傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第138話 希えれば

 衝突した場所か……。

 薄暗い通路を歩きながら昨日のことを考える。

 おそらく、東京から台湾を繋いだ線と北海道から奈良に向かう線が交差する地点のことを言っているのだろうとは思うけど……。

 

「それは、彰吾の勘違い」

 

 仮に彼の言うように、私たちの旅客機とヒンデンブルクの飛行船が空中衝突したとしてもその場所ではない。

 

「たぶん……、もうちょっと西……、ここから北に6、70キロくらいの地点だと思う……」

「ピポロポ?」

「ううん、なんでもない、ただの独り言だよ、シャペル」

 

 と、私の少しうしろを歩く、ロボットのシャペルに返事をする。

 

「ピポロポ!」

 

 シャペルは嬉しそうに頭を回転させたり、首を伸ばしたり縮めたりする。

 

「ふふ……」

 

 と、その姿を見て軽く笑う。

 話を戻して……。

 私は薄暗い通路の正面を見て再度考え込む。

 つまり、人見が指定した場所になにもない可能性が高い。

 

「せっかく行くのに空振りってのもなぁ……」

 

 うーん……、みんながっかりするよねぇ……。

 馬車作りとか色々忙しい中で行くのに……。

 

「ピポロポ?」

「ううん、また独り言……」

 

 シャペルを操縦するのは私……。

 しょうがない、ちゃんとした、本当の衝突したポイントに連れて行ってやるか。

 多少なりとも、彼の仮説、空中衝突説に興味もあるし、もし、本当ならなんらかの手を打っておきたい。

 私がハイジャック犯だって発覚しないようにね。

 あと、みんなが日本に帰れないように。

 

「転ばないように気をつけてね」

「ピポロポ」

 

 私たちはスロープを登り地上に出る。

 外は明るく、太陽の光が弾ける。

 風は気持ちよく、ひんやりとした風が頬を撫でる。

 時間は10時過ぎ、当然朝食は済ませてある。

 

「みんなぁ!」

 

 と、地上で待つ東園寺たちに大きく手を振る。

 

「おう!」

「待ってたぞ、ナビー!」

「こっちも今着いたところだ!」

 

 みんなも手を振って出迎えてくれる。

 

「じゃぁ、獏人、そこに下ろしてくれ」

「うい、和泉さん」

 

 と、佐野が肩に担いでいた大きいなゴンドラを地面に下ろす。

 

「すげぇな……、どんだけ力持ちなんだよ、佐野……」

 

 その光景を近くて見ていた生活班の佐々木智一が感心したように話す。

 

「うい」

 

 と、佐野がダブル・バイセップスポーズ、両腕を上げて力こぶを見せるポーズをする。

 

「おお、すげぇ……」

 

 さらに佐々木が驚嘆する。

 

「うい」

 

 それに気をよくしたのか、今度はモスト・マスキュラーポーズ、いわゆるマッチョポーズをする。

 

「佐々木、遊んでないで、おまえも手伝え」

 

 と、ゴンドラにロープを取り付けている東園寺に怒られる。

 

「じゃぁ、俺は戻るっす」

 

 佐野がそう言葉をかけ踵を返し歩きだす。

 

「獏人、忙しいとこ悪かったな、助かったよ、ありがとう」

「うい」

 

 それに対して和泉がお礼を言い、佐野が軽く返事を返す。

 

「荷物の搬入も始めるぞ」

「おう、やってくれ」

 

 と、出発の準備が進められる。

 

「忘れ物ないかなぁ……」

 

 私は背負っていた白くまのリュックサックを下ろして中身を確かめる。

 

「お弁当とお飲み物は大丈夫……、ハンカチ、ティッシュも大丈夫……、タオルも、大丈夫……」

 

 と、チェックしていく。

 夏目が用意してくれたものだから、忘れ物なんてないんだけどね。

 それと、戦いに行くわけではないので、ドラゴン・プレッシャーは置いていく。

 

「よし、接続完了」

「こっちも搬入おーけーだ」

 

 みんなの準備も終わったのか、そんな声が聞えてきた。

 

「よいしょっと」

 

 それを聞いて、私は白くまのリュックサックを背負う。

 

「よーし、全員乗り込め」

「おう」

「ああ」

 

 と、みんながゴンドラに乗り込んでいく。

 ちなみに、今日、ゴンドラに乗って衝突現場の調査に行くのは、東園寺、和泉、人見、佐々木、私の5人だ。

 で、場違いな佐々木がなぜ含まれているのかというと……、私にもよくわからない、昨日の会議にたまたま同席していて、それで、くんくんが「佐々木も来い、これもなにか縁だ」とか言ったの発端。

 

「よし、ナビーフィユリナ、いいぞ、出してくれ!」

 

 と、東園寺が大きな声で言う。

 

「はぁい!」

 

 私も大きな声で返事をする。

 シャペルの傍らに行き、革の手袋の上から魔法のネックレスをぐるぐる巻きにした手を彼の胸に添える。

 

「ピュアフサージ、ヘヴンリー・ヴァルキリア」

 

 そして、呪文を唱える。

 その瞬間、シャペルの身体の中が光り、鉄板のつなぎ目からその光り漏れ輝く。

 

「ピポロポッ、ピポロポッ!」

 

 と、頭を回転させたり、くるくる回して見せたりする。

 そして、その長い両腕を水平に広げる。

 その広げた腕から、ぱさー、と、白い翼が伸び、ふわりと舞う。

 

「ありがと、シャペル……」

 

 ちゃんと飛べる形態になったのを確認してから、彼の首に飛び付き、そのまま身体を横向きにして逆上がりの要領でるくるっと回転してシャペルの肩の上に乗り、そこに肩車のように座る。

 

「準備はいい? 飛ぶよ!」

「「「おお!」」」

 

 ゆっくりとが浮かび上がり……、

 

「リフトオーフ!」

 

 と、私のかけ声と共に大空に舞い上がる。

 

「すげぇ……」

 

 初めて乗った佐々木がゴンドラのパルピット、手すりに捕まってキョロキョロと周囲を見渡す。

 

「ナビー、あの山に向かってまっすぐだ!」

 

 と、人見が行き先を指定してくれる。

 

「はぁい!」

 

 そう返事はするけど……。

 

「おっとっと、風に流された……」

 

 とか、適当なことを言って別の方角に飛んでいく。

 

「そっちじゃない、ナビー、舵取り頑張ってくれ!」

「はぁい!」

 

 一生懸命方角を戻そうと頑張っているふりをして別の方角に飛んでいく。

 さらに高度を上げ、山々を飛び越える。

 山を越えると、草木もまばらなごつごつとした岩山が点在するだけの荒野が見えてくる。

 

「もう少し緑が広がっていると思っていたが……」

「ああ、山を越えてすぐにこうなっているとはな……」

「ほとんど砂漠じゃないか……」

 

 下のゴンドラからはそんな会話も聞えてくる。

 私は視線を上げて遠くを見る。

 雲ひとつない晴天の下、どこまでも不毛なサンドイエローの荒野が続く。

 

「水平視程は30キロといったところか……」

 

 地平の先が砂煙でかすむ。

 

「彰吾! 砂嵐が見えるから、迂回するね!」

 

 と、下にいる人見に大きな声で言う。

 

「ああ! わかった!」

 

 返事が返ってくる。

 

「じゃぁ、シャペル、あっち」

 

 と、彼の頭を両手で掴んで、その顔を進行方向に向かせる。

 

「ピポロポ」

 

 すぐに反応して、そちらの方角に飛んで行ってくれる。

 

「今度はあっち!」

「ピポロピ」

 

 と、何度も方向を変えながら飛んで行く。

 1時間くらい飛んだだろうか、まばらな草木や岩山が消え、完全な砂漠が視界いっぱいに広がる。

 無数の砂丘が連なる景色、それがどこまでも続く。

 陽射しも一段と強くなり、私の白い肌をじりじりと焼く。

 

「あつー」

 

 手傘を作って真っ青な空とぎらつく太陽を見上げる。

 

「ナビー! かなり西に来すぎている、ここからは真東に向かってくれ!」

 

 と、ゴンドラの人見が地図とコンパスを手に私を見上げて大きな声で言う。

 

「わかったぁ!」

 

 彼の指示通りに真東に方向転換する。

 この指示を見越して目的地よりも、相当西に向かって飛んでいた。

 たぶん、このまま真東に向かえば、本当の衝突現場に到着するはずだ。

 30分くらい飛ぶと、地平の先がキラキラと輝きだす。

 

「なんだ?」

「光っているな」

「蜃気楼じゃないか?」

 

 下からそんな会話も聞えてくる。

 

「ナビー、あそこかもしれない、あそこに向かってくれ!」

 

 と、人見から指示が出る。

 

「はぁい!」

 

 キラキラ輝く場所に向かって飛ぶ。

 しめしめ、人見は気付いていない。

 あの場所は当初の目的地、ラグナロクから北東に60キロの地点ではなく、私が考える空中衝突の地点、ラグナロクから北に70キロの地点だ。

 輝きは少しずつ大きくなる。

 

「緑もあるな……」

「なんだ、湖か……?」

 

 みんなが目を凝らして輝く先を見る。

 背の高い木々がまばらに生い茂り、地面には色とりどりの、色鮮やかな花々が咲き乱れる。

 そして、その木々、草花の中に大きな湖が姿をあらわす。

 湖面がキラキラと太陽の光を反射する。

 水鳥だろうか、優雅に泳ぐその姿を確認することができる。

 

「オアシスってやつか……?」

 

 と、佐々木が言う。

 そう、そこは砂漠の中にあらわれたオアシス。

 

「みんな、あそこに降りるよ!」

 

 私はそう宣言する。

 

「ああ、わかった」

「調べて行こう」

 

 と、東園寺と人見が同意してくれる。

 

「シャペル、ランディング!」

「ピポロポ!」

 

 私たちはあのオアシスに向かって降下していく。

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