傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第131話 マーチ

 扉が開け放たれたままの牧舎に入り、荷物の置いてある場所に急ぐ。

 

「うーんと、確かこの辺に置いたよねぇ……」

 

 と、荷物の山をがさごそとかき分ける。

 

「あった、あった、これ、これ……」

 

 目当ての物を探しあてる。

 

「えへへ……」

 

 もちろん、それは黄色のホイッスル。

 さらに、白いバトン。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 おや? 

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 ピップ、スカーク、アルフレッドの三羽のひよこが私に気付いて騒ぎ出した。

 私はホイッスルのストラップを首にかけ、バトンを手に取り彼らの元へ向かう。

 

「おまたせ……」

 

 そして、鳥篭の前にしゃがんで、その隙間から指を差し入れて一羽ずつ頭を撫でてやる。

 

「随分大きくなったけど……、他のみんなも大きくなってて、外に出すのは危ないんだよね……」

 

 特にウェルロットの成長が著しくて、相対的な体格差は広がったと思う。

 

「ぴよ、ぴよ……」

「ぴよっぴぃ……」

「ぴよぉ……」

 

 ひよこたちが気持ち良さそうにしている。

 

「ごめんね……、危なくないように、もうひとつ柵を作るように班長会議にかけてるところだから、あと少しだけ我慢してね……」

「ぴよ、ぴよ」

「ぴよっぴぃ」

「ぴよぉ」

 

 わかってくれたみたい。

 

「よし、じゃぁ、またあとでね!」

 

 と、立ち上がる。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 ひよこたちの元気の良い声に送られて牧舎をあとにする。

 そして、駆け足でエシュリンたちの元へ戻る。

 

「おまたせ!」

「おかえり、ぷーん!」

「おまえりなさい!」

「おかえり、お姉ちゃん!」

「おかえりなさいませ、ファラウェイ様」

 

 みんなが出迎えてくれる。

 

「ナビー、何する、ぷーん? もしかして、また行進、ぷーん?」

 

 と、エシュリンが私の持つバトンと、首にかけてあるホイッスルを見て尋ねてくる。

 

「よくわかったわね、エシュリン、その通りよ」

 

 私は目をつむり、腰に手を当てて、自信たっぷりにそう答える。

 

「こ、行進がテストですか、ファラウェイ様……?」

 

 セイレイが困惑したような口調で話す。

 

「行進の重要性がわかってないようね、セイレイ……、私たちは集団なのよ、ひとつの生き物、戦場ではなによりそれが大事……、一糸乱れず行進、一糸乱れず陣形を組み、そして、一糸乱れず攻撃をする……、それが戦場に於いてもっとも強い」

 

 自信満々に言う。

 

「はぁ、そうですか……」

 

 納得してくれたみたい。

 

「よし、じゃぁ……、ピーーーーーッ!」

 

 と、黄色いホイッスルを口にくわえて大きく鳴らす。

 

「整列! 私のうしろについてきて! 大きく手を振って、美しくよ!」

「はい、ぷーん!」

「はい!」

「はぁい!」

「はいっ!」

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

「はい、です……」

 

 みんなが返事をしてくれる。

 

「いくよ! マーチ! ピッピ、ピピピ、ピッピ、ピー、ピッピ、ピピピ、ピッピ、ピー、」

 

 と、最初は単調なリズムを刻みながら行進を始める。

 

「ピッピ、ピピピ、ピッピ、ピー、ピッピ、ピピピ、ピッピ、ピー、ピッピ、ピピピ、ピッピ、ピー」

 

 白いバトンを上下に振りながら行進する。

 

「うん、ちょっとバラバラだけど、みんなついてきてるな……」

 

 ピッピしながら後方を確認する。

 

「よーし! じゃぁ、ブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲 いくよ!」

 

 と、大きな声で叫ぶ。

 そして、ホイッスルをくわえて、

 

「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」

 

 と、高らかに演奏する。

 

「ブリティッシュ! それ大好き!」

「私も!」

「お姉ちゃん、大好き!」

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 すると、みんなが歓声を上げる。

 

「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」

 

 もう大喜びでブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲を演奏して行進する。

 なんて、楽しいんだろう、あっという間に一周目が終わった。

 

「もう一周いくよ、ピーーーーーッ!」

「はい、ぷーん!」

「はい!」

「はぁい!」

「はいっ!」

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

「はい」

 

 ああ、青空がきれい、わた雲がふわふわ浮いてる。

 

「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」

 

 その空を見上げながら気持ちよく行進する。

 

「くるぅ!」

 

 うーん? 前から声がするぞぉ? 

 と、視線を下ろしてみると、クルビットが私の前をしっぽふりふりしながら歩いてやがった……。

 

「ぷるるぅ!」

 

 さらに、ウェルットまで私の隣を歩いている。

 

「ダメ! みんなは私のうしろ! ピーーーーーッ!」

 

 と、思いっきりホイッスルを鳴らして、行進する速度を上げて先頭に立つ。

 

「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」

 

 そして、また気持ちよくブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲を演奏しながら行進する。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

「ああ!?」

 

 でも、すぐにみんなが私を追い抜いていく。

 

「くっそぉ! ピーーーーーッ!」

 

 と、さらに歩く速度を上げる。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 それに合わせるように、みんなも速度を上げる。

 

「むー!」

 

 駆け足になる。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 みんなも駆け足になる。

 

「こうなったら!」

 

 全速力で走り出す。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 みんなも全速力で走り出す。

 

「もう、競争だぁ!」

「速い、ぷーん!」

「待ってぇ!」

「お姉ちゃーん!」

「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」

 

 ついでに、走りながらブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲も演奏する。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 ピッピロやっているうちに、またもや抜かされる。

 

「くぅ……、ヒョーロ、ヒョッヒョヒョ……」

 

 くわえたホイッスルから変は音が出だす。

 

「はぁ、ひー、はぁ、ひー、フュッヒョッヒョー、ヒョヒョッヒョ、ロー、はぁ、ひー、はぁ、ひー……」

 

 と、それでも、一生懸命ブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲を演奏しようとする。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 駄目だ、みんなが元気すぎて抜けない……。

 

「こうさぁん!」

 

 五周目くらいで私は根を上げて、その場に大の字に寝転がる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 呼吸を整える。

 

「もう走れない、ぷーん」

「ひー、ひー、ひー」

「お姉ちゃーん……」

 

 エシュリンたちも同じ、息を切らして私の隣に座ったり寝転んだりする。

 

「くるぅ」

「めぇ」

「めぇえ」

「ぷるるぅ」

「みーん」

 

 クルビットやシウスたちが勝ち誇った顔で私の元にやってきた。

 

「このぉ!」

 

 と、クルビットを抱きしめてやる。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 すると、他のみんなも私のお腹に上に乗ったり、スカートの中に頭を突っ込んだり、腕とか肩を鼻先でつついでじゃれてくる。

 

「あーん、やめて、やめて」

 

 くすぐったくて身悶えする。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 でも、やめてくれない。

 

「もう! とう!」

 

 腕を真っ直ぐ伸ばして、足をピーンとして、ぐるぐる回転しながら彼らから逃げていく。

 

「くるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

「ぷるるぅ!」

「みーん!」

 

 やっぱり追い駆けてくる!

 

「さらに、加速!」

 

 ぐるぐるし続ける。

 

「こう、ぷーん?」

「待ってぇ」

「お姉ちゃーん」

 

 と、エシュリンやシュナンとリジェンの姉妹も私の真似をしてぐるぐる回りながらついてくる。

 

「あははは、なんか楽しくなってきた! そぉれぇ!」

 

 と、私たちは草の上をぐるぐるし続ける。

 

「あっ……」

 

 コツンとおでこをぶつける。

 

「ファラウェイ様……」

 

 それは座っているセイレイのふとももだった。

 

「ちょうどいい! 休憩!」

 

 と、私はそのままセイレイの膝の上に頭を乗せる。

 みんなが同じように私の傍に寄り添う。

 

「ふふ……」

 

 と、それぞれみんなを軽く撫でてやる。

 

「ああ、空が綺麗……」

 

 真っ青な空を見上げる。

 セイレイがそっと私の額に手を添える。

 冷たくて気持ちいい……。

 彼女を見上げる。

 目が合うと、彼女がかすかに微笑む。

 私もかすかに微笑み、そして、目を閉じて、風を感じ、草花の香りを胸いっぱいに吸い込む。

 

「ああ、なんて良い日なんだろ……」

 

 心底そう思う。

 眠たくなってきちゃった……。

 お昼寝しよ……。

 

「ナビー、ぷーん、セイレイさんは合格、ぷーん?」

「うーん? 最初から合格だよ……」

 

 まどろみながら答える。

 

「やったぁ! 合格だって、セイレイさん!」

「はい、ありがとうございます」

 

 そんな会話を聞きながら眠りにつく。


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