傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第129話 決起

「「「1、2! 1、2! 1、2!」」」

「「「えい、やあ! えい、やあ! えい、やあ!」」」

 

 20人以上はいるだろうか、その子供たちの素振りが続く。

 

「さっ、ナビー様」

「こっち、こっち」

 

 素振りをしている子供たちを横目に、私はぶらん、ぶらんする揺り椅子、ロッキングチェアの前に連れていかれる。

 

「おお……」

 

 ぶらん、ぶらんだ……。

 私は大喜びで揺り椅子、ロッキングチェアに腰掛け、ぶらん、ぶらんする。

 

「「「1、2! 1、2! 1、2!」」」

「「「えい、やあ! えい、やあ! えい、やあ!」」」

 

 その間も子供たちの素振りをする掛け声が広場に響く。

 

「お飲み物は何にいたしましょうか?」

「いたしましょうかぁ?」

 

 少女たちがぶらん、ぶらんする私の顔を覗き込みながら尋ねてくる。

 

「うーん? 何があるの? ぶらん、ぶらん」

 

 ぶらん、ぶらんしながら聞き返す。

 

「えっとね、タビーヤとねぇ……、エレンナッツとねぇ……」

 

 タビーヤはあまーいヨーグルトドリンクにつぶつぶ果肉が入っている飲み物で、エレンナッツはバナナジュースに少し塩をいれたような、スポーツドリンクに似た味わいの飲み物。

 

「あとはぁ……、ベルゲンデン・ゴトー!」

 

 と、ひとりの少女が嬉しそうに飛び上がって言う。

 

「ベルゲンデン・ゴトー!?」

 

 私は驚いて、ぶらん、ぶらんするのを止めて聞き返す。

 

「そう、ベルゲンデン・ゴトー!」

 

 ベルゲンデン・ゴトーは、簡単に言えば、濃い目のイチゴ牛乳で、前にリープトヘルム砦であのザトーに出された飲み物だ。

 すごくおいしかった、また飲みたくて、夢に出るほどだった……。

 

「じゃぁ、ベルゲンデン・ゴトーで!」

 

 と、大喜びで注文する。

 

「はぁい!」

「ただいまぁ!」

 

 少女たちも大喜びで駆け出していく。

 

「「「1、2! 1、2! 1、2!」」」

「「「えい、やあ! えい、やあ! えい、やあ!」」」

 

 それにしても真面目だなぁ、あの子たち……。

 と、ベルゲンデン・ゴトーを待ちつつ、ぶらん、ぶらんしながら、子供たちの稽古を見守る。

 

「気合を入れろ!」

「腰だ、腰を入れろ!」

「そこ、たるんでいるぞ!」

 

 うーん? ぶらん、ぶらん。

 なんか、子供たちに混ざって大人たちの姿も見えるぞぉ? ぶらん、ぶらん。

 10人以上はいるかな? ぶらん、ぶらん。

 

「はい、先生!」

「ご教示、ありがとうございます!」

 

 とか、子供たちが言ってるんだけど……。

 大人たちに教えてもらっているのかな? 

 

「身体をまっすぐ、押手と引手を意識して……」

「はい、先生!」

 

 と、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「顎を引いて、手首が下がっている……」

「はい、先生!」

 

 女性の声、その人が子供たちの素振りを見て回る。

 長い銀髪、白い艶やかな肌、整った目鼻立ちの美しい女性……。

 

「セイレイ……」

 

 そう、彼女は和泉春月と戦った剣闘士、その敗戦により独房に入れられていたのだけど、昨日の戦争のどさくさにまぎれて私が救出した。

 

「ファラウェイ様……」

 

 彼女が私を見て軽く微笑む。

 

「さぁ、声を出して!」

 

 すぐに視線を戻して子供たちの指導をする。

 

「はい、先生!」

「「「1、2! 1、2! 1、2!」」」

「「「えい、やあ! えい、やあ! えい、やあ!」」」

 

 なるほどね、連れ帰ったのはいいけど、ラグナロクに連れていくわけにはいかずに、適当にナスク村の村長に預けていたけど、さっそく自分の仕事を見つけたみたいね。

 それに、彼女は一流の剣闘士、いい剣術指南役になるかもね……。

 

「おまえらも負けんじゃねぇぞ!」

「気合入れていけぇ!」

 

 と、セイレイ以外の大人の人も声を張り上げる。

 

「それにしても……、誰だぁ、見たことないなぁ……、ぶらん、ぶらん……」

 

 ぶらん、ぶらんしながら、指導している大人、戦士風の男たちを見る。

 基本的に難民であるナスク村の住民の中には若い男はいない。

 戦える男はみんな帝国軍と戦い、殺されるか捕虜になったかどっちかだったらしいから。

 なので、ここにいるのは全員女子供と老人ということになる。

 

「よーし! やめぇい!」

「休憩だ、少し休め!」

 

 号令をかけて子供たちに休憩をさせる。

 

「挨拶がまだでしたね?」

 

 と、タオルで汗を拭きながら指導していた大人たちがこちらに向かってくる。

 数は……、セイレイを入れて14人……。

 多いな……。

 一時的にプラグマティッシェ・ザンクツィオンに身を寄せている他の村の人だろうとは思うけど……。

 

「女神よ……」

 

 その中の一人、先頭のやつが跪きやがった。

 

「誰だ?」

 

 ぶらん、ぶらんしながら、やつを見下ろしながら言ってやる。

 

「金暗色のシュタージでございます……」

 

 その男は金髪……、いや、それより暗い、蜂蜜色のような髪をしていた。

 精悍な顔をし、その肢体もよく鍛え込んであることが服の上からでもうかがい知れた。

 

「ツァーツェクの地獄グァルディオーラです」

「紅き月のティターノでございます……」

 

 と、次々と私の前に跪き、自らの名を名乗っていく。

 

「何なの、こいつら? ぶらん、ぶらん……」

 

 ぶらん、ぶらんしながら、そいつらを見下ろす。

 

「ファラウェイ様、先日、あなた様がお倒しになった剣闘士たちですよ……」

 

 と、セイレイが耳打ちしてくれる。

 

「ああ……、昨日のやつらか……」

 

 そう、捕虜を救出に向かう時に襲ってきた連中。

 でも、あっさり返り討ちにした。

 

「で、どうして、ここにいるの? 現地の村人と捕虜以外は立ち入り禁止って言ったよね?」

 

 帝国の人間は誰一人として、ここへの立ち入りは許可していない。

 

「ええ……、帝国軍は立ち入り禁止……、確かにそういう御触れでございました……」

 

 先頭、中央の金暗色のシュタージが口を開く。

 

「立ち入り禁止は帝国軍だけ……、我々剣闘士は帝国軍ではございませんので」

 

 と、彼が顔を上げにこりと笑う。

 

「そちらの皆殺しのジョルカ……、いや、失礼、今はセイレイか……、そのセイレイも我々と同じ剣闘士、彼女がここにいるのなら、我々もまたここにいる権利がございますというもの」

 

 盲点だったか……、帝国軍と村人、そのふたつの区分でしか見ていなく、彼ら剣闘士のことはすっかり失念していた。

 

「それに我々は貴女様に心酔しきっているのです……、昨日の戦い、お見事でした……、感服いたしました……」

「聞くところによると、なんでも、ここはナビー様の親衛隊の訓練場というではありませんか? 丁度いい、我々が彼らに手ほどきをし、ナビー様の親衛隊として恥ずかしくないよう鍛え上げてごらんにいれますよ」

「なんなら、我々がナビー様の親衛隊に加わってもいいくらいだ」

「おお、それはいい」

「我々ならばナビー様の親衛隊として申し分ない」

 

 と、剣闘士たちが口々に言う。

 

「駄目だ! ナビー様の親衛隊、ファーイースト・ドランニック・コーアの団長はこの俺だ!」

「そうよ、副団長はこの私よ!」

 

 と、タジンとフェインが異論を唱える。

 

「何が団長だ、ガキの遊びじゃねぇんだぞ!?」

「もう少しまともに戦えるようになってから吠えな、ボウヤ」

 

 剣闘士たちも言い返す。

 

「なにぃ!?」

 

 と、タジンが歯軋りをする。

 

「落ち着いてタジン、ここはナビー様に決めてもらいましょ? だって、ナビー様の親衛隊なんだから」

 

 今にも剣闘士たちに襲い掛かろうとしているタジンをフェインがなだめる。

 

「ナビー様、私たちがファーイースト・ドランニック・コーアの団長と副団長ですよね? この人は違いますよね? そうですよね?」

 

 フェインが不安そうな顔で尋ねてくる。

 うーん、困った……。

 私ひとりでは決められない、班長会議で議論しないことには始まらない。

 ぶらん、ぶらんしながら思案する。

 

「ナビー様……?」

 

 フェインが泣きそうな顔になる。

 ちらりと彼女の顔を見る。

 

「そうね、この剣闘士たちがここにいようといまいとタジンが団長、フェインが副団長、それは変わらないよ、安心して」

 

 と、少し笑って落ち着かせるように言ってやる。

 

「やったぁ! 俺が団長だ!」

「嬉しい!」

 

 二人が飛び上がって喜ぶ。

 

「くそぉ! で、でも、俺たちも、ナビー様の親衛隊に入れてもらえるんですよね?」

「行くとこなんてないっすよ、俺たち!」

「うーん、それは、どうなるかわからないぁ……、他のみんなに聞いてみないとなぁ……」

 

 剣闘士たちの質問に答える。

 

「ナビー様ぁあああ!」

「さまぁあああ!」

 

 その時、遠くから少女たちの声が聞こえてくる。

 

「ベゲンデン・ゴトー持ってきたよぉ!」

「持ってきたよぉ!」

 

 と、少女たち両手で大事そうにカップを持ち、こちらに全速力で走ってくる姿が見えた。

 

「ナビー様ぁああああ!」

「さまぁああああ!」

 

 満面の笑みで走ってくる……。

 でも、

 

「あ?」

「え?」

 

 と、先頭の少女が小石につまずき、さらにうしろの子も前の子の背中に顔をぶつける。

 

「きゃああああ!」

「きゃああああ!」

 

 二人の身体が宙に舞い、持っていたカップも放してしまう。

 

「どらぁああああ!」

「おりゃああああ!」

「はぁあああああ!」

 

 その瞬間、跪いていた剣闘士たちが即座に動く。

 

「とお!」

「はっ!」

「ほい!」

 

 飛ぶついた剣闘士たちが地面すれすれで二人の少女を受け止め、さらにもうひとりが飲み物の入ったカップをキャッチする。

 

「おお、なんて身のこなし……」

 

 私は感心して言う。

 

「大丈夫かい、立てるかい、お嬢ちゃん?」

「ありがとう……」

 

 と、少女たちを地面に立たせる。

 

「どうぞ、女神……」

 

 そして、金暗色のシュタージがベルゲンデン・ゴトーの入ったカップを私に手渡してくれる。

 

「うん、ありがとう」

 

 それを手に取り口を付け、ひと口飲んでみる。

 

「あまーい……」

 

 そして、おいしい!

 

「うん、いちご牛乳だ、この味大好き……」

 

 うっとりとカップの中のピンク色の液体を見る。

 

「どうです? 俺たちも役に立つでしょ? ここに置いてもらったらもっと働きますよ?」

「死ぬ気でやります」

 

 少女たちを救った二人、ツァーツェクの地獄グァルディオーラと紅き月のティターノが言う。

 

「うーん、そうね、使えそうね……」

 

 ベルゲンデン・ゴトーを飲みながら彼らを見る。

 全員屈強な戦士、それは申し分ない……、あとは治安の問題だけど……。

 

「セイレイ」

「はい、ファラウェイ様……」

 

 横に控えていたセイレイに声をかける。

 

「こいつらの面倒を見てやって、もし何かやらかすようだったら追い出すなり、殺すなりしていいから」

 

 聞かれないように、彼女の耳元でそう囁く。

 

「はい、ファラウェイ様」

 

 ザトーの剣とネックレスを持つセイレイなら遅れを取ることもないだろう。

 

「それと、子供たちへの稽古のことだけど、あんまり厳しくしないでね、半分遊びなんだから」

「はい、ファラウェイ様」

「じゃぁ、まかせたよ」

 

 と、耳元から顔を離し、ロッキングチェアから勢いよく立ち上がる。

 

「それじゃ、あなたたちは今日より私の親衛隊ね、よく励むように」

 

 班長会議にかけなくてはいけないけど、たぶん大丈夫でしょう。

 

「はっ!」

「身に余る光栄!」

「全身全霊をかけて頑張ります!」

 

 と、剣闘士たちが大きな声で返事をする。

 こうして、私の親衛隊の人員が大幅に増強されることになったのであった。

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