「後悔するぞ……」
密猟者の頭目、浅黒い肌の男、シャイドが薄ら笑いを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。
「するか、馬鹿……」
私も速度を合わせて、ゆっくりとやつのほうに向かい歩く。
風が吹く……。
そして、砂煙が舞う……。
私は砂煙から腕の中のテロベアうさぎを守るために、少し身をよじり、肩と腕でガードして砂を防ぐ。
「あうあー……」
「あうあ、あうあ」
うさぎのお礼に返事をする。
「そんなことをしている場合かぁ!?」
と、シャイドが地を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。
「わかりやすいやつだ、隙を見せると、すぐ襲いかかってくる……」
そう、静かにつぶやく。
「どらぁあああああ!」
シャイドが肉薄する。
剣は振り上げてはいない、胸元に内側にひねるように構え向かってくる。
突きだろうね……。
私はそれに合わせるように、足を一歩踏み出す。
「はぁ!」
そして、やつは真っ直ぐに私の目を見ながら、剣を突き出そうとする。
「ばればれなんだよ……」
笑ってしまう。
私は一歩前に出した足を手前に戻す。
すると、その直後に私の足があった場所にやつの剣が突き刺さる。
やつが下段、私の足目掛けて剣を突き入れたのだ。
「なにぃ!?」
一生懸命、私の顔を見て、悟らせないようにしてたんだろうけど、肩の動き、踏み足の動き、その他筋肉の動き、そのすべてが、下に打ちますよぉ、足を狙いますよぉ、って、雄弁に語っているんだよ。
「たぁ!」
と、私は引いた足を再度前に出し、足の外側で、地面に突き刺さった剣の腹を思いっきり蹴り飛ばしてやる。
「くぅ!?」
シャイドの手から剣は弾かれ、大きく飛んでいく。
「ちぃぃ!」
間髪入れずに、やつが弾かれた剣を取りに行こうと、そちらに向かってダッシュする。
「躊躇のない、いい判断だ」
私もやつの後ろを全速力で追う。
カラン、コロン……、カラ、カラ、カラ……、と、剣は石畳の上に落ち、くるくると回転する。
「くっそぉ!」
シャイドが大きく、飛び込むように手を伸ばし、石畳の上に落ちている剣の柄を握ろうとする。
そのすぐうしろには私がいる。
「くあぁああ!」
そして、その剣の柄を掴み、片膝立ちのまま、剣を横に払いながら振り返えろうとする。
シャイド、おまえ、わかっているんだろうな……? ここは読み合いだぞ、純然たる心理戦、心の強さが試される……。
「はぁあああ!」
やつの剣が後方、私が居た場所の空を切る。
当然、私はそんなところにはいない。
長い金髪がふわりと舞う。
「なっ……」
シャイドが空を見上げる。
上空の私と目が合う……。
そう、私はやつの頭上を飛び越えている。
頭上を通過し、やつの視界から消える。
「くっ……」
すぐさまやつは剣を構え直し、私への斬撃を繰り出そうと、さっきと同じ、横に剣を払うように半回転しようとする。
でも、もう遅い。
私はダイブの姿勢から手にした剣を石畳に突き立てる。
魔法の剣は切れ味鋭く、石畳の隙間に深く突き刺さり、しっかりとした手ごたえを感じさてくれる。
私は柄を強く握り、力を込めて身体を引き寄せ加速する。
そして、その勢いのまま、剣を軸に回転、シャイドを正面に捕らる。
「たぁあああ!」
と、やつの顔面目掛けて思いっきり回し蹴りを繰り出す。
「うおおおお!」
シャイドも振り返りながら剣を横に払う。
だけど、それがちょうどカウンターのようになる。
「たぁあああ!」
ぐしゃり、そんな音をたてながら、私の回し蹴りはシャイドの側頭部にヒット。
「ひあっかぁ!」
そんな悲鳴を上げながらやつは吹っ飛ぶ。
「うっかかあ!」
そして、ズサァア、と、石畳の上を転がる。
「い、い、いった……」
それでも、シャイドは起き上がろうとし、耳を押さえ、そして、押さえた手の平を見る。
その手の平は真紅に染まっていた。
そう、ポタポタ、ポタポタ、と、耳から血が流れ落ちていた。
「いて、いて、いて……」
と、痛がりながら何度も耳に手を当てる……。
「くそ、くそ、くそ……」
何度も耳に手を当て、血に塗れた手を袖などで拭う。
「なんだ、こいつ……」
異変に気付く。
私は油断なく立ち上がり、石畳に突き刺さった剣の柄に手をかける。
「身体が光っているな……」
そう、やつの身体が薄っすらと光っていた。
「魔法……」
そのように見える……。
「いて、いて、いてぇ……、頭が折れた、折れた……、くぁ、くぁ……」
やつの身体の光が強くなっていく……。
それが蒸気、いや、オーラのように立ち昇っていく。
「て、てめぇ……」
耳を押さえながら、鬼の形相で私を睨みつける。
「何をする気だ……」
少し警戒する。
「いてぇ、いてぇぞ……」
オーラは強くなり、かなりの光量になっていた。
「なんだ、何かやる気か……」
私は石畳に突き刺さった剣の柄に力を込める。
そして、剣を手前に引き倒す。
そのまま剣先を上に跳ね上げるように勢い良く石畳を弾く。
弾かれた瞬間、石畳は細かな石に砕かれ、それがシャイド目掛けて高速で飛んでいく。
「うああああああ!」
ヒュン、ヒュン、という音をたて、無数の小石がやつを襲う。
「目がぁ!?」
当然、小石は顔面も襲い、目などを傷つける。
「ぐあぁ! ぐあぁ!」
両手で顔面を覆いながら石畳の上を転げ回る。
「いてぇ、いてぇ!」
転げまわる間もオーラは増え続ける。
それが湯気のように上空に舞い上がり……。
舞い上がり……。
それを追い、上空を見上げる……。
「なんだ、あれは……?」
天井から何かがぶら下がっている……。
赤い宝石のような……。
それに、シャイドから立ち昇ったオーラが吸い込まれていく。
「どういうこと……」
困惑する。
宝石の大きさはどのくらいだろう、たぶん、3メートル以上はある。
赤い宝石は綺麗にカットされ、ひし形の、シルバーのフレームの納められている……。
「あっ」
私は胸元のネックレスを取り出す。
そう、ヒンデンブルクの魔法のネックレスだ。
それを空にかざす。
「ひし形の石座に赤い宝石……、まったく一緒だ……」
大きさ以外、デザインも宝石のカットもまったく同じ。
「やっぱり、ここって、ヒンデンブルクの遺跡だったの……?」
人見の言うとおり、ここで、私たちの旅客機と彼らの飛行船が衝突したのか……。
「そんな馬鹿なこと……」
即座に否定する。
「いや、でも、私が最初に発見してよかった……」
和泉たちに見つかる前にあれを破壊するか隠すかしよう。
何かまずいもののように思える。
「うっか、うっか、ちくしょう!」
今だにシャイドが石畳の上を転げまわって痛がっている。
「ちっ、うるさいな……」
私はやつに興味を失い、止めを刺そうと無造作に近づいていく。
「いてぇ、よくも、こんなひでぇことを!」
接近する私に気付き、シャイドは懐から片刃のダガーを取り出し、おもむろに突き出してくる。
私はそれを剣で横に払う。
ダガーはくるくると回転しながら飛んでいく。
「くっ!」
シャイドが石畳に手をつく。
「うがぁ!」
やつがまたどこかから武器を取り出さないように、その手に剣を突き立てる。
「いった、いった、か、かっ!」
シャイドが痛がる……。
「うん?」
「くあ、くっあ、くっあ!」
やつが痛がるたびに身体から発するオーラの光が強くなるな。
「くあ、くっあ、くっあ!」
そのオーラが立ち昇り、天井からぶら下がっている赤い宝石に吸い込まれていく。
「うーん?」
シャイドの手に突き立ててある剣をぐりぐりしてやる。
「ひあぁ! ひぁあああ!」
悲鳴を上げる。
すると、さらに、強い光に包まれ、その光が上空に昇っていく。
「ああ……」
理解した。
これ、あれだ、人見がやったあれ、手の平にナイフを突き立てて、あのロボットに魔力を注入したあれ。
「なるほどねぇ……」
さらに、シャイドの手をぐりぐりしてやる。
「いっぎゃあああああああ!」
悲鳴とともに、やつの身体は輝き、その光が上空の宝石に吸い込まれていく。
「なんか、面白い……」
ちょっと笑ってしまう。
苦痛を与えると身体が光るのはわかったけど、いったい、どういう仕組みなんだろう、こいつらって魔法使えないよな? こいつらの仲間が虫に食われたりしても、別に光らなかったし……。
「うーん……」
まぁ、あの赤い宝石の力だよね、当然……。
苦痛を魔力に変換して吸い取っている……、そう考えると合点がいく。
「よし、破壊しよう」
あれは危険だ。