傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第139話 ランウェイインサイト

 緑に囲まれた湖……。

 旋回しながら、降りられる場所を探す。

 

「大きいな……」

 

 湖は大きく、直径は優に1キロは超えているだろう。

 その湖の中央には小さな島も見える。

 

「まぶしい……」

 

 水が澄んでいるせいか、湖面の反射も盛大で目が眩みそうになる……。

 

「うーん……」

 

 それでも、手傘を作って降りられる場所を探す。

 

「シャペル、あそこ!」

 

 そこはすぐに見つかる。

 木々や草花に覆われた湖岸で一箇所だけ砂浜になっている場所があった。

 

「ピポロポ!」

 

 シャペルがそこに向かって降下していく。

 着陸直前にその降下速度を緩めると砂浜の砂がふわりと舞う。

 

「おお?」

 

 と、みんながバランスを取る。

 そして、そっと着陸、音もなくゴンドラが地上に降ろされる。

 その横にシャペルも降りる。

 

「ピポロポ」

 

 着陸と同時に翼を格納する。

 

「ありがとう、シャペル! とお!」

 

 と、私は彼の肩を蹴って砂浜に飛び降りる。

 

「おお……、砂浜だ……」

 

 砂浜の砂が歩くたびにキュッキュ、と、音を鳴らす。

 

「おもしろーい!」

 

 白くまのリュックサックを置いて、キュッキュ、キュッキュ、音のする砂浜を駆け回る。

 

「あははは」

 

 と、両腕を思いっきり広げてくるくると回転し、まぶしい太陽を見上げる。

 

「楽しい!」

 

 そして、今度は小さな波が寄せては返す波打ち際まで歩いて行く。

 

「おお……、ラムサール条約やワシントン条約が守られてそうな綺麗な水……」

 

 透きとおる、湖の水を覗き込む。

 

「おお……」

 

 ちっちゃなお魚もいる。

 

「よーし」

 

 と、サンダルを脱いで、革の手袋を外し、それをゴンドラのほうに放り投げ、魔法のネックレスを首につける。

 そして、ワンピースの裾をつまんでつま先で水面をちょんとしてみる。

 すると、綺麗な波紋が湖面に広がっていく。

 

「おお……」

 

 ちょん、ちょん、と、何度も繰り返して、無数の波紋を作っていく。

 

「波紋と波紋が重なる……」

 

 不思議な模様……。

 私はちょん、ちょん、と、しながらその波紋をしばらく眺める。

 

「いい場所だな、水も豊富だ」

「ああ、最初からここに墜落してくれればよかったのにな……」

 

 ゴンドラとシャペルを結ぶロープを外したり、荷物の積み下ろしをしている東園寺たちの会話が聞えてくる。

 

「今からでも遅くないんじゃないの、ここに引っ越す?」

「それは駄目だ、佐々木、俺たちの飛行機とヒンデンブルクの飛行船を誰かに渡すわけにはいかない」

 

 そう、人見の言う通り、ラグナロクの放棄は日本への帰還を諦めるのと同義。

 

「そうか……、いい場所なんだけどな……」

 

 と、佐々木は湖を見ながら言う。

 

「それなら、ここに別荘を作るとかは?」

「ラグナロクから何キロあると思っているんだ……、50キロ以上はあるぞ……」

「使い道としては保険、ラグナロクの陥落を見越してここに砦を築いておくってことくらいしかないか……」

 

 みんなの会話が続く。

 

「よーし」

 

 そんな会話を聞いていても面白くないので、

 

「たぁ!」

 

 と、少し助走をつけて湖の中にジャンプする。

 バシャーン、と、盛大に水しぶきが飛ぶ。

 

「きゃ!」

 

 顔にかかった! 

 でも、そんなことは気にしない! 

 私はワンピースの裾をつまんで水の中をバシャバシャと走り回る。

 

「きゃっきゃ!」

 

 楽しい! 

 

「まーてー!」

 

 さらに、メダカみたいな小さな魚を追いかける。

 

「えい!」

 

 そして、捕まえようと水の中に手をつっこむ。

 

「逃げられたぁ!」

 

 もう一回! 

 

「えい!」

 

 今度は両手で水をすくうように小魚を捕まえようとする。

 水が手の隙間から零れ落ちて、それが太陽の光を反射してキラキラと輝く。

 

「くそぉ!」

 

 でも、そこに小魚はいない……。

 

「もう一回!」

 

 と、また両手で水をすくう。

 

「ははは、ナビーはかわいいなぁ……」

「平和だね……」

 

 と、いつの間に人見と和泉が波打ち際まで来ていて、私のことを微笑ましそうな表情で見守っていた。

 

「くっ……」

 

 子供を見るような目で私を見やがって……。

 

「ゆるせん!」

 

 パシャパシャと彼らに近づいて、

 

「真水をかけろー!」

 

 と、両手で水をすくって二人にかけてやる。

 

「うわ!?」

「つめた!」

 

 人見と和泉が大袈裟なリアクションで逃げ惑う。

 

「真水をかけろー! 真水をかけろー!」

 

 それが面白くて、何度も二人に水をかけてやる。

 

「やめ、やめ!」

「うわ、やられた!」

 

 二人は奥には行かずに、波打ち際を逃げ惑う。

 

「あははは、おもしろーい!」

 

 何度も水をかけてやる。

 

「和泉、やるぞ!」

「おう!」

 

 お? 二人が靴を脱ぎだしぞ? 

 

「にげろー!」

 

 と、私は反撃を予想して、パシャパシャと逃げていく。

 

「待て、ナビー!」

「甘いぜ!」

 

 二人が水の中に入ってきた! 

 

「こうなったら!」

 

 と、私は方向転換して、砂浜に上がって、さらに、ゴンドラのほうに向かって一目散に逃げる。

 そして、作業をしている東園寺のうしろに回って姿を隠す。

 

「ずるいぞ、ナビー!」

「ああ、逃げられた……」

 

 二人が落胆する。

 

「ふふふ……」

 

 と、東園寺の背中から少し顔を出して彼らを見る。

 

「遊んでないで、おまえも手伝え、ナビーフィユリナ……」

 

 東園寺が作業の手を止めて私を見る。

 叱られた……、でも、

 

「えい!」

 

 そのシャツをめくって、湖の水で冷え冷えになった手を直接背中に押し当ててやる。

 

「ひっ!?」

 

 と、びくっとなった。

 

「あったかーい」

 

 私の手はあったかくなった。

 もう片方の手も……。

 

「ひっ!?」

 

 またびくっとなった。

 

「ほら、ほらぁ!」

 

 と、お腹のほうにも手を回してぺたぺたとしてやる。

 

「や、やめろ!」

 

 東園寺が私の手を掴もうとするけど、そうはさせない、器用にその手をかいくぐってぺたぺたしてやる。

 

「ひっ、ひぃい!」

 

 さらに、背中の私を捕まえようと身体を回転させるけど、私もそれに合わせて回転して彼の背中に張りつき続ける。

 

「どうだ、まいったかぁ!?」

「まいった、まいった、降参だ」

 

 勝った!

 

「ふふふ……」

 

 と、勝ち誇った顔で東園寺を解放してやる。

 

「ナビーがいると、ホント場が和むなぁ……」

 

 今度は佐々木が微笑ましそうな表情で言う。

 また子供扱いしやがって!

 

「ゆるせん!」

 

 と、冷え冷えの両手を構えて、佐々木ににじり寄る。

 

「え? なに、今度は俺……?」

 

 不穏な空気を感じて彼が後ずさる。

 

「こら、遊びはそこまでだ、ナビーフィユリナ」

 

 と、東園寺が私の頭をポンポンと軽く叩く。

 

「もうこんな時間か……」

 

 彼が太陽を見上げながら言う。

 私も太陽を見上げる。

 太陽はちょうど真上、強い陽射しがさんさんと降り注ぐ。

 

「調査を始める前に昼食を済ませておくか……」

「おお! お昼! お弁当!」

 

 私は駆け足で白くまのリュックサックを置いた場所に向かう。

 

「えへへ」

 

 それを大事に胸に抱えてみんなのところに戻る。

 

「ナビー、こっちだよー」

 

 と、和泉が木陰にレジャーシートを敷きながら声をかけてくれる。

 

「こんなものも持ってきたんだ!」

 

 それは黄色いシートで、ひよこの絵がいっぱい描かれているものだった。

 

「わぁ」

 

 かわいい! 

 

「飛行機の遺留品、借りてきた」

 

 と、シートが風に飛ばされないよう、四隅に石を置きながら説明してくれる。

 

「へぇ」

 

 私は白くまのリュックサックを置き、四つん這いになってひよこのイラストを覗き込む。

 

「これピップみたい」

「そうだね」

「こっちはスカークみたい」

「うん、うん」

「アルフレッドはどこかなぁ……」

 

 と、四つん這いでアルフレッドに似ているひよこのイラストを探す。

 

「これかな?」

 

 和泉が指をさす。

 

「どれどれ?」

 

 四つん這いでそちらに向かう。

 

「これこれ」

「おお、アルフレッドだぁ……」

 

 まじまじとそのひよこのイラストを覗き込む。

 

「よし、食うぞ」

 

 と、東園寺たちが来た。

 

「はぁい!」

 

 今度は膝立ちでちょこちょこ歩いて白くまのリュックサックの元に向かう。

 

「えへへ、お弁当……」

 

 白くまのリュックサックを開けてピンクの包み布に入ったお弁当箱を取り出す。

 顔を上げて辺りを見渡す。

 すでにみんながシートの真ん中辺りに陣取り弁当箱を開けようとしているところだった。

 私も膝立ちでちょこちょこ歩いてみんなの輪の中に加わる。

 

「シャペルもおいでぇ」

 

 ついでに、ゴンドラの近くに立ったままのシャペルも呼ぶ。

 

「ピポロポ」

 

 ギーギー音を立てて歩いてきて、レジャーシートの少し手前で立ち止まり、そこにしゃがむ。

 

「なぜ、そんな手前に……」

 

 と、思ったけど、そこは大きな木陰になっていて、太陽の光を完全にシャットアウトしている場所だった。

 

「なるほどね……、じゃぁ、食べよう!」

 

 私は弁当箱を開ける。

 

「おお……、三色そぼろ弁当だ……」

 

 これは夏目が早起きして作ってくれたもの。

 

「いただきます!」

 

 と、三色そぼろ弁当に箸をつける。

 

「「「いただきます」」」

 

 みんなもそれに続く。

 

「おいしい」

 

 綺麗な景色を見ながらみんなでお弁当をいただく。

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