強い陽射しの中、私とクルビットは全速力で駆け抜ける。
「気持ちいい!」
両手を思いっきり広げて、全身で太陽の光を浴びて、そして、空を見上げて髪を風になびかせる。
「まぶしい!」
手で日影を作って顔への直射日光を防ぐ。
「くるぅ!」
と、そんなことをしている間にクルビットに先を越される。
「あ!」
あいつめ、日に日に足が速くなっていく!
「くそぉ!」
私もギアを一段上げてクルビットを追走する。
やがて、牧舎とその先の牧柵が見えてくる。
「くるぅ!」
と、クルビットが1メートル以上もある牧柵の上を軽々と飛び越えていく。
「やるな、クルビット!」
私も牧柵に手をつき、そのまま飛び越える。
「とお!」
ワンピーススカートの裾が風になびいてバサバサと音を立てる。
そして、着地!
「10点!」
ピシっと決める。
「えへん!」
鼻高々。
「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「めぇえ! めぇえ! めぇえ!」
と、余韻に浸っていると、なにやら楽しげな声が聞こえてくる……。
見ると、エシュリンが仔ヤギのチャフをぶんぶん振り回していた。
「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「めぇえ! めぇえ! めぇえ!」
しかも、前足二本と後ろ足二本をそれぞれ両手で掴んで、ジャイアントスイングするみたいにぐるぐると。
「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「めぇえ! めぇえ! めぇえ! めぇえ!」
うん、楽しそうに回しているね。
あれは、別に虐待とかではなく、チャフのためにやっている。
仔ヤギの彼らは草をうまく食べられなくて、よく食道に詰まらせてしまう。
なので、詰まった草が胃まで下りていくように、あのようにぐるぐる回してあげているというわけだ。
「わっぱ、ぷーん……」
と、ぐるぐるが終わったのか、優しく草の上に下ろしてあげる。
「めぇえ!」
すると、仔ヤギのチャフは元気よく立ち上がり、勢いよく草を食べ始める。
まっ、ほっといても、草の上でごろんごろんして自分でなんとかしちゃうんだけどね。
「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「めぇ! めぇ! めぇ!」
おや、仔ヤギのシウスの声……、こっちでもやっているか……、誰だ……?
と、声のする方角を見る。
「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「めぇ! めぇ! めぇ!」
シウスをぶんぶん振り回していたのは……。
「あの子は昨日の……」
そう、黒髪のあの子……。
「「「わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」」」
その周りにも女の子が二人いて、一緒にかけ声をかける。
「うーん……」
昨日のリジェンとシュナン、そして、もう一人、自信ないけど、たぶん、あの子、ブリッジ・オブ・エンパイアでリジェンとシュナンのことを心配していたあの子だと思う……。
「あっ!」
と、みんなが私に気付く。
「ナビー、ぷーん! ナビー、ぷーん!」
エシュリンが両手を大きく振る。
「あ、こんにちは……」
「こんにちは」
「こんにちは、です……」
と、黒髪の女の子三人がつたない日本語で挨拶してくれる。
「あれ、日本語?」
エシュリンに歩み寄りながら尋ねる。
「そう、ぷーん! エシュリンが教えた、ぷーん!」
エシュリンが自慢げに答える。
「へぇ……」
と、彼女たちを見る。
「シュナンです」
「リジェンです」
「シエランです」
三人が自己紹介をして、大きくお辞儀をする。
シュナンとリジェンが姉妹のほうで、こっちの新しい子がシエランね。
年の頃はシュナンとリジェンの中間、小学校3年生って感じ。
「ご丁寧にどうも、ナビーです、よろしくね」
と、私も同じように自己紹介をして、大きくお辞儀をする。
「はい」
「よろしくです」
「です、はい」
と、みんなが笑顔になる。
「これから、もっと、言葉を教える、ぷーん、そうすれば、みんなの役に立つ、ぷーん!」
エシュリンは上機嫌に話す。
「うん? 通訳をしてもらうってこと?」
「そう、ぷーん! シュナンとリジェンは親がいない、ぷーん、村長のところにお世話になっている、ぷーん! だから、丁度いい、ぷーん! シエランは、一緒に憶えたいって言うから、ついでに教えている、ぷーん! 通訳は、これから、どんどん、必要になってくる、ぷーん!」
と、彼女は嬉しそうに話す。
まぁ、確かにね、昨日は通訳がいなくて、すごく不便だった。
この子たちが通訳として働いてくれたら助ける。
「だから、三人をマスコット班に入れる、ぷーん!!」
両手を広げて、飛び上がって言う。
「マスコット班に?」
マスコット班は私の班、当然、班長は私、班長会議にもちゃんと出席しているし。
「いい、ぷーん?」
と、エシュリンが私の顔を覗き込んでくる……。
「うーん……」
「だめ、ぷーん?」
即答しない私に不安を覚えたのか、エシュリンが表情を曇らす。
「そうね……、私のマスコット班はエリート集団……、特技が通訳だけではちょっと心許ないわね……」
と、腕を組んで考える仕草をする。
「そんなぁ……」
落胆したのか、エシュリンが現地の言葉でつぶやく。
「そんな顔しないで、エシュリン、まぁ、いいわ、テストをしましょう、マスコット班にふさわしいかどうかのね」
と、人差し指を立ててニヤリと笑う。
「本当に!? やったぁ! みんなよかったね! ナビー馬鹿だから、テストもきっと簡単だよ!」
エシュリンが現地の言葉で三人に説明する……、う、うん……? な、なんか、今、すんごい失礼なこと言わなかったか……?
「ま、まぁ、いっか……、じゃぁ、ちょっと待ってて、テスト道具取ってくるから!」
と、言い、私は牧舎のほうに駆け出していく。
「はい、ぷーん!」
「いってらっしゃぁい」
「はぁい!」
と、みんなに見送られる。
扉が開け放たれたままの牧舎に入り、荷物が置いてある場所に急ぐ。
「どの辺に置いたかなぁ……」
と、荷物の山をがさごそとかき分ける。
「あった、あった、これ、これ……」
目当ての物を探しあてる。
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
おや?
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
ピップ、スカーク、アルフレッドの三羽のひよこが私に気付いて騒ぎ出した。
私は荷物を手にひよこたちの元へと向かう。
「ごめんねぇ……」
そして、鳥篭の前にしゃがんで、その隙間から指を差し入れて一羽ずつ頭をなでてやる。
「外に出してあげたいけど、まだ心配なんだよねぇ……」
小さいから……。
「ぴよ、ぴよ……」
「ぴよっぴぃ……」
「ぴよぉ……」
ひよこたちが気持ち良さそうにしている。
「よし、じゃぁ、またあとでね!」
と、立ち上がる。
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
ひよこたちの元気の良い声に送られて牧舎をあとにする。
そして、駆け足でエシュリンたちの元へ戻る。
「おまたせ!」
「おかえり、ぷーん!」
みんなが出迎えてくれる。
「何する、ぷーん?」
と、エシュリンが首を傾げて私が持つ荷物を覗き込む。
「ふふふ……、これよ、これ……」
私が手にする物をみんなに見せる。
「笛……、それに棒、ぷーん?」
「そう! ホイッスルとバトンよ!」
私がいつも使っている黄色いホイッスルと白いバトン。
「ピーッ!」
と、ホイッスルをくわえて、ひと鳴らしする。
「マスコット班と言えども戦士なのよ、そう、戦士、歩兵……、歩兵と言えば戦列歩兵、ライン・インファントリー……、そして、戦列歩兵と言えば行進……」
「行進、ぷーん?」
「そう、行進よ! さっ、みんな一列にならんで!」
バトンを天にかざして叫ぶ。
「はい、ぷーん!」
「はい!」
「はぁい!」
「はいっ!」
「くるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぷるるぅ!」
「みーん!」
と、みんなが一列に……、ちょっとバラバラかな……、でも、一応並んでいるからいいか……。
「さあ! みんな行くよ! 大きく手を振って美しくよ、ピーッ!」
大きくホイッスルを鳴らして、先頭で行進を始める。
「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー」
ホイッスルで行進曲を演奏する。
「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー」
演奏のリズムに合わせてみんなが行進する。
「ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」
柵に沿って、ぐるっと一周行進する。
「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー」
バトンを上下に振りながらリズムを取って行進する。
「ナビー、上手、ぷーん、これ、なんて曲、ぷーん?」
私のすぐうしろを行進するエシュリンが尋ねてくる。
「えっとね、これは、ブリティッシュ・グレナディアーズ行進曲って言うんだよ」
と、説明してあげる。
ナポレオン戦争とか、アメリカ南北戦争でよく使われていた曲だね。
「ぶりてぃっしゅ・ぐれなでぃあーず、ぷーん!」
エシュリンが大喜びで復唱する。
「よし、みんな、もう一周行くよ! ピーッ!」
「はい、ぷーん!」
「はい!」
「はぁい!」
「はいっ!」
「くるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぷるるぅ!」
「みーん!」
みんなも返事をしてくれる。
「ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピッピッピッピーピッピッピ、ピッピピピピ、ピー、ピピピーピピッピ、ピーピピッピ、ピッポ、ピロピロピー」
超楽しい!
「もう一周行くよ!」
「はい、ぷーん!」
「はい!」
「はぁい!」
「はいっ!」
「くるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぷるるぅ!」
「みーん!」
こうして、私たちは、何時間も飽きもせずに行進をし続けたのであった。