傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第133話 時知らず

「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

 

 帝国との交易も始まり、市場、プラグマティッシェ・ザンクツィオンは大勢の商人たちで賑わっていた。

 

「お疲れ様でした」

「またのお越しをお待ちしております」

 

 もちろん、私たちも商売をしている。

 

「ひとつ、800帝国タウになります」

「じゃぁ、ひとつ貰うよ、食べながら帰る」

「ありがとうございます」

 

 と、エシュリンが800帝国タウを受け取り、串に刺さった冷凍洋ナシを渡す。

 

「おお、冷たい、本当に凍っている!」

 

 大きな荷物を背負った小太りの商人が冷凍洋ナシを頬張る。

 そう、私たちが販売しているのは、冷凍果物各種、それを串に刺して売っている。

 ちなみに、販売はすべて帝国タウというラインヴァイス帝国の貨幣を使用し、私たちの通貨であるラグナは使ってはいない。

 レート的に言えば、1ラグナ、3帝国タウ、になるけど、ここで問題が発生する。

 それは、ゴールドの含有量。

 1対3のレートでは貨幣の価値的に釣り合いが取れなくなり、いずれ破綻してしまう。

 詳しいことは綾原に聞かないとわからないけど、帝国タウベックではラグナは安定せず、いずれは暴落するか物価がインフレするかのどっちかになってしまうらしい。

 なので、基本的に帝国タウのみで取引を行い、魔法のネックレスにだけラグナを使う方針にした。

 魔法のネックレスはラグナでしか売らない。

 ラグナはそれほど出回らない、それで、需要と供給のバランスを取る作戦だ。

 

「ミックスはひとつ1200帝国タウになります」

「じゃぁ、それひとつ」

「ありがとうございます」

 

 販売は順調、次々と売れていく。

 場所がいいからね。

 ここは、プラグマティッシェ・ザンクツィオンの出入り口、ここに出入りするすべて商人たちが店の前を通過する。

 

「四つですね、2400帝国タウになります」

「はいよ」

「ありがとうございました」

 

 ここで、狩猟班の女子とマスコット班の人間が合同で冷凍果物を販売している。

 

「二つくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

 売っても売っても行列はなくならない、次々と人がやってくる。

 

「ひらり! 洋ナシが少なくなってるよ!」

 

 店の裏で冷凍果物を作っている雨宮ひらりに大きな声で催促する。

 

「はい、はい、今作ってますよ……」

 

 と、返事が返ってくる。

 

「翼、いいよ、そっち持ってて」

「うん、こっちはおーけーね」

 

 同時にそんな会話も聞えてくる。

 

「持ってきたよ、ナビー」

 

 と、夏目翼がやってきて、冷凍洋ナシを店先に並べてくれる。

 

「ありがとう、翼」

 

 私がそれに串を刺していき、

 

「はい、お待たせしました」

 

 と、エシュリンが販売する。

 その作業を数時間続けると、

 

「完売!」

「やったぁ!」

「売れたねぇ」

「ぼろもうけだったね」

「うん!」

 

 みんなで労う。

 

「じゃぁ、後片付けして、今日は終りにしましょう」

「「「はぁい!」」」

 

 と、夏目に言葉にみんなが返事をする。

 それぞれが後片付けを始める。

 すると、

 

「いやぁ、今日は良い契約が出来ました。喜ばしい限りです」

「今日はありがとうございました、と、言ってる、ぷーん」

 

 向こうから数頭の馬を引く一団がやってくる。

 

「いえ、いえ、こちらこそ、これほど高値で契約していただけるとは思ってもみませんでした」

「今日はありがとうございました、と、言っています」

 

 その数頭の馬を引くのは貴族然とした紳士とその従者らしき人たち。

 そして、その隣にいるのは、生活班の班長、福井麻美と他数人、それと、マスコット班のシュナンもいる。

 そういえば、福井が通訳として一人貸してとか言っていたね。

 

「それでは、子爵様、道中お気をつけて、遠路はるばるありがとうございました」

 

 福井たちが深々とお辞儀をする。

 

「今日は本当にありがとうございました、と、言っています」

 

 それをシュナンが通訳する。

 

「いえ、いえ、こちらこそ、ありがとうございました。では、契約に従って、来月、またこちらにお邪魔します」

「今日は本当にありがとうございました、と、言っている、ぷーん」

 

 シュナンが通訳する。

 

「それでは!」

 

 と、貴族然とした紳士と従者が馬に乗り、そのまま帰路につく。

 

「ありがとうございました」

 

 それに対して、福井たちが笑顔でお見送りする。

 やがて、その一団が見えなくなる……。

 

「よっしゃぁ!」

「すげぇ契約が取れたぜ!」

「これで大金持ちだね!」

「俺たちすげぇ!」

 

 客が見えなくなると、福井をはじめとした生活班の面々が飛び上がって喜び歓声を上げる。

 よく見ると、管理班の久保田洋平と神埼竜翔の姿もある。

 

「どうしたの?」

「なに、なに?」

「なにが売れたの?」

 

 その声につられて、私たちは作業の手を止めてそちらに向かう。

 

「売れたっていうか、契約が取れた」

 

 管理班の久保田洋平が嬉しそうに話す。

 

「だから、なにが?」

 

 と、私は彼の顔を見上げる。

 

「ふふ……、あれさ……」

 

 久保田がうしろをクイクイと親指で指す。

 

「うーん?」

 

 彼のうしろを目を凝らして見る……。

 

「ああ!?」

 

 私の馬車、割と普通なナビーフィユリナ記念ピーチ号がある! 

 

「どうして、私の馬車がこんなところにあるの!?」

「ふっ、よく見ろよ、あれは、割と普通なナビーフィユリナ記念ピーチ号じゃないよ……」

 

 久保田が得意げな顔で腕組みしながら言う。

 

「ええ……?」

 

 どう見ても、私の割と普通なナビーフィユリナ記念ピーチ号に見えるけど……。

 

「あれは新作さ、よく見てみろよ、馬車のてっぺんをさ……」

「てっぺん……? なんか果物みたいなのが付いてる……?」

「そうさ! チェリーさ! あれは、俺たちの新作、イタバーネ・チェリー号さ!」

 

 と、元気良く、自慢げに大きな声で言う。

 確かに違うね、サイズも少し大きいかな。

 

「へぇ……、それが売れたんだ……?」

「そうさ、麻美さんに頼んで交渉してもらったのさ!」

「そうなんだ、で、いくらで売れたの、あれ?」

 

 と、尋ねる。

 

「麻美さん」

 

 久保田が福井に答えを求める。

 

「えっとねぇ……」

 

 福井が契約書らしき書類をぺらぺらとめくり、

 

「1台、240万帝国タウで、合計48台、1億1520万帝国タウで売れたの」

 彼女がニコッと微笑み言う。

 ……。

 

「「「えええええ!?」」」

 

 沈黙のあとに、全員が驚く。

 

「そして、手付金として、1割、1152万帝国タウはいただいているわ、納車は来月、そのときにすべての代金をいただく契約になっているわ」

 

 福井が契約内容を説明してくれる。

 

「それにしても凄くない? 1億? 48台? 桁違いだね……」

 

 笹雪が感心したように話す。

 

「うん、すごいでしょ、そのお金があれば、念願の白レンガがいっぱい買える。それで、道を作りましょう、真っ白な綺麗な道を……、ああ、駆け回る、子供たちの無邪気な声が聞えてきそうだわ……」

 

 うっとりと夢を語る。

 

「その馬車って、もうできてるの? それとも、これから作るの?」

 

 夢を打ち消すように雨宮が質問する。

 

「これからよ、管理班と生活班の合同で作る予定」

「48台も……? あれを……?」

 

 馬車を見ながら聞き返す。

 

「ううん、48台は努力目標よ、できた分だけでいいって、でも、できるだけ多く作るつもり、なにせ、1台240万帝国タウになるんだから」

 

 なにその曖昧な契約……。

 

「契約書見せて」

 

 と、私は手を差し出す。

 

「うん?」

「いいから」

 

 と、半ば強引に契約書を奪い取る。

 そして、それに目を通す。

 

「うーん……」

 

 契約書をぺらぺらめくる。

 契約書は現地の言葉で書かれていて、それに、福井の字だろう、日本語訳が要所要所に書き込まれている。

 で、その日本語訳がおかしい……。

 全くのデタラメではないけど、微妙に意味が違うし、なにより、かなりの部分が端折られている……。

 

「うーん……」

 

 通訳であるシュナンの顔を見る。

 

「はい?」

 

 と、不思議そうな顔で私を見返す。

 彼女はナスク村の姉妹の姉のほうで、マスコット班で日本語の勉強を始めてまだ一ヶ月ほどしか経っていない……。

 嫌な予感がする……。

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