傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第112話 烈火爽来

 ダイロス・シャムシェイドの言葉に室内は静まりかえる。

 

「もちろん、ただで殺してくれとは言わん、成功の暁には、最大限の謝意によって報いよう、貴様等が結ばされたであろう、不平等条約を解消し、対等で公平な取引が出来るよう、再度条約を結び直す、手を貸してくれた他の村々も同じだ、これからは自由に取引を行ってもらって結構だ、関税も取り払う、帝国が何か言って来ても問題ない、なにしろ貴様等の後ろ盾はこの私になるのだからな」

 

 と、みんなを見渡しながら話す。

 

「おお……、なんと……」

「そんな、夢のような……、我々100年の悲願が……」

 

 ドレンとエスタレンが言葉を漏らす。

 

「やる気になったようだな、貴様等……、で、兵力はいくらある?」

 

 と、シェイカー・グリウムがにやりと笑い、ドレンたちに問いかける。

 

「えっと、それは……」

「200……、いや、300は出せます!」

 

 ドレンがエスタリンと顔を見合わせたあとに答える。

 

「足らんなぁ、少ない、リープトヘルム砦には1000からの兵士がいるし、さらに、手練の剣闘士もうじゃうじゃいやがる……」

「1000、我々からも1000の軍勢を出そう、それでなんとかしてくれ、指揮はグリウム、卿が執ってくれ」

「はっ」

 

 と、シェイカー・グリウムとダイロス・シャムシェイドが話す。

 

「おお、ありがとうございます、伯爵様………」

「こ、これで、勝てるかもしれない……」

 

 ドレンとエスタレンが感動して涙を滲ませる。

 

「ちょっと待ってよ、なんか知らないけど、なんで、戦うことになってるの? やだよ、そんなの、反対だからね」

 

 徳永がエシュリンからの通訳を聞き、異議を唱える。

 

「ああ、戦うとは一言もいっていない、もし、戦うとしたら、魔法をフルで使わなければ危ない、使えば、帝国に魔法の存在がばれる、そうなれば、和泉の頑張りも水の泡だ……、ああ、この会話は通訳しなくていいぞ、エシュリン、こっちの話だ」

 

 と、東園寺が通訳しようとするエシュリンを止める。

 

「はい、ぷーん」

 

 エシュリンは通訳をやめ、椅子に座り直し、カップを手に取り、それに口をつける。

 

「でもさ……、チャンスなんじゃないの、これって……?」

 

 福井が口を開く。

 

「不平等条約解消に、関税撤廃、しかも、軍事的に辺境伯の後ろ盾付き……、こんないいことって他にあるの?」

 

 みんなが福井の顔を見る。

 そして、沈黙が続く、みんな迷っているのだ……。

 そう、これは大きなエサだ……。

 しかも、露骨に釣り針が見えているエサだ……、ダイロス・シャムシェイドはなんだかんだ理由を付けているけど、これは高い確率でただの権力闘争だ、それに巻き込まれる危険性がある……。

 

「俺の頑張りなんて、どうでもいい……、ナビー、キミが言っていたよね、あのザトーという男の人となりを?」

 

 と、和泉が話す。

 彼には闘技会中のザトーとの会話の内容は全部話してある。

 

「俺も、伯爵様の意見と同じだよ、あの男は生かしておいてはならない、殺すべきだと思う……」

 

 和泉が手をかけたサンパイオやその後処刑されたであろうジョルカに思いを馳せているんだと思う。

 

「戦いたいのか、和泉……?」

 

 東園寺が再度聞き直す。

 

「ああ、東園寺」

 

 と、強くうなずく。

 

「それに、捕虜も大勢捕らえられているんでしょ? その中にナスク村の人たちもいるかもしれない、その人たちを救出できれば、プラグマティッシェ・ザンクツィオンの身寄りがない人の退去も大分進むと思う」

 

 と、綾原がもう一つ利点を言う。

 

「いいことずくめね……、戦争で誰も死ななければね……」

 

 徳永が少し怒った口調で言う。

 

「反対か、徳永は……?」

「いいえ、誰も死なないなら賛成よ、死ぬなら反対」

 

 東園寺の質問に彼女が答える。

 

「なら、少数精鋭、腕の確かな者だけを連れていく……、そうだな、人見にも来てもらおうか……」

 

 東園寺が綾原をちらりと見て言う。

 彼女は無言で軽くうなずく。

 なんか、戦う流れになっているけど……、こいつら大丈夫なのか? ダイロス・シャムシェイドは私たちを利用する気満々だけど……。

 それよりも、誰か怪我しないか心配だなぁ……、私も行きたいなぁ……。

 ついでにザトーのネックレスも回収しておきたいなぁ……。

 なんか、着いて行く理由はないかなぁ……。

 と、思案を巡らす。

 

「数の上では同数だが……、こちらが城攻めだ、やはり三倍の兵力はほしい……」

「夜襲をかけてみてはどうでしょうか?」

 

 こちらはシェイカー・グリウムたちの会話だ。

 

「おお、いいアイデアだ」

「さらに、闇夜に紛れて砦に忍び込んで門の鍵を開けるというのは?」

 

 すでに戦闘の話し合いが始まっているもよう。

 

「どうやってだ、見張りがうじゃうじゃいるだろう、何しろ、先帝陛下が滞在しているのだからな、それこそ、空でも飛ばんと不可能だ」

「そ、そうですよね……、空でも飛ばないと無理ですよね……」

 

 空でも飛ばないと無理……。

 空を飛ぶ……。

 シャペル……。

 そう、ヒンデブルク広場の飛行船の中にいるロボット。

 

「あいつ、空、飛べるんだよなぁ、飛べちゃうんだよなぁ……」

 

 よし、決めた。

 

「はい、はぁい! はい、はぁい!」

 

 私は元気よく手を挙げる。

 

「でも、腕が確かなのって、誰と誰になるの?」

「俺と和泉、それと佐野と人見、秋葉も使える……」

 

 と、東園寺たちが私を無視して話し続ける。

 

「はい、はぁい! はい、はぁい!」

 

 必死に発言の機会を求める。

 

「空が飛べたらなぁ、いいよな、鳥は、空が飛べて……」

「いいっすね、鳥……」

 

 シェイカー・グリウムたちも私を無視して作戦会議を続けている。

 くっ、ちっくしょう……。

 

「はい、はぁい! はい、はぁい! はい、はぁいってばぁあああ!!」

 

 もう、飛び上がって自己主張してやる! 

 

「なんだ、どうしたんだ、この小娘は……」

「わかった、わかった、なんだ、ナビーフィユリナ……」

 

 やっと、みんなが私に注目してくれる。

 

「えっとねぇ……、飛べるの、私、お空、えへへ……」

 

 と、二ヶ国語で両方に言ってやる。

 

「どう反応したらいいんだろうな……」

 

 シェイカー・グリウムが頭をかく。

 

「飛べるだと……? それを詳しく聞かせてくれ」

 

 東園寺はシェイカー・グリウムと違って、半信半疑ながらも真面目な表情で話を聞いてくれる。

 

「そう、飛べるの、あの子、ヒンデンブルクの飛行船の中にいるロボット、シャペルがね! それでみんなを運んでもらえばいいよ、そして、シェイカー・グリウムたちが話してた作戦を実行するの、彼らが夜襲をかけて、その隙に私たちが上空から砦内に潜入して門の鍵を開けて、仲間を中に引き入れて制圧するの、これで被害は最小限に抑えられるはずだよ!」

 

 そして、私は運転手のふりをしてついて行って、こっそり出撃、ザトーを始末して、あのネックレスを回収するの。

 

「ほ、本当か……?」

「うん、たぶん、数人くらいだったら、乗せて飛べると思うよ!」

 

 と、笑顔で答える。

 

「空からの奇襲か、俺たちの少数精鋭作戦と合致する……」

「ああ、俺たちはあくまでも陽動、倒される危険性は低くなる……」

 

 と、和泉と東園寺が話す。

 

「それが本当だとしたら、画期的だな、空から砦に潜入する……、やつらも予想だにしていまい……、必ずや成功することだろう……」

 

 今度は、辺境伯ダイロス・シャムシェイドが感心したように言う。

 

「さすがだな、貴様等なら何かやるだろうとは思っていたが、まさか、空を飛ぶとはな……、期待以上だ……」

 

 シェイカー・グリウムもそれに追随する。

 

「それでは……」

 

 と、ダイロス・シャムシェイドが立ち上がる。

 

「作戦開始は明後日、深夜とする!」

 

 彼がそう宣言する。

 

「あ、あさって、そんなに、すぐ……?」

 

 私は聞き返す。

 

「そうだ、早いほうがよい、時間が経てば、それだけ被害も増える、ちょうど、明後日にリープトヘルム砦からの使者が来るのであろう?」

 

 そう、条約の細かな取り決めを詰めるためにマジョーライたちがここにやってくる。

 

「ならば、都合がよい、そいつらが訪問している時を狙う、やつらもまさか交渉中に砦が攻められるとは思うまい」

「交渉団を捕らえてしまえ、なんなら殺しても構わん、それが開戦の合図だ」

 

 シェイカー・グリウムがにやりと笑う。

 

「こんなに早く兵隊を用意出来るということは、前もって準備していたの? 私たちの返答を待たずに?」

 

 その手はずのよさに疑問を口にする。

 

「そうだ、明後日やることは決定していた、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトーは必ず殺す、貴様等がこの話に乗ろうと乗るまいとな……、成功率を少しでも上げたいがために、貴様等にも話を振った、どうだ、悪い話しではないだろう? 見返りは十分過ぎるほどあるはずだ」

 

 なるほどね……。

 みんなの顔を見る……。

 それぞれが無言でうなずく。

 こうして、私たちは、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトー暗殺作戦に参加することになった。

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