転生者は夢を見る   作:ソン

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Day after day

 

 

 どうせ眠るならずっと、夢の底に沈んでいたい。水面の底で時間にさえも置き去りにされて、何もかもから放り出されて。

 そこでずっと眠っていたい。責め立てる者もいるだろう。その生き方は無意味だと。せっかく生まれたのだから、最後まで生き抜けと。

 恥ではない。屈辱でもない。ただ自分がそうであるから。配られた手札のカードは既に決まっているのだから。そうであるしかないのだ。

 ――ならばもしも、夢と現が入れ替わったとしたらその理は変わるのだろうか。その世界は変転するのだろうか。

 

 来る日も来る日も、それを繰り返し続けている。

 例え何度倒れようとも、また立ち上がりそして倒れる。

 来る日も来る日も、それを繰り返し続けている。

 

 

 

 

 

「派手に暴れ狂ったね、百夜」

「……何でお前がここにいる?」

 

 百夜がアンイーヴンに到着した時、いたのはジャックであった。他を見れば机の上は出立する前の状態そのものであり、雅とギルバはまだ帰宅していないようだ。

 椅子の背もたれに腕を組んで、彼は楽しげに笑っている。

 

「今回は予想以上の戦闘。世間に一石を投じる事になった。俺が望む流れとしては最適だ」

「ハッ、よく言うぜ」

 

 ジャックは不敵に笑んだ後、シルクハットの鍔を指で押し上げる。彼が良く行っている動作ではあるが、百夜はどうにもなれない。

 この男の眼前で一瞬でも気を抜けば、死ぬ。そんな錯覚が過ぎるからだ。

 

「今回の報酬は情報でいいかな。それも飛びっきりのモノだ」

「……へぇ、自称情報屋のアンタらしい事だ」

 

 コートの内側に銃をぶら下げ、いつでも反撃出来る体勢を整える。ジャックと言う男は読めない。何であるのが、何が目的なのか、何をどうしたいのか。

 その全てが全くつかめない。

 

「君は、真の闇と言うモノを知っているか。決して悟られる事のない、誰の目にも触れる事のない黒を」

「……闇に真偽もねぇだろ。あるのは影だけだ。まるで当たり前のようにあって、当たり前のように付きまとう」

「あぁ、そうだとも。だからこそ闇は真であり続ける必要がある。名前を知られれば、それは闇でもなければ影でもない。ただの灰色だ」

 

 ジャックを睨む。百夜はこの男が言いたいことが分かったのだ。

 要するにこの男は――

 

「手前、世界を敵に回すつもりか」

「然り。刃は気づかれてはならない。牙は見つかってはならない。名は知られてはならない。――まさに闇だ。名も無ければ姿も無く、姿も無ければ名も無く、世界と言うのは闇になればいとも容易く落とせるのさ」

 

 百夜は銃口をジャックに向ける。引鉄に指こそかけていないが、いつでも放てるぐらいの力を籠めている。

 だがこの男を撃てない。ジャックを殺してしまえば、彼の言うモノの手がかりさえつかめなくなってしまう。

 それを察してか、彼はニタリと笑っていた。

 

「……何故、それを?」

「気まぐれだよ、それ以外に理由など無い。好きなように生きて好きなように死ぬ。それが俺と言う人間だ。君がどのような人形であるのかは知らないが」

「手前……」

 

 目を凝らせばジャックの周囲には何か光るようなモノが見える。まるで何かが光に反射しているかのようだ。それを見抜けば、その体に刃と鉛を届かせることが出来る。

 その物質の名に百夜が到達しようとした時、ジャックは既に窓の外にいた――浮いている。彼は窓の奥の風景――その宙に立っている。

 

「では、これにて失礼しよう。ではまたいずれ――互いに、生きていれば」

「……」

 

 ジャックはその場から飛び上がり姿を消す。苛立ちを舌打ちに変えて、向けていた銃をくるりと指先で回しながらコートの中へと収納した。

 

「よく分からねぇ男だ」

 

 ジャックが座っていた椅子を蹴り飛ばして、元の位置へと戻す。百夜は苛立ちを隠す事すらせず、舌打ちしながら銃口で髪を掻いた。

 

「やっぱ手前とはソリが合わねぇ」

 

 

 

 

「さて……」

 

 ギルバは雅をアンイーヴンへ帰宅させた後、悠々と街を練り歩いていた。それも加え煙草を片手にである。

 無論、ただ暇だからと言うような理由で動いているのではなく彼女自身が一つ気づいたことがあるからだ。

 彼女が入り込んだのは狭い路地裏。人一人がかろうじて入れそうな幅である。

 

「出て来い。今なら見逃すだけで勘弁してやる」

 

 彼女の言葉と共に一つの影が上空より飛来する。それは鮮やかに地面に着地し、溢れる殺意を抑えようともしなかった。

 ギルバの眼前に現れたのは水色の髪をした少女。その姿に思わず笑いが零れる。

 少女は彼女の笑いに苛立ちを隠そうともしない。

 

「更識か、何の用だ。生憎コイツが最後の一本なんだ。手短に済ませてくれ」

「……そう、なら手短に言うわね。――返してもらうわ」

 

 更識楯無――十七代目となった彼女の事は雅から聞いている。

 その実力は如何なるものか。思わずギルバは息を吐いた。

 

「返す? 知らんな。更識簪と呼ばれる人間はウチにはいない」

「――だったら、力でねじ伏せる。悪く思わないでね」

 

 瞬間、楯無の姿が霞んだ。

 単純な事。壁を蹴り、彼女がただギルバよりも上へ跳躍しただけ。それは生身で行われた離れ業。常識に当て嵌めるならばまさしく規格外である。

 そして彼女の腕から繰り出された一撃が、ギルバの首を捉えようとした時――ギルバの姿もまた消えていた。

 標的を逃した牙はそのまま壁面へと勢いよく食い込み、深い穴を穿つ。

 

「……顔は覚えたわ。次は必ず見つけ出す」

 

 そうして楯無は去っていく。

 彼女の後ろ姿を建物の屋上から、一人の女が見ていた。

 

「やれやれ、お前の姉とやらは随分な狂犬だ」

『……うん』

 

 ギルバは変装としていたマスクを外す。雅が作成した急ごしらえの擬装用フェイスマスク。

 それは楯無相手に見事な効果をたたき出していた。

 

「……どいつもこいつも化け物ばかり、か」

 

 言葉と共にギルバは紫煙を口から吐き出す。

 疲れたと言わんばかりの息が、漏れた。

 

 

 

 

 大気圏を超高速で飛行する船。それは人参の形をしているが正確に言えば人参に見せかけたミサイルである。ステルス機能を兼ね備えた其れは一言でいうならばオーバーテクノロジーだ。

 その中で束は一つの考えを纏めていた。

 IS学園で交戦を繰り広げた無人機より収集したデータを集めたそれは、彼女のモニターに表示されている。その考察について束は一つの結果を生み出していた。

 

「……そうか。男でISを使えるのはいっくんだけじゃなかった。あの少年も、それが出来たんだね」

 

 紅裂百夜――彼に対し束が生み出した結論はたった一つ。それはあり得ない。常識にのっとり、世界に当て嵌め、理に従うのであれば、彼は本来存在してはならないのだ。

 

「……転生者」

 

 それが束の出した結論である。

 人が生み出した可能性によって吹かれた息吹。それに神の手など断じて在り得ない。彼は人によって作られ、人によって生まれた。

 奇跡と言う可能性が次々と連鎖していった結果、生み出された集合体。

 

「紅裂……百夜」

 

 彼女の言葉は世界に塗りつぶされるかのように、小さく消えた。

 

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