あの現地人の襲撃から何事もなく三日が過ぎた。
幸いシウスの怪我も大した事なく、今も元気に草をはんでいる。
「めぇ!」
「めぇえ!」
と、チャフと一緒に草を食べては、ごろんと転がって空に足を向ける。
「めぇええええ!!」
私も真似をして、草の上に寝転がって空を見上げる。
真っ青な空と、ふわふわとしたまばらな雲……。
「いつも天気いいよね、ここ……」
ぱらぱらと降ることはあっても、まとまった雨は今まで一度もなかった。
私は顔の横にある、小さなお花、鈴のような形をした白いお花を一輪摘む。
それを口の上、鼻の下あたりに置く。
「すー、はー、すー、はー……、いい匂い……、本当に平和だねぇ……」
ぼんやりと空を流れるわた雲を眺める。
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
シウスたちがじゃれてくる。
「もう、こらぁ」
と、私は横にローリングしならが彼らの攻撃を避ける。
「ぴよぉ! ぴよぉ!」
すると、アルフレッドが先回りして、ぱたぱたと私の顔に乗ってくる。
「こ、こらぁ!」
手でガード。
「もう、怒ったぞ! これでどうだ!」
両腕を伸ばして、連続ローリング!
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
ぎゃぁ! みんな追っかけてくる! 加速!!
ぐるぐる、ぐるぐる、と牧柵の中を何周もする。
「きゃぁあああ、目が回るぅ」
もう超楽しい!
「レージス、光を閉ざした虚無の剣、弾けて砕け、
と、遊んでいたら、牧柵のむからそんなかけ声が聞えてきた。
「アスシオン、煌く光、花より美しく、風を纏え、
見ると、管理班の6人が剣の稽古をしていた。
ガキン、ガキン、とかやってる。
私はうつぶせのまま、一番下の横棒に顎を乗せて、その様子を見守る。
現地人の襲来以来剣の稽古に熱心なんだよね。
「うおおおお!!」
東園寺がその大きなロングソードを振り下ろす。
「はぁ!!」
それを鷹丸が受け流す。
「甘い!!」
と、東園寺が受け流された剣の柄で鷹丸の胸を突く。
「うお!?」
鷹丸が数歩よろける。
そんな感じで稽古が続く……。
「いい事なんだか、悪い事なんだか……」
私は口の中でつぶやく。
「一番はやっぱり東園寺だね……、体格もそうだけど、筋力が他とは全然違う。次いで、その彼の相手をしている鷹丸ってところかな……」
東園寺に勝つ自信は今の私にはない……、鷹丸もやってみないとわからない……、他は、まぁ、余裕だろうけど……。
でも、その東園寺にしても実戦になれば、対抗策はいくらでもある、生き残るのは容易だと思う……。
問題はあいつら……。
私は立ち上がって、牧柵の反対側に行く。
「それじゃぁ、投げるよ!!」
狩猟班の佐野が木の板を振っている。
「おお、出来るだけ高く投げてくれ!」
「今度は負けないぜ、ハル!」
佐野から50メートルほど離れた場所に和泉と秋葉がいる。
二人は弓を構えている。
「いくよ!!」
と、佐野がブーメランの要領で木の板を空高く放り投げる。
木の板は高く、高く舞い上がる……。
「勝負だ、ハル」
「おう、蒼」
と、秋葉が先に矢を放ち、続いてすぐに和泉が矢を放つ。
どうやら、早撃ちの勝負しているようだった。
秋葉の矢はまっすぐに木の板目掛けて飛んで行く。
しかし、和泉の矢は上ではなく、平行に地面の草をかすめるように飛んで行く……。
「お、ハル、ミスったか!?」
「いや、狙い通りだよ、蒼……」
「よーし! いったぁ、ど真ん中だ!!」
秋葉の矢は正確に木の板目掛けて突き進む。
「ハザード」
和泉がなんか、二本指を立てて、下からくんってやる。
すると、地面すれすれを飛んでいた彼の矢が急上昇に転じる……。
そして、秋葉の矢が木の板に命中する直前で下から縁に突き刺さり、そのまま木の板を空高く舞い上がらせる。
秋葉の矢はその下を通過していく……。
ちょっと、待って、なんだ、これ、でたらめすぎるでしょ……。
「くっそぉ!! その手があったかぁ!!」
「ははは……、惜しかったな、蒼……」
和泉が爽やかに笑う……。
もう、駄目だ、こいつやばい、マジでやばい……。
こいつにハイジャック犯だってばれたら、一瞬で蜂の巣にされる、逃げる時間すらない……。
私は両腕を抱いて、ぷるぷると震える。
「ナビー、おいでぇ、みんな待ってるよぉ」
と、夏目に声をかけられる。
そうだった、今から女子だけの会議だった……。
「はぁい!」
と、元気よく返事をして駆け出す。
「シウス、チャフ、ピップ、スカーク、アルフレッド、またね!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
彼らの元気のよい鳴き声に送られて牧柵をあとにする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そこはロッジが立ち並ぶ居住区から少し離れた場所。
そこに女子たち、15人が全員集合している。
「それじゃ、いきましょうか……」
と、綾原がそう言い歩きだす。
私たちも無言でそのあとに続く。
スロープ状になっている坂を下っていく。
10メートルほど下っていくと木製の扉が現れる。
そう、ここは地下室、現地人の襲撃の翌日から急ピッチで作った避難所だ。
「入りましょう……」
キィイ、と音を立てて扉が開く、
中は薄暗く非常に簡素なもの、5メートル四方くらいだろうか……、壁や天井は柱で補強されているだけで、ほとんどの箇所は土が剥き出しになっていた。
ちょうど、炭鉱のトンネルみたいな感じ。
床も木の板が敷いてあるだけで、なんかぶよぶよしている……。
「ここは女子専用になります」
みんなが室内に入ったのを確認してから綾原が口を開く。
「急いで作ったから適当だけどね」
徳永が自嘲気味に笑いながら、剥き出しの土壁を触りながら言う。
「基本的にここには物は置きません、最低限の水だけ用意しておきます」
綾原が説明をはじめる。
「誤解しないでね、現地人が攻めて来ても、ここに立て篭もるつもりはないから……」
みんなが暗い顔をしてうつむく。
その表情を見て察する。
ああ、そうか、そういう事か……。
「ここに来るのは男子たちが全滅した時だけ、彼らが全滅したら、私たちも長くは生きられない、立て篭もっても意味ないから……」
徳永たち、女性班の3人が箱に入った木の棒をみんなに見せる。
木の棒は先が鋭く削ってあって杭のようになっている。
「刃物は貴重だから、ここに置いておくのはこれ……」
箱の中には徳永が持つのと同じような杭が何本も入っている。
「扉を閉めても、そう長くは持たないと思うから、ここに来る事が決まったら、その時点で覚悟を決めてね」
ここは女子たちの自害用の地下室……。
「了解……、ここに来る事のないよう祈るよ……」
「そうね……、でも、ここがあったら、ちょっと安心出来るかも……」
「うん、いいね、いいアイデアだよ……」
「私たちは運命共同体だからね、男子たちがみんな死んだら、私たちも一緒に行かないとね……」
悲壮感が漂う。
「こう立てて、上から乗るように喉を突く、
綾原が使い方の説明をして、それをみんなが真剣に聞いている。
なんとなく、胸が張り裂けそうになる……。