傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第90話 再会

 カラン、コロン、と、小気味良い音を立てながら馬車は石畳の上を進む。

 今はムネヲ乗りをやめて、ちゃんと馬車の中にいる。

 私は小窓からちょこんと顔を出して、流れる景色を眺める。

 

「チュン、チュン」

 

 小鳥のさえずりが聞える……。

 見ると、道の隅に何羽かの茶色い小鳥がいて、それがチュンチュン言いながら何かをついばんでいた。

 

「スズメっぽいね……」

 

 というか、完全にスズメだ……。

 思い返して見れば、ここに来てから三ヶ月とちょっと、最初はこういった小鳥なんて全然見かけなかった。

 でも、日を追うごとにその声を聞くようになり、やがて、その姿を見るようになり、今では普通に、目の前でエサをついばむようにまでなっていた。

 スズメは人とともに生きる……。

 昔からそう言われている。

 仕組みは簡単、人間がスズメの天敵であるヘビやトカゲを駆除するから、自然とスズメが天敵の少ない人間の集落に集まってくるってだけ。

 脆弱な彼らは人間に守られながら生きている……。

 でも、守られてばかりではない、その代償として、スズメたちは害虫を食べ、病気から農作物を守り、私たちを飢餓から救ってくれたりしている。

 つまり、お互い助け合って生きているってこと。

 昔から人類の友人って言えば、犬とか猫が定番だったけど、けっしてそれだけではない、スズメももちろんそうだけど、他にもたくさん、私たち人類を助けてくれる友人たちがいた……。

 そうやって、この厳しい大自然を生き抜いてきた。

 

「チュン、チュン」

 

 そのことをこの小さなスズメたちが思い出させてくれる。

 

「たくさん巣を作って、子スズメたちの鳴き声で賑やかになるといいね……」

 

 スズメたちを見て明るい未来に思いをはせる。

 

「こんぴらふねふね、おいてに帆をかけ、シュラシュシュシュー♪」

 

 お? 

 笹雪が歌いだしたぞ? 

 

「まわれば、四国は、さんしゅう、なかのごおり、ぞうずさん、こんぴら、だいごんげん、一度まわれば、シュラシュシュシュー♪」

 

 おお、雨宮まで歌いだした。

 

「「「シュラシュシュシュー♪」」」

 

 みんなで歌う。

 この歌、知っている。

 みんながよく口ずさんでいる歌、たぶん、北海道の歌。

 

「「「こんぴらふねふね、おいてに帆をかけ、シュラシュシュシュー♪」」」

 

 私も身体を左右にゆらしながら一緒に歌う。

 なんか、馬車のカラン、コロン、という音と合わさってすごく風情がいい。

 

「「「鴨八百羽! 小鴨が八百羽! 入船八百艘! 荷船が八百艘! 帆柱八百本! 鰹が八百本!」」」

 

 カラン、コロン……。

 

「「「あるよ、あるよ! 朝来て、昼来て、晩に来て♪」」」

 

 カラン、コロン……。

 と、歌っているあいだに市場、プラグマティッシェ・ザンクツィオンに到着。

 私たちは市場の真ん中を貫く白い石畳の道を進む。

 道の両側にはずらりとテントが立ち並び、ナスク村から避難民たちの姿を数多く目にすることが出来た。

 

「やっぱり、不便そうだなぁ……」

 

 彼らの生活ぶりを観察しながら、そうつぶやく。

 それでも、近隣の村々からの援助も多く、また、交易、商売でここを訪れる者も少なくなく、金さえあれば、食料から生活費需品までなんでも揃えられる状況にはあった。

 私たちは、その露天商がずらりと立ち並ぶ区画を目指す。

 せっかく、馬車で行くのだから、食料でも買ってこよう、という話しになっていたからだ。

 カラン、コロン、と、音を立てながら馬車は進む。

 

「ナビー様!」

「お姉ちゃん!」

 

 子供たちが駆け寄ってきた。

 

「おお! リジェン、シュナン!」

 

 駆け寄ってきた子たちはリジェンとシュナンの姉妹で、そのうしろにはシエランの姿も見える。

 

「ナビー様、ナビー様!」

「わぁあ、わぁあ!」

 

 と、手を振りながら追いかけてくる。

 

「よーし!」

 

 私は馬車の中に詰め込まれた細切れの新聞紙を一掴みし、

 

「それぇ!」

 

 と、上に投げて紙ふぶきにしてやる。

 

「わぁあ! わぁあ!」

「かわいい馬車!」

「雪みたい!」

 

 紙ふぶきが子供たちの上にゆっくりと降り注ぐ。

 

「それぇ! それぇ!」

 

 と、何度も紙ふぶきを降らせてやる。

 

「たのしいぃ!」

「もっとぉ!」

「あたしにも!」

 

 紙ふぶきを投げるたびに、馬車のあとを追う子供たちが増えていく。

 

「ほらぁ、ほらぁ!」

 

 リクエストに応えて、何度も紙ふぶきを降らせてやる。

 

「「「わぁあああああ!」」」

 

 今や30人くらいの子供たちがいて、声が重なって何を言っているのか聞き取れなくなってきた。

 

「このぉ、このぉ!」

 

 それでも頑張って、両手を使って紙ふぶきを降らせ続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 疲れた。

 

「ナビー、着いたよ」

 

 と、息を切らしていると馬車が止まり、御者役の和泉が少し笑いながら振り返り言う。

 

「お!?」

 

 着いたか! 

 私は反対側の扉にもぞもぞと這うようにして向かう。

 

「どうぞ、ナビー」

 

 と、夏目が扉を開けてくれる。

 

「ありがとう!」

 

 そして、そのまま転がり落ちるように外に出る。

 

「ウェルロットもありがとう!」

 

 と、彼女の顔を抱いて頬ずりをしてねぎらう。

 

「ぷるるぅ!」

 

 そして、ウェルロットの顔を放し、あらためて周りを見渡す。

 

「「「わぁあああああ!」」」

 

 と、30人以上いる子供たちに囲まれる。

 

「綺麗! 綺麗!」

「髪の毛金色、都会の人みたい!」

「目も青いよ!」

「姫巫女様の目だって緑だよ?」

 

 と、私を見て感想を言い合う。

 私のほうも子供たちの容姿を観察する。

 みんな黒髪、黒い瞳、目鼻立ちがはっきりしている彫りの深い顔をしていて、亜麻色の髪、みろり色の瞳のエシュリンとは似ても似つかない顔立ちをしていた。

 そういえば、エシュリンは別の村の出身だとか言っていたか……。

 

「みんな、ナギ様が困惑しているわよ、さっ、戻って、戻って」

 

 そのエシュリンが登場して、みんなを解散させてくれる。

 

「うーん……」

 

 と、私はエシュリンと子供たちを交互に見比べる。

 

「はい、ぷーん?」

 

 彼女が不思議そうに私を見る。

 しかし、違う村の出身といっても、ここまで人種が変わるものなのだろうか……? 

 と、首を傾げてしまう。

 

「ナビー、俺たちは買い物してくるから、適当にそのへんで遊んでて」

「あんまり遠くに行っちゃ駄目よ、ナビーちゃん」

 

 秋葉と笹雪に言われる。

 

「はぁい!」

 

 と、手を挙げて返事をする。

 

「さてと……」

 

 エシュリンのことは横に置いといて……。

 やることと言ったらひとつしかないよね。

 

「食べ歩き!」

 

 露天商がずらりと立ち並ぶこの区画、その中には食べ物を出す屋台も多く含まれていた。

 

「はい、ぷーん!」

 

 エシュリンも同意してくれる。

 

「よし、行こう!」

「はい、ぷーん!」

 

 私たちは意気揚々と屋台に向かって歩きだす。

 

「まずは……」

 

 おいしそうな匂いに誘われ、お店の前に行く。

 

「これ、なにぃ?」

 

 と、興味津々に食べ物を覗き込む。

 

「これは、ファヤーミル、ぷーん」

「なにそれぇ?」

「豆をすりつぶした物を揚げた物、ぷーん」

「へぇ……、ひとつ、ちょうだい!」

 

 と、私は首に下げたポーチからお金を取り出し、それをおじさんに渡してファヤーミルを買う。

 

「うーん……」

 

 まーるいコロッケって感じの食べ物。

 

「はむ……」

 

 ひと口食べてみる。

 

「はむ、はむ……」

 

 外はカリッと中はしっとりしていて、飲み込むとほのかな豆の香りが鼻から抜けていく。

 

「はむ、はむ……」

 

 食感はコロッケだけど、これ豆かなぁ、ちょっと、ほくほくのじゃがいもって感じもする。

 

「でも、おいしかった! 次、次!」

 

 食べ終えて、次の屋台を目指す。

 とりあえず、売っている料理は全部食べてみるつもり。

 お金の心配はいらないからね。

 魔法のネックレスでぼったくっているから、資金は潤沢にあった。

 ぼったくっているっていうのにも語弊があるか……、それだけの価値はあるものだと思うし。

 あと、私たちが作ったインチキ貨幣のラグナもあるし、とにかくお金には困っていない。

 

「さてと……」

 

 飲み物が飲みたくなり、コップが並んでいる店先に入る。

 

「これ、なにぃ?」

「これは、タビーヤ、ぷーん」

「なにそれぇ?」

「甘いミルクにつぶつぶ果肉が入っている物、ぷーん」

「へぇ……、ひとつ、ちょうだい!」

 

 と、私は首に下げたポーチからお金を取り出し、それをおじさんに渡してタビーヤを買う。

 

「こく……」

 

 ひと口飲んでみる。

 

「こく、こく……」

 

 ミルクというより、もうちょっと発酵させたヨーグルトに近い感じの味かな。

 あと、つぶつぶ果肉じゃなく、ぶどうくらいの大きさの果実がごろごろ入っている。

 でも、

 

「あまーい」

 

 と、ほっぺに手をあてにやけてしまう。

 

「こく、こく、こく、こく……」

 

 さらに、一気に飲み干してしまう。

 おいしかった! 

 

「ごちそうさまでした! よし、次、次!」

 

 コップを置いて、その屋台をあとにする。

 

「次はっと……」

 

 食べ物の屋台を探す。

 

「あれ?」

 

 なんか、向こうが騒然としているな。

 なんだろうと思って、私たちはそちらに向かう。

 馬が何頭か見える……。

 

「代表者を出せぇ!」

 

 その馬に乗った男がそう叫んでいる……。

 

「俺さまは戦いに来たのではない、いいから、代表者を出せぇ!!」

 

 数は三人、騎馬に乗った男が三人だ。

 そして、着ている鎧は……。

 

「帝国軍……」

 

 フルプレートアーマー、フル武装の騎兵だ。

 

「どう、どう! 殺されたいのか、貴様らぁ!?」

 

 そして、あの大声で喚き散らしている赤マントの男は……。

 

「おおっ!?」

 

 そいつが私に気付いて、こちらにやってくる……。

 

「おお、会いたかったぞ、小娘!!」

 

 そう、私はこいつを知っている……。

 

「この顔を忘れたとは言わさんぞぉ!?」

 

 年の頃は20前後、短く刈った金髪に日に焼けたちょっと角ばった顔をした好青年って感じの男。

 

「シェイカー・グリウム……」

 

 そう、あのナスク村で騎士団を率いていた男だ。

 

「なんで、ここに……」

 

 やつがニヤリと笑う。

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