傭兵少女のクロニクル   作:なうさま

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第97話 地下闘技場

 大広間が無数の軍靴の音で溢れかえる。

 複数ある扉から大勢の屈強な兵士たちが突入してきたのだ。

 

「なんだ、どうした、ナビーフィユリナ!?」

「ナビー、どうなった!?」

「ひぃ、なに、なに!?」

 

 と、東園寺たちが周囲を見渡し叫ぶ。

 

「交渉決裂、決闘で決着つけるって……」

 

 二重、三重と包囲していく兵士たちを見ながら冷静に答える。

 

「決闘だと……?」

「ええ、あれよ、前のナスク村のときと同じ、こいつらって根っからの決闘好きみたい……、それで白黒つけたいんだって」

「なるほど、そういうことか……」

 

 東園寺も納得したのか小さくうなずく。

 

「ついてこい」

 

 サトーがブルーの法衣をバサッとひるがえし、奥の扉へと歩いていく。

 

「……」

 

 槍を持つ屈強な兵士たちにうながされて、私たちは大人しくサトーのあとに続く。

 扉をくぐり、石畳の廊下を進む。

 

「まずいことになった、この決闘、魔法が使えないよ」

 

 四人の先頭、サトーのすぐうしろを歩きながら口を開く。

 当然、サトーを始め、帝国軍のやつらは私たちの言葉は理解出来ないので、聞かれてはまずいことでも、心おきなく話すことが出来た。

 

「魔法が使えない?」

「うん、あいつら怪しんでいる、私たちの力が、あの魔法のネックレスによるものではなく、何か別の力によるものじゃないかってね、それを、この決闘でそれを確かめようとしている……、だから、それが何なのか悟らせないためにも魔法を禁止する必要がある」

「魔法無しで戦えっていうのかよ……」

 

 南条が不安そうに言う。

 

「うん、でも、自信がないなら、仕方ない、負けて殺されたら意味がないからね……、その時は魔法を使いましょう……、どう、ハル、魔法無しでも勝てそう? あなたの判断に任せるよ」

 

 肩越しに彼を見る。

 当然、ここは和泉春月に戦ってもらう。

 

「ひとつ聞いてもいいかい、ナビー?」

「うん?」

「魔法有りで勝ったとき、魔法無しで勝ったとき、それぞれどうなるか教えてくれ」

 

 和泉の質問に少し考える。

 

「そうね……、魔法有りで勝った場合、今日のところは帰してもらえるだろうけど、すぐに大軍を引き連れてラグナロクに攻めてくると思うよ。一方、魔法無しで勝った場合、私たちは彼ら、帝国と、正式に交易を開始でき、最低限の身の安全が保証されるようになる……、いわゆる、公彦が最初に言った勝利条件に近づくことになる」

「そうか……、なら、魔法無しでやろう……」

 

 和泉が決意を持って言う。

 

「お願い、ハル、今はあなたに頼るしかない、魔法無しで勝って。もし、勝てたら、相当な時間が稼げる、私たちが作るネックレスなんて大した力が無いという証明になるんだから、彼らの興味は大幅に削がれる」

「ああ……、勝つさ……、と、言っても……、完全に使わないのも無謀だ……、どの程度のエンチャントなら行ける?」

 

 それは私にはわからない……。

 

「大河?」

 

 と、南条に助けを求める。

 

「魔法の使用がばれないようにするのか……、どこで戦うのかで条件が変わる、屋外だったら、ほぼ制約はないが、屋内ならば、軽いエンチャントでも光って見えてアウトだ」

 

 カツン、カツン、と、乾いた音を立てて階段を降りていく……。

 

「地下っぽいね……」

「わかった、屋内だな、エンチャントは俺にまかせてくれ、ぎりぎり見えないレベルのエンチャントを施す」

「ああ、頼む、南条」

 

 と、和泉が軽くうなずく。

 あれも教えておくか……、と、和泉に向かって口を開こうとする、けど、

 

「ふぉっふぉっふぉ、随分熱心に秘密の会議をしておるようじゃのう……」

 

 と、前を歩くサトーに言われる。

 

「しかし、どこの言葉じゃ、それは? 聞いたことがないぞ?」

「遥か東方の国の言葉よ……」

 

 ぶっきらぼうに答える。

 

「ほう……、どの辺じゃ? 海を越えるのか? それとも砂漠か?」

「どうでいいでしょ……、それより、じじい、あんたこそ何者よ、すごく偉そうなんだけど?」

 

 大体想像はつくけどね、あれ、あの巻物に署名、捺印がしてあった、あの辺境伯の、

 

「ダイロス・シャムシェイドでしょ?」

 

 と、やつの背中に向けて言ってやる。

 

「ふぉっふぉっふぉ、なめられたものよのう、わしがあんな下っ端と間違われるとは……、のう、エルルムよ……、教えてやれ、わしが誰かを……」

「はっ、先帝サテリネアス・ラインヴァイス・ザトー陛下であらせられます」

 

 千騎長アンバー・エルルムがそう答える。

 

「あ、そう……」

 

 最悪だ……。

 その前に、ザトーなの? サトーじゃなかったの? なんか、混乱してきた……。

 私は目頭を押さえる。

 

「きゅー」

 

 おっと、思わず現地の言葉が出てしまった。

 でも、救いなのは先帝というところか、隠居していて実権は握っていない……。

 

「ここじゃ……」

 

 正面の巨大な扉がギーという音を立ててゆっくり開く。

 そこは薄暗い廊下よりもかなり明るく、まぶしくて一瞬目がくらむ。

 まず目に入ったのは、サンドイエローの砂の地面、さらさらとした決めの細かい砂で、砂浜や砂漠などを彷彿とさせる砂質だった。

 次に広さ、直径30メートル程度の円形状、グレーの石壁と天井、その石壁と天井にはずらりと松明が焚かれている。

 

「ふぉっふぉっふぉ、準備をせい」

 

 と、サトーが先を歩き、観覧席だろうか、正面左にある、少し高くなった椅子が並べられている場所に向かう。

 

「こちらへ」

 

 ひとりの兵士が私たちを別の場所にうながす。

 そこは闘技場のすぐ脇の扉もない小部屋。

 中には武器類、鎧類がずらりと並べられている。

 

「お好きなのをお使いください」

 

 兵士が武器や鎧を指し示す。

 

「出場者はどなたで?」

 

 私は視線で和泉春月だと告げる。

 

「では、先に身体検査を……、公平を期すために、ここにある鎧、武器以外の持ち込みは禁止とさせていただきます。申し訳ありませんが、ナイフなどの短刀類、その他武器になるような物がないかチェックさせていただきます」

 

 兵士が和泉の元へ向かう。

 

「ハル、身体検査するって、武器とか持ち込み禁止だって」

 

 そう告げると和泉は黙ってうなずき、兵士からの身体検査を受け入れる。

 

「では……」

 

 身体検査を受けながら、和泉は武器を外し、帯革を取り、武器になりそうなものはすべて脱ぎ、それを東園寺たちに渡していく。

 

「こちらもお取りください」

 

 魔法のネックレス……、ではなく、和泉用に作られた魔法のブレスレットを外し、それを南条に預ける。

 

「以上で問題ありません。では、武装をしてください、どれをお使いになろうとも自由です」

 

 と、兵士はずぼんと半そでシャツだけになった和泉に言う。

 

「どれにするか……」

 

 和泉は鎧の物色から始める。

 

「和泉、なるべく白っぽいのにしてくれ、エンチャントの発光をごまかせるかもしれない」

「ああ、わかった……」

 

 うなずき、和泉が選んだのは……。

 

「おお……」

 

 白いレザーの鎧……、赤や金で縁取られた、とても豪華なレザーメイルだった。

 

「かっけぇ……」

 

 思わず南条もそうつぶやいてしまう。

 

「派手だな……」

 

 同じでデザインのブーツを履きながら和泉が少し笑う。

 ブーツの次はヘルム……、これも同じデザインのものを選ぶ。

 それは、ヘルムというより、額を中心に守るサークレットに近いような形状をしていた。

 

「よし……」

 

 最後にガントレットをはめる。

 

「おーけー」

 

 と、南条が監視をしている兵士に悟られないように、何かアドバイスをするような素振りで和泉に近づく。

 

「アポトレス、水晶の波紋、火晶の砂紋、風を纏え、静寂の風盾(バビロンレイ)

 

 会話をしているという体で防御、強化魔法を付与していく。

 

「焼け石に水か……、防御はやはり光る……、これが限界だ……、その代わり、強化は十分に施されたはずだ……」

「ああ、ありがとう……」

 

 と、和泉が南条に礼を言い、今度は武器の物色を始める。

 

「これがいいか」

 

 その中の一つの剣、片手、両手、両方いけるだろう、少し大振りのバスタード・ソードを選び、その鞘を抜きかざしてみせる。

 

「ハル……」

 

 私は刀身にひびなどがないかチェックしている和泉の元に歩み寄る。

 

「どうした、ナビー?」

 

 視線は刀身に向けながら言う。

 

「戦闘的なアドバイスなんて、あなたには必要ないでしょうけど……」

 

 そもそも、普通にやったら和泉のほうが強いしね。

 その強い和泉がさらに強くなるのは嫌だけど……。

 

「ハル、心の中で呪文を唱えてみて?」

「うん?」

「いいから……、早く」

「あ、ああ……、唱えたよ……」

「じゃぁ、今度は両手両足を意識しながらもう一回」

「ああ……」

「そして、三回目、同じ呪文を唱える、と、強く意識して、一文字目を口にするその瞬間にそれを飲み込んでみて」

「なっ?」

 

 と、和泉が驚いたような声を上げる。

 

「それで手足が強化されたはず、それは厳密には魔法ではない、なので光もしないし、当然、魔力も放出しない」

 

 彼にゴッドハンドを教える。

 

「ナビー、キミは、いったい……」

 

 と、和泉が私の顔をまじまじと見つめる。

 その顔を真っ直ぐ見返して、強く、大きくうなずく。

 

「時間です、入場してください!!」

 

 兵士の声が響き渡る。

 

「よし、行こう、ハル!!」

 

 その背中を強く平手打ちすると、パァーンという大きな音が鳴り響く。

 私も和泉と一緒にゴッドハンドをしていたからね。

 少し微笑む。

 

「ああ、行こうか……」

 

 和泉が闘技場に向かい歩きだす。

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