傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第22話 ルビコン川にて

 それにしても、自害用ね……。

 まだ高校生なのに、覚悟がすごいよね……。

 ちょぽん、と、ルビコン川に釣り糸を垂れながら昨日の事を考える。

 川面を駆け抜けてきた風が私の額にあたり前髪が風に広がる……。

 それと同時に陽の光を受けた長い金髪がきらきらと輝き、視界を覆う……。

 私は髪を手で押さえて風がおさまるのを待ってから髪を整えて耳にかける。

 

「陽射しがあったかい……」

 

 それにしても、ここの季節ってどうなってるんだろ? 

 日本のカレンダーで言えば、今は六月下旬で初夏にあたるけど、ここも一緒なのかな? 

 と、私は川沿いの濃いみろり色の若葉が茂る広葉樹を見ながらぼんやり考える。

 

「あーん……、またエサだけ取られたぁ……」

 

 と、釣り糸を引き上げる。

 そして、エサ入れの幼虫をひとつ掴んで、針に刺してからまた川に投げ入れる。

 

「でも、ナビーも随分うまくなったじゃん」

 

 と、私と同じように、隣で釣りをしている秋葉蒼に声をかけられる。

 

「何匹釣れた?」

「うーん、十匹くらい?」

 

 私はバケツを覗き込みながら答える。

 

「上出来、上出来」

 

 と、彼はまた大きな魚を釣り上げる。

 ちっくしょう、なんで、こいつ、こんなに釣りがうまいのよ……。

 私はじっと水面を睨みつけてチャンスをうかがう。

 ちなみに、今ルビコン川で釣りをしているのは、私と秋葉の二人だけ。

 他の狩猟班のメンバーは、和泉と佐野が狩、夏目と笹雪と雨宮は野菜とかの収穫に行っている。

 で、釣りの得意な秋葉はルビコン川で漁をしているというわけだ。

 私はその秋葉のおもり。

 あの現地人の襲撃以来、ラグナロク広場の外での単独行動は禁止になったからね。

 

「ねぇ、ナビー?」

 

 と、秋葉にじり寄ってきた。

 

「うん?」

「その、ここで聞くのもなんだけどさ……」

 

 彼の顔を近くに見える。

 色素が薄いのか、染めているのかわからないけど、さらさらの茶色の髪が風にそよいでいる。

 整った目鼻立ち、シャープな顎のライン、瞳も太陽のせいだろうか、うすい茶色でなにかすごく優しい印象を私に与える。

 

「うん?」

 

 私は首を傾げる。

 

「あのさ、ナビー、俺の事、好き?」

 

 くっそ……。

 さすが秋葉だ、私の笑いのつぼを心得ている……。

 

「うん……、大好きだよ……」

 

 でも、この程度ではまだ笑わない。

 

「本当に? みんなに同じ事言ってない?」

 

 くっそ、やられる……。

 

「本当よ、みんなには言ってないよ、蒼にだけだよ」

 

 まだだ、まだ我慢するのよ、ナビー……。

 

「本当かなぁ……、信じられないなぁ……」

「うーん、じゃぁ、どうすれば信じてくれるの?」

「そうだなぁ……」

 

 と、秋葉が遠く見ながら髪をかきあげる。

 そして、向き直り私の目を見つめる……。

 

「じゃぁさ……、みんなの前で裸になってさ、私はメス豚です、秋葉くんの奴隷です、って言ったら信じてあげるよ」

 

 う、うそでしょ、こいつ!?

 あ、思い出した、前に笹雪が秋葉が同級生にエロ同人誌みたいな事させて、学校に来られないようにしたって言ってた! 

 この事か!? 

 あと、なんだっけ? ゲテモノ秋葉とか呼んでた! 

 

「出来るよね、ナビー? 本当に俺の事が好きならさ?」

 

 流し目で言いやがった! 

 こんの、ゲテモノ野郎!! 

 

「そんな事、できるわけないでしょ! このぉ!」

 

 と、私は腕をぐるぐるまわして秋葉をポカポカと叩いてやる。

 

「ははは、やめてくれ、ナビー、冗談だってば」

 

 彼は笑いながら大袈裟に顔を庇う。

 絶対うそだ! 

 

「このぉ! このぉ!」

 

 ポカポカと叩き続ける。

 

「いたい、いたい、やめて、やめて、ははは」

 

 と、秋葉が立ち上がって逃げ出した。

 逃がさん! 

 私も立ち上がって彼を追いかける。

 

「このぉ! このぉ!」

「ははは、まいった、まいった、ナビーは強いなぁ、ははは」

 

 秋葉は私の攻撃を楽しそうにひょいひょい避けていく。

 でも、楽しんでいるとこ悪いんだけど……。

 

「うおぅ!?」

 

 脇腹に強烈な一撃を叩き込んでやった。

 

「かっ、くっ!?」

 

 秋葉が両腕でお腹を押さえながら数歩よろめく。

 痛いでしょう? 魔力も込みなんだから当然痛いはずだよねぇ。

 拳に魔力を込める。

 これは魔法を禁止されている私だからこそ気付けた魔力の特性……。

 よし! 呪文を唱えるぞ! って、思って一文字目を口にしようとした瞬間になぜか、拳に魔力が集約される。

 そして、そこで詠唱に入らなくても、魔力は消えてなくならない……。

 しかも、これは厳密には魔法ではないので、魔法、魔力に敏感な綾原、海老名あたりにも気付かれない。

 当然、秋葉クラスならば、私が魔法を使ったなんて夢にも思わない……。

 

「な、なんで、うっくぅ……」

 

 よろよろ、よろよろ、と、その辺を彷徨っている。

 滑稽だね、秋葉、油断したんでしょ? 現地人の襲撃を警戒して、魔法障壁《イージス》を張っていたみたいだけど、そんなものは簡単にぶち破れるから……。

 

「あ、蒼、だ、大丈夫、ど、どうしたの?」

 

 私は心配したフリをして彼に近づく。

 

「い、いや、な、なんか、みぞおちに入った、みたいだ……」

 

 と、秋葉が何か言っているうちに、私は彼の足を引っ掛けて、そのまま肩を押してやる。

 

「うわっ、うわあああ!?」

 

 彼が腕をぐるぐる回しながらルビコン川に倒れていく。

 バシャーン、と、盛大な水しぶきがあがる。

 

「う、うそ、うそだろ、今、わざと、やらな、かったか?」

 

 と、水の中でもがきながら言っている。

 

「そんなわけないでしょ! あはっ、えっと、ほら、これに掴まって、蒼!」

 

 と、私は釣竿を差し出しながら言う。

 もう駄目、笑えてくる、限界……。

 

「え、ちょっと、待て、今笑ってなかったか!?」

「何を言っているの、蒼、それより早く、風邪引くよ!」

「お、おう……」

 

 と、秋葉が私の差し出した釣竿の先を掴む。

 掴んだ瞬間、力を入れるその瞬間に釣竿を放してやる。

 バシャーン、と、盛大にふっ飛んでいった。

 もう超楽しい! 

 

「わ、わざとだ、絶対にわざとだ……」

 

 秋葉が両手で水と顔に張り付いた髪を拭う。

 うん、でも、良い実験にはなった……。

 彼、秋葉蒼は単純な戦闘能力で言えば、今の私より遥かに上。

 でも、戦闘経験は私より遥かに下、全く負ける気がしない、たとえ、彼が今の百倍強くなったとしても、いくらでも手玉に取れる。

 ああ、なんか、安心したなぁ……、この調子だと、和泉も余裕っぽいなぁ……、ああ、よかった、よかった……。

 

「ほら、蒼……、遊びは終り、早く上がってきて、風邪引くよ……」

 

 と、私はかがんで秋葉に手を差し出す。

 

「お、おう……」

 

 彼が私の手を握る……。

 その瞬間、私は川の石目掛けて飛ぶ。

 当然、秋葉はまたもや、バシャーン、と、盛大にひっくりかえる。

 私はスタッ、と、石の上に舞い降りる。

 

「あははっ、手を握った瞬間にわかるんだから、私を水の中に引きずり込もうとしたでしょ?」

 

 川面を走る風が白いワンピーススカートのすそをひらひらとさせる。

 

「くそぉ! くそぉ! 今日はなんか悔しいぞ! このぉ! このぉ!」

 

 あ、秋葉が反撃に出た。

 川の水をばしゃばしゃとして、思いっきり私に水をかけてきた! 

 

「きゃ、きゃ、やめ、やめ、ひっ!」

 

 冷たぁい! 

 でも、しぶきが太陽の光を反射してきらきらと光って、とても綺麗……。

 

「このぉ! このぉ!」

 

 尚も私に水をかけ続ける……。

 

「ひーん! もう、やめて、降参、ごめんなさい、謝るから、もうびしょびしょだよ!」

 

 でも、超楽しい! 

 

「だめだ、ゆるさん!」

「ひぃいいい! 蒼が怒った!」

 

 と、私は川に点在する石を足場にして逃げ回る。

 

「まてぇ!」

 

 秋葉がばしゃばしゃと追いかけてくる! 

 

「ひぃいい、許してぇ!」

 

 と、私たちはそれからたっぷり一時間ほど追いかけっこを楽しんだ……。

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