街の至る所ではパトカーのサイレンが鳴り響き、騒ぎを聞きつけたマスコミや野次馬で溢れている。
それもそのはず。街を駆ける線路には巨大な車両が垂直に突き刺さっている光景を、日常だと考える者はまずいない。
「……まぁ、及第点ってところか」
『あぁ、アイツらを相手によくやったよ。お前にしては上出来だ。――とでも、言うと思ったが阿呆』
その犯人である百夜は群衆に紛れ込んで、何食わぬ顔でその光景を眺めている。
彼が放ったあの一撃は、オータムに直撃こそしたが致命傷とはならなかった。理由は至極単純だ。
誰もが知っている理由。それだからこそ、ISが最高の軍事戦力となり得たモノ。
『まさかあれ如きで絶対防御を貫けると思ったか?』
「……分かってる。あんときは頭に血が上ってたんだよ」
車両をフルスイングでぶつけると言う行為だけで、ISを倒すには至らなかったのである。或いはアラクネ自体の防御力が高かっただけなのか。尤も、ISの特性を百夜が忘れてしまっていた、という事が大きい。
ちなみに肝心のオータムだが、衝撃に巻き込まれどこかへと吹き飛んでいったきり行方知れずである。言うなれば、ボールをバットで打ち返したような物だ。
群衆から離れ、百夜は溜息を吐いた。彼のコートが闇へ溶ける。
「あーあ、せっかくの準備も水の泡だ。勿体ねぇなぁ」
彼が見上げたビルの屋上には、避雷針に偽装された槍が数本突き刺さっていた。念のための戦闘として用意しておいたのだが、結局無駄になってしまった。
慣れない事はするもんじゃない、と彼は息を吐く。
『そうだな、せっかくアンイーヴンの世界進出が見えたと言うのに。これじゃあ稼ぎが悪いままだ。……そうだ、雅。事務所を改造しよう。この際、要塞の形をした飛行式多脚型移事務所がいいだろう』
「……どうやって客入るんだよ、それ」
空を見れば、まだまだ綺羅星が巡っており夜明けの時は到底訪れそうになかった。
「あぁ、クソ。アイツがあそこまでの怪力とか聞いてねぇぞ」
ホテルの一室で、オータムは傷の手当てを行っていた。車両の一撃をモロに喰らい、大きく吹き飛ばされた彼女は、すぐさま戦線に復帰しようとした。そこをスコールに説得され、撤退したのだ。
彼女の体の至る所には銃創や切創があり、車両内の激戦を物語っている。
「えぇ、さすがギルバのお墨付きね。……生きて戻っただけでも儲け物よ、オータム」
「……」
「オータム?」
「スコール、そいつは違ぇよ。儲けどころか大赤字だ」
自力での手当てを終えたオータムは立ち上がり、窓を見る。そこから見える街のどこかにあの少年がいる。
常識を力技で捻じ伏せる彼が、今も彼女の視界のどこかで生きている。
「あぁ、クソが。クソッタレが。これじゃあ今までのように戦えねぇ」
「オータム……?」
「またアイツに会いたい、またアイツと殺し合いたい。私が心の底からそう思っちまった。だからもう今までのように戦えねぇ」
彼女の口が笑っている。心底楽しそうに微笑んでいる。スコールも彼女とは長年の付き合いだが、その表情を見た事が無い。
「オータム……」
「なら、それでいいと思うがね。オレは」
ふと聞こえた声に、拳銃を向ければそこにはジャックが立っていた。ドアを開ける音すら響かせずに彼は侵入してきたのだ。
「ジャック……!」
「好きなように生きて、好きなように死ぬ。それがオレ達のやり方だ」
「今更言われるまでもねぇよ、戦争屋風情が」
「心外だね。せめて、傭兵と言ってくれ」
指先でくるくるとシルクハットを弄ぶ彼は、笑みを口元に張り付けたまま踵を返す。
扉を踵で閉めた後、彼は小さく呟いた。
「さて、状況はまだ手遅れか。丁度いい」
アンイーヴンの一室で、雅は百夜の戦闘データを纏めていた。
車両内における戦闘機能、武器の破損状況及び整備状況、そして、彼自身の身体能力。
その最中で、彼女は一つある事に気が付いた。
「……彼の武器は、大半がオーダーメイド」
すなわち誰かが作り、百夜に与えたのだ。その誰かなど最早言うまでもない。
彼の武器の仕組みを、何故か雅はすんなりと理解することが出来ていた。材質も機構も、その全てが手に取るように分かっていた。
元から彼女は、物作りは得意な方であり特に工学では他者の追従を許さぬ程の力を発揮する。
しかしながら彼女自身には対した戦闘能力は無い。だが、もしも――。
もしも、彼女の作った武器を十全に手足の如く使いこなせる者がいたのならば。
「……やってみよう」