傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

8 / 162
第8話 ひとりマスコット班

「よーし、全員、その場で聞いてくれ」

 

 と、東園寺の声が聞こえる。

 俺は毛布からちょこんと顔を出して周囲を確認する。

 まわりには女子たちがいる。

 

「会議の結果を発表する」

 

 彼は焚き火の近くに立つ。

 その近くには、銀縁メガネの優等生、人見彰吾(ひとみしょうご)徳永美衣子(とくながみいこ)、それと和泉春月(いずみはる)もいる。

 そういえば、いなかったな、会議をしていたのか……。

 

「人見などと話し合った結果、班分けして、分担して作業を行ったほうが効率がいいと云う事になった」

 

 水汲みとか薪拾いとかそういうやつか。

 

「その班割りを発表する」

 

 東園寺はメモを見ながら話す。

 

「まず第一班、俺と鷹丸、神埼、久保田、有馬、清瀬の6人だ。ここは基本的に安全管理だ、焚き火や広場周辺の危険物撤去、それに必要ならば道路も整備する、とりあえず、管理班とでも命名しておく」

 

 坊主頭の野球部の二人や、不良っぽいやつ、基本的にガタイのいい連中が主だ。

 

「次に第二班、人見、綾原、南条、海老名、青山の5名、ここには指揮を執ってもらう、いや、アイデアを出してもらう、生き残るための知恵だ、それとルール作りもだ。班名は参謀班とでもする」

 

 ここは頭の良さそうな連中だな。

 

「次に第三班、福井、佐々木、村井、山本、安達、石塚、瀬戸内、伊藤、大内の9名、ここは広場で作業をしてもらう、食事の準備や水汲み、トイレや更衣室の設置、生活をするための作業全般だ、班名は生活班とする」

 

 普通っぽいやつらの班だな……。

 

「次に第四班、徳永、水野、小野寺、鹿島の4名、ここは特殊な班だ、女性特有の要望、または権利関係を見てもらう。ここだけは全体の事は考えなくもいい、自分たち女性の事だけを考えろ、遠慮せずに主張してくれ、その要望には極力応える。班名は女性班とする」

 

 当然、女4人の班だ。

 

「最後に第五班、和泉、秋葉、夏目、佐野、雨宮、笹雪の6名、ここは食料調達班だ、果物の採集、川魚などの狩猟、食えるものならなんでも集めてもらう、班名は狩猟班とする」

 

 おなじみの和泉春月や夏目翼がいる班だ。

 

「班割りはこれで以上だが、生活班と狩猟班の負担が大きくなる事が予想される。そこで、生活班には人見の参謀班が、狩猟班には俺の管理班がヘルプにつく事にした。あとは班長、管理班は俺、参謀班は人見、生活班は福井、女性班は徳永、狩猟班は和泉にやってもらう。それぞれの班で意見を出してもらい、それを班長会議で検討する、いちいち全員の話は聞いてられんからな。とりあえず、それらをまとめた物をそこに貼り出しておく、あとで確認しておくように」

 

 東園寺が手にしたメモ用紙をひらひらとみんなに見せる。

 

「質問はあるか?」

 

 あ、あれ、俺は……? 

 

「あ、あの、私は……?」

 

 俺はおそるおそる手を挙げ、かぼそい声で尋ねる。

 東園寺がじろりと俺を見る。

 

「ナビーフィユリナ、おまえは一人マスコット班だ、俺たちを元気付けてくれ」

 

 お、おい……、さすがにそれはないだろ……。

 

「と云うのは冗談だ、そうだな、夏目、すまんがめんどう見てやってくれ」

「うん、了解した」

 

 夏目と同じと云う事は、俺も狩猟班か……。

 俺はちらりと横目で夏目と和泉以外の狩猟班のメンバーを見る。

 まずは佐野獏人(さのばくと)、こいつは、このクラスで一番身体がでかく、おそらく190センチは超えているであろう大男、そして、いつもにこにこしている不気味なやつ。

 次に秋葉蒼(あきばあおい)、彼はすらりと背の高いモデル風の優男で、物腰も柔らかく笑顔を絶やさない紳士的な男だ。

 雨宮(あまみや)ひらりは物静かだけど目つきの鋭い女、いつも何かに怯えた感じで、一人でいる事が多い、おそらく普通の人には見えない、何かが見えているものと思われる。

 笹雪(ささゆき)めぐみは自信たっぷりに口の端で笑っている嫌味な感じのする女、上から目線の言動が多いが、時折見せる傷付きやすい一面が彼女の個性を感じさせる。

 と、まぁ、一癖も二癖もありそうな連中なんだよな……。

 

「参謀班より最初の提言をさせてもらう」

 

 と、参謀班の班長、人見彰吾が手を挙げる。

 

「俺たちは全員対等だ、誰が上でも誰が下でもない、全員横並びだ、もちろん、そっちのその子もだ」

 

 と、俺を見て言う。

 

「そして運命共同体でもある。互いに助け合う事によってのみ運命を切り開いていける。だが、誤解はするなよ、命を懸けてまで守る存在ではない、自分が生き残るために助けているだけだ。自分のために人を助けろ、人を助ける事が自分の命を守る最善策だと肝に銘じよ、互いが互いを利用しあえ、俺たちは仲間じゃない、集団だ、ひとつの生き物だと思って行動しろ」

 

 なるほどね、あの分隊の掟に近いが、少し違うか……。

 

「俺からは以上だ」

 

 と、人見は人差し指で銀縁メガネを直す。

 

「では、引き続き焚き火は俺たち管理班が見る。他はもう休んでいいぞ」

 

 東園寺をはじめとした管理班のメンバーが焚き火の近くに集まる。

 どうやら、今日も寝ずの番をするようだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日は班単位で行動する事になった。

 俺たち狩猟班は昨日発見したというルビコン川に向かう。

 ルビコン川へと伸びる道はぬかるみ非常に歩き辛い……。

 俺はピンクのサンダルが泥だらけになるのを嫌い、夏目の服をぎゅっと掴み、木の根や石の上などを選んで慎重に進む、

 

「これでもかなり歩きやすくなったほうだよ」

「そうだね、昨日は道なき道を切り開いていったからね」

 

 と、先頭を歩く、和泉と秋葉が話す。

 ああ、真っ白なワンピースチュニックにも泥が跳ねる……。

 俺は服にこびりつかないように、そっと泥を指で挟んで取る。

 すると、足元に何か落ちている事に気付く。

 

「なんだ、これ? 小瓶?」

 

 俺はそれをポケットに入れる。

 そしてまた夏目の服を掴んで歩きだす。

 あの広場から1キロほど歩いたところだろうか、突然目の前に光が広がる。

 

「ここがルビコン川……」

 

 広葉樹の森の中に現れた小さな川。

 川幅はどのくらいだろう、10メートルくらいだろうか。

 水位もそれほど深くはなく、大小様々な岩がそこかしこに転がっている。

 俺は小川に近づき、水の中を覗き込む。

 水質は驚くほど澄んでいて、川底もはっきりと見え、また、多くの川魚が泳いでいるのも確認できる。

 

「へぇ、綺麗なもんだね、別に煮沸しなくても飲めるんじゃない?」

 

 と、笹雪めぐみが俺の隣にしゃがんで手で川の水をすくいながら言う。

 

「たぶんね、まぁ、でも、念の為煮沸消毒はしたほうがいいよ」

「あっちが、昨日のラ・フランス?」

 

 今度は雨宮ひらりが森の方角を見ながら言う。

 

「そう、あれ」

 

 彼女の視線の先を見ると、川沿いの広葉樹から、洋梨のような果実がたわわに実っているのが見えた。

 

「で、なんで、ここがルビコン川なわけ?」

 

 と、笹雪が塗れた手をぶらぶらとさせながら言う。

 

「それは、昨日の東園寺の名演説からさ」

「そそ、そこの岩の上に立ってさ」

 

 秋葉が川の真ん中の大岩を指さす。

 

「へぇ、どんな?」

「えっとな、よっと」

 

 と、彼が小さな岩を伝って大岩までいく。

 

「こんな感じでさ。ここが俺たちにとって生きるか死ぬかの運命の分れ道だった……、ここが俺たちにとってのルビコン川……、とか、なんとか……、ハルあとなんだっけ?」

「いや、そんな感じ、俺も詳しくは忘れた」

 

 と、和泉が明るく笑う。

 

「どこが名演説よ……」

 

 俺はとりあえず、ピンクのサンダルを脱いで小川の中に入ってみる。

 冷たい……。

 雪解け水みたいな冷たさだ……。

 しかも、小魚が寄ってきて、俺の足をつつく。

 

「ナビー、危ないよ」

「大丈夫だよ、翼」

 

 振り返って笑顔をつくる。

 そして、小魚を捕まえようと水の中に両手を入れる。

 

「まーてー」

 

 と、ばしゃばしゃと小魚を追い駆ける。

 いやぁ、実に少女らしいな、俺って。

 

「それにしても、いい人選だよね、この班割り」

 

 と、雨宮が岩に腰掛ながらつぶやく。

 

「うん、そうだね、あたしらって団体行動苦手だから」

 

 笹雪も岩に座り、靴と靴下を脱ぎ、足を水に入れる。

 

「ああ、静かなのいい……」

 

 雨宮が空を見上げる。

 

「でも、和泉と翼はとばっちりだよね? あたしらのお守りなんてさ、なんたって、あんたら二人はクラスの人気者なんだから」

 

 笹雪がけらけらと笑う。

 

「いや、そうでもないよ、少なくても俺はね」

 

 和泉も笹雪たちと同じように手頃な岩に腰掛ける。

 

「そう? あのニヤニヤ笑いながらただ突っ立ってる佐野とか、あのゲテモノ秋葉と一緒だよ?」

「ひどいなぁ、めぐみ、そんな事言うなよ」

 

 と、苦笑いしながら秋葉が言う。

 

「実際ゲテモノでしょ? いったい、何人の女があんたのせいで学校辞めていったと思ってんの? あんなエロ同人誌みたいなことやってさ?」

「いや、いや、いや、あれは俺の愛情表現みたいなものだから」

 

 と、秋葉が髪をかき上げる。

 

「ナビーちゃん、こんなゲテモノに近づいちゃ駄目だからね」

「はぁい!」

 

 と、俺は手を挙げて元気よく返事をする。

 

「ひどいなぁ、もう……」

 

 しかし、楽しいなぁ、普通の高校生の人間関係って。

 

「ほらぁ!」

 

 と、川辺で心配そうに俺を見ている夏目に軽くしぶきをかけてやる。

 

「きゃっ!」

「ほらぁ!」

「きゃっ、やめ、やめ……」

 

 彼女が逃げ惑っている。

 いやぁ、楽しい……。

 楽しいんだけど、ふと思い出したんだよね。

 救助隊なんてこねぇよ。

 俺たちは墜落したんじゃなくて撃墜されたんだからな。

 そして、なんで、撃墜されたかって言うと、俺が京都の街中に突っ込んでやる、って言ったからだ。

 だから、救助隊なんてこねぇ、国民に旅客機を撃墜しました、なんて言えるわけないからな、逆に生存者がいたら射殺したいくらいだ。

 そう考えると、政府のやつらは、見当はずれな場所を捜索して、結局発見出来ませんでしたぁ、って事にしたいはず。

 

「ほらぁ、ほらぁ!」

「も、もう、やめて、ナビー、上がってらっしゃい」

 

 そこで、俺が取るべき行動だが……。

 

「足冷たぁい……」

「靴下は足を拭いてからね」

「ありがとう、翼……」

 

 俺は今日、この瞬間より、最強の傭兵、パーフェクトソルジャー武地京哉を捨てる。

 そして、こいつらをとことん利用して生き残ってやる。

 もう俺ではない、私だ。

 私はナビーフィユリナ・ファラウェイだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。