傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第47話 細糸のコンセンサス

 ランタンのゆらゆらとした明かりが道を照らす。

 それは、後方からの明かりで、私の前方に長い、長い私の影を作り上げる。

 私はその影を追いかける……。

 歩く速度を上げれば、同じように私の影も速度を上げる……。

 反対に追いかけるのを諦めて速度を緩めれば、私の影も速度を緩める……。

 

「くっ、弄びやがって……」

 

 と、内心舌打ちをする……。

 などと、遊んでいる場合ではない。

 

「ねぇ、ハル……?」

 

 と、私はうしろを歩く和泉に声をかける。

 だが、返事はない……。

 まぁいい……。

 私は水溜りを避けながら歩く。

 

「よっと」

 

 さらに、時折落ちている少し大きめの石を飛び越える。

 

「なんか……、お化けで出そうで怖いから、お話しながら歩くね……」

 

 当然、うしろからの返事はない。

 

「よっと!」

 

 また落石を飛び越える。

 ちょっと、大きめの石だったので、着地の時に両手を広げてバランスをとる。

 

「100年前、この地に舞い降りた天滅(あまほろぼす)の伝説は知っているよね? 現地の人たちがナギと呼ぶ存在の事よ」

 

 肩口に和泉をちらりと見て話し始める。

 

「世界を滅ぼす存在……、そう伝説は語る……、で、問題はここから、どうして彼らは世界を滅ぼそうとしたの?」

 

 また小さな水溜りを避ける。

 

「エシュリンが言うにはね、それは彼らのお姫様がいなくなっちゃったからなんだって、綺麗な長い金髪の小柄でかわいらしいお姫様、アイスブルーの瞳で、純白のドレスを着た綺麗なお姫様……」

 

 お姫様の容姿は全部嘘なんだけどね。

 

「お姫様がいなくなって、現地の人たちがさらったと思った天滅(あまほろぼす)は怒り狂い世界を攻撃した……、でもね、それは誤解なんだって……」

 

 うつむき加減に水溜りを避けながら歩く。

 

「お姫様はいなくなってなくて、森の中で迷子になっていただけなんだって、でも、運の悪い事に、そのお姫様が木登りしたときに足に蔦かがからまって取れなくなった、お姫様の身体は木の枝から宙ぶらりん、一生懸命、蔦を取ろうと頑張ったけど無理だった……、何度も何度も、こうやって、足にからまった蔦を取ろうとした……」

 

 前かがみになって、足にからまった蔦を取る仕草をする。

 

「そうこうするうちに天滅(あまほろぼす)が現地の人たちを攻撃し始めた、世界を燃やす勢いでね……、お姫さまはそれを止めようと蔦を取ろうとする……、でも、取れない、一年、二年経っても取れない、お姫様の命が尽きても取れない、死んでも尚、天滅(あまほろぼす)の攻撃を止めようと、足にからまった蔦を取ろうとする……」

 

 私も蔦を取る仕草を繰り返す。

 

「それは、今でも続いている……、100年経った今でも、お姫様は足にからまった蔦を取ろうとしている……」

 

 蔦を取る仕草を止めて、前を向いて歩きだす。

 

「でね、ここからは私の想像なんだけど、その天滅(あまほろぼす)ってヒンデンブルク広場の人たちの事なんじゃないの? 時代的にも一致するし、もし、そうだとしたら、そのお姫さまが迷子になった森って、このあたりなんじゃないの?」

 

 今度は立ち止まって顔だけ彼に向けて言う。

 

「あっ……」

 

 森のほうを見て小さく声をだす。

 

「ねぇ、ハル、あそこに誰かいない?」

「えっ……」

 

 彼が小さな声を出す。

 おしい、今のはセーフか? 

 

「だ、誰かいるよ、ハル! 見間違いじゃないよ!」

 

 と、私は森の中に駆け出していく。

 

「なっ!?」

 

 ついて来い、和泉、勝負だ! 

 超楽しくなってきたぁ! 

 ひゃっほおおう! 

 と、男子たちの真似をして内心そう叫ぶ。

 

「ほら、ハル! あそこに、金髪の女の子がいるよ!」

 

 倒木を飛び越え、木の枝を手で払い全速力で森の中を走っていく。

 

「なっ! ツッ!」

 

 おやぁ、まだ私の名前を呼ばないのねぇ……。

 なら、これでどうだ! 

 と、私は木の影、和泉から見えない木の裏に隠れる。

 

「ほら、ハル、あそこに女の子がいるよ!」

 

 そう、声をかけてから、木をよじ登る。

 蔦の多い木を選んだから、それを足場にして登るのは容易だった。

 そして、太い枝の上に登り、手頃の蔦を掴んで、それを足に巻き付けて結ぶ。

 

「よーし……」

 

 安全のために、蔦を結ぶのは片足だけ、もう片方の足は枝にかけておく。

 そのまま、タイミングを見計らって、うしろに倒れるように枝から宙吊りになる。

 

「蔦が取れないようぉ、助けてぇ」

 

 と、言いながら、両腕をぶらんぶらんさせる……、けど、

 

「いない……」

 

 和泉がいない……。

 帽子も取れて、長い金髪が垂れ下がる……。

 そこにあるのは、ランタンのみ、それが明かりを確保してくれていた……。

 まぁ、相手は和泉だからね、これくらいは……。

 おまえをなめちゃいないよ。

 私は反動をつけて、ブランコの要領で身体を前後に揺らす。

 どこに行ったかは、大体想像がつく。

 うしろに回ろうとするやつは二流、もし、和泉、おまえが一流ならば、必ず、私の上方を取ろうとするはず。

 身体を大きく揺らし、そして、遠心力で半回転、くるっと、身体を垂直に立たせる。

 

「やっぱり、いたぁ」

 

 あいつ、私のいる枝に飛び乗ろうとしていた。

 そのまま、和泉を空中でキャッチ! 

 ちょうど、サーカスの空中ブランコみたいな感じで。

 

「うっそっ!?」

 

 がっしりと彼の首に両腕で抱きつく。

 

「ハルぅ……、助けてぇ……、蔦がからまってとれないのぉ」

 

 と、思いっきり顔を近づけて、おでことおでこをくっつけて言ってやる。

 

「な、ナビー!?」

 

 よし! 

 言ったぁ!

 

「ナビー!」

 

 と、和泉がバランスを崩して横向きになって落ちていく……。

 

「くっそ!」

 

 私も落ちていく……。

 でも、大丈夫、こいつ結構やるから、私は何も心配していない。

 

「こんの!」

 

 と、和泉が片手で私の背中を抱いて、大きく身体をひねって腕を伸ばして枝を掴む。

 ほらね、やっぱり大丈夫だった。

 二人で木の枝からぶらんぶらんとなる。

 

「ナビー、怪我はない?」

「大丈夫、と云うか、ハル、私の名前を呼んだ、アウトー!」

「まったく、キミは……、危ない事するな……、足の蔦は取れる? 下に降りるよ」

「うん、今取るね……」

 

 と、私は足にからまった蔦を取ろうとする……。

 

「あ、あれ、取れない……」

「えっ!?」

「なんてね、冗談、取れた、いいよ」

 

 蔦をほどいて、ぽいっと、その辺に投げ捨てる。

 

「まったく……、降りるよ、掴まって」

「うん」

 

 と、強く抱きつく。

 浮遊感……。

 そして、直後の優しい衝撃……。

 

「もう、大丈夫だよ、ナビー」

 

 と、彼は私を地面に立たせてくれる。

 

「ありがとう、ハル……」

 

 お礼を言いながら、脱げかけた靴をトントンとして履き直す。

 

「それじゃ、俺は失格だからラグナロク広場に戻るけど、キミはどうする?」

「うーん……、男子たちの居場所を突き止めたい……、ハル、どこにいるか知らない?」

「それは言えないよ、それを教えたらゾンビだからね」

 

 と、彼がかすかに笑って言う。

 

「そっかぁ……」

 

 少し考え込んでいると、遠くから複数の足音が聞えてくる。

 

「うーん……?」

 

 こっちに向かってくるな……。

 あ、ランタンの明かりか、それで、こっちに……。

 

「ああ、来た、来た……、俺は合流するね、ナビー」

 

 と、思わせぶりな表情をして、彼はランタンを持って足音のするほうに歩いていく。

 男子たちの本隊か! 

 私は木の裏に隠れる。

 

「和泉、どうだった?」

 

 先頭の背の高い男が和泉に話しかける。

 

「すまん、東園寺、やられた、失格だ、もう何の情報提供も出来ない」

「え? あの和泉さんが? 誰に、もしかして、ナビーに?」

 

 と、大男の佐野が和泉に尋ねる。

 

「ああ、佐野、まぁ、そんなところだ……」

「信じられない、あの和泉さんが……」

「和泉がやられるって、相当だぞ……」

「でも、ナビーって、どこか神がかっているからな」

「ああ、天使だからな」

「かわいいよな、ナビーって」

 

 と、みんなが口々に言う。

 

「で、和泉、失格したおまえが、どうしてここにいるんだ? まさか、今やられたのか?」

 

 東園寺がこっちを見ながら話す。

 私は急いで頭を引っ込める。

 

「さぁな、東園寺……」

 

 和泉が笑いを含んだ声で答える。

 

「なるほどな……、まぁ、いい、このまま進軍を続けるぞ、ラグナロクで最終決戦だ」

「おーけー、ボス!」

「俺たちの完全勝利だぜ!」

「ビンゴだぜ!」

「ひゃっほお!」

 

 と、男子たちが盛り上がる。

 

「和泉、おまえも来い、ああ、おまえは失格だったな、ランタンはつけっぱなしでいいぞ」

「ああ、すまんな、東園寺……」

 

 と、男子たちがラグナロク広場に向かって行軍を始める。

 私は和泉の持つランタンの明かりを頼りに彼らのあとを追う。

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