「は、ハル! 彰吾!」
二人を視認して、その名前を叫ぶ。
「ひぃいえええええええ!」
「たすけてぇええ!」
でも、激しい回転ですぐに見失う。
「ナビー!?」
「あ、危ない!」
「お頭!」
みんなも心配して叫ぶ。
「うぎゃああああ!」
「うわあああああ!」
さらに、石のブロックは流れる砂の上をバウンドする。
「ぶつかるぞぉ!」
「そっちは壁だぞぉ!」
彼らがそう叫んだ瞬間、激しい衝撃と、石と石とがぶつかるような轟音が響き渡る。
「あっ……」
そして、その直後の浮遊感……。
「ああ……」
飛んでる……。
石のブロックが何かとぶつかって放り出された。
「ああ、天井が綺麗……」
白いつるつるとした大理石みたいなブロック……。
そういえば、福井が言っていたね、白い、つるつるとしたレンガが欲しいって、それで道を作りたいって……、あんな感じのレンガのことなのかな……。
そう、そう、その資金は馬車を売った金で賄うって……、その馬車は今みんなで一生懸命汗を流して作っているはず……。
ああ、私も馬車作りしたかったなぁ……、本当なら、今日はこんなところに来ないで、みんなと一緒にわいわい談笑しながら楽しく馬車を作っているはずだったのに……。
「麻美……」
彼女の名前を呼ぶ。
「あ……」
走馬灯……、スローモーション……、こういうのって、何現象って言うんだっけ……。
命の危機が迫ったときに時間がゆっくり進んでいるように感じる現象。
「タキサイキア現象……」
だったか……。
「あうあー」
腕の中のテロベアうさぎが小さく鳴いた気がした。
この子は助けないと。
そう思い、私は両腕でしっかりとうさぎを抱いて地面に叩きつけられないように備える。
そして、身体を強張らせて、目をぎゅっとつむって、地面に叩きつけられる瞬間を待つ。
待つけど……。
「あれ……?」
と、目を開けて見ると、
「ハル」
そう、目の前には和泉の顔があった。
「危なかったね、ナビー」
と、彼が笑顔を作る。
そう、和泉がお姫様抱っこで私を助けてくれていたのだ。
「大丈夫、立てる?」
そっと、地面に降ろしてくれる。
「大丈夫、ありがと、ハル……」
と、私は地面に立つ。
そして、改めて周囲を見渡す。
すぐ目の前では、相変わらず轟音を上げて砂が流れていて、砂煙や小石が激しく舞っていた。
私はそれからうさぎを守るように肩と腕でガードしてあげる。
でも、砂が流れているのは狭い範囲だけ、幅は数メートル程度、その両側には砂は来ない。
さらに、両側には大量の瓦礫、石材や石柱などが山積みになっていて少し高台になっていた。
「二回目か、やつらの罠か……?」
「どうだろうな、天井が落ちている」
と、人見と和泉が流れる砂と、その砂が流れ落ちてくる天井を見ながら話す。
「砂の流入が止まらない……、このままだと砂に埋もれてしまうかもしれない」
「ああ、一旦上に避難しよう、階段が砂に埋もれてないか心配だ……」
「ぎゃぁああああ!」
「うわぁああああ!」
でも、二人の会話は、そんな悲鳴にかき消される。
「む、虫!」
「た、たすけて!」
見ると、密猟者たちが、あの黒い大きなムカデのような虫共に襲われていた。
「す、砂の中から飛び出してくるぅ!」
そう、流れる砂の中から突然飛び出してきて、密猟者たちの腕や足、首に喰らいつく。
「シロス、権力によらず、暴力によらず、その身を押せ、
「エンベラドラス、殉教者の軍勢、死の絶望が汝を燃え上がらせる、炎を纏え、
人見と和泉は魔法で応戦、虫共を次々と撃退しながら、流れる砂の川から距離をとるために、少しずつ後退していく。
でも、密猟者たちは劣勢。
「もう、負けた、降参だ、だから、助けて、お願いだ!」
「なんでもします、なんでもしますから!」
「おいてかないでくれぇ!」
と、密猟者たちが私たちに助けてを求めてくる。
「うわぁああ、いてぇ!」
「喰いつかれたぁ!」
悲痛な叫び声が響く……。
まぁ、でも、あいつらには死んでもらったほうがいいんだよね……。
「あうあー……」
「おお、よし、よし……」
と、テロベアうさぎの頭を撫でる。
この子たちを殺して密猟していたんだから。
それに、あの苦痛を魔力に変換して吸い取る赤い宝石のことや他にもこのヒンデンブルクの遺跡の謎を知っているかもしれないしね。
密猟者というのは自分の狩場を他の同業者には決して教えないもの。
独占したいからね。
だから、あいつらが全員死んだら、ここは誰にも知られない安全な場所となる。
「どうする、人見、助けるか?」
「ナビーもいるし、危険だ、このまま警戒しつつ、退避していったほうがいい」
「そうか……、だが、気の毒だな……」
「仕方ないだろ、和泉、敵にシンパシーを感じるのも大概にしろ」
「そうだな、すまん……」
と、二人が虫共と戦いながら会話する。
しめしめ、いい展開……、このままやつらを見捨てて退散しよう。
幸いにして、天井が崩れたおかげであの赤い宝石は砂の中、そう簡単には掘り出せなくなっただろうし……。
「くそっ、頑張れ、立てるか!?」
「無理っす、お頭、足をやられました!」
「こっちも助けてくれ!」
シャイドがお頭らしく、仲間を励ましつつ、先頭をきって戦っている。
「くそっ、もってかれた! その剣を貸せ!」
と、シャイドが仲間の剣を奪い取り、すぐさま近くに虫に一撃を加える。
「き、きりがない!」
「お頭!」
「うぎゃぁああ!」
「痛い、痛い!」
虫の数は多い、しかも、知能があるのか、攻撃に緩急をつけ、密猟者たちを半包囲し、壁際に追い込んでいく。
リープトヘルム砦の巨大な虫、ガルディック・バビロンと同じだな、やつらは非常に賢い……。
「よし、好都合だ、虫共がやつらに気を取られている隙に後退しよう」
と、人見の指示で私たちは後退を続ける。
「うぎゃああああ!」
「ぐあぁああああ!」
「おぐあああああ!」
密猟者たちの悲鳴が続く……。
「いてぇえええ!」
うん?
やつらの身体がうっすらと光っているな……。
「痛い、助けてぇ!」
それが煙のように渦巻き、そして、一点に向かって吸い込まれていく……。
そう、あの赤い宝石が埋まっているであろう場所に向かって吸い込まれる。
やばい……。
こんなに離れているのに吸い込むのか……。
私は人見たちをチラッと見る。
「気を付けろ、和泉、こっちにもくる!」
「わかった! はっ!」
人見たちは散発的に襲いかかってくる虫共の相手に夢中で、密猟者たちの身体から立ち昇る光には気付いていない。
「がぁあああああ!」
「腕がぁ、腕がぁ!」
悲鳴を上げるたびに身体から発する光が強くなる。
駄目だ、まずい、このままだと人見たちにばれる。
「あの人たちを助けよう!」
私はそう言い、虫共に襲われている密猟者たちに向かって走りだす。
「な、ナビー!?」
「無茶だ、危ない!」
人見たちが私のあとを追ってくる。
「たぁ!」
と、手前にいた虫に飛び蹴りを喰らわしてやる。
「ころぴー!」
虫は盛大にふっ飛ぶ。
「嬢ちゃん!」
シャイドが驚いたように叫ぶ。
「しっかりしろ、シャイド、仲間たちを守れ! 彰吾、ハル、援護して! たぁ!」
戦いながらみんなを鼓舞する。
「人見、やるしかないぞ、前衛をやる!」
「ああ、わかっている、サポートはまかせろ!」
と、二人も応戦してくれる。
「お、俺たちを助けてくれるのか……?」
「さっきまで殺しあってたのに……」
「ほ、本当なのか……?」
密猟者たちが傷口を押さえながら呆然とつぶやく。
「当たり前でしょ! 私たちは仲間なんだから! さぁ、心を開いて一緒に戦いましょう! たぁ!」
と、近くの虫に回し蹴りを喰らわす。
「おお……、なんて、お優しいんだ……」
「ああ、女神さま……、本当にいるんだ……」
「ありがとう、ありがとう……」
「た、戦おう!」
「「「おおお!」」」
と、密猟者たちが奮い立つ。
そして、その雄叫びとともに、彼らの身体から出ていた光はなくなる。
おそらく、アドレナリンなどの脳内物質の影響だろう、痛みがシャットダウンされたものと思われる。
「怪我人を先に行かせろ! あの階段の場所はわかるな!? 戦えるものはしんがりをやれ! たぁ!」
「「「おおお!」」」
私の指示に従い、組織だって戦えるようになる。
「たぁ!」
「はぁ!」
「うらぁ!」
と、私たちは必死に戦いながら、上に登る階段を目指す。
「もう少しだ、頑張れ!」
「階段だ!」
「怪我人に手を貸してやれ!」
「おう、こっちはまかせろ!」
みんなが協力して撤退戦を行う。
「出口だ!」
「助かった!」
「やったぁ!」
階段を登りきり、広い上層に出る。
「レージス、光を閉ざした虚無の剣、弾けて砕け、
私のすぐうしろの虫が弾け飛ぶ。
「公彦!」
そう、上層で待機していた東園寺が助けてくれたのだ。
そして、さらに、
「シャァアアアアア!」
「キィイイイイイイ!」
「アギャァアアアア!」
と、大群のテロベアうさぎが階段を登ってきた虫共に襲いかかり、捕まえ、引き裂き、頭からかぶりついてむしゃむしゃと食べだす。
「ころぴー……」
「いろぴー……」
「ひろぴー……」
それを見た虫共が下に逃げ帰っていく。
「た、助かったぁ……」
「死ぬかと思った……」
「こわ、こわ、怖かったよぉ……」
密猟者たちが安心したのかその場にへたり込む。
「ナビー、無茶をするな……、だけど、キミなら、こうするだろうとも思っていたよ……」
と、和泉が私の頭の上にぽんと手を置く。
「ひやっとしたぞ、気持ちはわかるが、自分のことも大事にしてくれ」
人見も呆れ顔で追随する。
「で、どうなっているんだ、これは?」
と、東園寺がへたり込んでいる密猟者たちを見ながら話す。
「まぁ、成り行きで……」
「俺にも何がなんだか……」
人見たちが口ごもる。
私は構わず、密猟者たちのところへ歩いて行く。
「おまえたち、今日のところは見逃す。だが、次はないぞ」
と、話しかける。
「ここは神聖な場所、私たちが祈りを捧げる場所、そして、この子、テロベアうさぎは神の使い」
こいつらがさっき私のことを女神とか言っていたのを思いだして適当に言う。
「ここへの立ち入りを禁ずる。二度と立ち入ってはならない。もし立ち入ったのなら、次はない、次はその命で償ってもらう、いいな?」
「わ、わかった、二度と立ち入らない」
「もう、悪いことはしない、真面目に働く」
「故郷に帰って、店を開くのが夢なんです」
「生まれてくる子供に名前を付けてやります」
彼らも了承してくれる。
「よし」
と、それを聞いて笑顔をつくる。
「じゃぁ、武器を全部置いていって、ここで拾ったものなんでしょ?」
そう、彼らが持っているヒンデンブルクの魔法の武器は回収しておかなくてはならない。
「これで全部です」
密猟者たちに武器を集めさせる。
「公彦、ロープかなんかで結んで、ひとまとめにして運んで。ラグナロクに持って帰るよ」
「ああ……」
と、東園寺が武器をひとまとめにして肩に担ぐ。
「帰ろう!」
そして、拳を突き上げて帰還を宣言する。
「「「おおお!」」」
と、みんなが応えてくれる。
「あうあー……」
途中の草むらのそばにずっと腕に抱いていたテロベアうさぎを降ろす。
「助けてくれて、ありがとね」
四つん這いになって、さらに頭を下げて、うさぎの額に自分の額を合わせる。
「あうあー……」
「さぁ、おゆき」
笑顔で彼を送り出す。
「あうあー……」
何度も振り返りながら、仲間たちの元へ帰っていく。
「うん」
私は満足して立ち上がる。
これで全部かな。
「ナビー、みんなぁ!」
入り口で待っていた佐々木が大きく手を振る。
「智一!」
彼のところに走っていく。
「みんなも早く!」
振り返り、うしろを歩くみんなに手を振る。
こうして、私たちの冒険は終わり、大量のおみやげとともにラグナロクへの帰路に着くのであった。