傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第145話 絶えねば絶えね

「あうあー、あうあー」

「あうあー、あうあー」

「あうあー、あうあー」

 

 十数匹の耳の短いうさぎのような小動物たちが私の足元に集まってくる。

 

「あうあー……」

「あうあー……」

「あうあー……」

 

 そして、私の足に頭とか額をこすりつけてくる。

 

「よし、よし……」

 

 しゃがんで、その頭を撫でてやる。

 奴等、あの密猟者たちを追いかけたいけど、この子たちもついてきそうだなぁ……。

 

「ナビーフィユリナ、おまえはここで待っていろ」

 

 と、そのことを察した東園寺がそう提案する。

 

「おい、おい、本当に追うのかよ? 危ないからもう帰ろうぜ、調査も十分なはずだ。あいつらやる気だよ」

 

 一方、佐々木智一は撤退を要求する。

 

「うーん」

 

 いいこと思いついた。

 私は立ち上がり、手にした逆手に持ち替えて、

 

「たぁ!」

 

 と、槍投げのように投げる。

 

「ひっ!?」

 

 それは、ヒュッ、と風を切り佐々木の足元に突き刺さる。

 

「ここに残るは、智一、あなたよ、その剣でこの子たちを守ってあげて、重要な任務だからね」

「お、おう?」

 

 と、彼は剣を引き抜き、みんなと剣を交互に見る。

 

「よし、じゃぁ、奴等を追おう」

 

 私は歩き出しみんなの先頭に立つ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ、ナビー!」

 

 佐々木が私のあとを追ってこようとする。

 

「あ、智一、踏まないでね?」

 

 振り返り、小動物たちを指差す。

 

「あ、お、おう」

 

 と、足元を見る。

 

「あうあー……」

「あうあー……」

「あうあー……」

 

 小動物たちがよちよちと私のところに寄ってこようとする。

 

「駄目、来させないで!」

 

 と、手で制止する。

 

「そ、そうだ、いっちゃ駄目だ」

 

 佐々木も手を伸ばして小動物たちを止めようとするけど、

 

「シャァアアアアア!」

「キィイイイイイイ!」

「アギャァアアアア!」

 

 と、もの凄い形相で牙を剥いて噛み付こうとする。

 

「ひ、ひぃい!?」

 

 佐々木は驚き、尻餅を付く。

 

「フーーーーー!」

「フーーーーー!」

「フーーーーー!」

 

 毛を逆立たせて威嚇する。

 

「な、なんで……、ナビーにはあんなに懐いでいたのに……」

 

 佐々木が戸惑っている。

 

「ふふ……、まぁ、この機会に仲良くなっておいてね! じゃぁ、いくよ、みんな!」

 

 と、この隙に走り出す。

 

「おう!」

「いくか!」

「待て、ナビーフィユリナ、俺の前に出るな!」

 

 和泉たちも私のあとを追ってくる。

 

「アポトレス、水晶の波紋、火晶の砂紋、風を纏え、静寂の風盾(バビロンレイ)

 

 人見が強化魔法を使用し、その走力を上げる。

 

「とお!」

 

 私は負けじと速度を上げ倒れた木や柱を軽快に飛び越えていく。

 散乱するレンガは踏まないように避けて走り抜ける。

 雨水だろうか、崩れた建物の屋根から水が滝のように流れ落ち、その水が小さな川を形成している。

 おそらく、こういった水が草木を育んでいるのだろう。

 もちろん、あの子たちも。

 

「あうあー……?」

 

 大きなシダ植物の茂みの奥からそんな声が聞えてきた。

 

「おや?」

 

 と、私は立ち止まる。

 そして、しゃがんで茂みの奥を覗き込む。

 

「あうあー……?」

 

 黒いつぶらな瞳と目があった……。

 

「あうあー」

 

 しょうがないので挨拶をしてあげる。

 

「あうあー……?」

 

 すると、茂みの中からよちよち這い出してくる。

 白と茶の毛色の耳の短いうさぎのような小動物。

 

「あうあ、あうあ」

 

 と、軽く、手の甲で触れるか触れないかのようなタッチで頬の辺りを撫でてやる。

 

「あうあー……」

 

 目を細めて気持ち良さそうにする。

 

「あうあー、あうあー」

「あうあー、あうあー」

「あうあー、あうあー」

 

 奥のほうにも何匹か見える。

 

「もしかして、この小動物って、かなりの数が生息しているのかな?」

「あうあー……」

「よし、集まってこないうちに先を急ごう!」

 

 と、私は立ち上がり、密猟者たちが逃げていった方向に再度走り出す。

 遺跡は朽ち果て、建物は崩れ落ち、柱は倒れ……、その残骸を覆い隠すように草木が生い茂る……。

 

「たぁ!」

 

 でも、その残骸が多重構造、すり鉢状になっている遺跡の下に降りる足場になってくれていた。

 

「とぉ!」

 

 下に下にと降りていく。

 また、上を見渡すと、細い滝が何本も流れ落ちる光景を見ることができた。

 

「風光明媚なところだね……」

 

 それが感想。

 内部は外から見るよりも広く、かなり雄大な景色に見える。

 そうね……、広さは大体……、直径100メートル以上はあるかな……、それがすり鉢状になっているので、さらに広く感じる……。

 

「あの子たちが生きるのに、十分な広さかもしれないね……」

 

 下に降りながらそんな感想を抱く。

 だからこそ、そっとしておいてあげたい……。

 あの密猟者たちは必ず始末する……。

 でも、どうやって始末しよう。

 和泉たち止めるよなぁ……。

 

「うーん……」

 

 と、思案する。

 すると、前方に高い壁があらわれる。

 高いといっても3、4メートルくらい。

 

「珍しい、崩れ落ちてない……」

 

 横幅は……、左右ともに数十メートル以上はある……。

 迂回するにしても時間がかかるな。

 

「壁か?」

「行き止まりだな」

「どうする? どっちからいく?」

 

 と、すでにうしろでは迂回する算段をしている。

 

「ははーん」

 

 これはチャンス。

 東園寺たちを引き離せるかも。

 壁まではわずかに坂になっている。

 

「ナビー、止まれ、少し休憩しよう」

 

 と、話す人見の言葉を無視して全速力で坂を駆け下りていく。

 そして、壁が迫る……。

 やばい、思ったより高かった、5メートルくらいあるかも……、でも、もう止まれない。

 

「とおぉおおりゃぁあああ!」

 

 と、気合を入れて地面を蹴る。

 

「一歩目!」

 

 レンガ積みの壁は至る所にひびが入っており、それが足場になってくれる。

 

「二歩目!」

 

 勢いよく、空高く舞い上がる。

 三歩目は……、届かない……。

 壁から身体が離れていく。

 

「こんのぉおおお!」

 

 精一杯身体を伸ばし、手を伸ばし、そして、レンガとレンガの隙間に指をかける。

 その反動で身体は再度壁に揺り戻される。

 

「たぁあああ!」

 

 そして、三歩目を蹴り、身体を思いっきり伸ばし両手で壁のへりを掴む。

 そのままの勢いで上体を引き上げ、いわゆる蹴上がりの要領で、壁の上によじ登る。

 

「ふぅ……」

 

 と、壁の上に立ち、額の汗を手の甲で拭う。

 

「ふふふ……」

 

 そして、得意げな顔で振り返り、みんながいる地上を見下ろす。

 

「おお……、高い……」

 

 やっぱり5メートルくらいあるかも……。

 我ながら随分飛んだと感心してしまう。

 

「ナビーフィユリナ?」

「いったい、何が起こった……?」

「どうやって、そこに……、ナビー……?」

 

 みんなが唖然とした表情で壁の上に立つ私を見上げる。

 

「へへん」

 

 と、腰に手を当て鼻高々ポーズをとる。

 どうだ、和泉? これはおまえでも無理だろう? 

 エルードからの蹴上がりは見よう見まねでは無理、相当練習しないとできないよ。

 

「ふふん」

 

 なんか、今日はやけに和泉に対抗意識を燃やしているな……。

 

「ロープか何かないと登れないな……」

 

 と、下では壁を登ろうと右往左往している。

 

「ナビー、大丈夫かぁ、降りられるかぁ!?」

 

 人見が大声で聞いてくる。

 

「こっち側だと低いから飛び降りられるよぉ!」

 

 と、適当に答えてやる。

 みんなのいるほうでも、足に静寂の風盾(バビロンレイ)とかの強化魔法を施せば平気だと思うけどね。

 

「わかった! そこで待機していろ、ナビーフィユリナ、迂回してくる!」

 

 と、みんなが迂回しようと壁に沿って走っていく。

 

「はやくねぇ!」

 

 私はみんなのうしろ姿に手を振る。

 

「さてと……」

 

 と、周囲を見渡す。

 

「おい、追ってきてるのか、声がしたぞ!?」

「逃げろ、逃げろ、化け物どもがくるぞ!」

「頑張れ、走れ、もう少しだ!」

 

 東園寺たちと壁を挟んで反対側から声がする。

 

「うーん?」

 

 人影が六つ。

 怪我をしているのか、そのうちの二人が肩を貸してもらっている。

 

「はぁ、はぁ、息が切れる」

「いてぇ、いてぇ!」

 

 狩用のブラウンの革の服を着た一団が走ってくる……。

 

「おやぁ?」

 

 あの密猟者たちだ。

 やがてその密猟者たちが私の立つ壁の近くまでやってくる。

 

「よぉ、おまえら、しばらくぶりだなぁ、元気だったかい?」

 

 と、真下に来たあたりで声をかけてやる。

 

「な、なにっ!?」

「ひっ、なんで、そんなところに!?」

「ば、ばけもの!」

 

 壁の上に立つ私を見て大袈裟に驚く。

 

「アポトレス、水晶の波紋、火晶の砂紋、風を纏え、静寂の風盾(バビロンレイ)

 

 小さく呪文を唱え、壁から飛び降りて奴等の前に立つ。

 

「どうした、おまえら、そんなに急いで、ちょっと遊んでいけよ」

 

 奴等を見て軽く笑う。

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