傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第27話 索敵

 露天風呂の囲いの横を駆け抜けていくと、すぐにその曲がり角に差しかかる。

 その角を曲がった先にあるのがボイラー室だ。

 私は立ち止まり、壁越しに顔を出して、ボイラー室周辺に人がいないか確認する。

 

「人影は、見えない……」

 

 ボイラー室周辺は薄暗く、遠くのかがり火の灯りがかすかに届くだけで、視認性は最悪。

 見えるのは、ボイラー室と、その横に置いてある焚き木の山のみ……。

 

「いないかぁ……」

 

 もしかして、考えすぎだったかなぁ……。

 私はボイラー室の方へ歩いていく。

 

「うん……?」

 

 と、思ったら、ボイラー室から誰か出てきた。

 私は大急ぎで焚き木の山のうしろに隠れる。

 相手は一人。

 暗くてよくみえないけど、シルエット的に男子たちの誰かだね……。

 

「面白いなぁ、もう偵察に来ていたのかぁ……」

 

 思わず笑ってしまう。

 気付かれないように追跡する、本隊がどこにいるのか確かめないと。

 私は彼のずっと後方をバスタオルをひらひらとさせながら追いかける。

 

「ビンゴだぜ、人見」

 

 かなり奥にいるのかと思ったけど、結構近くにいた。

 ここはまだ広場の明かりが届く範囲だ。

 私は大木の裏に隠れて、息を潜める。

 

「正面で防衛にあたっているのは、参謀班、女性班、狩猟班の女性陣だけだ、生活班は確認できない、やはり、ターゲットは風呂の中にいる」

 

 話しているのは、声からすると、参謀班の南条大河だろう。

 

「そうか、ご苦労だったな、南条……」

 

 こっちは人見彰吾かな。

 

「青山、東園寺に伝令を頼めるか?」

「ああ、構わない、走る」

「突撃は予定通り30分、ターゲットは風呂の中にいる。そう、伝えてくれ」

「わかった、人見」

 

 と、人影が一つ走り去っていく。

 

「南条、俺たちはもう少し前進する、風呂が見える位置まで移動し、そこで、管理班と生活班の突撃を待つ。魔法は使うなよ、綾原と海老名に感づかれる」

「おーけー、人見」

 

 彼らがこっちにやってくる……。

 私は木から木へと移動して、森の奥、彼らの背後に回りこむ。

 なんだろうなぁ、なんの話だろうなぁ……。

 ターゲット? 

 うーん……、でも、綾原とかに報告に戻ったほうがいいかなぁ、突撃するとか言ってたし……。

 と、私は腕を組んで考え込む……。

 こつん、と、足元からそんな音がした……。

 やば、下駄で木を蹴っちゃった。

 

「なんだ?」

「どうした、人見?」

「何か音がしなかったか?」

「いや、気付かなかったな……」

「そうか、一応確認してくる、南条はそのまま見張っていてくれ」

「おーけー、気をつけてな」

 

 人見がこっちにやってくる、逃げなきゃ……。

 と、逃げ出そうとするけど、なんか、ひっかかった。

 あ、バスタオルが枝にひっかかっている……。

 人見の足音が近づいてくる! 

 私はそのままくるくる回転して、バスタオルを脱ぎ捨てる。

 この際、しょうがない、捕まるよりはいい……。

 私は裸になって、さらに奥の木の影に隠れる。

 

「なんだ……?」

 

 と、人見が私の脱ぎ捨てた白いバスタオルに気付く。

 

「タオル……?」

 

 彼がそれを手に取る。

 

「あたたかい……、それに、少し湿っているな……」

 

 そして、バスタオルを顔に近づけ匂いを嗅ぎ始める……。

 くんくん、くんくん、と、匂いを嗅いでいる……。

 

「こ、これは……、くんくん、くんくん……」

 

 匂いを嗅ぎ続けている……。

 何をやっているんだ、あいつは……? 

 と、首を傾げるけど、これは、絶好のチャンスだよね。

 私はそっと、彼の背後から忍び寄る。

 

「くんくん、くんくん……」

 

 彼は夢中でバスタオルの匂いを嗅いでいる……。

 そっと、そっと……。

 

「くんくん、くんくん……」

 

 倒木の上にあがり……。

 

「くんくん、くんくん……」

 

 そーっと、彼に覆いかぶさるように腕をまわして、その口元を押さえる。

 

「くん……?」

 

 そして、彼の耳元に顔を近づけて言ってやる。

 

「めぇ……」

 

 間違った、それはシウスだ。

 

「ねぇ……、彰吾……? なにやってるの……? それは、私のバスタオルだよ……?」

「おごっ?」

「黙って、聞いて、ナビーよ」

「なごぉ?」

「話は全て聞かせてもらった、そこで取引きしない?」

「とごぉ?」

「そう、取引きよ、私たちの味方になって。そうしたら、今の事みんなには黙っていてあげる」

「おごっ、もげぉ」

 

 なんか、人見がもごもご言ってる。

 

「もしこの事をばらされたら……、私の着けていたバスタオルの匂いを嗅いでいたなんて、みんなが知ったらどう思うかしら……、夕食の時の鼻血の件とあわせて、あなたの信用は地に堕ちるわ……、あの人見くんがねぇ、って……」

「お、おごぉ……」

「だからね、言わないでおいてあげるから、私たちの味方になって、名誉挽回のチャンスよ、ね?」

 

 と、彼の口元からゆっくり手を放す。

 

「わ、わかった……、キミの指示に従う……」

 

 そう言いながら振り返ろうとする……。

 

「ふ、振り向くな、って、いうかバスタオル返して」

 

 なんか、急に恥ずかしくなって、人見からバスタオルを奪い返して身体に巻く。

 

「な、ナビー、そ、それで、俺はどうすればいいんだ……?」

 

 私から視線を逸らしながら言う。

 

「そ、そうね……、公彦たちが突撃してくるんだよね……?」

 

 バスタオルを直しながら人見に尋ねる。

 

「ああ、そうだ、まもなくだ」

「じゃぁ、作戦はシンプルのほうがいいわね……、彰吾は私が合図したら背後から攻撃して、ああ、暴力は駄目なんだっけ……、じゃぁ、防衛系の魔法で足止めして、転ばしてやる感じで」

「それだけでいいのか? なら、どうする? 南条も味方に引き入れておくか?」

「うーん、大河はいいよ、交渉に失敗したら面倒だから、あんまり危ない橋はわたりたくない、彰吾だけで十分よ」

「そうか……、なら、このまま南条と合流してキミの合図を待つ事にする」

「うん、お願いね、彰吾」

「ああ、まかせておけ、汚名返上だ」

「うん、よろしく」

 

 と、私はまた駆け出して、露天風呂、防衛隊のみんながいる場所に向かう。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 それにしても、あの大魔道人見彰吾が仲間に加わってくれたのは大きい。

 実際、彼の魔法はすごいから……。

 あとは何も知らないで突撃してくる男子たちをぼっこぼこにしてやるだけだね! 

 

「みんなぁ!」

 

 と、私は大喜びで、バスタオルを手でぐるぐる回しながら走っていく。

 

「な、ナビー、ちゃんと隠して、は、恥ずかしいから……」

 

 夏目がそんな事言っているけど気にしない。

 

「男子たちの作戦がわかったよ! やっぱり森の中に隠れていて、ボイラー室のほうが突撃してくるって! もうすぐくるって!」

 

 私は一生懸命、みんなに説明する。

 

「そう、やっぱりそっちから来るのね……」

「どうしよう、雫、後方の守りを厚めにする? そうすると、入り口付近が手薄になるけど」

 

 と、綾原と海老名が話している。

 

「それでね!」

「ナビーはちゃんと服を着ていらっしゃい」

 

 人見が仲間に加わった事を言おうとしたけど、言葉を遮られるように綾原にそう言われた。

 

「うー……」

 

 それもそうね、裸だった……。

 

「服着てくる!」

 

 と、私は露天風呂の中に走っていく。

 お風呂場は湯気でよく見えないけど、湯船には誰も浸かっていないのは確認できる。

 

「あ、あれ? みんなは……?」

 

 私は湯船を見ながら、浴衣がかけてある囲いのところまで歩いていく。

 

「ナビー」

「遅かったね、お外どうだった?」

 

 と、見ると、みんながボイラー室へと続くドアの前で何かやっていた。

 

「あ、いた! えっとね、もうすぐ男子たちが突撃してくるって! 今からそれをみんなで迎え撃つの! 私も急いで服着て戻らなきゃ!」

 

 私は踏み台に登って、囲いにかけてある下着を取りながら答える。

 

「そうなんだ、ついにはじまるのね……」

「緊張するね……」

「みんなは何してるの?」

 

 私は下着を履きながら尋ねる。

 

「ふふ、もちろん、バンジステーク、にくだけ、ぎょく、を設置しているのよ……」

 

 はぁ? 

 そんな事より、早く服を着て戻らなきゃ……。

 私は浴衣を羽織って帯を取る……。

 

「麻美ぃ、手伝ってぇ」

 

 と、泣きそうな顔でお願いする。

 

「はい、はい」

 

 福井が浴衣の着付けを手伝ってくれる。

 おっと、これこれ。

 ネックレス。

 人見に貰ったアミュレット、そう、身を軽くしてくれるという魔法のネックレスだ。

 着けている時は感じないけど、外すと身体が重くなったのがはっきりとわかる。

 私は首に手を回してネックレスをつける。

 

「「「おおお!!」」」

 

 その時、外からそんな雄叫びが聞えてきた。

 

「きた!!」

 

 男子たちだ! 

 

「よし、じゃぁ、行ってくる!」

「いってらっしゃい」

「気をつけてね、ナビー」

 

 生活班のみんなに見送られながら露天風呂をあとにする。

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