傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第134話 三面等価の原則

 最初にページに戻り契約内容を読み返す。

 

「どうしたの、ナビー?」

「なにか問題あるの?」

 

 と、福井たちが聞いてくる。

 

「うん、ちょっと……」

 

 ない、ない……。

 どれだけページをめくっても、さきほど福井が言った完成した分だけの納品、なんて記述はどこにもなく、来月半ばまでに全48台の納車、ということしか書かれていない……。

 もう一度シュナンを見る。

 

「はい?」

 

 黒髪の可愛らしい女の子だ……。

 たぶん、うまく通訳できなかったんだ……。

 マスコット班の班長として失敗した。

 その商談に付いていけばよかった……。

 

「麻美、ごめん、通訳間違ってた。これ、目標48台の努力義務じゃなく、全48台きっちり納車しないと駄目な契約だよ」

「ええ!?」

 

 福井が驚く。

 

「む、無理だよ、48台なんて、1日何台作れるの、久保田くん?」

「えっ!? いや、他の仕事もあるし、1日1台どころか、3日に1台とかのペースじゃないと無理だよ」

「それじゃ、15台くらいしか作れないじゃん、どうするの!?」

「いや、どうするって言われても……」

「あーん……、じゃぁ、キャンセルするしかないね……、私、追いかけてくる!」

 

 と、福井が走って追いかけようとする。

 

「ちょっと待って、麻美」

 

 契約書の最後のページを開く。

 

「シュナンの通訳が拙かったから、こうなったのかと思ったけど、違うね……、ごめんね、シュナン、疑って、あなたはしっかりと、その役目を果たしたわ……」

 

 最後のページに目を通しながら話す。

 

「はい?」

 

 シュナンが首を傾げる。

 

「どういうこと、ナビー?」

 

 福井も聞いてくる。

 

「詐欺、若しくはハメられた」

 

 最後のページ、そこには一切日本語訳が書き込まれていない。

 つまり、そこの説明は行われていないということを意味する。

 他のページはかなり書き込まれているからね、意味は微妙に違くとも、シュナンが一生懸命、その意味を伝えようとしていたのがよくわかる。

 そして、その日本語訳が一切行われていない最後のページ、そこにこの契約書でもっとも重要なことが書かれている。

 それは、

 

「契約不履行、それに伴う損害賠償、違約金について……」

 

 と、いう見出し。

 

「そ、損害賠償?」

「違約金? そんなの聞いてないよ!」

 

 そう、聞いてないよね、言うわけないよ、ハメられたんだから、シュナンの通訳が拙いのを見抜いてうまく誘導されたんだよ……。

 

「で、契約不履行、納品できなかった場合は……、代金と同額を違約金として申し受けます。だってさ……」

「ええ!? そ、そんな、同額って、1億帝国タウを払えってこと!?」

「なんだ、それ、そんなお金ないよ!」

 

 あるわけないよね、それは相手方もわかっている……。

 

「支払いは、帝国タウ、或いはラグナのどちらかだって」

 

 そう、彼らの狙いは私たちの通貨、ラグナの大量奪取。

 

「よかった……、ラグナならいくらでも刷れるよね……」

 

 福井が胸を撫で下ろす。

 

「よくはないよ……」

 

 ラグナで取引している商品は魔法のネックレスのみ、彼らの狙いはそれ……。

 

「1億帝国タウ相当のラグナだと……、魔法のネックレス、ちょうど200本分だね……」

 

 適当暗算で本数を出す。

 

「魔法のネックレス、200本……、それだけ作るのに何ヶ月かかるのよ……」

 

 福井の顔が青ざめる。

 

「くっそぉ! あいつら騙しやがって! ひっ捕らえてやる、いくぞ、ザキ!」

「おう、クボ!」

 

 と、久保田と神埼が、剣の柄に手をかけ、あの貴族然とした商人を追いかけようとする。

 

「待って二人とも、追わなくていい」

 

 二人を止める。

 

「なんでだ、ナビー!?」

「やつらは馬だ、早く追わないと逃げられちまう!」

 

 軽く溜息をつく。

 

「詐欺っぽくても、契約は契約よ、破棄するためには、ここに書かれている通り、キャンセル料、違約金を支払わなくてならない……」

 

 契約書をぺらぺら振りながら言う。

 

「だから、やつらをとっ捕まえて契約破棄するんだよ!」

「そうだ、嫌とは言わせない、ぶん殴ってやる!」

 

 二人が激昂気味に叫ぶ。

 

「暴力でなんとかしようと言うの? ならず者じゃないんだから……、信用が地に落ちるわ……、これは、戦争、彼らは経済戦争を仕掛けてきたのよ……、経済でやられたら、経済でやり返すしかない……、それがルール、馬車を48台作るしかない……」

「くそっ!」

「なら、適当に作ってやろうぜ、あいつらが仕掛けてきたんだから、文句は言わせないぜ!」

 

 私はまた軽く溜息をつく。

 

「そんなものは、彼らも想定済みよ……」

 

 契約書を開き、その文章をみんなに見せる。

 

「瑕疵担保責任……、つまり、不良品は返品可能、さらに、罰則付き、不良品1台につき、その同額、240万帝国タウ、若しくは同額のラグナを違約金として支払う、そういう取り決めになっている……」

「ま、マジかぁ……」

「契約でがんじがらめになっている……」

 

 久保田と神埼が落胆する。

 

「じゃぁ、どうやっても、お金を支払うしかないの? みんなになんて言おう……」

 

 と、福井が泣きそうな顔で言う。

 

「うーん……、ただ、活路を見出すとしたら……」

「何か良い方法あるの、ナビー?」

「この瑕疵担保責任、幸いにも1台の不良品はその1台分として換算して違約金を支払う、つまり全体ではない。なので、出来るだけの台数の馬車を作って、残りは適当に作って違約金を支払う、それで契約を全うすることができるわ。そして、損益分岐点は半分、、24台になる、24台以上作れれば、売り上げで違約金をペイできる」

「おお……」

「24台だったら、頑張ればなんとかなるかも……」

「まっ、ただ働きだけどね……」

 

 と、私は契約書を福井に返す。

 

「麻美、契約するときは気を付けてね、高額な物は班長会議にかけるとかしたほうがいいかも」

「うん、ごめんね……、みんなが喜ぶと思って……」

 

 彼女が暗い顔をする。

 

「うーん……」

 

 落ち込んでるなぁ……、ちょっと言い過ぎたかなぁ……。

 

「それなら、48台、きっちり作ってやればいいんじゃないですか?」

 

 その言葉は、日本語ではなく、現地の言葉で発せられたものだった。

 

「うーん?」

 

 と、私は声がした方角に視線を向ける。

 そこには体格の良い、鍛え上げられた身体を持つ男たちが立っていた。

 

「おまえたち……」

 

 そう、それはここに身を寄せている剣闘士たちだった。

 

「話は聞かせてもらいました」

 

 その中の真ん中の、蜂蜜色の髪をした男が言う。

 確か、こいつはシュタージとかいう、剣闘士たちのリーダーだ。

 よく見ると、彼らの近くには銀髪の剣闘士セイレイと、シュナンの妹リジェンの二人もいる。

 ああ、そうか……、セイレイは日本語の勉強中、リジェンの通訳を聞いて勉強していたのか、それを、他の剣闘士たちも聞いていたと……。

 

「作ってやりましょうよ、そんな馬車48台くらい」

「そうっすよ、俺たち、剣闘士ですけど、暇な時は大工もしてたんすから」

 

 と、シュタージの両脇の剣闘士、グァルディオーラとティターノが言う。

 

「それに、俺らだけじゃない、他のナスク村の連中も暇を持て余しています。そいつらにも仕事を与えてやってはくれませんか?」

 

 シュタージがにやりと笑う。

 

「ナビー、なんて言っているの?」

 

 現地の言葉のわからない福井が尋ねてくる。

 

「彼らが馬車作りを手伝いたいんだって、大工の経験もあるし、あと、ナスク村の人たちにも手伝ってもらったらって、暇そうにしてるからって」

 

 と、彼女に通訳してあげる。

 

「ええ、本当に、いいのみんな!?」

 

 福井の表情が明るくなる。

 

「もちろんっすよ」

「やります、やります!」

 

 通訳しなくても、福井の言葉の意味がわかったらしく、彼らも笑顔で応じる。

 

「やったぁ!」

 

 福井もその意味がわかったのか飛び上がって喜ぶ。

 

「これで、白レンガをいっぱい買えて、綺麗な道路を作れるわ! でも、一応、班長会議にかけてみんなと相談しないとね、他の仕事との兼ね合いとか、シフトとかあるしね、よし、それじゃ、ナビー、みんな、ラグナロクに帰りましょう!」

 

 と、完全に元気を取り戻した福井が先頭をきってラグナロクに向かい歩きだす。

 

「「「おう!」」」

「「「はぁい!」」」

 

 そのあとを管理班や生活班の連中が続く。

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