傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第23話 ウェルロット

「な、ナビー、どうしたの、びしょ濡れじゃない!?」

 

 と、ニンジンなどの野菜を洗っていた夏目が大きな声を出す。

 

「翼ぁ……、寒いよぉ……」

 

 私は泣きそうな顔で彼女にところまで歩いていく。

 

「ど、どうしたの、ちょっと待ってて、今タオル取ってくるから!」

 

 と、夏目が走り出していく。

 

「あんたら、どうしたの、二人して? まさか川に落ちたんじゃないでしょうね?」

 

 夏目と一緒に野菜を洗っていた笹雪が私と秋葉を交互に見ながら尋ねてくる。

 

「い、いや、まぁ、そのまさか……」

 

 秋葉が困ったような、はにかんだような笑い方をして答える。

 

「たく、何やってるのよ、夏だからいいようなものの、これが冬だったら大変な事になるよ」

「ご、ごめん……」

 

 と、彼が素直に謝る。

 

「ナビー、おいで」

 

 すぐに夏目が帰ってきた。

 手にはまっしろな大きなタオル。

 

「はぁい……」

 

 と、夏目が広げたタオルに飛び込む。

 そして、そのままくるまれて、頭からごしごしと拭かれていく。

 

「あったかぁい……」

「ほら、じっとしてて、ナビー」

「はぁい……」

 

 彼女が私の長い金髪をタオルで挟むようにして丁寧に拭いていってくれる。

 ああ、幸せだなぁ、なんか……。

 私はタオルに顔をうずめて大きく深呼吸をする。

 

「お風呂に入れれば一番いいんだけど、まだ沸いてないよね?」

「うん、いつも通り、夕方までかかると思うよ」

 

 そうだった、今日は露天風呂の日だった、超楽しみ! 

 

「じゃぁ、俺は釣った魚置いてくるね、あと着替えも」

 

 と、秋葉が調理室に向かう。

 

「ナビーも着替えてらっしゃい、風邪引くよ」

 

 一通り拭き終わってから笹雪にそう言われた。

 

「そうね、着替えてきたほうがいいよ、ナビー」

 

 夏目もそれに同意する。

 

「はぁい」

 

 しょうがないので、着替えてくる事にする。

 私はタオルを羽織ったまま、自分のロッジに向かう。

 着替えかぁ……、実は二着しかないんだよね、服……。

 私はロッジの扉を開けて中に入る。

 中は何もない、部屋の隅に畳んである毛布類があるだけ。

 そして、壁には夏目や笹雪、雨宮たちの洋服や学校の制服がかけてある……。

 そうそう、ここは狩猟班女子4人の部屋になる。

 一番はしっこに私の服がかけてある……。

 とりあえず、もぞもぞとワンピースを脱ぎ捨てる。

 で、下着も交換っと。

 そして、壁にかけてある服をとり、ハンガーをぽいっと投げ捨てる。

 

「こ、これか……」

 

 私が手にしたのは真っ赤なお洋服……。

 そう、福井たちが作ってくれた服だ……。

 それを頭からかぶって着てみる。

 

「うーん……」

 

 ひらひらの沢山ついた真っ赤なお洋服……。

 まぁ、それはいいんだけど、なぜか、胸パッドが付いてるんだよね、これ……。

 

「着心地がなんか……」

 

 私は走ったときに、風が服の中を通って、ふわっと襟元から出てくるのが好きなんだよね、そう、いつも着ている白いワンピースみたいに。

 だから、いつも両手を広げて風を受けて走るの。

 まっ、しょうがない、乾くまで我慢しよ。

 

「よし!」

 

 と、私は夏目のタオルを持って、ロッジをあとにする。

 

「翼ぁ!」

 

 私はタオルをぐるぐる回して走っていく。

 

「お、きたきた」

「おかえりなさい、ナビー」

「似合ってるじゃん、やっぱり」

 

 と、狩猟班の女子三人が迎えてくれる。

 

「いいね、かわいいよ、ナビー」

「おっきい……」

「お姫様みたいね」

 

 みんなが私を見て感想を言い合う。

 ふふふ……。

 

「うふふふ……」

 

 私は上機嫌でその場でくるくると回ってみせる。

 ひらひらがいっぱいのスカートが綺麗に広がる。

 

「えへへへ……」

 

 今度は反対回転! 

 長い金髪がうずを巻くような感じでついてくる。

 

「なんなんだろうね、このかわいさって……」

「見た目はもちろんだけど、ナビーって、性格や仕草が抜群にかわいいんだよね」

「わかる、それ、ホント、かわいさが尋常じゃない……」

 

 ふふふ、なにしろ私は純心無垢、天真爛漫、ウィットに富んだ明るい優しい女の子なんだから。

 でも、誤解しないでよね、そういう設定なんだからね! 

 本当はパーフェクトソルジャーなんだからね! 

 

「うわああああああ!!」

 

 と、そんな事を考えていると、森のほうからそんな叫び声が聞えてきた。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 あれ、いつもと違う。

 見ると、森のほうから弓と槍を持った二人組みが駆け出てくる。

 そう、それは狩猟班の二人、和泉と佐野だった……、あ、あれ、秋葉は? 

 まっ、いっか……。

 

「な、ナビー! 大変だぁああああ!!」

 

 と、和泉が血相を変えて叫ぶ。

 

「うん? なに、どうしたの?」

 

 また、どうせいつものでしょ……、今度はなんなのよ……、と、私は少し呆れ顔になる。

 

「な、ナビー、これ、これ!!」

 

 和泉が口をぱくぱくさせながら、佐野が抱えている物体を指さす。

 

「だから、なによ、もう……」

 

 うんざりしながら、佐野に視線を向ける……。

 うーん……、うーん……、うーん……。

 

「うん……、赤ちゃんだね……」

 

 結構大きいね……。

 真っ白で、そうね……、シウスやチャフより相当大きいね……。

 つぶらな黒い瞳はおんなじ、耳がぴくん、ぴくんとしてて、とってもかわいらしい……。

 でも、これ、馬よね、お馬さんに見える……。

 でも、さすがに、和泉たちでも……。

 私は何度もその赤ちゃんを見る……。

 

「って、やっぱり、仔馬じゃねぇか!?」

 

 やば、びっくりしすぎて、素が出ちゃった……。

 

「そ、そうなんだよ! 仔馬なんだよ! 大物狙おうとして、その辺を歩いていた馬を狙ったら、狙いが外れてダッシュで逃げていったんだよ! そしたら、そのあとにはこの仔馬が取り残されていて!!」

 

 うそだ、絶対うそだ。

 

「そ、それで、拾ってきちゃったの……?」

「そう、かわいそうになって!」

 

 うーん……、うーん……、うーん……。

 何を言っても無駄な展開だ……。

 

「ほらぁ! ほらぁ!」

 

 と、私は背中を押されて、佐野の持つ仔馬の前に連れていかれる。

 

「ぷるるぅ……」

 

 じっと仔馬が私を見つめる……。

 

「ほら、撫でてみて、ナビー」

「う、うん……」

 

 そっと、面長な顔に手を添える……。

 

「ぷるるぅ……」

 

 思ったよりも硬い、でも、毛並みはふわふわとして柔らかい……。

 

「ぷるるぅ……」

 

 あ、最初はちょっと冷たかったけど、じんわりとあったかくなってきた……。

 

「ぷるるぅ……」

「どうしたの?」

 

 優しく微笑んで顔を傾ける。

 

「ぷるるぅ……」

「大丈夫、大丈夫、怖くないよ」

 

 なでなでする…。

 いいなぁ、こういうの……。

 

「それじゃ、名前つけよっか、ね、ナビー?」

 

 と、和泉が私の顔を覗き込みながら言う。

 名前かぁ……。

 

「佐野、降ろしてやって」

「うい」

 

 佐野が仔馬を地面に降ろす。

 すると、仔馬はふらふらとよろける。

 

「ああ……」

 

 と、私は仔馬の身体を支える。

 あ、案外小さい。

 体高、背中までの高さは1メートルもない、そして、顔の位置は私よりもかなり低く、たぶん120センチくらいしかない。

 これ、馬……? 

 ロバとかポニーじゃないの……? 

 と、そんな事を考えていると、仔馬がじりじり、じりじり、と、後退りしていく。

 

「うん?」

 

 そして、10メートルくらい後退ると、前足で地面をかくような仕草をして……。

 

「ああ!?」

 

 私に勢いよく突進してきた! 

 なんでぇ!? 

 あ! 赤いお洋服に反応したのか! 

 この子は牛だ! 

 

「きゃっ!」

 

 と、顔を庇おうとした瞬間、仔馬は走る速度をゆるめ、私の手前で歩く感じになって、コツンと、私のお腹のあたりに頭突きをする……。

 全然痛くない……。

 

「ぷるるぅ!」

 

 そして、また仔馬はじりじりと後退っていく。

 10メートルくらい離れると、前足で地面をかいてから、また突進してくる……。

 そして、私の手前でゆっくりになって、またコツン、と……。

 

「ぷるるぅ!」

 

 また、じりじりと後退る……。

 

「むぅ……、むぅ!」

 

 私も前かがみになって、仔馬に頭を向ける。

 そして、仔馬と同時に走りだす。

 でも、お互い近づくと、ゆっくりになって、そして、コツン、と、頭同士をぶつける。

 

「ぷるるぅ!」

「るるるるぅ!」

 

 額をつけたままぐりぐりしてやる! 

 

「るるるるぅ!!」

「ぷるるぅ……」

 

 負けを悟ったのか、仔馬が大人しくなる。

 

「よし、よし」

 

 私は満足して顔を上げて、仔馬の頭を撫でてやる。

 

「どう、ナビー? 気に入った?」

 

 和泉が笑いながら歩いてくる。

 

「うん!」

「そか、それは、よかった、じゃぁ、名前をつけようか」

 

 名前かぁ……。

 

「ぷるるぅ……」

 

 頭を撫でられて仔馬が気持ち良さそうにしている……。

 うーん、でも、最初の突進は弾丸みたいだったよね、正直びっくりした……。

 よし。

 

「ウェルロット」

 

 昔、私が愛用していた拳銃の名前。

 

「ウェルロットか、いい名前だ、よかったな」

 

 と、和泉もウェルロットの頭を撫でる。

 

「ぷるるぅ!」

 

 こうして、私たちは仔馬を一頭飼う事になった。

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