傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第157話 日日に疎し

 そして、数日が過ぎ、演習、模擬戦の日を迎える。

 

「楽しみだねぇ」

「うん、楽しみ!」

「日頃の成果を見せるときが来たね!」

「来たね!」

 

 と、遠足気分なのか、子供たちが期待に胸を膨らませている。

 ここは、市場であるプラグマティッシェ・ザンクツィオンより、南に2キロほど来たところにある広場。

 そう、馬車の材料を得る為に、剣闘士たちが勝手に森を切り開いて出来た場所だ。

 直径100メートルくらいの円形状の広場。

 積み上げられた丸太が至るところに点在し、丁度いい障害物になるだろうと思い、ここを演習場所とした。

 

「みんな、並んでぇ」

「「「はぁい!」」」

 

 と、子供たちを整列させる。

 数は……、25人ほど……。

 

「これで全員?」

「えーっと、シエランとリジェンとシュナンがお仕事忙しいからって来てない、あと、姫巫女さまもいない」

 

 その4人は通訳の4人だね。

 彼女たちがいないと、商談が成立しない、来れないのもしょうがないか……。

 一応、2時間くらいの予定だから、来れるなら来てとは言っていたんだけどね。

 

「本当にいいんですか、チビの女神さま? 手加減なしで、本気でやっちゃいますよ? 俺ら団体戦も得意なんで」

 

 そう話すのは、剣闘士たちのリーダー、金暗色のシュタージだった。

 

「いや、手加減しろよ」

 

 彼の言葉に思わず吹き出してしまう。

 剣闘士のほうは、シュタージを始め全員揃っている。

 数は14人、もちろんセイレイもいる。

 

「ええ? 手加減するんすかぁ?」

「せっかく気合入れてきたのに」

「なまってるんすよ、身体が」

「暴れたい気分す」

 

 剣闘士たちがニヤニヤ笑いながら言う。

 そういえば、以前セイレイがこいつらは帝国最強クラスの剣闘士たちとか言っていたな……。

 なるほど、力を持て余しているのか。

 

「そう言うな、いずれおまえらが命を懸けて戦う、最高に熱い本物の戦場を私が用意してやる。それまで我慢しろ」

 

 と、近くにいたツァーツェクの地獄グァルディオーラの胸を軽く小突いて言う。

 

「おお……」

「マジっすか……」

「最高っす……」

 

 やつらが舌なめずりする。

 

「野獣共め……」

 

 つられて私もニヤリと笑う。

 

「じゃぁ、ルール説明するよ」

 

 剣闘士たちと子供たち、その双方を見渡しながら説明を始める。

 

「おまえらと子供たちは互角の実力とする」

「互角?」

「どういう意味?」

 

 みんなが眉間に皺を寄せたり首を傾げたりする。

 

「サバイバルゲームと同じ、攻撃を受けたら即終了、そいつは死亡扱いになる。その場に倒れてて」

「はい?」

「どういうこと?」

 

 また首を傾げる。

 

「えっとね……、ちょっと貸してね」

 

 と、近くの子供が持っていた木刀を借りる。

 

「えい!」

 

 そして、その木刀で軽く肩を叩く。

 

「うん?」

「はい、これでコインは死んだ」

「死んだの?」

「そう、死んだふりして」

「うわぁ、やられたぁ!」

 

 と、コインはその場に倒れる。

 

「よし、ひとり倒した! 今度はこっち! たぁ!」

 

 と、剣闘士のひとりに木刀を振るう。

 

「はい、死んだ!」

「うわぁ、やられたぁ!」

 

 同じように死んだふりをする。

 

「こういうこと。これはあくまでも模擬戦、実戦ではないからね。集団戦での動きを覚える練習だから、本気で斬り合わないように。いいね、わかった?」

 

 と、みんなを見渡す。

 

「ええ、まぁ……、つまりは戦術の確認ですね?」

「そう、戦争に於いての自分の役割を意識して動く。どこで戦闘が起こっているか、どこが手薄か、どこが突破されそうか、それを見極めながら戦うのよ」

 

 と、噛み砕いて説明する。

 勝つべからざる者は守なり、勝つべき者は攻なり、守るは即ち足らざればなり、攻むるは即ち余りあればなり、とか、いきなり言っても理解できないだろうし、順を追って教えていくことにする。

 

「そういうことっすね、わかりました」

「俺たちとあいつらは互角、そして、一回でも斬られたらおしまい」

「了解、試しに一回やってみましょう」

 

 合点がいった剣闘士たちが口々に言う。

 剣闘士たちが理解していればいい、理解していない子供が本気で殴ったとしても痛くも痒くもないだろうし。

 

「よし、じゃぁ、両軍、分かれて」

 

 と、中央に積まれた丸太を挟んで両軍に距離を取らせる。

 

「あ、セイレイは私といて、ジャッジとか子供たちが怪我しないか見てて」

「はい、ファラウェイ様」

 

 一応、武器は木刀と木の槍、それと弓矢だけど、それぞれ穂先、矢じりを外し、その代わりに柔らかい布を巻いて、怪我をしないような工夫がしてある。

 

「みんな、日頃の鍛錬の成果を見せてやるのよ、先生たちをやっつけましょう!」

「「「おおお!」」」

「俺とフェインが盾になる。みんなはそのうしろから攻撃してくれ!」

「「「おおお!」」」

 

 子供たちが円陣を組んで大きな声で作戦会議をしている。

 

「いつでもいいすっよ」

「待ちくたびれたっす」

「はっはっは、元気がいいなぁ」

 

 一方、剣闘士たちは余裕の表情、ストレッチなどをしながら開始の合図を待つ。

 

「よーし、じゃぁ、いい?」

 

 と、一歩前に進み出て両軍に確認する。

 

「いいっす」

「大丈夫です」

 

 双方のリーダーであるシュタージとタジンが答える。

 

「じゃぁ、はじめ!」

 

 と、挙げた手を振り下ろす。

 

「おっし、いくぞ!」

「「「おおおお!」」」

 

 まずは、剣闘士たちが中央の丸太を飛び越え子供たちの一団に殺到する。

 

「きたよぉ!」

「守って!」

「みんな、固まって!」

 

 と、子供たちが密集陣形を取る。

 

「おお?」

「守りを固めるのか?」

「迂闊に飛び込むなよ、斬られたら死亡だからな」

「わかってるって」

 

 剣闘士たちが子供たちの手前で歩を緩める。

 

「来い!」

「絶対守る!」

 

 大きな盾を構えたタジンとフェインが先頭で子供たちを守る。

 

「だがな、攻撃する気のねぇやつは怖かねぇんだよ!」

「守ってるだけじゃぁ勝てねぇんだよ!」

 

 と、剣闘士たちがタジンとフェインの盾目掛けてタックルをぶちかます。

 

「ぐっ!」

「負けない!」

「みんな押さえて!」

「上から槍で突いて!」

 

 うしろの子供たちがタジンとフェインの背中を押さえ、さらに、その上から槍で突いて攻撃しようとする。

 

「お? 反撃してきやがったぞ!?」

「こっちも守れ!」

「盾だ、盾!」

 

 剣闘士たちも盾を持ち出し、上の槍をそれで防ごうとする。

 

「押せ、押せ!」

「押し込まれないで!」

 

 そして、両軍、最前衛で盾をぶつけ合う押し合いへと発展していく。

 

「「「おおおお!」」」

「「「わあああ!」」」

 

 大きな声を上げて押し合う。

 剣闘士は13人、それに対する子供たちは25人……、数の差こそあれ、そこは大人と子供、力の差は歴然、少しずつ子供たちが押し込まれていく。

 

「くそぉ! もっと力を出せぇ!」

「「「わあああ!」」」

 

 でも、意外にも子供たちが押し返す。

 

「やるな、もっと押し込め!」

「「「おおおお!」」」

 

 また剣闘士たちが押し込む。

 

「頑張れ!」

「「「わあああ!」」」

 

 それを子供たちが再度押し返す。

 両軍が交互に押し合う時間が続く。

 

「セイレイ、わかる? こういうのを三角持ち合いというのよ」

 

 隣で戦況を見守っているセイレイに話しかける。

 

「三角持ち合い?」

「そう、三角持ち合い……」

 

 私はその辺に落ちている木の枝を拾う。

 そして、足元の砂をならす。

 

「縦軸を場所、横軸を時間で表す……」

 

 そこに、木の枝でグラフを書いてやる。

 

「剣闘士たちが押し込み、ここで止まる……、そして、子供たちがここまで押し返す……、さらに、また剣闘士たちが押し込み、ここで止まる、そこから、子供たちが押し返す……」

 

 と、折れ線グラフを書き込んでいく。

 

「わかるよね?」

「はい、少しずつ振れ幅が小さくなっていっています……」

「そう、少しずつ収束して三角形を描いていく。これは、互いに戦線を維持しようとしたときにできる特殊は波形、互いに警戒、互いに様子見、様々な理由でまだ決戦のときではないと考えたときに、双方が戦線を持ち合うことからこういう形になる」

 

 グラフがいっぱいになったので、砂を足でならして消す。

 そして、再度書きはじめる。

 

「そして、この三角形が完成したらどうなると思う?」

 

 グラフを書きながら横目でセイレイに問う。

 

「止まる……、膠着する……」

「そう、そんなことは誰にでもわかる……、だから、この三角形が完成することはない……、その前に動く……」

「「「おおおお!」」」

 

 剣闘士たちがそれまで以上の力で押し込む。

 

「負けるな、頑張れ!」

「「「わああああ!」」」

 

 子供たちがそれを食い止め押し返す。

 

「あっ……」

 

 セイレイが私の書くグラフの変化に気付き小さく声を上げる。

 

「三尊。三角持ち合いは必ず破られる……、破られる前兆として現われのがこの三尊と呼ばれる波形……」

 

 グラフを書きながら説明し、そして、

 

「次でブレイク、戦線は破られる」

 

 と、線を跳ね上げる。

 

「「「うおおおおお」」」

 

 私の言葉とともに剣闘士たちが雄叫びを上げて激しく押し上げる。

 

「うああああ!」

「きゃああああ、駄目ぇ!」

「押される!」

 

 子供たちが維持していた戦線は脆くも崩壊する。

 

「人はみんな別々なことを考えているものだけど……、でもね、多くの場合、同じものを見たら同じことを考えてしまうのもまた人間なんだよ。好機を見たら、みんなが攻めたくなるし、劣勢を見たら、みんなが逃げたくなる。そして、その集団心理はグラフにすれば簡単に読み解くことができる。それを見れば次の行動なんてすぐにわかってしまう」

 

 足で砂を払いグラフを消す。

 

「駄目だぁ!」

「逃げろぉ!」

「助けてぇ!」

 

 子供たちが敗走を始める。

 

「ははは、どうした、さっきまでの威勢は!?」

「背中がガラ空きだぜ!」

「はい、死んだ!」

 

 剣闘士たちが逃げる子供たちのうしろから襲いかかる。

 

「やられたぁ!」

「死んじゃった!」

「助けて、怖いよぉ!」

 

 次々と討ち取られていく。

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