IS学園では学園祭が開かれていた。普段は入れぬ時代の最先端が詰め込まれた場所では、女子生徒達が華やかな振る舞いで客となる人々を捌いている。
その中に一人、赤いコートを羽織る少年の姿があった。
「あー、たこ焼きうめわー。天国だわー、ここ」
百夜の手にあるのは、パックに所狭しと敷き詰められたたこ焼きである。ほくほくと湯気が立っていて、香辛料が食欲をそそる。その香りをすれ違う人達へ振りまきながら百夜はIS学園を歩き回っていた。
爪楊枝をパックの中にしまい、ゴミ箱に放り込んで百夜は再度、手持ち金額を確認する。
日本紙幣での最高単価が凡そ五枚。まだまだ堪能できる。
「さーて、そろそろ目的を――。あっ、焼きそば一つ」
百夜の遊山はまだまだ終わらない。
何故彼がIS学園の学園祭にいるのか、時刻は数時間ほど前に遡る。
「……ほう、百夜。お前を指名した依頼が来たぞ」
「あ?」
二挺の拳銃を雅がじっくりと調べており、手持無沙汰に大剣を弄んでいた百夜は、その声に片眉を吊り上げた。ギルバの声音を聞けばそれだけで、吉報か悪報かが分かる。百夜がこれまでの生活で身に付けた一種の未来予知でもあった。
そしてその直感が告げるのは無論、悪報である。
「依頼人は現地集合を希望してるそうだ。場所はIS学園、正門前」
「……? 見当もつかねェな。」
「内容は白式の強奪だ」
その言葉に、百夜は口笛を鳴らす。
大方予想はついた。彼の口角が吊り上がる。彼の気分に火が付いた合図だ。
「時間は?」
「今からだな」
「確信犯か、あの野郎」
傍に合った赤いコートを羽織って、百夜は時計を見上げる。
銃をすぐさま組み立て、コートの内側に吊り下げる。大剣を彼が背中に差すと、そのまま背景に溶けるようにして見えなくなっていった。
「これ、ちょっと作ってみたの……」
「こいつは……」
雅が差し出してきたのは、ソードオフされたショットガンだった。狩猟によく使われるモデルであり、比較的サブカルチャー系統の作品でよく見かけるタイプである。
百夜が手に取ると、それなりの重みがある。しかし使いこなせない程では無い。
「どうやって?」
「モデルガンにISの部品を使って改良を加えた。弾丸は散弾とスラッグ弾どちらも使用できるようにしてるし、銃身やバレルもIS武装と同じくらい硬くしてあるから壊れにくいとは思う」
「……へぇ」
面白げにショットガンを眺め、片手でくるりと回して狙いを定める。銃口の先はギルバだが、彼女は煙草を片手に見つめているだけだ。
「気に入った。サンキュー、早速使わせてもらうぜ」
「うん、頑張って」
「ちょっと走る。電車じゃ間に合わねぇ」
「好きにしろ。目立つなよ」
「もちろん」
電車より足が速い時点で、おかしいのだが、雅はあえて突っ込まずにいた。
いい加減、慣れてきたところである。
『おい、何のんびりショッピング楽しんでんだテメェ』
「ショッピングじゃねぇ、朝飯だ」
『ぶち転がすぞ、クソガキ』
『ぶちのめすぞ、クソアマ』
インカムから聞こえてくるのは、オータムの声である。周波数を彼女のチャネルに合わせてあるため、こうして連絡が取れるようになっているのだ。
織斑一夏の捜索があったような気がするが、それよりも今は食事が最優先である。
「こっちは焼きそばの繊維噛み締めてるんだよ、仕事なんてその後でいいだろ」
『依頼主はアタシ達だ! 報酬無くしてもいいんだぞ!』
「じゃあ帰るわ、お疲れー」
『あ、嘘。今の全部嘘。ちゃんと払うから最後まで協力しろ、クソガキ』
『百夜、ちなみに夕食の分は確保しておいただろうな』
「オレのカップ麺全部食い尽くしたお前が何を」
『知らん、名前が書いてなかったからな。私はただどこの誰かが買った物を食っただけだ』
「ぶち殺すぞ、ギルバ」
ふと、百夜の足が止まる。
見える風景は廊下だ。今まで百夜が何の変哲も無く歩いていた所。
――だが、そこは彼以外誰もいない。騒めきどころか風の音一つしない。
「ちょいと切るぞ。お仕事だ」
インカムを切る。大剣を背中に発現させ、周囲を見渡す。
空気が冷たい。床を見ると、そこは百夜の姿が反射して映っていた。
「なるほど、水鏡ってやつね」
――百夜が背後へ大きく跳躍する。
それとほぼ同時に、彼の立っていた場所から槍が突き出し、大きく水飛沫を上げた。
立ち込める霧、恐らくこの迷宮を作り出した物による力。
その主を見つけるべく、気配を伺うが何も見えない。ただひしひしと伝わる殺意。
「ビンゴ」
百夜が大剣を大きく振るうと同時に、霧の形をした水壁が切り裂かれ一人の少女の姿が見えた。
IS学園の制服に水色の髪、そして纏うIS。――その様子に思わず変わる前の雅を想像する。
「今度は逃がしたりしない。――必ず仕留める」
少女が纏うのは剣呑な殺意だ。そして少女の言葉に、ギルバからの話を思い出す。
以前、名も知らぬ者に襲撃を受けたと言う事。
きっと目の前にいる少女が主犯だろう。何故、彼女が百夜にまでたどり着けたのか。
まず間違いなく、あの情報屋の事に他ならない。ジャックがまた、火を焚きつけたのだろう。
「随分と慌ててるようだが、人違いって事は?」
「あら、貴方が不審者である事に変わりはないでしょ? それとも、剣と銃を持ち歩く一般人なんているのかしら?」
「さぁな、探せばいるんじゃないか」
「自覚はあるのね」
「これで飯を食ってるからな、職業病ってヤツさ」
少女の周囲に液体で作られたISが現れる。液体で構成された姿は、まるで硝子細工のようだ。景色が透き通って見える分、ステルス性には富んでいるに違いない。それらが持つ武器は剣や槍と、多種多様に分かれている。液体で作られているとはいえ、喰らえば致命傷は免れない。
思わず百夜は口笛を鳴らす。
退屈な仕事に終わると思っていたが、思わぬ大物にぶち当たった。これだから、便利屋は止められない。これだから人生は、楽しい。
「Welcome to the party―最高の刺激をあげるわ―。Rest in peace―安らかに眠りなさい―」
全てのISが武器を構える。
それに呼応するように百夜は二挺拳銃を構え、不敵に笑った。
「Sweet baby―イケてるぜ、お嬢ちゃん―」