傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第128話 胸に木の葉が沈む

 明けて翌日。

 朝早くから、ここ、割と普通なナビーフィユリナ記念会館では班長会議が行われていた。

 

「救出できた村の人たちは合計184名……」

 

 参謀班の班長代理、綾原雫が名簿を見ながら言う。

 今は昨日のリープトヘルム砦攻めで発生した問題について話し合われている。

 ちなみに戦争の勝利報告は昨日帰ってすぐに済ませてある。

 

「その内訳は……、ノディロス村が88名、メティス村が37名、テルベア村が30名、クシュー村が29名……、そして、肝心のナスク村は……0名……」

 

 彼女が溜息混じりに言う。

 そう、目的の一つである捕らえられているナスク村の人たちの救出はならなかった。

 

「そして、この184名は、各村が壊滅していて行く場所がないと……、しかも、家族たちもどこかに逃げているだろうから、招き入れたいと……」

 

 綾原が頭を抱える。

 プラグマティッシェ・ザンクツィオンに身を寄せている身寄りのないナスク村の人たちを引き取って欲しくて行ったリープトヘルム砦攻めが、逆に大勢の難民たちを受け入れる形になってしまっていた。

 

「もとからいるナスク村の人たちと合わせて300名以上になってしまったけど……、これからどうすればいいの……?」

 

 綾原が腕組みをして目を閉じている東園寺を見て尋ねる。

 

「出て行ってもらう、という方向性に変わりはない」

「だから、どうやって? 彼らには食料もない、怪我人もいる、働けない老人や子供たちもいる、そんな彼らに出て行ってくれと頼むの? それとも無理矢理追い出すの? そんなことが人道的に許されると思うの?」

 

 と、綾原が東園寺の言葉に反論する。

 

「村を作るってのはどうだろう?」

 

 狩猟班の班長、和泉春月が東園寺に代わって発言する。

 

「このカルデラの外、そうだな、旧ナスク村の辺り、そこで、農業や畜産をやってもらい、その収穫物を俺たちが高値で買う、それなら、経済的にも自立してやっていけるはずだ」

「そして、その収穫物を高値で買えるだけの外貨を私たちが帝国との交易で稼ぐ、と……?」

 

 和泉の話を生活班の班長、福井麻美が引き継ぐ。

 

「そうだ、福井、それなら経済が回る」

 

 自信を持って和泉が言う。

 

「時間はかかるけど、それが一番良い方法かもしれないね……」

 

 綾原もそれに同意する。

 

「なら、和泉の案でいくか……、各村の村長には俺から提案しておく」

「よろしく頼む、東園寺」

 

 会議が長引くかと思ったけど、あっさりと話がまとまる。

 

「ちょっと待って、みんな、大事なこと忘れてるよ」

 

 まとまらなかった。

 

「ナスク村の人はひとりもいなかったんでしょ? そのリープトヘルム砦に?」

 

 と、女性班の班長、徳永美衣子が質問する。

 

「ああ、どこかに連れ去られたあとだった……」

 

 その質問に東園寺が答える。

 

「そう、処刑されたんじゃなくて、どこかに移動しただけなんだよね? もし、居場所がわかったら、助けに行くの? 今回と同じように、それを聞いておきたかった」

「戦争は極力避ける、もし、居場所がわかったら、辺境伯を通して交渉し、金で解決する」

「よかった、安心した、もう戦いは嫌だよ、昨日も誰か死なないかって、すごいはらはらしたんだから……」

 

 と、徳永が少し涙ぐむ。

 

「世の中全部金だね。辺境伯の後ろ盾の下、公平な取引ができるようになるんだよね? だったらいっぱい稼いでやろうよ、いくらでも身代金が出せるように、そうすれば誰も死なない、誰も戦争に行かなくていい」

 

 福井がしんみりとした空気を吹き飛ばすかのように強い口調で言う。

 

「そうね、麻美、私たちも頑張って魔法のネックレスを作るわ」

「わ、私たちも、何か考える!」

 

 と、綾原と徳永が少し元気を出して言う。

 

「では、その方向で行く、それぞれの班で自分たちに何ができるかよく話し合っておいてくれ、以上だ、解散」

 

 東園寺が解散を宣言し席を立つ。

 

「はぁい、お疲れ様でした」

「お疲れ、色々考えておくよ」

「お疲れ様でした、忙しくなるね!」

「お疲れ様でした」

 

 みんなもノートなどを片付けて席を立つ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 カラン、コロン、カラン、コロン、と、小気味の良い音を響かせながら馬車は進む。

 今日もこれから、割と普通なナビーフィユリナ記念ピーチ号に乗って、プラグマティッシェ・ザンクツィオンに向かう。

 馬車の周りには狩猟班のみんなもいる。

 目的はもちろん、食料の買出し、それと、視察、昨日救出した人たちが問題を起こしていないかを見に行く。

 

「ウェルロット、平気?」

 

 と、私は、小さな窓からちょこんと顔を出して、馬車を引いてくれているウェルロットに声をかける。

 

「ぷるるぅ!」

 

 すると、ウェルットは元気良くいななく。

 

「そっか、平気か」

 

 その声を聞いて安心する。

 カラン、コロン、カラン、コロン、と、馬車は進み、ルビコン川に架かる橋、ブリッジ・オブ・エンパイアを渡り、プラグマティッシェ・ザンクツィオンの入り口に差し掛かる。

 

「馬車来た! 馬車来た!」

「わぁあ! ナビー様が来たよ!」

「ほんとだぁ! ナビー様だぁ!」

 

 と、私の馬車を確認するなり、大勢の子供たちが駆け寄ってくる。

 

「よーし」

 

 馬車の中に頭を引っ込める。

 いつもなら、細切れの新聞紙を投げてやるところだけど……、ここでは新聞紙などの紙が案外貴重なので、そんなにはばら撒けない……。

 そこで……。

 

「それぇ!」

 

 と、馬車の中に敷き詰めてあった乾燥させたイネ科の草、ワラを一掴みし、馬車のうしろを追い駆けてくる子供たちの頭上に投げてやる。

 

「わぁあああ!」

 

 ワラは風に吹かれ空を舞い、ゆっくりと子供たちの頭上に降り注ぐ。

 

「すごぉい!」

 

 子供たちが空に手を伸ばし、風に舞うワラを掴もうとする。

 

「楽しい!」

 

 飛び跳ねてワラを追い駆ける。

 

「それぇ! それぇ!」

 

 気を良くした私は何度も馬車の中からワラを掴み、子供たちの頭上に投げつけてやる。

 

「ああ! それ私のぉ!」

「早い者勝ち!」

 

 子供たちも大喜び。

 

「どう、どう……」

 

 と、御者役である和泉春月が馬車を止める。

 どうやら、目的地に着いたようだ。

 

「お姫様、どうぞ」

 

 と、夏目翼がにこやかな笑顔と仰々しい仕草で馬車の扉を開けてくれる。

 うん、最近彼女がよくやるお姫様ごっこだ……、たぶん……。

 

「ありがとう!」

 

 と、私はふかふかのワラを掻き分けて、外に転げ出る。

 

「じゃぁ、仕事に入るか、俺とハルと佐野は市場の見回り?」

「ああ、治安維持だ、他所から来ている者も多い、喧嘩とか何か問題を起こしている奴は遠慮なく叩き出していいからな、獏人」

「うい、和泉さん」

 

 と、狩猟班の男子たちが話している。

 

「こっちは買出しね……、麻美たち何て言ってたっけ?」

「生肉は避けて、加工肉だけ、特に鶏肉は避けてって、カンピロバクター菌が心配だから、だって……」

「注文多いね……」

 

 と、こっちは女子、雨宮が夏目の手にするメモの書きを覗き込みながらつぶやく。

 

「ナビー様、ナビー様、お時間ありませんか?」

 

 子供たちが私の袖をちょん、ちょん、と引いて言ってくる。

 

「あのね、あのね、ナビー様にお見せしたいものがあるの」

「見せたいもの?」

 

 首を傾げる。

 

「いいよ、ナビーちゃんは遊んでて、こっちはこっちでやっとくからさ」

 

 と、笹雪がメモ書きとにらめっこしながら言う。

 

「うん、じゃぁ、いこっか!」

「わぁい!」

「ほんと? 嬉しい!」

「行こう! こっちだよ!」

 

 子供たちに袖を引っ張られ、背中を押され、急かされるように連れて行かれる。

 そして、連れて行かれた先は、ナスク村の人たちの居住区、簡素な家々が立ち並ぶ一角、さらに、そこから奥に入った小さな広場。

 そう、そこは子供たちの遊び場。

 

「「「1、2! 1、2! 1、2!」」」

「「「えい、やあ! えい、やあ! えい、やあ!」」」

 

 子供たちのかけ声が聞えてくる。

 今日も練習やってるのかぁ……。

 そういえば、この子たちは私の親衛隊になったんだっけ……。

 名前はなんだっけ……。

 

「ファーイースト・ドランニック・コーア、気合を入れろー!」

 

 年長者のタジンが私の姿を確認して、気合を入れ直す。

 そうそう、思い出した、ファーイースト・ドランニック・コーア、かっこ良く言えば、東の果ての竜騎兵団だ。

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