傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

58 / 162
第58話 永遠に生きるつもりで

 食料品倉庫は調理室の隣にある。

 建物の中はそれなりに広い。

 また、倉庫は魔法の力で冷却してあり、外と比べて20℃以上は低くなっていた。

 

「うう……、寒い……」

 

 私はぷるぷると震え、二の腕をさする。

 

「お肉はなに使う?」

「野菜はこれでいいよね?」

「パスタになに入れる?」

 

 と、お昼が近いせいか、生活班の女子たちがしきりに出入りしてくる。

 基本的に食事の準備は生活班女子の仕事だけど、他の班の子も調理の時間になれば、自分たちの作業を中断して調理室に手伝いにやってきていた。

 

「ナビー、お願い」

「あ、うん……」

 

 と、私はエプロンのジャガイモを手に取り、大きさごとに、それぞれのバスケットに仕分けしていく。

 

「これで、全部っと……」

 

 すぐに仕分けは終わる。

 

「寒い!」

「くるぅ……」

「うん? クルビットも寒いの?」

 

 と、クルビットを抱え上げて、胸に抱く。

 

「寒いねぇ」

「くるぅ……」

 

 顔をすりすりする。

 

「それじゃ、私はこのまま調理室に入るから、ナビーはクルビットを牧舎に戻していらっしゃい」

「はぁい!」

 

 と、私は食料品倉庫をあとにする。

 このあと、シウスたちの放牧を終りにして牧舎に戻して、それから、エシュリンを連れてきて、中央広場でお皿とかの配膳の仕事をする。

 

「ああ、陽射しが強いからパラソルの準備もしておいたほうがいいね……」

 

 と、空を見上げながらつぶやく。

 

「いそがし、いそがし……」

 

 クルビットを抱いたまま、駆け足で牧舎を目指す。

 男子たちは今、ルビコン川の橋作りや市場の建設で大忙し、その上、作業も大詰めで力仕事がメイン。

 相当お腹を空かせているはず。

 

「急がなきゃ……」

 

 と、思ったら、暇そうにしている男子もいた。

 その人は牧柵の外からぼんやりとシウスたちを見ている……。

 そう、それは、銀縁メガネの頭の良さそうなやつ、くんくんだった。

 

「彰吾……?」

 

 と、小さく声をかける。

 

「ああ、ナビー、いないと思ったら、クルビットの散歩に行っていたのか」

 

 彼は私の顔を見るなり笑顔をつくりそう言う。

 

「うん、まぁ、そんなとこ……、さっ、クルビット……」

 

 と、クルビットを地面に下ろして、柵の戸を開け中に入るようにとお尻を押す。

 

「くるぅ……」

 

 遊び足りないのか嫌がる……。

 

「クルビット……」

 

 ぽんぽんとお尻を軽く叩く。

 

「くるぅ……」

 

 と、しぶしぶ中に入っていく。

 

「よし」

 

 戸を閉めてパンパンと手を叩く。

 

「エシュリン、放牧はおしまいね! みんなを牧舎の中に入れて!」

 

 そして、大声で彼女にお願いする。

 

「わかった、ぷーん!」

 

 と、エシュリンがみんなを牧舎の中に連れて行く。

 

「忙しそうだね?」

 

 人見がその作業を見守りながら尋ねてくる。

 

「うん、まぁね、このあと、すぐにお昼の準備をしなくちゃいけない」

「そうか……」

「彰吾は暇そうね? 手、まだ痛むの?」

 

 私は彼に向き直り、包帯の巻かれた手を見ながら聞く。

 

「痛まない、と、言ったらうそになるが、仕事が出来ないほどではない……、が、参謀班のメンバーが今は休んでろってうるさいんでね、仕方なくこうやって時間を潰していたってわけだ」

「ふーん……」

 

 と、顔を近づけて、彼の手を見る。

 昨日と違って血は滲んでない、ちゃんと新しい包帯に取り替えてある。

 

「それにしても、びっくりしたよ、何を思ってこんな事したの?」

 

 と、手をつんつんしてみる。

 

「あぐっ!?」

 

 びくっとなる。

 やっぱり相当痛いんじゃん。

 さらにつんつんする。

 

「ひっ!」

 

 と、人見が手を庇う。

 

「ふふ……」

 

 彼の顔を見る。

 なんか、ひきつっている。

 

「で、どうして、こんな事したの?」

 

 あらためて彼に尋ねる。

 

「いや、もちろん、あのヴァーミリオンの性能に興味があったのは事実だが、それ以上にけじめをつけたかった」

 

 と、包帯の巻かれた手を見ながら人見が話す。

 

「けじめ?」

「ああ、けじめだ、俺はみんなの命を危険にさらした」

「そうなの?」

「そうだ、知っての通り、現地人は魔法のネックレスの性能を知ってしまった、やつらはさらにそれを欲しがるだろう、取引に応じてくれている間はいいが、もし、やつらが力づくで来たら厄介だ、やつらだけなら撃退も可能だが、近隣の村々すべてで襲いかかってきたら終りだ……」

 

 ふーん……。

 一応は理解しているみたいね。

 彼らは文明水準が低い、それほど建設的な思考は期待できない。

 金の卵を産む鶏みたいになりそうなんだよね。

 で、将来、おとぎ話になったりして、金の卵じゃなくて、魔法のネックレスで。

 うん、それはそれで面白い。

 

「うかつだった……」

 

 彼が苦々しく包帯の巻かれた手を見る。

 

「これは、そのけじめだ……、そして、ラグナロクの防衛力強化も急がなければならない……、あの飛行船を調査して日本に帰る方法を探している場合ではない……」

 

 なるほどね……。

 これは使える……。

 

「そうね、彰吾、生き残る事が先決よ、生きてさえいれば、いずれは日本に帰れる、まず、私たちが考える事はどうやって生き残るかよ、生きてさえいれば、どんな大怪我でもかすり傷、あとからいくらでもリカバー出来る、それだけは忘れないで」

「生きてさえいれば、どんな大怪我でもかすり傷、か……、いい言葉だな、肝に銘じておこう……」

「うん」

 

 と、私は大きくうなずく。

 

「ナビー、終わった、ぷーん!」

 

 エシュリンがやってきた。

 

「よし、じゃぁ、次はお昼の準備よ、いこ!」

「はい、ぷーん!」

「じゃぁね、彰吾!」

「ああ、またあとで」

 

 と、私とエシュリンは中央広場のほうに走って行く。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 そして、準備も終り、みんなで昼食をとる。

 日差しが強いので、各テーブルの上にはちゃんとパラソルが設置してある。

 

「今日のメニューは……」

 

 私はテーブルに並べられた料理を吟味する。

 まずは、パン、猪肉の燻製と葉物野菜が挟まったやつ。

 次に定番の野菜たっぷりのポトフ。

 そして、最後にパスタ! 

 

「おいしそう……」

 

 小麦粉をこねて適当に麺状にしただけとは思えない……。

 じゃぁ、さっそくパスタから……。

 私はお箸を手に取りパスタから食べ始める……。

 

「む……」

 

 つるつるしてる……。

 

「むむ……」

 

 箸で掴んでもすぐに落ちてしまう。

 

「くっ……」

 

 最近思ったけど、この身体って不器用なんだよね。

 不器用とも違うか……。

 簡単に言えば、利き手がないって印象。

 両手とも左手って感じの使用感。

 

「おいしい……」

 

 あきらめてスプーンでポトフをすする。

 そして、箸の先でジャガイモを刺して、そのまま口に運ぶ。

 パンも箸の先に刺してむしゃむしゃ……。

 そして、パスタも刺して……。

 

「くぅ……」

 

 駄目だ、食べられない……。

 なんで、フォークじゃないのよ、箸なんて使えないよ……。

 夏目とかに箸の持ち方がどうとかよく指導されるけど、私はフォークがいいのよ……。

 皿を持って、直接お口に流し込む! 

 

「こら、ナビー、はしたないわよ」

 

 と、夏目に注意される。

 

「はぁい……」

 

 皿をテーブルの上に戻す。

 そして、また、箸でパスタを掴もうと悪戦苦闘する。

 

「ははは、ナビーは箸の使い方がヘタだなぁ」

 

 秋葉蒼に笑われた。

 

「こうだよ、ナビー」

 

 さらに、和泉春月も箸を閉じたり開いたりしながら言う。

 

「こう……?」

 

 と、和泉の真似して箸を閉じたり開いたりする。

 

「そうそう、うまいうまい」

 

 よし。

 その調子でパスタを掴もうとする。

 でも、するすると落ちていく……。

 くっそぉ! 

 

「もう、しょうがないなぁ、ナビーも……、食べさせてあげるよ」

 

 と、秋葉が椅子を近づけて、私の箸を奪い取る。

 

「ほら、ナビー、口を開けて」

 

 秋葉がパスタを掴んで私の口に近づける。

 

「え、ええ……?」

「ほら、はやく」

 

 満面の笑みで言う。

 

「あ、あーん……」

 

 しょうがないので、口を開ける。

 すると、パスタが口の中に入れられる。

 うん? 

 おお? 

 ちゅるちゅるとパスタをすする。

 

「お、おいしい!」

 

 ちゃんとしたパスタだ! 

 これって、ソースは普通のカルボナーラだよね、缶詰かなんかで残っていたのかな? 

 

「だろ、ほら……」

 

 と、また秋葉がパスタを口の近くに運んでくれる。

 

「ありがとう!」

 

 大喜びでパスタに食いつく。

 ちゅるちゅる。

 うまうま。

 

「次々!」

 

 催促する。

 

「ほら……」

 

 と、なぜか、パスタの位置がどんどん上にあがっていく。

 私は立ち上がって、パスタを下からちゅるちゅるすする。

 

「今度はさ、この一本を噛まないで飲み込んでごらん」

「う、うん? わ、わかった……」

 

 と、秋葉の指図通りにパスタを下から飲み込んでいく。

 おお、のどごしがいい……。

 ちゅるちゅる、ごくごく……。

 と、飲み込んでいたら、パスタがどんどん上にあがっていく……。

 私は背伸びして飲み込もうとする……。

 けど、もうこれ以上届かない……。

 

「ほら、ナビー、もう少し、口を開けてごらん」

「あ、あーん……」

 

 口を開けたまま固まる。

 

「おお、ちゃんと飲み込んでる……」

「すごい、こうなってるんだ……」

 

 と、秋葉と和泉が私の口の中を覗き込む。

 な、なにをやってるんだ、こいつら……。

 

「おこっ?」

 

 ああ!? 

 パスタを引っ張られた! 

 

「おげ、おげ、おここ……」

 

 どんどんパスタが引き抜かれていく。

 や、やめ、やめて! 

 

「おこ、おこ、おこここっ!?」

 

 もう涙目。

 ぎゅっと手を握って耐える。

 

「おお、それでも飲み込もうとしてるよ……」

「すごいな、閉じたり、開いたり……」

 

 な、なにこれ、なんの遊びなの!? 

 それでも、頑張ってパスタを飲み込もうとする。

 

「お? 負けないぞ?」

 

 と、秋葉が椅子の上に乗ってさらにパスタを引っ張りあげる。

 

「おこ、おこ、おけ、おけ、おごごっ!?」

 

 やばい、これ! 

 秋葉に釣り上げられる魚の気持ちがわかったよ! 

 

「こら、男子、食べ物で遊ばないの」

「そうだよ、みんなで一生懸命作ったんだから」

 

 と、笹雪と雨宮に注意される。

 

「あ、ごめん……」

 

 秋葉が手を緩める。

 チャンス! 

 と、私はパスタをちゅるちゅる吸って、ごくんと飲み込む。

 

「あ……」

「へへん」

 

 おいしかった。

 いやぁ、しかし、楽しい食べ方だなぁ。

 と、私はパスタを指でつまんで、先を見つけて、そこから噛まずにちゅるちゅると飲み込んでいく。

 おお……、おいしいというより、気持ちいい……。

 こう、上からたらして飲み込んでいく感じ……。

 で、途中で引っ張ると……。

 

「おこっ」

 

 や、やばいよ、これ! 

 

「ああ!? ナビーが変な食べ方おぼえちゃったよ!!」

「どうするの、男子たち!?」

 

 と、こんな感じで楽しい昼食会は続くのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。