転生者は夢を見る   作:ソン

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Fight Song

 

 

 

 

 IS学園と呼ばれる施設がある。ISを授業過程に盛り込んだ教育施設であり、その待遇の良さは学校と言うカテゴリから大きく外れている。

 情報、セキリュティ、防衛設備――それらは一国の軍事力と拮抗状態を作り出す事すら可能な程だ。

 ――ただし、それは普通の人間が喧嘩を売った場合である。世の中には道理から外れた不揃いが必ず存在するのだ。

 例えば、アリーナの外壁に腰かけて座っているこの男――ジャックのように。

 彼は吹き荒れる風をものともせず、ただ奇妙に笑んでいた。

 

「IS――たったそれだけのパワード・スーツで大きく世界は変わった。だが変わっても元の世界は変わりはしないと来た。だとすればどうするか。ならば単純な話だ、簡単な答えだ」

 

 忍び笑いを漏らして、彼はアリーナを見る。今の彼は己の気配を最大限まで殺しており、周囲と完全に同化していた。

 その離れ業もかつてジャックが鍛錬の中で身に付けた技能の一つである。彼の心身にある戦闘本能と彼が育て上げた戦闘思考。その両者が合わさって生まれた存在がその男だった。

 

「世界に喧嘩を売りに行こう。世界をこの指で刻んでみよう。あぁ、それがいい。それでいい。きっといい。

 君には理解できないかもしれんがね、スコール・ミューゼル」

 

 手に持った遠隔カメラを弄びながら、ジャックはもう一度笑った。

 

 

 

 

 現在、百夜、ギルバ、雅の三人はIS学園アリーナのVIP席にて観戦をしていた。彼らに共通しているのは目の前の試合を一切注視していないという事である。

 何の心境の変化か、突如ギルバがIS学園に向かうと言い出し、出発する事になった。それが凡そ数時間ほど前だ。無論百夜とて疑りはしたが、ギルバの意見が簡単に変わらない事は既に知っていた。だから諦めた。

 

「……ったく、こういうのは割にあわねぇんだよ」

 

 アリーナで繰り広げられている試合を前に百夜は持ち込んだペットボトルを弄んでいた。世界初の男性IS操縦者と国家代表候補生とやらが試合を繰り広げているが、百夜にしてみれば実に退屈極まりないモノだ。

 何故かと聞かれればそれは単純極まりない答えだ。実に簡単な筋道で導き出される一つの明解だ。

 それは命の鍔迫り合いである。鎬を削り、火花を散らし、それでようやく人は己の力を、その真価を発揮できる。それが百夜の自論であった。要するに烈火の如く猛進猛撃をしろという訳である。

 

「つうか、何だよあの装備。剣一本で中距離の間合いとか馬鹿じゃねぇの。装備が剣しかねぇなら特攻だろ特攻」

「ふむ、同感だ。絶対防御とやら死にはしないんだ。特攻しろ特攻」

「……頑張れー」

 

 百夜とギルバの辛辣な意見に、周囲から冷ややかな視線が飛来する。彼らがいるのはVIP席であり、一国に関わる関係者などが集う席である。無論そこで失言一つでもすれば即座に国際問題確定だ。

 せめて巻き込まれないようにと、雅は物凄く棒読みな声で適当にどっちかを応援した。

 

「……でよ、ギルバ。まさかのまさかでこんな泥試合を見させるために連れて来たってワケじゃねぇよな?」

「あぁ、勿論だ。知り合いから面白いイベントがあると聞いてな。もうすぐ連絡が来る」

「イベント……ねぇ」

 

 百夜は蒼のコートの裾を弄りながら、あちこちに視線を向ける。出来る事なら銃の手入れをしたいが場所が場所であるため、それは不可能だった。

 

「……?」

 

 ふと百夜は違和感を覚える。妙な感覚があった。

 どうにも胸騒ぎが止まらない。まるで何かが迫りくるような感覚。

 彼の嗅覚が闘争の匂いを嗅ぎ取り、彼の聴覚が闘争の音色を聞き取る。彼の本能が徐々に眠りから覚め、その神経は堕落し切った状態から一気に鋭敏なモノへと凶変する。

 

「……来たか。おい、百夜、そこに立っておけ」

 

 よく見ればギルバと雅がインカムを付けている。それに習うようにして百夜もまたインカムを装着した。

 さらに嫌な予感を感じながらも百夜は指定された通りの場所に立つ。そこは観客席とアリーナを隔てる巨大なガラスのど真ん中である。

 瞬間――凄まじい轟音が響いた。その拍子に背後を振り向こうとした時、本能が防御を命じた。

 

「おわっ!」

 

 VIP席の入り口から突如、飛来した全身装甲のISが百夜の体を掴み彼の体ごと防弾ガラスを突き破ったのである。

 激痛の中、百夜はふとギルバと雅を見た。

雅は少しだけ心配そうな視線を送り、ギルバは何故か笑っていた。笑っていたのである。それもすごく楽しそうに。その意図に気づき、百夜は体の状態を戦闘へ最適化すべく心身への意識を変化させた。

 そしておまけとしてギルバに憎悪を込めて睨もうとした時、無残にも閉じられた防壁シャッターが彼と彼女達の姿を隔てる。

 

“ごめんね”

“そうら、行って来い”

 

 要するに二人の言いたいことはそういう事であった。

 騙されたと言う苛立ちと憤怒。それに呼応するように百夜は両手に拳銃を展開し、背中に大剣を出現させる。

 そして彼の顔面を隠すように黒の仮面が出現し、目元を覆いその下部から現れた緑のバイザーが彼の顔下半分を覆う。彼なりの身分偽装であり、この状態ならば彼の顔は認識できず声も人工音声へと変化されるため、一発で看過される事は無くなるし特定もされにくくなる。要するにどんな場所でも、存分に暴れられるのだ。

 ――その銃口を、百夜は何の躊躇も無くISの頭部へと向ける。

 

「ハメやがったな、ギルバーッ!!!」

『そう怒るな。理由は戦いながら説明する』

 

 インカムから聞こえて来た声を掻き消すように、百夜は銃弾を乱射した。

 

 

 

 

「……あら」

 

 亡国機業の一人、スコール・ミューゼルは乱入してきた一機の他にもう一機が遅れて参入してきた光景を見ていた。無論、ジャックが持っている遠隔のカメラからである。

 そこには蒼いコートに黒の仮面と緑のバイザーをした一人の人物が体を掴まれながらも、ISに向けて銃を乱射していた。

 途端、彼女の中に何とも言いようのない感覚が紛れ込んで来る。それは期待か興奮か鼓動か――否、彼女の飢餓であった。

 かつて彼女を亡国機業へ導いた一人の女性――そんな彼女と似たような何かを、その人物は持っていた。

 

「――」

「おい、スコール。何ボサッとしてんだよ帰ろうぜ」

 

 オータムやエムの言葉も耳に入らなかった。防壁シールドに阻まれて彼女達や観衆には見えないが、ジャックに持たせたカメラからスコールはそれをしかと見たのである。

 彼の姿に思わず胸が高鳴る。可能性と言う一本の縄が、彼女の何かを強く捉えた。それは彼女を深く深く捕えて、決して放さない程深く絡まる。

 

「オータム、エム。まだ残るわ、ギリギリまで。本当の本当に最後の最後まで」

 

 掴まれていた人物はISを蹴り飛ばして、地面へと着地した。

 

 

 

 

「イテェんだよ、ポンコツが……!」

 

 舌打ちしながら、百夜は自身の状態を確認する。防弾ガラスに言葉通りぶち込まれた時に強烈な衝撃を受けたが、それ以外に異常は無し。損傷も皆無。コートも破れたところは無い。衝撃で軽い眩暈がした程だったが、それも最早度外視できる範疇である。

 ちなみに普通の人間であれば即死である。激突と落下による衝撃で内臓破裂は間違いないだろう。だが百夜の意識はその事を見ておらず、ただ戦いの気配だけを敏感に感じ取っていた。

 二挺拳銃をコートの中に直し、百夜は背中の大剣に手を伸ばして、右手で勢いよく地面に振り下ろす。

 その眼前に立つのはIS。全身装甲ではあるがスマートな体型をしており、明らかに近接戦闘を得意とするタイプだった。見るからに今までのISにあった浮遊機能は無いようにも思え、それは最早パワードスーツとしか言いようがないだろう。

 

『聞こえるか、百夜。騙して悪いが金のためだ、悪く思うな』

「ギルバァ……」

『そう怒るな。帰ったら三日間の休暇をくれてやる』

 

 インカムからの音声に再度苛立ちが加熱する。だがそれもすぐに冷めて、新たな思考の土台へと変化する。

 大体金など貰ったところで百夜には使い道が無いのだ。あったところでどうしようもない。ならば彼にとって休暇など意味を為さない。休息など、日常の些細な一部でしかない。

 故に思考を変える。今、自分にとって必要なのは何か。落下の衝撃でコートや髪には間違いなく砂塵が纏わりついているだろう。ならば紅裂百夜と言う男が望む事は一つしかない。

 

「いらねぇよ。帰ったら一番シャワーだ」

『――あぁ、そうだな。それがお前らしい』

「ハッ、よく言うぜ」

 

 大剣の刃先を一機のISに向ける。全身装甲は初めて聞いたが、それがどうのこうのなど知った事か。

 敵であるのならば斬る。ただそれだけである。例えアレに人が入っていようともだ。人であろうが動物であろうが何であろうが、壁であり障害となるのならば叩き潰す。

 銀色の刃が日光を浴びて、煌めきそして相対するISを映す。

 

「ウェルカムトゥーワンダーランド、ってか。笑えないアトラクションだな」

 

 そんな物は壊せばいい。そう思って口元に笑みを浮かべる。踏みしめる地面はIS学園アリーナ。狙うは乱入してきたIS。破壊箇所は頭部か心臓部。まずはそこを潰す。

 突進してきたIS目がけて、百夜はその大剣を勢いよく振り上げた。

ISが放つ拳と彼の大剣が激突し、盛大な火花を散らした。

 

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