傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第3話 孤立

 深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。

 

「それにしても、なんて手触りのいい髪の毛なんだ……」

 

 呼吸を整えつつ、きめの細かい金色の髪をひたすらなでなでしたり手ぐしをしたりする。

 

「よし、少し落ち着いてきた……」

 

 髪の毛を触りながらきょろきょろと周囲の状況をうかがう。

 周囲には大勢の高校生たちがいて逃げ出す隙もない。

 相手はただの高校生、元の身体ならば逃げる必要すらない、この場で全員皆殺しに出来た。

 戦えない身体……、逃げ出せない身体……、か……。

 視線を落とす。

 

「鏡……」

 

 近くに落ちていた手鏡を取り、それを覗き込む。

 

「うーん……」

 

 鏡に映るその顔は、まるで少女そのもの……。

 快活に見開かれた、いたずらっ子のようなアイスブルーの瞳、細い眉と細い鼻筋、薄いピンク色のつややかな唇……。

 肌は白く透き通り、陶器のようななめらかさがある……。

 これは……、可愛いというより、絶世の美少女だな……。

 手鏡を置き、立ち上がってみる。

 視界の高さからすると、身長は140センチ前後だろうか……。

 そして、両手広げてその場でくるくると回ってみる。

 白いワンピースの裾が広がる。

 うーん、体重は30キロ前後だとは思うが、どうも、筋肉が皆無のせいか、以前より身体が重く感じる……。

 鍛え直しか……、使い物になるまで10年以上かかるぞ……。

 俺はワンピースの裾をつまんで太ももなどを覗き込む。

 かかとが柔い……。

 ピンクのサンダルを履いた足を何度かトントンとする。

 爪も薄い、こんなのすぐ剥がれるぞ……。

 と、俺はこの身体の特徴をつぶさに観察していく。

 

「ナビー?」

 

 その時、夏目が帰ってきた。

 隣には和泉もいる。

 

「落ち着いた?」

 

 と、彼女はどこからか持ってきた紙コップを手渡しながら尋ねてくる。

 

「は、はい……、なんとか、ご迷惑をおかけしました……」

 

 なんて可愛らしい声を出すんだ、俺は……。

 俺は受け取った飲み物をひと口すする。

 ああ、生き返る……。

 ちょっと目眩がして、その場にしゃがむ。

 すると、夏目と和泉も俺の隣に座って一息つく。

 

「自己紹介がまだだったね、私は夏目翼(なつめつばさ)、高校二年生よ」

 

 と、夏目がにっこり笑う。

 

「あ、俺は和泉、和泉春月(いずみはる)、よろしくね」

 

 和泉も追随して自己紹介する。

 

「ご丁寧にどうも……、えーっと……、たけ……、じゃない、ナビー、えーっと、ナビーフィユリナ・ファラウェイです……」

 

 と、俺も自分の名札を見ながら自己紹介する。

 周囲を見渡してみると、他の高校生たちも救助などが終わったのか、一様に座り込み、大破した旅客機を呆然と眺めていた。

 人数を数えてみると……、ちょうど三十人、全員同じ制服を着た高校生たちだ……。

 不思議だな……。

 

「救助……、すぐ来るかな……?」

「どうなんだろ、捜索はしていると思うけど……」

 

 と、隣の女子グループの子たちの会話が聞えてくる。

 

「山奥だったら見つけられないよね……?」

「うん、ここ、どこなんだろ……?」

「北海道から飛んで来たんだから……、金沢とか北陸……?」

「京都に向かってたんだから、その周辺、滋賀とか?」

 

 違う、大阪の手前、奈良のどこかだ……。

 といっても、それは口にしない、俺がハイジャック犯だと疑われたらかなわんからな……。

 

「なんにしても、すぐに救助がくるよ」

「そうだよね……、ヘリコプターとかで探せばすぐに見つかるよね、私たち……」

 

 あまい。

 捜索隊を出すか出さないかは、その墜落した旅客機の積荷による。

 積荷に放射性物質があれば乗客の救助よりも、その周辺住民の避難誘導が優先される。

 まっ、普通は積んでいるだろうがな……。

 もちろん、放射性物質といっても兵器とかそういう類のものではない、レントゲンとか医療用のやつだ。

 周辺住民の避難誘導に二日、それから放射線を測定しながら慎重に捜索……、救助が来るまで最短で三日、最長で五日ってところか……。

 それまで、この少女を演じなければならないのか……。

 俺はひとつ溜息をつく。

 

「ナビー、暗い顔しないで、大丈夫だからね、すぐに助けがくるからね……」

 

 と、夏目翼が俺の肩を抱いて言う。

 

「う、うん……」

 

 俺は顔を上げて少し笑顔をつくる。

 

「あっ、そうだ……」

「携帯!」

 

 と、別の男女のグループが大きな声を上げる。

 

「あっ! そうだ、スマホがあった!」

「そうだ、そうだ!」

 

 その彼らがポケットやポーチなどから携帯電話やスマートフォンを取り出す。

 そして、電源を入れて操作を始める。

 

「はやく! はやく!」

 

 スマートフォンを振ったりしながら起動するのを待つ。

 

「あ、圏外……」

「えっ、う、うそ、私も圏外」

「お、俺も……」

 

 と、全員圏外なのか、落胆の色が広がっていく。

 だろうな、こんな山奥じゃな……。

 

「あ、もしもし?」

 

 と、その中の一人が携帯電話を耳にあてながら言った。

 

「え? 繋がったの?」

「ほ、ホントに?」

「よ、よかったぁ、これで救助がくるよ……」

 

 それぞれが安堵の表情を浮かべる。

 

「あ、俺だけど、えっと、味噌ラーメン一つに、あと半チャーハン一つ、ええ、ええ、いつもの……」

 

 と、話し続ける……。

 

「えっ!? 今日ポイント二倍デーっすか!? マジっすか!? じゃぁ、餃子もつけちゃおっかなぁ……、って、圏外じゃねぇか!!」

 

 と、携帯電話を地面に叩きつける。

 

「う、うそだろ、ここでそれかよ、佐々木……」

「し、信じられない……」

 

 失望に変わる……。

 

「い、いや、お、面白かっただろ? つ、次、次、福井さんの番!」

 

 と、その彼が福井という女性の持つスマートフォンを指さしながら言う。

 

「え、なに? ボケないと駄目なの? そういうゲーム?」

 

 彼女が適当に画面をいじったあと、スマートフォンを耳にあてる。

 

「あ、私だけど、うん、うん……、そうだね、あの約束覚えてる? うん、それ、よかった、覚えててくれたんだ……、ううん、なんでもない、ちょっと気になっただけ……、えへへ、それでね……、うん? もう、それはあとで……、うん、じゃぁ、先に言ってくれたらいいよ……、うん……、ありがと、私も愛してる、チュ……、って、圏外どころか恋愛脳じゃねぇか!!」

 

 と、彼女がスマートフォンを地面に叩きつける……。

 

「すげぇ、煩悩の塊だ……」

「熱演すぎるだろ……」

「衝撃のクライマックスとはこれの事ね……」

 

 彼女には惜しみない称賛が贈られる。

 

「いい加減にしろよ、なに遊んでだよ、少しは真面目にやれ、死ぬかもしれないんだぞ?」

 

 と、それを遠巻きに見ていた男が怒気をはらんだ声で言う。

 

「わ、私たちって死ぬの、せっかく助かったのに……?」

「だ、だよね、飛行機が墜落したんだから、みんな死んでると思って急がないよね……」

「やっぱりそうなんだ、このまま狼とか熊に食べられちゃうんだ……」

 

 みんなが暗い表情でうつむき加減になる。

 

「お家に帰りたい、こんなところで死ぬのはいやだよぉ、う、う……、ひっぐ……」

 

 と、そのうちのひとりがしゃがんで泣きだす。

 

「あーあ……、みんな山本のせいだよ、せっかくいい雰囲気になってたのに……」

 

 福井が泣いている子の背中をさする。

 

「おい、山本!? 女の子泣かして、なにが楽しいんだよ!? 真面目にやってたら、こうなることくらいわかるだろ!?」

 

 と、最初の電話のネタをやっていた佐々木が山本に掴み掛かる。

 

「なんだよ、それ!? 茶化してるようにしか見えねぇんだよ、全然面白くねぇんだよ!!」

「なんだと、この野郎!? 俺のは面白くなくても、福井さんのは十分面白かっただろ!?」

 

 と、二人が揉みあいになり喧嘩を始める。

 

「やめろ、やめろ、はなれろ、俺のクラスで問題を起こすな」

 

 髪を赤く染め上げているやつが割って入り二人を引き離す。

 そいつは体格もよく、背も180センチは軽く超えているだろう。

 

「あの人は……?」

 

 と、俺は彼を指さして夏目に尋ねる。

 

「うん? 東園寺くん、東園寺公彦(とうえんじきみひこ)くんよ、それがどうしたの?」

「ううん、なんとなく……」

 

 切れ長の鋭い眼差し、なかなかに精悍な顔付きをしている……、そうか、あいつがここのリーダーか……。

 

「東園寺……、これからどうする?」

 と、その赤髪の彼に銀縁メガネの頭の良さそうなやつが話しかける。

 

「人見……、考えよう……」

 

 二人で相談を始める。

 俺はその二人を観察しながら、紙コップに残った水をちびちび飲む。

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