ゆっくりと、やつらの元に向かう……。
「なぁ、おまえら、なんなんだよ、その顔は、迷彩のつもりか? ああ、そうか小顔効果をねらってるんだな? 笑わせんなよ……」
口の端で笑ってしまう……。
やつらは、槍で突くような仕草で威嚇しながら、じりじりと後退していく。
「俺が怖いのか? そうだろうなぁ……、俺と戦場で対峙して生き残ったやつはいねぇからなぁ……」
私は構わず無造作に距離を詰めていく。
そして、ポケットから小瓶、塩の入った小瓶を取り出し、一瞬それに視線を送ってから、空高く放り投げる。
なぁ、今、塩を見ただろ?
「動けば風神の如く……」
私は姿勢を低くして走りだす。
親指を人差し指と中指で握るような形にして第二間接を突き出す、いわゆる、二本拳と云う握り方をする。
そして、一気に走り距離を詰め、やつのこめかみ目掛けて二本拳を突き刺す。
「戦う様は魔神の如し」
めきり、そんな音を立てながら頭蓋が砕け、耳から血を噴き出し仰向けに倒れていく。
「で、でっど、ろーす!」
と、隣のやつが槍を突き出してくる。
私はそれをしゃがんで交し、そいつの足を払う。
「で、でっど……」
倒れた現地人は放した槍をすぐに拾おうとする。
「やらせるかよ」
私はやつの伸ばした腕、手首と肘を掴み、そのまま内側にひねりながら倒れ込む。
そして、肩を外したあとは前に倒れる勢いを利用して前転するように立ち上がる。
「あ、わーす! で、でっど、ろーす!」
肩を外されたやつが地面を転がりまわって叫んでいる。
私はその横に転がっている槍をつま先で蹴り上げて、それを空中で掴み、そのまま渾身の力で三人目に投げつける。
「ぷっる、さっか!?」
その槍は現地人の脇腹あたりに突き刺さる。
次、四人目……。
「わ、ぱーす! わ、ぱーす!」
「あ? なんだ?」
四人目がなんか両手でバイバイするような感じで手を振っているぞ?
「なに? トイレに行ったあとちゃんと手を洗ったよ、ねぇ、みてみて、偉いでしょ? なんだ、それ、第二次世界大戦かよ、ネタが古いんだよ、てめぇ」
呆れて、半笑いになる。
「わ、ぱーす! わ、ぱーす!」
「わ、ぱーす、ぷーん!」
と、五人目も加わって手を振る……。
そうこうするうちに、怪我をしたやつらに肩を貸したり、抱きかかえたりしてその場から逃げ出そうとする。
「どうする……?」
殺すか……? まぁ、最初にこめかみを貫いたやつ、シウスに怪我をさせたやつはもう死んでいると思うけどな。
やつらが森に向かって必死に逃げていく。
「まぁいい、見逃してやるか……、俺も随分、丸くなったもんだぜ……」
お、俺……、じゃない、私だ、私、私……。
頭の中でも、ちゃんとナビーフィユリナしてないと、とっさの時にでちゃうんだよね、あぶな、あぶない、気をつけないと……。
「って、そんな事より、シウス!」
私は急いで牧舎に走っていく。
牧舎の入り口で照明用に吊るされている懐中電灯のスイッチを入れる。
「めぇえ……」
「ぴよ、ぴよ……」
「ぴよっぴぃ……」
「ぴよぉ……」
と、明かりを点けるとみんなが私のところにやってくる。
「チャフ、ピップ、スカーク、アルフレッド……、あれ、シウスは?」
「めぇ……」
声のするほうを見ると、シウスが干草のベッドの上にしゃがんで、私のことをじっと見つめていた。
「シウス」
私はすぐにシウスに駆け寄って、その頭にそっと手を添える。
「シウス、大丈夫?」
その顔を覗き込む。
「めぇ……」
「足痛いの……?」
そっと、痛めている足を触る。
「めぇ……」
うーん、わからない……。
「あ、そうだ! どこかに湿布あったはず! とってくるね!」
と、私は勢いよく立ち上がる。
「ナビー!」
その時、牧舎の入り口からそんな声が聞こえてきた。
「うん?」
見ると、そこには夏目をはじめ、綾原とか女子数人に立っていた。
「もう、ナビー、心配したんだから、黙って行かないの、馬鹿」
と、夏目が駆け寄ってきて私を抱きしめて言う。
「う、ごめんなさい……」
「しかも、魔法を使ったでしょ? このあたりであなたの魔法を観測した……、何があったの?」
綾原が周囲を警戒しながら尋ねてくる。
「えっと、それは……、現地人がシウスを捕まえて連れて行こうとしてたから、えっと、だから、魔法を使って撃退しようと思って、そしたら、あいつらびっくりして逃げてった……」
と、なんとか辻褄が合うように説明する。
あ、ちょっと待て、外にあいつらの血が大量に零れているはず、朝になったら虚がばれちゃうよ……。
早起きして掃除しておかないと……。
「そう……、彼ら、魔法が使えないのね……」
綾原が顎のあたりに手をあてて考え込む。
たぶんね、魔法は一切使わなかった。
おろらく、あのヒンデンブルク広場の人たちとは違う人種、文明水準も非常に低い、服装などからもそれがうかがえる。
「そ、それより、シウスが投げ飛ばされて怪我したの!」
と、私はもがいて夏目の腕から逃れようとする。
「シウスが?」
「そう! 足怪我したみたいなの!」
私は夏目の手を逃れて、またしゃがんでシウスの足元を覗き込む。
「ここ、ここ!」
必死に助けを求める。
「どこ?」
と、綾原もしゃがんでシウスを見る。
「ここ、ここ!」
何度もシウスの足を指す。
「ここね……、ラセンカ、精霊の森に眠る悠久の追憶よ、トゥパ、審判の時に雨粒が草木を潤す、
綾原の指がボウっとうっすらと光る。
それをそっとシウスの怪我をした足に添える。
「ど、どう、雫?」
「そうね……、軽い捻挫だとは思うけど、なんとも言えないわ、少し様子を見ましょう」
彼女はそう言い立ち上がる。
「シウス……、痛い……?」
私は何度もシウスの顔を覗き込みながら頭を撫でる。
「めぇ……」
「シウス……」
はぁ……、やっぱり後悔しか残らない、どうして、東園寺たちに頼まなかったのよ……、私の馬鹿……。
「ぐすん……」
「大丈夫よ、ナビー、命に別状はないから、それに自然治癒力も高いはず」
「うん、今はそっとしておきましょ」
と、綾原と夏目が慰めてくれる。
「男子たちが帰ってきたよ!」
遠くからそんな声が聞こえる。
「あ、帰ってきたみたい」
「いこ、怪我した人いたら大変だから」
「そうね、いきましょう!」
と、みんなが牧舎から駆け出していく。
「私たちもいきましょう」
「ナビーもいこ、大丈夫だから、心配いらないから、雫の魔法はすごいんだから」
と、綾原が電灯を消し、私は夏目に肩を抱かれて牧舎から連れ出される。
「またね、みんな、シウスもはやく元気になってね」
みんなに手を振りながら牧舎をあとにする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は焚き火の前に座って、ぽかぽかのミルクティをひと口すする。
「しっかし、すっげぇ、切れ味だったぜ、これ」
「ああ、あいつら逃げる、逃げる、いったい何しに来たんだよ、もっと切らせろよって話だよな」
「いやぁ、爽快だった、魔法打ち放題だったよな」
と、男子たちが盛り上がっている。
「もう、いい加減にしてよ、こっちはどれだけ心配したと思っているのよ。あと怪我している人はいない? もう、大丈夫?」
徳永たちが怪我した人たちの治療にあたっている。
「大丈夫、大丈夫、怪我といっても、転んだり、枝を引っ掛けたりしただけだから」
「そう、そう、あんなやつらにやられるやつなんかいねぇよ」
まぁね、あの現地人たちって相当弱かったからね。
「それで、あいつらは何者だったの?」
そう話を切り出したのは、参謀班の綾原雫だった。
「不明だ」
東園寺がコップの水を飲みながら短く答える。
「やっぱり、今回は愚作だったと思う。もし相手が魔法を使えたら、我々の被害はこんなものではなかった。人見、彼ら、現地人をどう見る?」
と、綾原がちょっと怒った口調で言う。
「東園寺と同じ感想しかないが……」
人見が少しうつむく。
「ただの偵察……、やつらのその後の行動から考えると、今日は威力偵察だけだったと云う可能性が極めて高い……」
威力偵察とは相手の力を試すために、軽く戦闘してみてすぐに撤退する偵察の事だ。
「そう、それで、また来そう?」
「それこそ不明だ。ただ、知っての通り、ラグナロクの周囲数十キロ圏内に集落はない、つまり、やつらはそれより遠くからやってきたと云う事だ。そこから考えると、またすぐに次もやってくると云う事は考え辛い」
「そう……、それで……」
「詮索は明日以降だ。今日はもう休め、今夜は引き続き俺たち管理班で見回りを行う」
と、東園寺が議論の打ち切りを宣言する。
「あ、公彦、シウスたちも、牧舎のほうも見回りして、お願い」
私は彼にお願いする。
「もちろんだ、最初からそのつもりだ」
と、彼は私を一瞥して答える。
こうして私たちは現地人の再襲撃を警戒しながら眠りにつく事にした。