傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第36話 望まぬ客

 私の誕生日が数日後に差し迫っていた。

 それはナビーフィユリナの誕生日ではなく、武地京哉の誕生日なんだけどね……。

 もういい、武地京哉の事は一旦忘れよう、そうしよう。

 なので、私のお誕生会に向けてみんなが色々と準備をしてくれている。

 

「プレゼントはなにかなぁ」

 

 私は上機嫌で牧舎に向かいながら、そんな事を考える。

 女子たちが何をくれるかはわかっている。

 お洋服だ。

 大概一緒にいるから、わかっちゃうんだよねぇ。

 真っ白なワンピース、私が今着ているやつよりもかわいいやつ、楽しみだなぁ。

 ちなみに、男子たちが何をプレゼントしてくれるかはわからない。

 生活班が使っている工房で夜な夜なみんなが集まって何かを作っているのは知っているけど。

 まっ、それは詮索しないで、誕生日の楽しみに取っておこう。

 ほどなくして牧舎に到着する。

 

「エシュリンがいないな……」

 

 現地人の少女、エシュリンが牧柵の中にいない。

 

「シウスたちの見張りをしていたはずなんだけど……」

 

 いなくても、柵はしっかりしているから逃げ出す心配はないけど……。

 と、私の肩くらいまである柵の棒を掴んで強度を確認する。

 うん、しっかりと固定されている、大丈夫だ。

 それにしても、エシュリン、どこに行ったんだろ……。

 

「ぷるるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

 

 私に気付いたウェルロットたちが駆け寄ってくる。

 

「ウェルロット! シウス! チャフ!」

 

 と、柵の上から手を伸ばして順番に頭をなでる。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 牧舎の中からそんな鳴き声が聞えてくる。

 

「ピップ! スカーク! アルフレッド!」

 

 と、大きな声で彼らを呼ぶ。

 

「よし、先にピップたちを見てこよう」

 

 私は数歩、柵から距離をとり……。

 そのままダッシュ、そして、柵に手をつき飛び越える。

 

「はっ!」

 

 と、綺麗に着地! 

 

「ぷるるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

 

 私の見事な着地にウェルロットたちも歓声をあげる。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

「ピップ! スカーク! アルフレッド!」

 

 と、彼らの名前を呼びながら、思いっきり両手を広げて牧舎のほうに駆けていく。

 

「ぷるるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

 

 ウェルロットたちも大喜びでついてくる! 

 

「よーし、競争だ!」

 

 と、もちろん私が牧舎に一番乗りする。

 窓ひとつ無い牧舎の中は薄暗い。

 でも、小まめにお掃除をしているおかげで匂いは清潔、ほのかに枯れ草の香りが漂うのみ。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 ピップたちが私を呼んでいる。

 少し駆け足で彼らのところに向かう。

 

「おまたせ」

 

 しゃがんで籠の隙間から指を入れてピップたちの頭をなでる。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

「いたい、いたい」

 

 私の指を軽くつついてくる。

 

「よーし、負けないぞぉ」

 

 と、指を左右に振ったり上下に上げ下げしたりして彼らの攻撃を避ける。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

「あ! 食いついてきた! はなして、はなして!」

 

 えへへ、なんてかわいいんだろ……。

 自然と笑みがこぼれる。

 それにしても、ピップたちも大きくなったよねぇ……。

 もう20センチくらいある。

 大きさもそうだけど、一番の変化は羽毛、黄色い産毛じゃなくて、茶色い羽毛が生えてきた。

 黄色い産毛と茶色い羽毛が半々って感じでまだら模様になっている。

 

「ぴよ、ぴよ!」

「ぴよっぴぃ!」

「ぴよぉ!」

 

 籠の中を元気に走り回って三羽でじゃれている。

 

「うーん、やっぱり狭いよね……」

 

 縦横1メートルくらいの籠だからね。

 ちなみに、ウェルロットの牧舎を作る話はなくなった……。

 うん、よく考えて見ると、それで解決しないから。

 だって、結局放すのは外の牧柵の中だからね、ピップたちが大人になって、自分の身は自分で守れるようになるまではどうしようもない。

 

「早く大きくなるんだよぉ、そして、タマゴをいっぱい産むんだよぉ」

 

 と、また指先で彼らの頭をなでる。

 

「ぴよ、ぴよ……」

「ぴよっぴぃ……」

「ぴよぉ……」

 

 気持ち良さそうにしている。

 

「よし!」

 

 と、思う存分、ピップたちの頭をなでたあと立ち上がる。

 

「エシュリンを探しに行こう! おいで、ウェルロット、シウス、チャフ!」

「ぷるるぅ!」

「めぇ!」

「めぇえ!」

 

 彼らを引き連れて牧舎をあとにする。

 

「今から翼たちと野菜を採りに行くんだよねぇ……」

 

 エシュリンにウェルロットたちを見ていて欲しかったのに……。

 牧舎を出て、すぐ異変に気付く。

 広場の向こう、ルビコン川に向かう道の入り口に人だかりが出来ていたから。

 なんだろうと思い、その人だかりをじっと観察する……。

 人が多い……。

 たぶん、30人くらいいる……。

 東園寺とか鷹丸、あと人見や南城、徳永までいる。

 そして、その向こう、彼らと対峙しているのは……。

 赤や黄色、みろり色などの原色系の民族衣装を身に纏った人々……。

 

「現地人?」

 

 そう、それはエシュリンや前にラグナロクを襲撃したやつらと同じような衣装を身に纏った現地人の一団だった。

 それが20人ほどいる。

 

「エシュリンか!? あいつが現地人を引き入れたのか!?」

 

 彼女がいなかった理由がわかった。

 

「ウェルロット、シウス、チャフ、牧舎に戻って、危ないから!」

 

 と、ウェルロットたちを牧舎に押し込んで、開け放たれていた扉を閉める。

 

「よし!」

 

 私も応援に行く! 

 と、勢い良く走り出し柵を飛び越えて、人だかりに向かって全速力で走っていく。

 

「裏切ったな、エシュリン!」

 

 と、一瞬思ったけど、別に戦っている様子はない……。

 あ、あれか!? 

 エシュリンを迎えに来た人たちかもしれない、家族とかそういうやつ。

 

「ぽ、るっく、わ、ぱーす、ぷーん」

「なんて言っているんだ、エシュリン?」

「えっと、敵ではありません、ぷーん、るって、なのです」

 

 近づくとそんなやり取りが聞えてくる。

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 と、呼吸を整えつつ、みんなのうしろから背伸びをして現地人たちを覗き込もうとする。

 うーん、よく見えない……。

 よいしょっと……。

 隙間から身体をねじ込んで前に進む。

 

「ナビー!」

 

 すると、私を見つけたエシュリンが嬉しそうに名前を呼ぶ。

 

「ナビー! こっち、こっち、ぷーん!」

 

 と、彼女に手を掴まれて真ん中に連れていかれる。

 

「え、エシュリン、こ、これは……?」

 

 ラグナロクのみんなと現地人の集団のあいだに大量の物資が置かれていた。

 それは果物、野菜、肉の加工品などの食料をはじめ、衣類、毛布、さらには木彫りの彫刻と多種多様な物で構成されている。

 

「ぽ、るっく、るって、ちゃーりしりてりー、はーす、ぴゅってちゃりてぃりー、ぷーん」

 

 と、現地人の年配の、真っ白い長い髭の人が両手を広げて満面の笑みで言ってくる。

 

「なんて言っているの?」

「お供え物、ぷーん、ナビー!」

 

 エシュリンが両手を広げて嬉しそうにそう通訳する。

 

「お、お供え物……?」

 

 困惑する。

 

「私たちに、ってこと……?」

 

 大量の物資を見ながらつぶやく。

 

「そう! エシュリンが、持ってくるように、命令した、ぷーん!」

「はぁ?」

「エシュリンは、姫巫女! ナギ様方の、怒りを、鎮めるために、やってきた、ぷーん!」

 

 ひ、姫巫女……? 

 まじまじと彼女の顔を見つめる。

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