あれば芝居だ……。
ドジっ子プレイだ……。
私も最近よくやるからわかる……。
その証拠によく転ぶ割には服が綺麗、つまり、河原よりも歩きにくい森の中をちゃんと歩いてきた事の証明。
「だ、大丈夫、立てる!?」
「きゅー、きゅー」
夏目が彼女に駆け寄り、その背中に手を添える。
「きゅー……」
現地人の彼女が涙目になった顔をあげる……。
「怪我はない?」
「ちょっと、膝を擦りむいたみたい」
彼女の膝に血が滲んでいる。
「わ、はっぷ、がっぱぷーん」
と、笑顔を作り立ち上がる……。
「けしゃふ、けせふぃ、ほっろー、すっしー、はっぱぷーん」
そして、両手を広げて、ひとり一人顔を見ながら笑顔で話す。
「な、何を言ってるの……?」
「わ。わかんない……」
みんなが困惑するけど、そのまま彼女は話し続ける。
「るって、えしゅりん、でっど、ろーす、わ、ちゃってぷーん」
とか言いながら、私に近づいてきた……。
そして、手を伸ばす。
私はその手を横に払うようにして手首を掴み、内側にひねる。
「きゅー、きゅー!」
そのまま、背中に腕を回して締め上げる。
やっぱりね、一番弱そうな私を狙ってきた。
でも、おあいにく様、私が一番強いのよ。
「きゅー! きゅー!」
と、痛いのか、自分の肩を何度も叩いて、ギブアップって感じで訴える。
「な、ナビー、ど、どうしたの、やめて」
「い、痛がっているぞ!?」
くっ、こいつのドジっ子プレイにみんなが気付いてない……。
しょうがないので、少し乱暴に突き放すように彼女を解放する。
「きゅ、きゅー……」
と、解放された彼女は手首を押さえながら涙目で振り返る。
でも、またすぐに笑顔をつくり、両手を広げて話し出す。
「なぎ、るって、えしゅりん、でっど、ろーす、ふ、みーす、うっらぷーん」
一生懸命みんなの顔を見ながら話す。
「なんて言っているんだろ?」
「さぁ、なんか、困っているのかな?」
みんなが首を傾げていると、また、現地人の彼女が歩き出し、今度は和泉のほうに向かう。
そして……、河原の石につまずいて、トテン、と、転倒する……。
「きゅー、きゅー」
くっ……。
また、ドジっ子プレイか……。
負けない。
「だ、大丈夫!?」
と、心配した振りをして、彼女に駆け寄り、とおおりゃぁあ!! と、石に躓いた振りをして、前方回転受身!!
くるっと……。
「えうっ!?」
いってぇええええ!?
背中に石あたっちゃった!!
「あう、えう、い、痛い、た、助けて……」
痛すぎて、涙がぽろぽろ出てきた……。
「な、ナビー、大丈夫!?」
「えっ、い、今、自分で飛ばなかったか!?」
と、みんなが心配して駆け寄ってきてくれる。
「なぎ、るって、きゅーぷーん……?」
現地人の彼女が心配げな顔をして、うずくまる私の両脇にそっと手を添える。
「ううう……、きゅー、きゅー」
「るって、きゅーぷーん」
と、笑顔で私を立たせ、背中についた小石とか枯れ草をはらってくれる。
「うう……、痛いよぉ、痛いよぉ、きゅー、きゅー……」
零れた涙を指ですくう。
でも、この子、いい子かもしれない。
「あぇい、きゅーぷーん……、あぇい、きゅーぷーん……」
優しく背中をさすってくれる……。
うん、いい子だ。
「ありがとう、きゅーぷーん」
と、少し笑ってお礼を言う。
すると、彼女も笑顔で返してくれる。
なんか、お友達になれそう。
「よかった、なんともなさそうね……」
「びっくりしたよ、もう……」
みんなも、私たちがなんともなさそうなのを見てほっと胸を撫で下ろす。
「るって、えしゅりん。わ、はっぱぷーん?」
うん?
「私? 私はナビー、ナビーフィユリナ・ファラウェイ」
なんとなく、名前を聞いている気がしたので自己紹介してみる。
「ナビー!」
と、彼女が両手を挙げて私の名前を呼ぶ。
「ナビー! るって、えしゅりん!」
今度は自分の胸に手をあてて言う。
「ああ、エシュリンね、それがあなたの名前なのね?」
「るって、はっぱ、エシュリン!」
と、万歳して嬉しそうに答える。
「るって、はっぱ、ナビー!」
私も真似して万歳して言う。
「るって、はっぱ、エシュリン!」
今度は飛び跳ねながら万歳する。
「るって、はっぱ、ナビー!」
私も同じように飛び跳ねる。
「るって、はっぱ、エシュリン!」
「るって、はっぱ、ナビー!」
なんか、楽しくなってきた!
「るって、はっぱ、エシュリン!」
「な、ナビー、言葉わかるの?」
と、何度かそうやっていると夏目に尋ねられる。
「ううん、なんとなく! るって、はっぱ、ナビー!」
それから、私たちは十回くらいそうやって飛び跳ね続けた。
「でも、この子って、どこの子なんだろ?」
「うーん、迷子って歳でもなさそうだしな……」
「いや、遭難したって、可能性はあるだろ、蒼」
「とりあえず、うちで保護しておく?」
と、みんなが話し合っている。
「なぎ、るって、けしゃふ、けせふぃ、ほっろー、すっしー、でっど、ろーす、あ、がっぱ、ぷーん」
彼女がゆっくりと、身振り手振りで、なんとか自分の意思を伝えようとしている。
「うーん、わからん……」
「なんだろうな、いったい……」
「なんか、こう、意味がわかりそうで、わからない……」
「歯がゆいね……」
みんなが途方に暮れている。
「はぁい、はぁい!」
と、私は元気よく手を挙げる。
「ど、どうしたの、ナビー?」
「もしかして、わかったの?」
「うん!」
もう、超ご機嫌だから、サービスしちゃう!
「これ、ドイツ語だよ!」
「えっ?」
「ど、ドイツ語?」
「うん! 私、少しわかるから話してみるね!」
「おお! さすがアングロサクソン!」
「頼んだぞ、ナビー!」
私はエシュリンに向き直りドイツ語で話し始める、
「フンバルト! ミーデル! モーデル! ヨーデル! スゴイデル!」
と。
「ふんばると?」
エシュリンが首を傾げる。
「そう! フンバルト、ミーデルの!」
「ふんばると、みーでるの!」
エシュリンが万歳しながら飛び跳ねて復唱してくれる。
「フンバルト、ミーデルの!」
私も飛び跳ねてもう一回言う。
「ふんばると、みーでるの!」
「フンバルト、ミーデルの!」
もう、楽しすぎ!
「ふんばると、みーでるの!」
「フンバルト、ミーデルの!」
私たちは何回もそれを繰り返す。
「ちょ、ちょっと、それ、ドイツ語じゃない……」
「と、と云うか、そ、それ、下ネタ?」
「だ、誰か、ナビーを止めて!」
よし、このくらいでいいだろう、次のステップに進もう。
「うーん、ドイツ語じゃなかったみたい……、うーん、何語だろうなぁ……」
と、腕を組んで考え込む仕草をする。
「あ、わかった! これフランス語だよ、私、少しわかるから話してみるね!」
手をポンと叩いて言う。
「ちょちょ、ちょっと待って、ナビー……」
夏目の制止を無視してエシュリンに向き直り、
「ぼっとーん!!」
と、おもいっきり拳を突き上げながらジャンプする。
「また下ネタだぁ!!」
「やめて、ナビー、下品な事言わないで! せっかくかわいいのに!!」
「誰か、ナビーをとめろぉ!!」
みんなに羽交い絞めにされて止められた……。
「は、はなして、みんな! まだ、イタリア語バージョンとかロシア語バージョンが残ってるんだから!!」
「駄目だ、もうやめろ、ナビー、キミの品位が!」
「ああ、ナビーのかわいいイメージが崩壊していく!」
こうして、私たちは謎の少女エシュリンを居住区ラグナロクに連れて帰る事にしたのであった……。