傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第80話 一蓮戦ぐ

 ルール・オブ・エンゲージメント。

 つまり、交戦規定。

 どのような状況で攻撃を加えていいのかという決まりごと。

 それは、武器を持っていたら? 

 それとも、武器を構えたら? 

 まさか、発砲するまで我慢しろって話じゃないよね? 

 え? 一発だけなら誤射かもしれない? 

 などなど、そういったことを定めているのがルール・オブ・エンゲージメントになる。

 そもそもこのルール・オブ・エンゲージメントは相手が軍隊であるということを前提にしている。

 軍隊の定義。

 1、所属が明らかであること。

 2、指揮権が明らかであること。

 3、武装をしているのが明らかであること。

 この三つを満たさなければ軍隊とは認められない。

 それはもはやゲリラと同じ、ルール・オブ・エンゲージメントの適用範囲外、見つけ次第、即先制攻撃を加えることが出来る。

 ジュネーヴ条約も、ハーグ陸戦条約も意味をなさない。

 サーチ&デストロイ。

 もっとも、この世界でも、そのような条約や法律が適用されるとは思わない。

 だから、別に無視しても構わない……。

 しかし、そうもいかないのが世の中、人というのは常に正当性を求めるもの。

 自分がこれから行う不当行為を担保する正当性が欲しい。

 その悪を肯定するのが条約であり交戦規定なのだ。

 その条約や法律、交戦規定に効力、実効性のあるなしに関わらず……。

 

「自衛的先制攻撃を加える……」

 

 相手が誰かなんて確認する必要すらない、もう既にこの時点で軍隊の定義から逸脱しているから。

 つまり、所属を明らかにしていない。

 

「ゲリラと見なす」

 

 私の正当性が証明された。

 地面に突き刺さったままのドラゴン・プレッシャーの前に立つ。

 まだ柄には手をかけない。

 極力ネックレスを加熱させたくないから。

 

「ナビー、もうすぐくる、一旦退こう、ラグナロクに帰ろう」

 

 秋葉が私の肩にそっと手を置く。

 

「何を言っているの、蒼、ここで迎え撃つのよ、川を、ルビコン川を越えられたら厄介だから」

 

 エシュリンからの情報が行っているのなら、敵は必ずここを通過するはずだ。

 なぜなら、橋、ブリッジ・オブ・エンパイアがあるから。

 たかだか十数メートルの川幅であっても渡河はしたくない。

 なぜ川に入りたくないかっていうと、それは濡れるから、濡れると不衛生だから、不衛生だと病気になるから、遠くから行軍していくる部隊は極力日当りのいい場所、風通しのいい場所を選んで進むのは用兵の基本。

 

「いやいや、ナビー、駄目だ、ここは危ない、ラグナロクで東園寺たちが準備しているはずだ、戻ろう」

 

 と、秋葉が首をふる。

 

「むぅ……、だから、戦うってば」

「戦うって、遊びじゃないんだぞ、ナビーが怪我したら、俺がみんなから叱られる」

 

 と、彼が私の肩を強く掴む。

 

「い、痛いから」

 

 反射的にその手を払う。

 

「ナビー……」

「それに、もう遅い……」

 

 掴まれた肩をさすりながら言う。

 

「小動物の気配、鳥の鳴き声、風に揺らされる枝葉の音、それらすべてが敵の接近を教えてくれる……」

 

 今や秋葉でなくてもわかる、敵がそこまで来ている。

 

「蒼、弓を構えて、見えた瞬間行くよ」

 

 ドラゴン・プレッシャーの柄に手をかける。

 

「ほ、本気か、ナビー、やっぱり遊びのつもりなんだろ……?」

 

 と、困惑しながらも、秋葉は弓を手に取り、矢筒から矢を取出しつがえる。

 

「ゴッドハンド……」

 

 手に魔力を込める。

 最初から全力でいく。

 プラグマティッシェ・ザンクツィオンの向こう側の森の中が騒がしくなった。

 そして、人影が見える……。

 柄を握る手に力を込める。

 先頭のやつが広場に足を一歩踏み入れた。

 私は勢いよくドラゴン・プレッシャーを地面をから引き抜く。

 

「蒼、斬り込む、制圧射撃お願い、足止めして!」

 

 と、叫び、ドラゴン・プレッシャーを構え、姿勢を沈み込ませて、秋葉の第一射目を待つ。

 深く、深く、姿勢が沈み込む……。

 

「すぅ……」

 

 息を吸い込み、視線を落とす。

 まずは秋葉の弓矢に動揺している敵を尻目に敵陣奥深くに切り込む、そして、最後方で高みの見物をしているだろうエシュリンを直接狙い、これを始末する。

 私が戦っているところを秋葉に見られても構わない、今はエシュリンを殺ることだけに心血を注ぐ。

 覚悟を決め、視線を上げて広場の先を見る。

 早くしろ秋葉……。

 でも、なかなか撃たない……。

 

「待て、ナビー、何か様子がおかしい……」

「うん?」

 

 私は油断なく剣を構えたまま目を凝らして敵を見る。

 

「あーん?」

 

 弱々しい星明かりではよく見えない。

 でも、ぞろぞろ、ぞろぞろとゆっくり広場に入ってくる大勢の人影は視認出来る……。

 

「あれって……、敵じゃないよな……、どう見ても……」

「はぁ……?」

 

 うーん……。

 構えを解いて、さらに目を凝らしてやつらを見る。

 それは、ベージュ色の厚手の浴衣って感じの服装の年配の人、少し小太りなおじいさん風な感じ……。

 そのうしろにも同じような服装の女性や子供たちが助け合い、支え合いながら広場の中に入ってくる。

 

「あれって、ナスク村の村長さんたちじゃないか?」

 

 と、秋葉が私の隣まで来て言う。

 

「うーん……」

 

 確かに、私にもそう見える……。

 

「何しに来たんだ、こんな時間に、行商ではなさそうだし……」

 

 誰も荷物を持っていない、物を売りに来たわけではなさそうだ。

 

「うーん……」

 

 と、真意を測りかねて首を傾げてしまう。

 私が首を傾げている間にもナスク村の人たちがぞろぞろ広場に入ってくる。

 

「ほっろー!」

 

 と、村長さんが私たちに気付いて大きな声で叫ぶ。

 

「ほっろー!」

「ほっろー!」

「ほっろー!」

 

 と、他のみんなも同じように大きな声で叫び私たちに向かって手を振る。

 

「ほ、ほっろー……」

 

 私もつられて片手を挙げて言葉を返す。

 

「なんだよ、ナビー、そういうことかよ、祭りの見学に招待してたのか……、ということはエシュリンもグルか、村長さんたちを迎えに行っていたんだな……、いやぁ、騙された……、おかしいと思ったんだよ、ナビーが戦うとか言いだしたからさ……」

 

 と、秋葉が苦笑いして頭を掻く。

 

「ほっろー、すっしー!」

「きゅー、きゅー!」

「きゅー、きゅー、たまこぽろぽろまい!」

「きゅー、きゅー、ふらむ、きゅっきゅ!」

 

 村長さんたちが必死に何かを叫んでいる。

 よく見ると、広場に入ってきた人たちが座り込み、中にはそのまま倒れ込む人までいた。

 

「な、なんだ……? ちょっと待て、ナビー、なんか怪我してないか……?」

 

 村長さんの白い頭に赤い物が混じっているね。

 それ以外にも腕を押さえていたり、足を引きずっている人が大勢見受けられる。

 

「やっぱり怪我をしている、助けに行くぞ、ナビー!」

 

 と、秋葉が駆け出していく。

 

「あ、蒼!」

 

 私もそのあとを追う。

 

「罠の可能性もあるな……」

 

 私はドラゴン・プレッシャーの柄をしっかり握り締めて走る。

 

「そ、村長さん、大丈夫ですか!?」

 

 と、秋葉が倒れ込んでいる村長さんに駆け寄り背中に手を添え尋ねる。

 

「ほっろー、すっしー……、けしゃふ、けせふぃ……」

「何があったんですか、村長さん、これは!?」

「かっつお、まどんな、たまこ、ぽろぽろまい……、でっど、ろーす……」

 

 と、村長さんが息も絶え絶えで訴える。

 

「それにしても、これは……、罠、では、なさそうね……」

 

 私は周囲の惨状を見渡しながらつぶやく。

 

「けしゃふ、たまこ、でっど、ろーす、わ、ぱーす」

「な、ナビー、なんて言ってるんだ、通訳頼む!」

 

 秋葉が振り返り、私に通訳を求める。

 私はネックレスが熱くなるのを嫌い、ドラゴン・プレッシャーを地面に突き立て手を放す。

 

「けしゃふ、たまこ……、ふらむ、でっど、ろーす……、わ、ぱーす……」

「うーん……、カタコトだけど、たぶん……、村が火事になった……、災いが来た、助けて……?」

「な、なにぃ!?」

 

 あ、いや、違うかも……。

 同じけしゃふでも、高音と低音じゃ意味が違くなるんだよね……、よく聞き取れなかった……。

 でっど、ろーすは中音だと不幸とか災いだけど、低音だと苦しいとか気持ち悪い、高音だと悪党とか犯罪者っていう意味になる……。

 音調言語っていうのかな……、これはネイティブじゃないとなかなか聞き取れない。

 

「秋葉、どうなっているんだ!?」

「なんなんだ、これは!?」

 

 と、うしろから足音とともにそんな大声が聞えてきた。

 

「怪我をしているのか?」

「ナスク村の人たちか、どうしたんだ?」

 

 管理班の二人、神埼竜翔と久保田洋平だった。

 

「いや、村が火事らしいんだ、それで避難してきたらしいんだ」

「そうか、やはり、火事か!」

「なら、急いで公彦さんに報告だな!」

 

 と、神埼がきびすを返す。

 

「待って、ただの火事なら、どうしてこんなところまで避難してくるの?」

 

 もう一人いた。

 

「ナスク村からここまで何キロあると思っているの、30キロ以上あるのよ、変よ」

 

 それは参謀班の綾原雫だった。

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