傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第151話 かほりすぎて

「後悔するぞ……」

 

 密猟者の頭目、浅黒い肌の男、シャイドが薄ら笑いを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。

 

「するか、馬鹿……」

 

 私も速度を合わせて、ゆっくりとやつのほうに向かい歩く。

 風が吹く……。

 そして、砂煙が舞う……。

 私は砂煙から腕の中のテロベアうさぎを守るために、少し身をよじり、肩と腕でガードして砂を防ぐ。

 

「あうあー……」

「あうあ、あうあ」

 

 うさぎのお礼に返事をする。

 

「そんなことをしている場合かぁ!?」

 

 と、シャイドが地を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。

 

「わかりやすいやつだ、隙を見せると、すぐ襲いかかってくる……」

 

 そう、静かにつぶやく。

 

「どらぁあああああ!」

 

 シャイドが肉薄する。

 剣は振り上げてはいない、胸元に内側にひねるように構え向かってくる。

 突きだろうね……。

 私はそれに合わせるように、足を一歩踏み出す。

 

「はぁ!」

 

 そして、やつは真っ直ぐに私の目を見ながら、剣を突き出そうとする。

 

「ばればれなんだよ……」

 

 笑ってしまう。

 私は一歩前に出した足を手前に戻す。

 すると、その直後に私の足があった場所にやつの剣が突き刺さる。

 やつが下段、私の足目掛けて剣を突き入れたのだ。

 

「なにぃ!?」

 

 一生懸命、私の顔を見て、悟らせないようにしてたんだろうけど、肩の動き、踏み足の動き、その他筋肉の動き、そのすべてが、下に打ちますよぉ、足を狙いますよぉ、って、雄弁に語っているんだよ。

「たぁ!」

 と、私は引いた足を再度前に出し、足の外側で、地面に突き刺さった剣の腹を思いっきり蹴り飛ばしてやる。

 

「くぅ!?」

 

 シャイドの手から剣は弾かれ、大きく飛んでいく。

 

「ちぃぃ!」

 

 間髪入れずに、やつが弾かれた剣を取りに行こうと、そちらに向かってダッシュする。

 

「躊躇のない、いい判断だ」

 

 私もやつの後ろを全速力で追う。

 カラン、コロン……、カラ、カラ、カラ……、と、剣は石畳の上に落ち、くるくると回転する。

 

「くっそぉ!」

 

 シャイドが大きく、飛び込むように手を伸ばし、石畳の上に落ちている剣の柄を握ろうとする。

 そのすぐうしろには私がいる。

 

「くあぁああ!」

 

 そして、その剣の柄を掴み、片膝立ちのまま、剣を横に払いながら振り返えろうとする。

 シャイド、おまえ、わかっているんだろうな……? ここは読み合いだぞ、純然たる心理戦、心の強さが試される……。

 

「はぁあああ!」

 

 やつの剣が後方、私が居た場所の空を切る。

 当然、私はそんなところにはいない。

 長い金髪がふわりと舞う。

 

「なっ……」

 

 シャイドが空を見上げる。

 上空の私と目が合う……。

 そう、私はやつの頭上を飛び越えている。

 頭上を通過し、やつの視界から消える。

 

「くっ……」

 

 すぐさまやつは剣を構え直し、私への斬撃を繰り出そうと、さっきと同じ、横に剣を払うように半回転しようとする。

 でも、もう遅い。

 私はダイブの姿勢から手にした剣を石畳に突き立てる。

 魔法の剣は切れ味鋭く、石畳の隙間に深く突き刺さり、しっかりとした手ごたえを感じさてくれる。

 私は柄を強く握り、力を込めて身体を引き寄せ加速する。

 そして、その勢いのまま、剣を軸に回転、シャイドを正面に捕らる。

 

「たぁあああ!」

 

 と、やつの顔面目掛けて思いっきり回し蹴りを繰り出す。

 

「うおおおお!」

 

 シャイドも振り返りながら剣を横に払う。

 だけど、それがちょうどカウンターのようになる。

 

「たぁあああ!」

 

 ぐしゃり、そんな音をたてながら、私の回し蹴りはシャイドの側頭部にヒット。

 

「ひあっかぁ!」

 

 そんな悲鳴を上げながらやつは吹っ飛ぶ。

 

「うっかかあ!」

 

 そして、ズサァア、と、石畳の上を転がる。

 

「い、い、いった……」

 

 それでも、シャイドは起き上がろうとし、耳を押さえ、そして、押さえた手の平を見る。

 その手の平は真紅に染まっていた。

 そう、ポタポタ、ポタポタ、と、耳から血が流れ落ちていた。

 

「いて、いて、いて……」

 

 と、痛がりながら何度も耳に手を当てる……。

 

「くそ、くそ、くそ……」

 

 何度も耳に手を当て、血に塗れた手を袖などで拭う。

 

「なんだ、こいつ……」

 

 異変に気付く。

 私は油断なく立ち上がり、石畳に突き刺さった剣の柄に手をかける。

 

「身体が光っているな……」

 

 そう、やつの身体が薄っすらと光っていた。

 

「魔法……」

 

 そのように見える……。

 

「いて、いて、いてぇ……、頭が折れた、折れた……、くぁ、くぁ……」

 

 やつの身体の光が強くなっていく……。

 それが蒸気、いや、オーラのように立ち昇っていく。

 

「て、てめぇ……」

 

 耳を押さえながら、鬼の形相で私を睨みつける。

 

「何をする気だ……」

 

 少し警戒する。

 

「いてぇ、いてぇぞ……」

 

 オーラは強くなり、かなりの光量になっていた。

 

「なんだ、何かやる気か……」

 

 私は石畳に突き刺さった剣の柄に力を込める。

 そして、剣を手前に引き倒す。

 そのまま剣先を上に跳ね上げるように勢い良く石畳を弾く。

 弾かれた瞬間、石畳は細かな石に砕かれ、それがシャイド目掛けて高速で飛んでいく。

 

「うああああああ!」

 

 ヒュン、ヒュン、という音をたて、無数の小石がやつを襲う。

 

「目がぁ!?」

 

 当然、小石は顔面も襲い、目などを傷つける。

 

「ぐあぁ! ぐあぁ!」

 

 両手で顔面を覆いながら石畳の上を転げ回る。

 

「いてぇ、いてぇ!」

 

 転げまわる間もオーラは増え続ける。

 それが湯気のように上空に舞い上がり……。

 舞い上がり……。

 それを追い、上空を見上げる……。

 

「なんだ、あれは……?」

 

 天井から何かがぶら下がっている……。

 赤い宝石のような……。

 それに、シャイドから立ち昇ったオーラが吸い込まれていく。

 

「どういうこと……」

 

 困惑する。

 宝石の大きさはどのくらいだろう、たぶん、3メートル以上はある。

 赤い宝石は綺麗にカットされ、ひし形の、シルバーのフレームの納められている……。

 

「あっ」

 

 私は胸元のネックレスを取り出す。

 そう、ヒンデンブルクの魔法のネックレスだ。

 それを空にかざす。

 

「ひし形の石座に赤い宝石……、まったく一緒だ……」

 

 大きさ以外、デザインも宝石のカットもまったく同じ。

 

「やっぱり、ここって、ヒンデンブルクの遺跡だったの……?」

 

 人見の言うとおり、ここで、私たちの旅客機と彼らの飛行船が衝突したのか……。

 

「そんな馬鹿なこと……」

 

 即座に否定する。

 

「いや、でも、私が最初に発見してよかった……」

 

 和泉たちに見つかる前にあれを破壊するか隠すかしよう。

 何かまずいもののように思える。

 

「うっか、うっか、ちくしょう!」

 

 今だにシャイドが石畳の上を転げまわって痛がっている。

 

「ちっ、うるさいな……」

 

 私はやつに興味を失い、止めを刺そうと無造作に近づいていく。

 

「いてぇ、よくも、こんなひでぇことを!」

 

 接近する私に気付き、シャイドは懐から片刃のダガーを取り出し、おもむろに突き出してくる。

 私はそれを剣で横に払う。

 ダガーはくるくると回転しながら飛んでいく。

 

「くっ!」

 

 シャイドが石畳に手をつく。

 

「うがぁ!」

 

 やつがまたどこかから武器を取り出さないように、その手に剣を突き立てる。

 

「いった、いった、か、かっ!」

 

 シャイドが痛がる……。

 

「うん?」

「くあ、くっあ、くっあ!」

 

 やつが痛がるたびに身体から発するオーラの光が強くなるな。

 

「くあ、くっあ、くっあ!」

 

 そのオーラが立ち昇り、天井からぶら下がっている赤い宝石に吸い込まれていく。

 

「うーん?」

 

 シャイドの手に突き立ててある剣をぐりぐりしてやる。

 

「ひあぁ! ひぁあああ!」

 

 悲鳴を上げる。

 すると、さらに、強い光に包まれ、その光が上空に昇っていく。

 

「ああ……」

 

 理解した。

 これ、あれだ、人見がやったあれ、手の平にナイフを突き立てて、あのロボットに魔力を注入したあれ。

 

「なるほどねぇ……」

 

 さらに、シャイドの手をぐりぐりしてやる。

 

「いっぎゃあああああああ!」

 

 悲鳴とともに、やつの身体は輝き、その光が上空の宝石に吸い込まれていく。

 

「なんか、面白い……」

 

 ちょっと笑ってしまう。

 苦痛を与えると身体が光るのはわかったけど、いったい、どういう仕組みなんだろう、こいつらって魔法使えないよな? こいつらの仲間が虫に食われたりしても、別に光らなかったし……。

 

「うーん……」

 

 まぁ、あの赤い宝石の力だよね、当然……。

 苦痛を魔力に変換して吸い取っている……、そう考えると合点がいく。

 

「よし、破壊しよう」

 

 あれは危険だ。

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