傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第119話 老い木の水掻き

 ザトーのブルーの法衣が血で真っ赤に染まる。

 

「ひゅー、ひゅー」

 

 と、口から空気の漏れる音がする。

 

「苦しいか、ザトー、とどめが欲しいか?」

 

 やつを見下ろし言う。

 

「何を言っておるか、小娘……、ひゅー、ひゅー、勝負はついた、早く、手当てをせんかい……、ひゅー、ひゅー」

「はぁ?」

 

 ザトーに言葉に一瞬思考停止してしまう。

 

「はぁ、じゃないだろ、いだい、いだい……、ひゅー、ひゅー、死ぬ、死んじゃう、早く、傷の手当を、医者を呼ばんかい……、ひゅー、ひゅー」

 

 何を言っているんだ、こいつは……、出血のせいで頭がおかしくなったか……? 

 

「ひゅー、ひゅー、ごほっ、ごほっ、ごぼあ!」

 

 と、また大量に吐血する。

 

「まぁ、いいわ、死ね、そのままじゃ苦しいでしょ?」

 

 私はそう言い、ドラゴン・プレッシャーを振り上げる。

 

「やめろ、やめろ、ひゅー、ひゅー、わしは先帝だぞ、ラインヴァイス帝国、第98代皇帝ぞ、高貴なる者ぞ、小娘とは格が違うのじゃ……、ひゅー、ひゅー」

 

 と、ザトーがじたばた這うようにして逃げていく。

 

「ひゅー、ひゅー、許さん、許さん、貴様のような、下賎な輩がわしを殺そうなどと……、認めん、認めんぞぉ……、ひゅー、ひゅー、ごほっ、ごぼあ!」

 

 吐血しながら砂の中でもがく。

 

「くそぉ、誰かおらんのかぁ、おらんのかぁ、ひゅー、ひゅー、この小娘を殺せぇ、誰かぁ……、ひゅー、ひゅー」

 

 ザトーがどこかに向かって手を伸ばす。

 その手がぷるぷると震えている。

 

「ぐおお、ぐおお……」

 

 今にも息絶えそうだね。

 私は振り上げたドラゴン・プレッシャーを下ろし、地面に突き刺す。

 

「おおお、おおお……」

 

 伸ばした手だけではなく、全身が小刻みに震えてきた。

 

「終りか……」

 

 私は顔を伏せ、振り返り、セイレイの元へ帰ろうとする……。

 

「エルルム! エルルム! そこにおるのだろう!?」

「うん?」

 

 再度振り返り、ザトーを見る。

 すると、闘技場の壁、天井付近からガラガラという音が響き、石壁の一部が奥に引き込む。

 そして、そこにいるのは、千騎長アンバー・エルルム。

 

「エルルム! 勅命じゃ、やつらに目に物見せてやれ! 皆殺しじゃ、全員殺せ、ひとりたりともこの砦から出してはならん! 地獄の門を開けぇい、悪魔を解き放てぇええ!!」

「御意……」

 

 アンバー・エルルムが一礼し、奥に消えて行く。

 

「あいつ……」

 

 私はやつを追おうと、登れる場所はないか探す。

 でも、見当たらない……。

 

「油断したな、小娘ぇえ、うおわああああ!!」

 

 周囲を見渡していると、そんなザトーの絶叫が聞えてくる。

 

「ドース! イース! アース! ボース! ベース! ダース! ビース! ニース!」

 

 やつが半身を起こし、口から血を巻き散らしながら呪文を唱える。

 

「うるせぇ、じじい!!」

 

 と、渾身の力でザトーに向かってドラゴン・プレッシャーを投げつけてやる。

 

「おごふっ……」

 

 大剣はやつの胸、心臓の辺りを貫く。

 

「おうふ……」

 

 ザトーが胸に刺さったドラゴン・プレッシャーを両手で掴むけど、そこまで……、目を見開いたまま絶命し、そのまま仰向けに倒れる。

 

「心臓三秒、肝臓十秒、腎臓三十秒、それが撃ち抜かれて死ぬまでの時間だ、ちゃんと憶えておけよ」

 

 やつの胸を踏み付け、ドラゴン・プレッシャーを引き抜く。

 

「ザトーが最後に下した命令、気になるな……、地獄の門とか言っていたか……、どこかで聞いたような……」

 

 と、アンバー・エルルムが消えた壁の隙間を見上げる。

 

「ファラウェイ様、お見事でした……」

 

 セイレイが私のうしろでひざまずく。

 

「あなた様は私が知る限り最強の剣闘士でございます……」

「褒めても何も出ないわよ、セイレイ」

 

 と、私はドラゴン・プレッシャーに刃こぼれがないか確認してから地面に突き立てる。

 アンバー・エルルムのあとを追いたいけど、もう遅い、やつがどこに行ったのかわからない。

 

「それよりも」

 

 と、ザトーの遺体、その胸元を開く。

 そして、その首にかけてあるネックレスを取る。

 それを明かりにかざす。

 ペンダントの部分はひし形、その中央には怪しく光る宝石がはめ込んである。

 私のと同じ……。

 

「これ、どうするか……」

 

 確か、人見が言っていたな……、同じような効力を持つネックレスを二つ同時に装備すると共鳴して身体に悪影響を及ぼす、と……。

 これは私が持っていてはいけないもの……。

 じゃぁ、人見たち管理班に渡す? 

 それは駄目、万が一、人見経由で和泉の手に渡ったら大変、これ以上あいつに強くなられたら困る。

 今でもやつのほうが単純な戦闘能力では上だけど、そこをなんとか私の知識や経験で再逆転しているって感じなんだから……。

 

「うーん……」

 

 処分に困るなぁ……。

 

「ファラウェイ様?」

 

 セイレイが悩む私の顔を覗き込んでくる。

 

「うーん……」

 

 その綺麗な顔を見返す。

 

「あげる」

 

 魔法のネックレスをセイレイに差し出す。

 

「はい?」

 

 と、彼女は両手でネックレスを受け取る。

 

「私のとお揃いだから、肌身離さず付けておいてね」

 

 手にぐるぐる巻きにしている私の魔法のネックレスをセイレイに見せてやる。

 

「は、はい」

 

 と、嬉しそうに、強く返事をしてくれる。

 

「よし!」

 

 私は立ち上がり、ドラゴン・プレッシャーを地面から引き抜こうとする。

 

「お?」

 

 地面に転がっている物に目が止まり、その手が止まる。

 刀身が赤く光っている剣……。

 それはザトーが所持していた魔法の剣……。

 私は大剣から手を放し、落ちているその魔法の剣を拾いに行く。

 

「これも処分しておかないと……」

 

 そして、拾い上げて、

 

「これもセイレイにあげる、大事に使ってね」

 

 と、その魔法の剣をセイレイに差し出す。

 

「はい、ありがとうございます……」

「あ、そっちに鞘が落ちていると思うから、それも拾っておいて」

 

 最初にザトーがいた観覧席の辺りを指差す。

 

「はい、ファラウェイ様」

 

 セイレイが黄金の鞘を拾いに行く。

 

「「「わあああああああ!!」」」

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

 地上が騒がしいな……。

 まだ勝敗は決していないみたい。

 

「セイレイ、準備出来た? 友軍の応援に行くよ」

「はい、ファラウェイ様、ただいま……」

 

 彼女は魔法の剣を黄金の鞘に収め、それを腰の帯革に差し込んでいる途中だった。

 

「整いました」

 

 微調整してお終い。

 

「よし、行こう、あ、そうだ、セイレイ、私がザトーを殺したことはみんなには内緒にしておいてね、イメージ悪くなるから」

「はい、ファラウェイ様」

 

 と、私たちは闘技場をあとにする。

 カツカツ、カツカツ、と、石造りの階段を登る……。

 あいつら、怪我してないだろうか……、ちょっと、心配……。

 と、道中、東園寺たちを気にかける。

 

「「「わあああああああ!!」」」

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

 その怒声や金属同士が激しく接触する音が大きくなる。

 

「地上だ、行くよ、セイレイ」

「はい、ファラウェイ様」

 

 と、私は金属製の扉を渾身の力で蹴り破る。

 扉は勢いよく飛んで行き、

 

「ごえっ!?」

 

 と、敵か味方かわからない、どこかの兵士の頭にヒットする。

 うん、たぶん、敵……。

 

「「「わあああああああ!!」」」

「「「おおおおおおおお!!」」」

「「「どらああああああ!!」」」

 

 砦内では、敵味方入り乱れての激しい戦闘が繰り広げられていた。

 また、その石畳の上には足の踏み場もないほどの、おびただしい数の死体が横たわる。

 

「危険だな」

 

 ブービートラップはないだろうが、おそらく、この中の半分以上の兵士は生きている、つまりは、死んだ振りだ……。

 

「ちょっと、この中を歩いて行く気にはならないな……、うーん……」

 

 と、私たち二人は建物の入り口の前で途方に暮れる。

 

「ナビー!?」

 

 途方に暮れていると、上から人が降ってきた。

 

「やっぱり、キミかナビー!?」

 

 それは銀縁メガネの頭の良さそうやつ。

 

「彰吾!」

 

 そう、参謀班の人見彰吾だ。

 

「何かの間違いじゃないのかと思っていたが、まさか、本当にキミだったとは、確認に来てよかった……」

 

 呆れた口調で言う。

 

「うん? 私がここにいるって知ってたの?」

 

 疑問を口にする。

 

「ああ、それ」

 

 と、人見が私の持つドラゴン・プレッシャーを指差す。

 

「うん?」

 

 首を傾げる。

 

「名前だ、ドラゴン・プレッシャーの名で紐付けしてある、そいつはどこにあろうとも、俺の魔法探知に引っかかる」

 

 ああ!? 

 そういえば、そんなことやってた! 

 くっ、つまり、私の行動は全部筒抜けだったというわけね……。

 

「それで、そちらの人は?」

 

 と、人見が視線でセイレイを指し示す。

 

「仲間、セイレイっていうの、牢屋に入れられていたから、助けた、そしてら、仲間になってれたの、えへ」

 

 と、笑顔をつくる。

 

「そ、それは、よかったな……」

 

 彼は頬を赤らめて視線を逸らす。

 

「それで、戦況はどうなってるの? 順調?」

 

 と、真面目な顔に戻し尋ねる。

 

「ああ、順調だ、このまま進めば我が軍の勝利で終わる……」

「そう……、公彦とかは? 怪我とかしてないよね?」

「それも大丈夫だ、基本的に俺たちは戦闘に参加していない、今も秋葉の篭る見張り台の下に集合して戦況を見守っていたところだ、キミもそこに行こう」

 

 なるほどね、大体事情は飲み込めた……。

 

「うぎゃあああああああああ!!」

 

 そのとき、怒号とは違う、ひときわ大きな悲鳴のような絶叫が砦内に響き渡る。

 

「おおがううああああああ!!」

 

 そして、悲鳴のあとには、バリバリバリバリ、という、骨を砕くような音が聞える。

 

「な、なんだ……?」

 

 人見がそちらのほうを見る。

 

「うわああああああああ!?」

「なんだこれはああああ!?」

 

 悲鳴がした場所の近くの兵士に黄色い、ネバネバした液体が大量にかけられる。

 

「あ、あれは……」

「うっぎゃああああああ!!」

「た、た、たす、たす、あっぎゃああああ!!」

 

 液体をかけられた兵士が何かに捕らえられ、バリボリと捕食される……。

 

「あ、ああ……」

 

 地獄の門を開けぇい、悪魔を解き放てぇええ!! ザトーのその言葉が脳裏をよぎる。

 思い出した……、地獄の門……。

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