傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第135話 ロジスティクス

 福井麻美はすぐにでも班長会議を開きたいようだったけど、他の班長は仕事や用事があり、時間が合わずになかなか開催することはできなかった。

 結局、各班の班長が割と普通なナビーフィユリナ記念会館に集まったのは、夕食のあと、時計の針が7時を回った頃だった。

 

「話はわかった……」

 

 議長である東園寺公彦が昼間に行われた馬車の契約、その契約書に目を通しながら言う。

 ちなみに彼が今見ている契約書は私とエシュリンで再度翻訳した正確なものになっている。

 

「人数はどのくらい必要だ? 俺からナスク村の方々に言っておく」

「できるだけ多く、手の空いている者は全員手伝ってほしい」

「わかった……、そう伝えておく……、こっちの人員は?」

「あの剣闘士の人たちもいるし、設計とか作業手順とか熟知している久保田くんと神埼くんだけ貸してくれればそれでいいよ、みんなも他の仕事があるでしょうし」

「そうか……」

 

 東園寺と福井の会話が続く。

 

「それにしても、すごい金額と、すごい台数だな……、なんだ、これ……」

 

 契約書を目にした和泉春月が呆れたような口調でつぶやく。

 

「単純に騙された……、実現不可能な契約を結ばされて、大金を奪われようとしている……」

 

 それに対して私が答える。

 

「なるほどね……、できないだろうと思っての破格の値段設定なんだね……」

 

 そう、1台240万帝国タウなんて法外だよ、あの馬車にそんな価値なんてない、せいぜい、その数分の1程度の価値。

 

「だからこそ、チャンスなのよ、48台きっちり作ることができれば、とてつもないお金が私たちの手に転がり込んでくる」

 

 福井が目を輝かせて言う。

 

「ああ、これが経済戦争ってやつなのか、48台作れるか、作れないかの勝負……、すべてを得るか、それとも破産するか……」

「ギャンブルじゃないんだから……」

 

 和泉の言葉に綾原雫が溜息混じりに言う。

 

「こうなってしまったら作るしかない、我々にはこれだけの違約金を支払うだけの金も、200本もの魔法のネックレスを作るだけのリソースもない。ナスク村の方々や、その剣闘士たちだけにまかせておけない、我々も極力製作に参加する。そんなところか……」

 

 東園寺が話をまとめる。

 

「ありがとう、東園寺くん」

「ああ、東園寺、大金を勝ち取ろうぜ」

 

 なぜか、和泉が乗り気だ。

 

「でもさ、もし、馬車を作れたらさ、ものすごいお金が手に入るよね、1億帝国タウ、白レンガをいっぱい買おうと思っていたけど、それだけだと余るよね? あとなに買おう?」

 

 夢に見るように福井が話す。

 

「そうだなぁ……」

「なにかあるかしら……」

 

 みんなが考える。

 

「なに、なに? なんでもいいよ、お金いっぱいあるから!」

「うーん……」

 

 でも、なにも出てこない。

 

「あ……」

 

 そのとき、なにかを思い出したかのように、綾原が小さな声を上げる。

 

「雫、欲しい物あるの? なに、なに?」

「欲しい物というか……、参謀班のメンバーからの提案」

「人見くんとか?」

「ううん、うちの青山悠生から、どうせ、却下されるだろうと思ったから後回しにしていたのだけれど、お金に余裕があるのなら提案してみようかしら……」

 

 と、綾原がノートを開く。

 

「みんなも聞いて、うちの青山からの提案」

 

 彼女が話し出す。

 

「ナスク村の人々に仕事をさせる工場をプラグマティッシェ・ザンクツィオンの近くに作りたい。農業と違って、工場なら大規模に木を伐採する必要はないからね、これなら和泉くんの要望にも叶う」

「工場?」

「工場でなにをする?」

「被服でも作らせるの?」

 

 みんなが首を傾げる。

 

「ううん、お酒……、アルコール飲料を作るの」

「「「さ、酒!?」」」

 

 予想外過ぎて、みんなが驚く。

 

「そんなに驚かなくても……、青山が言うには、この世界にはエールという種類のお酒しかないらしい、そこで、そのお酒を工場で蒸留してスピリッツというお酒に加工して販売するのはどうだろうか、っていう提案よ」

 

 ああ、なるほど、アルコール度数を上げて売るのね……。

 詳しくはないけど、仕組みは温泉卵と同じ、60℃とかの温度で熱するとアルコールは蒸発せずに、水分だけ飛ばすことができて、アルコール度数をどんどん上げていけるようになるってやつ。

 

「酒か……」

「スピリッツって、ウォッカとかテキーラとかそういうのだよね……」

「アルコール中毒量産しそう……」

「なんか、罪悪感ある……」

 

 みんなは否定的。

 

「だよね……、一応、虫除けにもなるって言ってたけど、私も反対と言えば反対……、それに、青山が提案しているのはこれだけじゃないのよ、もっとやばい物も作りたいらしい……」

 

 綾原がノートを見ながら少し笑う。

 

「な、なに……?」

「や、やばい物……?」

 

 固唾を飲む。

 

「それはね……」

 

 綾原が顔を上げて、みんなを見渡し、

 

「カンナビス・サティバエル」

 

 と、静かに言う。

 

「かんな?」

「さてぃば?」

「なにそれ?」

 

 みんなが聞き返す。

 

「麻薬よ、大麻の総称、カンナビス・サティバエル」

 

 私が説明してあげる。

 

「「「麻薬!?」」」

 

 みんながスピリッツのとき以上に大きな声で驚く。

 

「うん、それらしき植物を発見したって、青山が……」

「うわぁ……」

「い、いや、麻薬って……」

「酒の次は麻薬……、どこのマフィアよ、あいつ……」

 

 青山の提案にみんながドン引きする。

 

「えっと、一応、彼の擁護をしておくけど、彼曰く、医療用だって、鎮痛剤として使用するんだって」

 

 なるほどね、大麻の鎮痛効果は絶大だよね……。

 

「で、でも、依存するよね……、絶対……」

「うん、危ないよ……、怖い……」

 

 それでもみんなの同意は得られない。

 

「だが、アイデアとしては良い、今はまだ時期尚早だが、いずれ必要になるかもしれん、青山にはそう伝えておいてくれ」

 

 東園寺が話をまとめる。

 

「了解」

 

 綾原が小さく返事をする。

 

「いやぁ、びっくりしたぁ……」

「まさか、青山くんがそんなことを考えていただなんて、意外……」

 

 みんながひそひそと話し合う。

 

「今日はこのくらいか……」

 

 と、東園寺が会議は終りとばかりにノートを閉じる。

 

「そうね……、とりあえず、馬車の件はそれぞれの班に持ち帰って相談してみましょう、みんなも予定があるでしょうから……」

「おう」

「うん」

「ごめんね、みんな」

 

 と、徳永の言葉にみんながうなずく。

 その時、コン、コン、と、ドアを叩く音がする。

 

「誰だ?」

 

 みんなが筆記用具などの後片付けの手を止めてドアのほうを見る。

 キー、という音を立ててドアが開く。

 

「あ、東園寺、ちょっといいかな? 大事な話があるんだ……」

 

 と、室内に入ってきたのは、生活班の佐々木智一だった。

 

「佐々木?」

 

 生活班の班長である福井が怪訝そうな顔をする。

 

「あ、いや……」

 

 と、佐々木も福井を見てバツが悪そうな顔をする。

 

「どうした、佐々木? 運営に関することなら、会議の前に班長の福井に言え。それとも、なにか個人的に言いたいことでもあるのか?」

 

 東園寺が佐々木をちらりと見て言う。

 

「いや、個人的なことではなくて……、報告というか、ああ……、耳に入れておきたいというか……、その……」

 

 どうも歯切れが悪い。

 

「だから、なんだ?」

 

 東園寺が佐々木を改めて見る、

 

「いや、人払いしてもらえるかな? あ、東園寺だけじゃなくて、和泉にも聞いてもらいたい」

 

 女性には聞かれたくないのだろう、福井たちの退出を求める。

 

「あ、じゃぁ、私たち戻るね、まだ仕事あるから」

「そうね、絵本作って、おやつ食べなきゃ」

 

 と、徳永たちが席を立とうとする。

 そう、今日も生活、参謀班女子のロッジで絵本作りが行われており、私たちも班長会議が終わり次第合流する運びとなっていた。

 

「出ていかなくていい、この班長会議に男女の別はない。佐々木もここに来たということは、我々にとって重要なことなのだろう、班長全員でその話を聞く」

「そ、そう……?」

「う、うん……」

 

 徳永たちが席に座り直す。

 

「さぁ、佐々木、話せ、なんだ?」

 

 東園寺がギロリと佐々木を見て発言を促す。

 

「い、いや、そ、そんな……」

 

 佐々木がたじろぐ。

 

「なんだ? 重要なことだろう?」

「いや、言っていいのかな……」

 

 と、福井や徳永たちを見る。

 徳永はその視線を感じて、居心地が悪そうにカップに残った水を飲む。

 それを見て、他のみんなも残った水を飲み干そうとカップを手に取り口元に運ぶ。

 私も同じ、カップを手に取る。

 

「なんだ、早くしろ」

「ああ……、その……、山本のことなんだけど……」

 

 佐々木と同じ、生活班の山本新一。

 

「山本?」

 

 私はカップの水を口に含む。

 

「ああ……、ナスク村の村長さんの話だと……、どうやら、山本は、その、性病をもらってしまったらしいんだ……」

「ぷぴっ」

 

 水を吹き出した。

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