傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第127話 謀を伐つ

 シャイカー・グリウムが私を睨みつける。

 

「信用できるか……、やつらの口を封じなければ、次やられるのは我々のほうだ……、そこをどけろ、小娘」

 

 と、彼が凄む。

 

「降伏している相手は殺すな、もう敗残兵ですらないのだから、適当に捕らえて個別に尋問し、問題がなければ解放してやればいいだろう」

 

 ハーグ陸戦条約やジュネーヴ条約に慣れ親しんだ身としては、彼らのやり方には嫌悪感を抱いてしまう。

 

「俺たちもナビーと同意見だ……」

 

 と、和泉たちも来てくれて、私のうしろに立つ。

 

「みんな……」

 

 頼もしくみんなを見上げる。

 

「生温い! それでは我々の身が危険に晒される! 貴様等もだ!」

 

 シェイカー・グリウムが大声で言い、大股でこっちに歩いてくる。

 

「うーん……」

 

 聞く耳持たずか……。

 ひゅーん。

 

「そこをどけろ、小娘!」

 

 彼が近づいてくる。

 

「うーん……」

 

 ひゅーん。

 

「ひゅーん?」

 

 なんか、空からそんな音が聞えてくる。

 

「あーん」

 

 と、真っ暗な空を見上げる。

 ひゅーん。

 

「あーん?」

 

 私につられてシェイカー・グリウムも空を見上げる。

 ひゅーん。

 何かが高速で落ちてきた。

 それも、シェイカー・グリウムの真上に。

 

「おわあああああ!?」

 

 慌ててシェイカー・グリウムがその場を離れようとする。

 でも、間に合わずに上空からの落下物の衝撃に巻き込まれてしまう。

 

「な、なに……?」

 

 激しく舞った砂埃から目を守りながら、その落下物に視線を向ける。

 

「ピポロッポ」

 

 ぴぽろっぽ? 

 それは、ライトブラウンのロボット、

 

「シャペル?」

 

 だった。

 

「なんで?」

 

 ヒンデンブルク広場の飛行船に帰ったんじゃなかったの? 

 困惑する。

 

「ピポロッポ」

 

 と、シャペルは私の姿を確認して、嬉しそうにその頭を上下させる。

 

「シャペル」

 

 でも、どこかおかしい……、動きが鈍く、その場から立ち上がれないようだった。

 白い翼も格納されていて見ることはできない……。

 

「どうしたの、シャペル?」

 

 心配になって彼に歩み寄る。

 

「ピポロッポ……」

 

 元気がない……。

 

「ピポロッポ……」

 

 必死に顔を上げ、私に何かを訴えかける。

 

「うーん……」

「ピポロッポ……」

 

 元気がない……、つまり、エネルギー切れか……? 

 

「ああっ!?」

 

 そうだった、シャペルが飛べるのは、この魔法のネックレスのおかげだった。

 私は、革の手袋の上からぐるぐる巻きにして握っていたネックレスを見る。

 

「そっかぁ……、そういうことか……」

 

 エネルギー切れが心配で、ラグナロクまで飛んで帰れるか不安だったんだね、だから、上で旋回して私の帰りを待っていたんだね……。

 

「ごめんね、シャペル……」

 

 と、彼のバケツみたいな顔の頬に手を当てる。

 

「ピポ……」

 

 力なく返事をする。

 

「よし! じゃぁ、エネルギーを充填しよう!」

 

 と、ネックレスを持つ手を振り上げる。

 

「おごごご……」

 

 その時、どこかからか、そんな声が聞こえてきた。

 

「あーん?」

 

 声の主を探す。

 きょろきょろ探すけれども見当たらない。

 

「どこだぁ?」

 

 と、私はシェペルの背中に乗って遠くを見渡す。

 

「いない……」

「おごごご……」

 

 お? 近くから聞えてくるぞぉ?

 と、シャペルの背中で四つん這いになって、その下を覗き込む。

 

「いた!」

 

 赤いマントの短い金髪の男、シェイカー・グリウムがシャペルの下敷きになっていた。

 

「おい、シェイカー・グリウムさん、平気か、怪我してないか?」

「おごごご……」

 

 返事がない、どうやら意識を失っているようだ。

 

「仕方ない、助けてやるか……」

 

 私はシャペルの背中に手を当て、

 

「ピュアフサージ、ヘヴンリー・ヴァルキリア」

 

 と、小さく呪文を唱える。

 

「ピポロポッポ、ピポロポッポ」

 

 すると、ウィーン、という駆動音とともに、シェペルのボディの繋ぎ目から光が漏れ、ギギギ、と各部を軋ませながらゆっくりと立ち上がる。

 

「よっと」

 

 私は背中から転げ落ちないように肩のほうに移動する。

 

「ピポロッポ」

 

 完全に立ち上がり、砂煙が風に流されていく。

 

「おお、結構高い……」

 

 シャペルの肩に立ち、彼の頭に掴まりながら周囲の景色を見る。

 

「た、隊長!?」

「大丈夫ですか、指揮官!?」

 

 と、副官たちがシェイカー・グリウムを心配して駆け寄ってくる。

 

「だ、だめだ、完全にのびてる!」

「す、すぐに、治療をしないと!」

「衛生兵! 衛生兵!」

 

 衛生兵たちがタンカを持ってやってくる。

 

「隊長! 気を確かに!」

「というか、指揮官、指示を!」

「俺たちはこれからどうすればいいんですか!?」

 

 と、副官たちが、タンカの乗せられて運ばれていくシェイカー・グリウムに付き添い、声をかけ続ける。

 

「ええい、テントだ、テントを設置しろ!」

「はやくしろ! 隊長は重症だ!」

「どけい! どけい!」

 

 やがて、遠ざかり、その姿も見えなくなる。

 

「行っちゃった……」

「ピポ……」

 

 私はシェペルの肩の上から彼らを見送る。

 

「指揮官がいなくなったけど、これからどうすればいいんだ……?」

「副官たちも、みんないなくなったけど……」

「千騎長アンバー・エルルムに付き従った逆賊共を討伐するんじゃなかったのか……?」

 

 シェイカー・グリウムの部下たちが途方に暮れている。

 おお……、これはチャンス……。

 

「シャペル、そっち」

「ピポ……」

 

 私はシャペルに指示を出し、シェイカー・グリウムの部隊、それと守備隊、その両軍が向かい合う中央あたりに向かわせる。

 ガチャン、ガチャン、と、金属音を轟かせながら進む。

 

「おお……」

「あれは、神の力を持つ兵士……」

「虫共を倒した剣の一族……」

「神の雷の……」

 

 人見のヴァーミリオンと勘違いしたのか兵士たちが恐れおののく。

 そして、両軍の中央に着き、それぞれの兵士たちを見て、

 

「シェイカー・グリウムより指揮を引き継ぐ、全員、私の命令に従え」

 

 と、兵士たちを見下ろし言ってやる。

 静寂、両軍の兵士たちが私を呆然と見上げる。

 少し強めの風が吹き、長い金髪と白いワンピースが風にはためく。

 そっと、風でなびく髪を手で押さえ、視線を落とす。

 

「神よ……」

 

 そして、ひとり、またひとりと私の前にひざまずいていく。

 

「うん……」

 

 その光景に満足してうなずく。

 

「戦闘は終了だ、その守備隊もまた我々の仲間、あの虫、ガルディック・バビロンを共に倒した戦友だ、争うことは許さん」

 

 静かに話す。

 

「「「ははぁ……」」」

 

 彼らが深く頭を垂れる。

 

「それと、この命令は遡及されない、例え、のちに指揮権がシェイカー・グリウムに移ったとしても覆すことはできない、おまえらは仲間だ、戦友だ、もし、先程と同じように守備隊に対して討伐命令が下ったとしても従うな、守ってやれ」

 

 シェイカー・グリウムの部下たちに言う。

 

「「「ははぁ!」」」

「そして、おまえたちは……」

 

 ガチャン、ガチャン、と、シャペルを振り返らせ、今度は守備隊の兵士たちに語りかける。

 

「わかっているだろうが、仲間が不利になるようなことは言うなよ、戦友を売ることは許さん、もちろん、この場だけの話ではない、未来永劫だ、誓えるか?」

 

 一応、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトー暗殺に関して釘を刺しておく。

 

「「「誓います!」」」

 

 と、守備隊の面々が言ってくれる。

 

「うん」

 

 それを聞いて大きくうなずく。

 

「よし! それでは撤収の準備をしろ! 負傷者優先! 護送船団方式でいくぞ!」

 

 そう叫び、拳を突き上げる。

 

「「「おお!!」」」

 

 と、両軍だけではなく、各村の戦士たち、さらには救出した捕虜たちまで拳を突き上げて叫び、私の命令に従い動きだす。

 

「こんなものか……」

 

 ガチャン、ガチャンと音を立てて東園寺たちの元へ向かう。

 

「とお!」

 

 そして、シャペルの肩から飛び降りて、三点着地。

 

「みんなも撤収の準備をしてね、よいしょっと……」

 

 私は放置したままの白クマのリュックサックを手に取り、それを背負い、次に地面に突き刺さったドラゴン・プレッシャーを引き抜き肩に担ぐ。

 

「よし、準備万端」

 

 みんなを見て少し笑う。

 

「帰るよ!」

「「「おう!」」」

 

 こうして、リープトヘルム砦攻防戦は私たちの大勝利に終り、帝国軍と私たち、二手に分れて帰路に着くことになったのであった。

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