「降参しろ」
階段をゆっくりと下りながら、現地の言葉で話す。
「一応、おまえらも団体戦とか言ってたから、これは剣闘士の試合ということでいいよ、降参するならそれで終りにする……」
そこで一度言葉を切り、ドラゴン・プレッシャーを横に払うように一回転させ、床や壁、天井を剣先で削り、火花を散らせる。
火花の明かりでやつらの姿を確認し、
「でも、しないと言うのなら、試合はここまで、次からは戦争、全力で殺しにいく……」
低い声で言い放つ。
静寂、カツ、カツ、カツ、という私の足音だけが壁に反響し、辺りに響く。
「わ、わかった、降参する、試合は終りだ、逆らう気はない、助けてくれ、参った……」
沈黙のあと、一人の剣闘士からそう返答があった。
「賢明ね……」
階段を下りるのをやめて言う。
そして、振り返り、階段の上を見る。
ゆらゆらと複数の明かりが見える……。
その明かりに照らされ、東園寺たちの姿も見えるようになる。
「敵はどこだぁ!?」
「大丈夫ですかぁ!?」
逃げ出していた村民たちだろう、東園寺たちのうしろから大勢の人間の声と階段を駆け下りる足音が聞えてくる。
「こいつらが敵かぁ!?」
「仲間の敵だ、ぶっ殺してやる!」
と、駆けつけた村民たちが口々に叫び、剣を抜く。
「ああ、公彦、とめて、この人たち降参したから」
階段を上りながら言う。
「やめろ、やめろ、こいつらは捕虜だ、捕虜は丁重に扱え」
「離れろ、離れろ!」
と、みんなが村民たちを倒れている剣闘士たちから引き離す。
「じゃぁ、武装解除させて、拘束して、あとで帝国軍に引き渡すから」
村民たちが落ち着いたのを見計らって彼らに命令する。
「ういっす」
「はい」
「へい」
と、村民たちが大人しく従ってくれる。
「残りは砦の探索、捕虜の救出に向かうよ!」
さらに、そう宣言して、先頭をきって階段を下りていく。
「「「おお!」」」
みんなが私のあとに続く。
そして、捕虜の救出もあらかた終り、砦内の火の手が強くなったこともあり、私たちは救出した捕虜たちを連れて一旦外に出ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リープトヘルム砦は赤い炎に包まれ、激しく燃え上がっていた。
火災により発生した上昇気流が火の粉を空高く舞い上がらせ、それが降り注ぎ、荒野に散乱する枯れ木などに燃え移り火の手を上げる。
「もう中に誰もいないかぁ!?」
「おそらく!!」
「この炎ではもう中には入れないぞ!!」
砦の周囲では捕虜や怪我人などの救出にあたっている兵士たちが忙しく動き回る。
「いやぁ、しかし、派手に燃えてるなぁ……」
と、秋葉蒼が燃え上がる砦を見て話す。
「もう少し下がるぞ、火の粉が飛んでくる」
「ああ……」
「うっす」
「はぁい」
私たち7人は東園寺の指示で、さらに遠くまで避難する。
暗闇の荒野ではポツリ、ポツリ、と、まるでかがり火のように、木や草むらが燃え上がっている。
「相当遠くまで火の粉が飛んで行ってるな……」
その光景を眺めながらつぶやく。
「虫は!? 虫はどうしたぁ、一匹たりとも逃がすなよ、皆殺しにしろ!!」
「はい! 人っ子一人通しません!」
と、大勢の兵士たちが巨大な虫、ガルディック・バビロンの駆除に走り回り、防衛線を築き、リープトヘルム砦を隙間なく包囲する。
「いぴろー」
「こぴろー」
「この野郎!!」
「逃がさねぇぞ!!」
炎の中から飛び出してくる傷ついたガルディック・バビロンに止めを刺していく。
「ころぴー……」
「ひろぴー……」
その数も徐々に減っていき、虫共の声も聞こえなくなる……。
「でも、これで終りかぁ……、疲れたぁ……」
「ああ……」
みんながその場に座り込み、燃え上がる砦をぼんやりと眺める。
「よいしょ……」
と、私は白クマのリュックサックを降ろして中から水の入ったペットボトルを取り出す。
「みんな、適当に飲んで」
それを秋葉たちに投げる。
「サンキュ」
「ありがと」
みんながペットボトルの水を回し飲みする。
私は自分用のペットボトルを取りキャップを開けて一口飲む。
「ふぅ……」
と、一息つき、燃え上がるリープトヘルム砦を眺める。
「あ、セイレイも飲んで」
私は手にしたペットボトルを彼女に渡す。
「ありがとうございます」
と、彼女はペットボトルの水を飲む。
「それにしても、何かやり残したことはないだろうか……」
ザトーを殺して魔法のネックレスは回収した……、それは、今、このセイレイが首にかけている。
「はい?」
私の視線を感じて、彼女が首を傾げる。
「ううん、なんでもない」
また視線をリープトヘルム砦に戻す。
「それから……、捕虜たちの救出……」
私たちから少し離れたところに大勢の村民たちがいて、その近くに座り込む捕虜たちの姿が見える。
たぶん、捕らえられていた人はすべて救出できたと思う。
あとは砦の破壊……。
燃え上がる砦を見る。
あの勢いならば、すぐに燃え尽きるだろう……。
とりあえず、私たちの目的はその三つだけど……、それ以外にも、あの虫、ガルディック・バビロンの駆除もしないといけない……。
そして、なにより大事なことが残っている……。
「な、何をする!?」
「俺たちは仲間じゃなかったのか!?」
帝国軍、辺境伯の兵士たちが、リープトヘルム砦の守備隊の兵士たちに武器を向ける。
そう、それは口封じ。
私たちがリープトヘルム砦を攻め、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトーを暗殺したことを帝国本土に知られないようにすること。
「貴様は千騎長アンバー・エルルムの副官だなぁ!?」
シェイカー・グリウムが守備隊の一人に大股で近づいていく。
「な、何を!?」
その守備隊の一人が怯み、一歩、二歩と後退する。
「すまんな、これも帝国のためだ……」
小さく言い、
「どらぁああああああ!!」
と、一刀のもとにその守備隊の一人を斬り捨てる。
「斬れ、斬れぇ! こいつらは叛乱の首謀者千騎長アンバー・エルルムに付き従った逆賊共だ、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトー陛下をたぶらかし、終いには暗殺までしでかした帝国に弓引く大罪人共だぁ!!」
「し、知らない、何の話しをしているんだ!?」
「うぎゃああああああ!」
「やめろ、やめろぉおお!」
「俺たちは仲間だぁ!」
と、守備隊の者たちが次々と斬り殺されていく。
「ぎゃあああああああ!」
「ひいいいいいいいい!」
私はそっと視線を落とす。
仕方ないこととはいえ、なんか、胸糞悪いなぁ……。
「あぎゃああああああ!」
「うげあああああああ!」
鳴り止まない悲鳴……。
生き残りの守備隊は500人以上いる……、そのすべてを殺害するつもりだろうか……、それとも千騎長アンバー・エルルムの部下だけを……。
その光景を見る。
「ぎゃあああああああ!」
「ひいいいいいいいい!」
「あぎゃああああああ!」
「うげあああああああ!」
全員殺す気だ……。
「敵とはいえ辛いな、見てられない……」
「いや、敵じゃないだろ、みんなで協力して虫共を駆除した仲間だろ……」
秋葉と和泉の会話だ。
「やめろ、やめろぉおお!」
「俺は敵じゃない、やめろよぉおお!」
守備隊の兵士が逃げ惑い、後ろから斬り殺されていく……。
「くっ……」
和泉たちが視線を逸らす。
「ぎゃあああああああ!」
「あぎゃああああああ!」
……。
私は無言で立ち上がり、そして、ドラゴン・プレッシャーの柄に手をかけ、それを引き抜き、
「とりゃあああああああ!」
と、虐殺の現場の中央に渾身の力で投げつけてやる。
「なっ!?」
「ひっ!?」
大剣は轟音とともに地面に突き刺さり、盛大に砂煙を上げる。
辺りは静まり返り、両軍の兵士が私を見る。
「気分悪いからさ、その辺でやめてもらえないかな?」
ゆっくりと、ドラゴン・プレッシャーの元に歩きながら言う。
「それに、この人たち何も知らないよ、千騎長アンバー・エルルムに騙されてただけなんだから……、そうだよね?」
と、守備隊の兵士たちに問いかける。
「そうだ、何も知らない、誤解なんだ!」
「助けて、助けて、全部、千騎長がやったことなんだ!」
「俺たちは何もやっていない!」
「もうやめてくれ、家に帰る!」
と、泣き叫び、我先にと私たちのうしろに逃げていく。
「だ、そうよ?」
辺境伯の兵隊、その真ん中にいる赤いマントの男、シェイカー・グリウムに軽く笑いかける。