天井より吊るされた赤い宝石。
一見すると照明器具のようにも見える。
でも、違う。
私の持つ、ヒンデンブルクの魔法のネックレスと同じデザインの、なんらかの魔法を施された魔法具だと推察される……。
「い、いて、いて、きゅー、きゅー」
その証拠にこのシャイドの身体から発する光を吸い上げ続けている。
おそらく、苦痛を魔力に変換しているものと思われる……。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ」
シャイドが手の甲に突き刺された剣をもう片方の手で押さえ、少しでもその痛みを和らげようとする。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ」
ちなみに、このきゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ、とは、現地の言葉で、「超痛い、死にそう」ってニュアンスになる。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ」
……。
肩を震わせて痛がっている……。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ」
涙も零している……。
「あうあー、あうあー……」
私の腕の中のテロベアうさぎもつられたように悲しげに鳴く。
「ああ、大丈夫だよ、大丈夫だよ、よし、よし……」
と、声をかけ、ぽんぽんと軽く叩く。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ」
まだ言っている……。
なんか、かわいそうになってきた……。
「しょうがないなぁ……」
と、私はシャイドの剣を突き立てられたほうの手の手首辺りを足で踏む。
「きゅーきゅー!」
激しく痛がる。
「我慢しろ」
そのまま、力を込めて剣を引き抜いてやる。
「きゅーきゅー!」
シャイドが手を押さえ、急いで懐から布切れを取り出して止血を始める。
「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ……」
目に涙をいっぱい溜めながら手の治療をしている……。
「きゅー、きゅー……、きゅー、きゅー……」
……。
「そ、そんなことより……」
あのヒンデンブルクの魔法の宝石……。
どうやって破壊する?
天井の高さは20メートルほど……、そして、そこから吊るされている宝石の大きさは3メートルほど。
「うーん……」
吊っているチェーンを狙うか?
と、私は自分の剣を再度石畳に突き刺し、代わりに落ちているシャイドの剣を拾い上げる。
「よし」
そして、それを逆手に持ち替えて……。
「とおりゃあああああ!」
と、槍投げの投擲みたいに、あの赤い宝石を吊るしているチェーン目掛けて思いっきり投げつける。
投げ放たれた剣は風を切りながら飛んでいき、狙い通りにチェーンにヒットする。
「うん?」
しかし、剣はガキーンという金属音とともに弾かれ、大きく跳ね返り、私の頭上と飛び越え、遥か後方にぽとりと落ちる。
「固いな……」
振り返り、弾かれた剣を見る。
刀身は折れ、中ほどから先がなくなっていた。
「あれはもう使えないな……」
私は正面を向き、石畳に刺した自分の剣の柄に手をかける。
「しょうがない、これを使うか……」
と、剣を引き抜く。
おそらく、なんらかの魔法でのコーティングがなされていると思われる……。
私は剣を逆手に持ち、狙いを定める。
シャイドの苦痛が和らぎ立ち昇る光は薄れたとはいえ、まだ完全に消えたわけではない。
薄っすらとした光が、煙のように渦を巻き、中央の赤い宝石の中へと吸い込まれていく……。
「たぶん、あの宝石は魔法でコーティングされていない」
少なくても、魔力を吸収するあいだは魔法を解除しているはずだ。
「ど真ん中にぶち込んでやる」
私は、一歩、二歩、三歩と助走をつけ、
「うおおりやあああああああ!」
と、渾身の力で、赤い宝石のど真ん中目掛けて剣を投げる。
「どうだぁ!?」
剣は鋭い風切り音を上げ、まっすぐに飛翔し、そして、赤い宝石のど真ん中に突き刺さる。
「よし!」
と、それを見た私は拳を突き上げて歓声を上げる。
突き刺さった剣の勢いは衰えず、赤い宝石を押し、そのまま振り子のように突き上げ、天井に激しく打ち付ける。
天井は砕け、ぱらぱらと石片が崩れ落ちる。
「おお……?」
そして、天井を打ち付け、弾かれた赤い宝石は振り子の要領で今度は前方に振れる。
ゴガンッ、という天井を打ち付ける音が響き、さっきと同じように天井の石がぱらぱらと砕け落ちる。
「うーん……?」
そして、また、振り子のように、後方の天井を打ち付ける……。
「あーん……?」
次に、また前方……。
そのようにして、何度も前後の天井を打ち付け続ける……。
「ええ……?」
ガゴンッ、ガゴンッ、と、何度天井を打ち付けただろうか……、ついに天井が崩落しだした……。
「ひぃいい!?」
大きな石のブロックごと天井が崩れ落ちてきた!
「きゅー、きゅー?」
手の治療をしていたシャイドもその轟音に気付いて天井を見上げる。
巨大な石とともに、大量の砂も一緒に落ちてくる。
「ひぃいいいい!」
まるで、砂が大滝のように流れ落ちてくる!
赤い宝石も一緒に落ち、その上に石のブロックや大量の砂が覆いかぶさり、その姿はすぐに見えなくなる。
そして、流れる砂は濁流となり、津波のように私たちに襲いかかってきた。
「くっ!」
流れる砂が私の足をさらう。
「とう!」
と、私は足がさらわれる瞬間に飛び、砂の上を流れる石のブロックの上に飛び乗る。
「これじゃ、駄目だ!」
私はさらに、足場を求めて、別のブロックに飛び移る。
「きゅー、きゅー! たすけてぇ!」
シャイドが流れる砂の中で、まるで水の中で溺れるように顔と腕だけ出して助けを求めていた。
「あいつ……」
何度目かのジャンプで比較的大きな石のブロックの上に辿りつく。
「きゅー、きゅー! きゅー、きゅー!」
必死に助けを求めている……。
「きゅー! きゅー!」
……。
「しょうがないなぁ……」
巨大な石のブロックの上とはいえ、流れる砂の上、大きく揺れてバランスを取るだけでも一苦労……。
「きゅー! きゅー!」
「ちょっと、待ってろ」
私は何かロープのようなものがないか探す……、けど、それらしい物を見つけることはできなかった……。
「きゅー! きゅっぷ!」
何度も砂の中に頭まで埋もれて、そのたび、必死にもがくように顔を砂の上に出す。
「きゅっぷ! きゅっぷ!」
駄目だ、助けられない、剣2本もあの赤い宝石を破壊するの使って手元にはない、当然、ロープなどの道具もない。
「きゅっぷ! きゅっぷ!」
シャイドが必死にもがく。
助けを求める、その手……、白い包帯が巻かれ、赤く血が滲んでいるのも、すごく痛々しい……。
「ロープがないのなら、こっちから行けばいいじゃん」
私は石のブロックの上をシャイドがいるほうとは逆のほうに歩いていく。
「ブロックが流れる、その進行方向を変える……」
足元の固そうな石をかかとでトントンとする。
「アポトレス、水晶の波紋、火晶の砂紋、風を纏え、
呪文を唱え、足に魔法をまとわせる、そして、足を前に振り上げて、
「たぁ!」
と、思いっきり石の床にかかとを叩きつける。
すると、石にひびが入り、ガラガラと音を立てて石片が崩れ落ちる。
「よし!」
四角い石のブロックの前方、左前の角が取れたようになった。
砂が正面ではなく、斜めに当るようになり、抵抗が少なくなる。
そして、依然として右前は正面から砂を受け、相対的に抵抗は増す。
「スリップアングル」
自動車のステアリングを切るのと一緒、進行方向と重心のずれによって、抵抗の多い側に巻き込むように曲がっていく。
「おお……」
予想通り、私の乗る石のブロックは、右に、右にと、少しずつ方向を変える。
「きゅっぷ! きゅっぷ!」
そして、砂の中で溺れているシャイドのほうへ近づいていく。
「シャイド! 掴まれ!」
と、彼に声をかける。
「きゅっぷ!」
シャイドが精一杯腕を伸ばし、石のブロックを掴もうとする。
「もう少し!」
私も手を伸ばし、シャイドの手を掴もうとする。
「あうあー」
腕の中のテロベアうさぎが鳴く。
「うん?」
うさぎを見る。
「ぽぽろー!」
その瞬間、砂の中から黒い物体が飛び出してきた。
「なっ!?」
「いぴろー!」
それはムカデのような黒い虫、体長50センチはあろうかという大きな虫だった。
「ひぃいい!」
と、私は反射的にムカデに回し蹴りを食らわす。
「ころぴー!」
虫は黒い外骨格を撒き散らしながら砂の上にぽとりと落ちる。
「ま、魔法で、足を強化してて、よかった……」
安堵する。
「嬢ちゃん!」
と、私の顔の横をダガーが通過していく。
「ぽろぴー!」
私のすぐに後ろで黒いムカデの顔にダガーが突き刺さる。
そして、虫は石の上に落ちるけど、そのままうねうねもがいて砂の中に逃げ込む。
「よかった、間に合ったか……」
ダガーを投げて私を助けてくれたのは、石のブロックに這い上がることができたシャイドその人だった。
「おお、登れたのか……」
少し笑顔を作る。
「ありがとよ、嬢ちゃん」
やつも笑顔をつくる。
でも、笑顔も束の間、虫共が次々と襲いかかってくる。
「たぁ!」
私は魔法をまとわせた蹴りで応戦。
「はっ!」
シャイドもダガーで戦う。
「とぉ!」
「はぁ!」
私たちは必死に応戦する。
さらに、問題はそれだけではなく、
「早い! 早い!」
「まわる、まわるぅ!」
右に抵抗をつけたままの石のブロックは回転しつづけ、時間とともに、その回転の速度が増していった。
「つか、つか、つかまれ!」
「ひぃいい、目がまわるぅ!」
今や、もの凄い速度で回転している。
だけど、そのおかげか、虫共の襲撃が止む。
「た、たすけてぇ!」
「ひぃいいいい!」
私たち二人の乗った石のブロックは激しく回転しながら、下流へ、下流へと流されていく。
そして、前方に見えるのは……。
「な、ナビーか!?」
「な、なんで、そんなところに!?」
「お頭!?」
「シャイドさん!?」
そう、それは和泉や人見、それと密猟者たちだった。