誰かが設置したであろうロープを伝って島の中に降りていく。
「深いな……」
私は東園寺の頭をしっかり両手で掴んで周囲を見渡す。
ちなみに私はまだ東園寺に肩車をしてもらっている。
そう、彼は私の東園寺ロボなのだから、それも当然のこと。
改めて周囲を見渡す。
そこは幅1メートル程度の縦穴……、いや、わずかに傾斜があるだろうか、少し斜めになっている。
壁はみろり色、びっしりと苔類に覆われており、それが剥がれやすく、足を滑らせやすい。
また、上からの光が差し込み、狭い縦穴の中でもそれほど暗いという印象はなかった。
少しずつ傾斜がゆるくなり、やがて完全に水平になる。
「狭いな……、どこまで続くんだ……」
「明かりが見える、行ってみよう」
「なんかやだなー、こわいなー」
と、後ろの和泉たちの会話も聞える。
「ナビーフィユリナ、降りろ、ここからは這っていく」
水平になっても幅は変わらない、高さ1メートル程度の横穴になっただけ、立ち上がることもできない。
「やだ」
と、私は肩車をやめ、今度はお馬さんのように東園寺の背中に座りその頭を両手でがっしりと掴む。
「いけ、いけぇ」
そして、進行方向を指し示し拍車をかける。
「頭に気をつけろよ……」
「ぎりぎり大丈夫」
と、頭すれすれの天井を見ながら答える。
「あーん……」
さらに、みろり色の苔を指で削ってみる。
「……」
赤茶けたレンガが姿をあらわす。
予想外……。
てっきり、ヒンデンブルクの飛行船と類似の物、または、別の世界の飛翔体がここに落ちていると思ったのに……。
これじゃ、何の変哲もない、ただの古代遺跡だよ……。
ここは私たちの旅客機とヒンデンブルクの飛行船が衝突した場所だと思ったけど、違うかもしれない。
人見の空中衝突説が間違っている可能性が出てきたな……。
ヒンデンブルクの飛行船は100年前に墜落しているし、時間を飛び越えたってのもの眉唾……。
「うーん……」
考え込んでしまう。
「見ろ、出口だ」
東園寺の声だ。
その声に顔を上げ、前方を見る。
「おお……」
光が見える。
そして、その光は弾ける。
私は目を細め、その明るさに目が慣れるのを待つ。
鼻をくすぐる草花の香り……。
そこはみろり豊かな森林になっていた。
木々は南国を思わせる葉の大きな広葉樹で、艶やかな果実を実らせている。
また、草花もシダ植物が中心で、初めて見るものばかりだった。
「な、なんか、温室みたいだな……」
そう、私の感想も佐々木と同じ。
気温も高く、天井自体が半透明になっているせいか、その強い日差しを直接肌に感じることができる。
「何らかの遺跡だとは思うが……、中は荒れ放題だな……、ナビーフィユリナ、いい加減降りろ……」
と、四つん這いのままで私を背中に乗せている東園寺が不機嫌そうに言う。
「しょうがないなぁ……」
私は渋々彼の背中から降りる。
「よいしょっと……」
そして、地面に立つ。
足元はしっかりとしていて、ぬかるみはない。
さらに、南国風の草木の割には湿度も低く、苔やカビなども皆無、昆虫類の姿も見えない。
私はサンダルの裏に付いた乾いた土を見て土質をチェックする。
「乾いているけど……、黒土ね……」
外のサンドイエローの砂とは違い、黒色の腐葉土になっている。
それは、大昔からここに草木が自生していたことの証明。
私はかかとで黒土を掘ってみる。
「結構厚い……」
この厚さになるまでに数百年は要したと思う。
つまり、この遺跡が造られてから少なくとも数百年は経つということ。
「ますますわからなくなってきたぞぉ……」
背の高い木の幹に手を添えて上を見上げる。
いくつかの木が天井を突き破っており、そこから真っ青な空が顔を覗かせる。
「それじゃ、探索に行くか」
「その前に、先客と出くわした場合どうする?」
先を行こうとする人見に和泉が質問する。
「専守防衛なんて柄ではない、遭遇したら敵とみなし即攻撃する。それでいいな、東園寺?」
「ああ、それで問題ない、躊躇するな、躊躇した時間の分だけ命の危険に晒されると思え」
「おーけー」
サーチ&デストロイね。
私たちは森の中に分け入っていく。
雨水だろうか、それとも湖の水が流れ込んでいるのだろうか、小さな水溜りや、細い小川が点在する。
「ナビー、足元に気をつけて」
「はぁい」
それを崩れ落ちた剥き出しになった赤茶けたレンガ積みを足場にして飛び越えていく。
また、遺跡の中は階層になっており、伸びた蔦を頼りに下へと降りる。
おそらく、元は仕切りなどで区切られていたのだろうけど、長年の風雨、植物などの浸食、または、経年劣化により崩れ落ちて開けたドーム状になってしまったのだろう。
耳を澄ませば、かすかな水の流れる音とともに、動物の鳴き声も聞えてくる。
それと、遠くから鳥の鳴き声も聞えてくるけど、こちらはドーム内なのか、それとも外なのかの判別はつかない。
「チッチッチー……」
と、無意識に鳥の鳴き声の真似をしてしまう。
「あうあー、あうあー……」
さらに、近くから聞える小動物の真似もしてみる。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
姿の見えない小動物たちからの返事があった。
「あうあー……?」
私は立ち止まって聞き返す。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
意外と凄い近くにいるかも、その辺の草むらの中とか。
案の定、カサカサ、カサカサ、と、近くの草むらからそんな音が聞えてくる。
「あうあー、あうあー」
「な、何の鳴き声なんだ……?」
佐々木が警戒しながら草むらを見る。
かわいい鳴き声に聞えるけど、たぶんね、トカゲとか凶暴なやつだと思うよ。
「よし、智一、かわいい小動物だと思うから、見てきて」
と、佐々木を安心させるように言い、指示を出す。
「え? お、俺?」
「はやく、はやく、逃げちゃう!」
彼を急かす。
「お、おう……」
と、おそる、おそる草むらに向かう。
「あうあー、あうあー」
カサカサ、カサカサ……。
「あうあー、あうかー」
ガサゴソ、ガサゴソ……。
「危ないやつじゃないよな……」
と、佐々木が草をかきわける。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
すると、草むらから何か出てきた。
しかも複数。
「う、うわ!?」
佐々木は驚き、うしろに尻餅をつく。
「ひっ!?」
と、襲いかかられると思ったのか、彼は両腕で顔を庇おうとする。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
でも、その動物は佐々木に襲いかかることはなかった。
動きが非常に遅いのだ。
「な、なに、これ……」
私はその動物をまじまじと見る。
白と薄茶色の毛並み……、短い手足とまん丸な身体……、そして、まん丸な黒いつぶらな瞳……。
体長は30センチくらい……。
それがゆっくりよちよち歩く……。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
耳の短いうさぎ……、いや、モルモットに近いだろうか……。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
数も多く10匹以上いる。
それうちの数匹が私の足元までくる。
「あうあー、あうあー」
なんだろ、これ……。
と、私はしゃがんでその小動物を見る。
「あうあー、あうあー」
かわいい……。
手を伸ばして、その頭を撫でて見る……。
「あうあー……」
すると、その小動物は目を細めて気持ち良さそうにする。
「おお……」
ふかふかすべすべで凄い手触りの良い毛並み……。
「気持ちいい……」
と、その小動物を撫でまわす。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
他の子たちも寄ってくる。
「撫でてほしいのかなぁ?」
と、他の子たちも撫でてあげる。
「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」
みんなも同じように目を細めて気持ち良さそうにする。
かわいい、なんだこれぇ……。
「あうあー、あうあー」
私もあうあー言いながら小動物たちを撫でまわして、さらに、そのうちの1匹を抱きかかえて頬ずりをしてあげる。
「あうあー……、気持ちいい……、なんて気持ちいい毛並みなの……」
それに、よく見るとキラキラしてシルクみたいだし、なんだか、香りもいい……。
うっとりする……。
「そ、そんなにいいの?」
「どれどれ?」
和泉たちが小動物に手を伸ばす、けど、
「シャァアアアアア!」
「キィイイイイイイ!」
「アギャァアアアア!」
と、もの凄い形相で牙を剥いて威嚇する。
「ひぃいい!?」
「ええっ!?」
彼らは驚いて、急いで手を引っこめる。
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
と、小動物たちが和泉たちから距離を取るように私の足元に集まり身を寄せ合う。
「よし、よし……、怖かったんだね、大丈夫だよ、怖くないよー、あうあー」
集まってきた子たちを撫でてやる。
「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」
うん、気持ち良さそうにしてる。
「な、なんで……」
「ナビーにばっかり……」
「人間に限らず、動物でもなんでも、みんなナビーが大好きなんだよ……」
と、みんなが私と小動物を見ながら話す。
「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」
これ欲しい。
ラグナロクに持って帰ろうかなぁ。