彼らが呼んできたのだろう。

 

「ヴェロン!」

 

 ナスク村の村長を見て、あの年配の山賊風の男が叫ぶ。

 

「ドレン!」

 

 と、村長も返す。

 

「知り合いだったの……?」

 

 私は村長のほうに歩きながら尋ねる。

 

「はい、ドレンは、西の、ノディロス村の村長です……、その彼がどうしてここに、それにこの格好は……」

 

 と、村長が話す。

 

「ここにヴェロンがいるということは、ここなのだな、ここに間違いないのだな……、俺たちの味方がいる砦というのは……、くっ……」

 

 緊張の糸が切れたのか、ドレンは肩を押さえてその場にしゃがみ込む。

 

「ドレン!」

 

 村長が駆け寄る。

 

「ヴェロン村長!」

 

 と、また別のナスク村の人が広場に走りこんでくる。

 

「どうした?」

「大変です、村長! メティス村のヒュエロン村長が大怪我をして運び込まれました! 他にも怪我をしている人が10人以上いるみたいです!」

 

 と、血相を変えて叫ぶ。

 

「なんだと!?」

「くっ、メティス村もやられたか……」

 

 ドレンがかすれた声で言う。

 

「どういうことじゃ、ドレン!?」

「やつらだよ、ヴェロン……」

「や、やつら!? い、いや、今は怪我の手当てが先か、おい、皆の衆、怪我人の手当てをしてやってくれ! メティス村の方々もな!」

 

 と、村長が指示を出す。

 

「はい!」

「おう!」

 

 村人たちがその指示に従い動き出す。

 そして、その救護活動は夕方まで続く……。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 時計の針は20時を指し示す。

 ここは、割と普通なナビーフィユリナ記念会館。

 陽は完全に沈み、室内は四隅に設置されたランプの明かりによって照らされる。

 

「それで、村は壊滅したと……」

 

 東園寺公彦が重苦しい口調で話す。

 

「はい、逃げ出すのが精一杯だったと言っている、ぷーん」

 

 と、通訳のエシュリンがうなずく。

 今は、救護活動も一段落して、何があったのかの事情聴取をしているところだ。

 出席者は班長の6人と、通訳のエシュリン、それとナスク村の村長ヴェロン、そして、今日訪れた他の村の人々の代表、ノディロス村の村長ドレンとメティス村の副村長エスタレンの計10人がここに集まっている。

 

「うちの村に来たのは悪魔のような男だった……、鋭利な細長い剣を二本持ち、無言で村人を斬り殺し始めた……、恐ろしい……、本当に恐ろしい男だった……」

「ああ、うちも同じだ、黒ずくめの男で、武器は違う、長斧だった、そいつが凄まじい速度で村人たちの頭を叩き割って行った……」

 

 ドレスとエスタレンが身震いしながら話す。

 うん、あいつの仕業だ。

 サテリネアス・ラインヴァイス・ザトー。

 帝国の先帝様だ。

 あれをやらせたのはわしじゃ! とか言って高笑いしている姿が目に浮かぶわ……。

 

「やったのは誰かわかっている……」

「ああ、帝国軍の連中だ、村の周りを帝国軍の兵士がうろちょろしているのを見たやつも大勢いるし、生き残りをどこかに連れて行ったって話もある」

「許せない、帝国軍……、他の村も襲われたそうだ……」

「ああ、テルベア村もクシュー村もやられた、他の村もどうなっているか……」

 

 ドレンが苦渋に満ちた表情で話す。

 

「ちょっと待って、どうして、帝国軍が彼らの村を襲うの? 一応、領地民とか、そういうのじゃなかったの? 納税とかしていたみたいだし」

 

 と、女性班の班長、徳永美衣子が疑問を呈する。

 

「遊びだよ、徳永、見た限り、あいつらは遊びで殺人を楽しんでいる……」

 

 それに対して、狩猟班の班長、和泉春月が静かに答える。

 そうそう、和泉は決闘での傷も癒えて班長に復帰していた。

 一方、人見彰吾のほうは今だに謹慎中……、東園寺は復帰しろと言っているけど、本人は固辞している。

 最近は何やら、ヒンデンブルクの飛行船に入り浸っているし、このまま班長を辞めるつもりなのかもしれない……。

 

「遊びで人殺しをするの……、そんなのって……」

「なんとかならないのかしら……、人道的な問題もあるけど、それ以上に難民が押し寄せてきたら大変、対応のしようがない……、今日の十数人だけでもどれほど大変だったことか……」

 

 と、参謀班の班長代理、綾原雫が溜息混じりに話す。

 

「戦おう……、その準備は出来ている……」

 

 ドレンがポツリと話す。

 

「ノディロス村、メティス村、テルベア村、クシュー村、各村の生き残りの戦士たちがぞくぞくと集結しています」

 

 エスタレンも追随する。

 

「俺たちは、ここに、援軍の要請に来た、敵がどこにいるかもわかっている、あの帝国の前線基地、リープトヘルム砦だ」

「一緒に戦ってください!」

「共に!」

「このままでは、皆殺しにされるのを待つだけだ!」

「家族が捕虜として捕らえられているかもしない、それに賭けたいのです!」

 

 と、ドレンとエスタレンの二人が強い口調で言い、勢いよく立ち上がる。

 やっぱりな……、そういう流れになるよね……。

 私はエシュリンの通訳を聞きながら、カップの水に口つける。

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