傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第124話 火の海

 風が吹く。

 それとともに砂煙も晴れ、ヴァーミリオンがその姿をあらわす。

 数は10。

 ギギギギ、ギギギギ、と、金属のこすれる音を轟かせながらゆっくりと立ち上がる。

 その姿は重厚にして巨大、全長は3メートルを優に超える。

 ベージュ色のボディに長くしなやかな手足。

 上半身と下半身を繋ぐ腰のパーツは銀色のボールベアリング。

 ガード類も多数装備し、それだけでこのヴァーミリオンが戦闘用だということがうかがい知れる。

 頭部はシャペルと同じ、バケツを逆さにしたようなデザイン。

 だけど、ひとつだけ違うところがある。

 それは単眼、シャペルの目は二つだけど、ヴァーミリオンの目は真ん中にひとつだけ、単眼仕様になっていた。

 カメラのレンズのような形状の赤い目……、その目がガルディック・バビロンを捕捉する。

 

「やれ、ヴァーミリオン、やつらを焼き払え」

 

 人見彰吾の命令が下される。

 ギギギギ……。

 その赤い目で照準を合わせる……。

 

「ひっ!?」

 

 ピキーンッ、という鼓膜を貫くような高い音が響き、私は反射的に耳を塞ぐ。

 その直後、ヴァーミリオンの赤い目から同じ色の赤いレーザー光線がガルディック・バビロン目掛けて伸びていく。

 そして、そのレーザー光線が虫の身体に触れた瞬間爆発する。

 

「ころぴー」

「ひろぴー」

 

 ガルディック・バビロンが爆発四散する。

 10体のヴァーミリンの赤い目から次々とレーザー光線が発射され、そのたびに虫共が爆発していく。

 ピキーンッ。

 

「ひっ!」

 

 私はそのレーザー光線の発射音、ピキーンッ、という鼓膜を貫く高音を聞くたびにビクッとなり身をこわばらせてしまう。

 

「なんなの、この音……、ひっ!」

 

 耳を塞いでいるので、その後の爆発音はあまり聞えない。

 ピキーンッ。

 

「ひっ!」

 

 鼓膜というか、耳の奥をアイスピックで刺されたような感じ。

 ピキーンッ。

 

「ひっ!」

 

 でも、そのピキーンッ、という音が徐々に小さくなっていく……。

 私はおそるおそる耳から手を離し、前方のヴァーミリオンを見る。

 10体のヴァーミリオンが虫共を焼き払いながら、火の海を悠々と歩き、前進していく……。

 その姿にぞっとする……。

 レーザー光線による攻撃の苛烈さに、虫共は近づくことさえ叶わずに焼き殺されていく……。

 それは、まるで……。

 

「はははは! どうした虫けら共、文字通り虫けらのように殺さるだけか!? 歯ごたえがないやつらだな、もう少し頑張れよ!!」

 

 人見が興奮気味に高笑いする。

 

「すげぇ……、さすが人見さんだぁ……」

「あんなに強かったのか、あのロボット……」

「ああ、圧倒的だな、過小評価していたようだな……」

「すごい攻撃力だ……」

 

 その光景を見て、みんなが口々に感想を述べる。

 

「超常の力って、ホントにあったんだ……」

「なんでも、辺境の奥地には神の力を持つ一族がいるとか……」

「俺も聞いたことがある、辺境には凄まじい力を持つ、剣の民族が存在するらしい……」

「それが、全部、ここ、東方辺境方面の話だとでも言うのか……」

 

 兵士たちの話し声も聞えてくる……。

 もちろん、凄いピンチで死も覚悟していたから、そのことについて人見に文句を言うつもりはないけど……、あんなの出したら、魔法とかそういうの全部ばれちゃうじゃない……、それを隠すためにみんな頑張ってきたのに……。

 そう愚痴りたくもなる。

 

「まぁ、いいや、とりあえず、ここを切り抜けて、生きて帰ることが先決、魔法のことはあとで言い訳を考えておけばいいよ」

 

 気持ちを切り替える。

 砦内の至るところで火の手が上がり、それとともに風が出てくる。

 上昇気流により、長い金髪がバサバサと風にはためく。

 私はそっと手で髪を押さえ、ヴァーミリオンが進軍する先を見据える。

 砦が炎により真っ赤に染まっている……。

 

「帝国騎士の諸君! これが神の軍勢の力、天滅(あまほろぼす)の力だ!!」

 

 シャイカー・グリウムが大声で叫ぶ。

 

「今こそ復讐の時、虫共に思い知らせてやれ! 人類の強大さをな! さぁ、追撃の時だ、帝国騎士団よ、進軍せよ! 我々には神の軍勢がついている、虫共など恐るるに足らず!!」

「「「おおおおおお!!」」」

 

 その号令に兵士たちが剣を空高く突き上げ叫ぶ。

 

「いぴろー」

「こぴろー」

「死ね、むしころ!」

「仲間の敵だ!」

 

 形勢は逆転、人間側の反撃が始まった。

 

「ころぴー……」

「ひろぴー……」

 

 知能が裏目に出たのだろう。

 虫共は明らかに、形勢が不利なのを悟り、弱気になり始めていた。

 どれほど強かろうと、戦う気のないやつは弱い、次々と人間たちに追い詰められていく。

 

「出入り口を封鎖しろ、一匹足りとも逃げすな、近隣の村々に被害が出るからな!」

「「「おおおおお!!」」」

 

 ヴァーミリオンが先行し、そのレーザー光線でガルディック・バビロンを焼き払う。

 そして、兵士たちはそのうしろに続き、レーザー光線から逃れた虫共に止めを刺していく。

 

「大丈夫か、しっかりしろ!」

「今助けに行くからな、気をしっかり持て!」

 

 さらには怪我人の救助にもあたる。

 

「大勢は決したな、小娘?」

 

 シェイカー・グリウムが私たちのところへやってきて言う。

 

「ええ」

 

 仲間の攻勢を見ながら返事をする。

 

「それにしても、あんな秘密兵器を隠し持っていたとはな、なぜ、それを先に言わん、危うく全滅するところだったぞ?」

 

 と、言い、ニヤリと笑う。

 

「ふっ……、私たちも出したくはなかったわよ、それだけ虫共が強かったってこと、出さざるを得なかったの」

 

 つられて笑い、そう言い返す。

 

「おお、いかん、いかん、建物にまで燃え広がっているではないか……」

 

 彼がそう言い、

 

「地下に大勢の剣闘士や捕虜たちが捕らえられている、焼け死ぬぞ、救助に向かうぞ!!」

 

 と、声を張り上げて前線に走っていく。

 

「先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトーを討ち取ったぞおおお!!」

「地下闘技場で討ち取りましたぁあああ!!」

「おお、よくやった、貴様らには褒美をくれてやるぞ、二階級特進だ!!」

「はっ!!」

「ありがとうございます!!」

 

 そんな景気の良い会話も聞えてくる。

 

「あらかた片付いたな……」

 

 人見が人差し指でメガネを直しながら言う。

 

「うん……」

 

 彼の言う通り、まとまった虫の集団はなくなり、散発的に見張り台の上や建物の陰に隠れているものだけになっていた。

 

「あれでは、ヴァーミリオンも役には立たんか……」

 

 大勢の兵士たちが走り回り、残党処理や怪我人の救助にあたっており、ヴァーミリオンも迂闊に、そのレーザー光線を発射出来なくなってきていた。

 

「うん、みんなに当っちゃうよね……」

 

 その光景を見ながら返事をする。

 

「よし、撤収だ、魔力も惜しい」

 

 と、彼は手を空にかざし、

 

「キネティック・エネルギー・アレイ・ヴァーミリオン」

 

 そう、言葉を発すると、10体のヴァーミリオンがVLS垂直発射式ミサイルように、爆音を轟かせ空高く飛んでいく。

 

「あーん」

 

 口を開けて、空を見上げる。

 まぶしい光点が尾を引きながら、花火のように、放物線を描き空の彼方へ消えていく。

 方角はラグナロク、おそらく、ヒンデンブクルの飛行船に帰艦するものと思われる。

 やがて、その光点も見えなくなる……。

 あれは強力だけど、あんまり使えないんだよね……。

 ヴァーミリオンの動力は人見彰吾の苦痛……。

 彼がナイフを手に突き立てて、ぐりぐりえぐって、その痛みを魔力に変換してヴァーミリオンの動力としている……。

 その行為を何度もやらせるわけにはいかない……、というのが東園寺や各班長たちの意見。

 

「それでは、捕らえられていた者たちの解放に行ってきます!」

「行ってきます!」

 

 と、ノディロス村の村長ドレンとメティス村の副村長エスタレンが言う。

 そのうしろには数は少ないけど、ナスク村の人たちもいる。

 

「俺たちも行こう」

「ああ、そうだな、東園寺」

「そうだ、思い出した!」

 

 ザトーの暗殺以外にも私たちには目的があった。

 それは、ナスク村の人たちの救出。

 ラグナロクの新ナスク村には身寄りのない老人や子供たちが大勢いて、その人たちの生活物資、とりわけ食料、水に苦慮していた。

 なので、その家族を救出し、身寄りのない人たちを引き取ってもらい、ラグナロクから出て行ってもらおうという算段になっていた。

 

「いくぞ!」

「「「おおお!!」」」

 

 東園寺のかけ声のもと、私たちは最後の作業に取りかかる。

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