ダゲキ「俺のトレーナーはかなり無茶だと思うのだが皆様はどう思うだろうか?」   作:個人情報の流出

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中々筆が乗らずに遅れました。思い付けば早いんだけどな……。

今回は繋ぎです。説明ばっかでつまらないかもしれませんが許してください。なんでもはしません。


特訓開始

 朝日もバッチリと顔を出した、午前六時半。ハクダンシティのポケモンセンターの食堂に、起き出してきた宿泊トレーナーがポツポツと朝食を摂りに現れる頃。貸しバトルフィールドに、二人の人間と、四匹のポケモンが居た。

 

「さて! それでは、本日の訓練内容を発表しまーす!」

 

「リマー! (おー!)」

 

「ピッカァ! (おー!)」

 

「お、おー!」

 

 一人の少女と二匹のポケモンの正面に立ち、元気よく叫ぶのは殿堂入りトレーナーであるアユ。アユの向かいに立ち、その言葉に元気良く返事をするのはハリマロンのマロンさん、ピカチュウのピカさんと、二匹のトレーナーであるルミアだ。アユのポケモンである俺ことダゲキはそんな様子を微笑ましく、生暖かく見守っていて、同じくアユのポケモンであるジュカインは、ため息をつきながら冷たい目でそれを眺めている。

 まあここまでややこしく説明をしてきたが、要するにアユとルミアのポケモンが全員ボールから出ているってことだな。皆ボールから出て勢揃いは初めてだし、俺はマロンさんともピカさんとも直接の面識はなかったので、さっきボールから出たときに挨拶はしておいた。ジュカインは相も変わらず冷たい目で見て、ふんと鼻をならすだけだったが。

 しかし、やはり思うのはジュカインのあの態度ってどうなのだ、と言うところだ。改めて挨拶をしてくれたルミアのポケモンにも挨拶を返さないし、今目の前で繰り広げられている微笑ましい光景だって睨み付けるように見ているし。母性、くすぐられたりしないのだろうか? 俺はオスだがくすぐられるぞ、母性。まあ生まれてこのかたタマゴなんぞは作ったこともなく、親になったことなどないのだが。そんな俺でもくすぐられるのになぜメスのお前がくすぐられないのだ。

 なんとなく、ジュカインの顔をじっと見てみる。ジュカインはこちらに一瞥くれただけで、ずっとアユたちの様子を見ている。……やっぱり冷たい女だなぁ、こいつは。せめてその冷たい目をやめれば良いのに。そうすればもっとマシな顔に……いてぇ。ジュカインにこづかれた。おかしいな、俺は一言も喋っていないぞ? もしかしてこいつ、くさタイプじゃなくてエスパータイプだったりしないか? ……いてぇ、またこづかれた。なんだってんだ全く。アユたちに向けてた目そのままでこっちを睨むな。普通に怖い。

 

「とりあえず、二匹の育成の方向性を言っちゃうね。あ、メモできるならメモしといてね、ルミア」

 

「は、はい! 一応、準備はバッチリです!」

 

「ならおっけー。じゃあ、まずはマロンさんからかな」

 

「リマリィマ! (どんとこい!)」

 

「マロンさんはね、攻撃を耐えるガッツはあるけど、素早さはあんまりって感じかな。だから、牽制しながら遠距離攻撃したり、敵の攻撃を受けてカウンターする感じの戦い方を目指していくと良いと思うの」

 

「は、はい」

 

「リマ! (はい!)」

 

 アユの言ったことを丁寧にメモするルミア。アユの意見は納得できるものだ。俺も異論はないな。

 

「だから、ジュカインと一緒に特訓することにしようか。ジュカインも牽制、遠距離戦闘と、カウンター戦法が主な戦い方だからね。というわけで、こっち来て、ジュカイン!」

 

 アユがそう言った瞬間、ジュカインがものすごく不機嫌そうに、さっきよりも何倍も大きいため息をついた。そのままのそのそとゆーっくりアユに近づいていく。そんなに嫌か、アユのそばに行くの。それとも先生をするのが嫌なのか? ……まあどっちでもいいか。

 

「どしたのジュカイン、そんな怖い顔して。すごく眉間にシワが寄ってるよ? ルミアたち怖がっちゃうから、ほら、ほぐしてほぐして」

 

 アユが自分の眉間に手を当てて、ぐいぐいと押し広げるジェスチャーをする。だが、アユ。多分それ逆効果だ。現にそれを見たジュカインの眉間には先程よりも深いシワが刻まれている。それはもうメキャッと音がするくらいに。眉間ってあんなにシワを寄せることが出来るのか。初めて知ったぞ。

 

「……そのあまのじゃくなところ、相変わらずだねぇ。まあいいや、ジュカインが何を思ってようと特訓には協力してもらうからね。そんな面倒臭そうにしてないで、ちゃんとやってよ? ジュカインが頼りなんだから」

 

 そう言ったアユは呆れ顔だったが、心なしか口元が微笑んでいるようにも見えた。その言葉を聞いたジュカインも、観念したようにさっきとは比べ物になら無いほど小さいため息をついた。眉間のシワも浅くなっているように見える。……なんというか、不思議な関係なんだな、こいつらは。しかしジュカインが頼りとはなんかモヤモヤするな。アユ、俺も居るぞ。俺も頼りにしていいんだぞ?

 

「さて、ジュカインとマロンさんが具体的に何をするかというとね……ジュカイン、『じならし』」

 

 アユはルミアたちの方に向き直ると、唐突にジュカインに『じならし』の指示を出した。ジュカインはそれに応え、右足で強く地面を踏み込む。さっきのバトルよりやや弱い『じならし』がフィールドを揺らした。

 

「はい、この『じならし』を習得する訓練をします!」

 

「『じならし』の習得、ですか……? それは、マロンさんでも覚えられるんでしょうか?」

 

「んー? 多分大丈夫! 覚えるのは簡単な方の技だし、特に初心者用ポケモンで『じならし』を習得出来ないポケモンってのはあんまり聞いたことないしね」

 

 アユの言った通り、『じならし』は習得が簡単で、ほとんどの初心者用ポケモンが習得できる便利な技だ。俺も一応覚えている。まあ、相手より早く動いて攻撃力で押し潰すタイプの戦い方をしているからほとんど使ったことはないがな。

 『じならし』を習得できない初心者用ポケモンと言えば誰だったか……確かジャローダとダイケンキは覚えないんだったかな。誰から聞いたかは忘れたが、そうだったと思う。他にも覚えられない奴はいるだろうが俺は知らないし、ハリマロンは見た目的に覚えられそうだから大丈夫だろう。

 で、『じならし』の何が便利かというと……いや、これは解説をアユに譲ろうか。そもそも俺が心の中で解説したとて、ルミアやアユに伝わることなど無いのだからな。

 

「そ、そうなんですか……でも、どうして『じならし』を? 他にも強い技はいっぱいあると思うんですけど……」

 

「強いから」

 

 っておい。それじゃわからんだろうが。もっと細かく説明しろ、アユ。

 

「『じならし』が、強い技なんですか……?」

 

「ええ? 強いでしょ、『じならし』。特にこれからマロンさんが目指す遠距離+カウンター戦法にはこれ以上無いくらい便利な技なんだよ? むしろ初心者トレーナーの皆はなんで自分のポケモンに『じならし』覚えさせてないんだろうって思うくらいに」

 

「……ごめんなさい、なんで強いのか、わからないです」

 

「えぇ、本当にぃ? 私の言ったことに『じならし』が強い理由は全部入ってると思うんだけどなぁ……。仕方ない、じっくり説明してあげよう! さて、マロンさんが目指す戦い方は牽制と遠距離攻撃を組み合わせた形と、攻撃を受けてからのカウンター戦法だっていうのはさっきからいってる通りね。で、『じならし』はその中で重要な役割を果たす技の一つなんだけど、ここで質問です! 『じならし』は『牽制』、『遠距離攻撃』、『カウンター』のうち、どの役割を果たす技でしょーか?」

 

「え!? ええと、ええと……えぇ……? うー……『遠距離攻撃』……?」

 

「残念! 正解は『牽制』だね。『じならし』は主に牽制の目的で使用する技だよ。なぜかというと……『じならし』は、ほとんどのポケモンにとって使われるだけで厄介な技だから、だね」

 

「使われるだけで厄介、ですか?」

 

「うん。さっきのバトルでも、私はマロンさんの動きを牽制、あるいは止めるためにジュカインに『じならし』を指示したよ。『じならし』を喰らったマロンさんはどうなった?」

 

「ええと……揺れに足を取られて、転びました。……あ、なるほど!」

 

「そ。ダメージ的には大したことないけど、『じならし』をまともに受けると隙を晒すんだ。転べば大きい隙だし、転ばなくても踏ん張ったり、跳んでかわしてもそれが隙になる。まあ、踏ん張る必要もなく耐えられちゃえば無意味なんだけど、それは今は考えないことにして。ほとんどの場合でこっちに有利な状況を作り出せるの。ね、強いでしょ?」

 

 補足するなら、フィールドのほぼ全域に届くこの技と、相手が遠くで晒した少しの隙でも拾える遠距離攻撃戦法は相性が良い。なんにせよ『じならし』は、これからのマロンさんにとって頼もしいサブウェポンになってくれるだろう。

 

「『じならし』って、そんなにすごい技だったんですね……」

 

「うん、納得していただけたようで何よりです。ということで、ジュカイン、頼んだよ!」

 

 ジュカインは相も変わらず鼻をならすのみ。だがその姿から、否定の意思は見えなかった。マロンさんがジュカインの許へ行き、握手を求めて手を差し出した。ジュカインは躊躇いながらも手を握ると、しっかりと握手を交わす。……全く、この流れのどこで心境の変化が起こったんだか。やっぱりジュカインはよくわからんな。

 

「じゃあ次。ピカさんだね。ピカさんの育成の方向性は、マロンさんとは逆。すばやさを活かした戦いを磨いていこうって感じかな。ピカさんの先生はダゲキにやってもらおうと思ってるよ」

 

 お、了解だ。任されたぞアユ。頼れ頼れ。ガンガン頼ってくれ。

 

「ピカさんがやることは主に二つ。単純にスピードを上げることと、トレーナーの指示に反応する速度を上げることだね」

 

「トレーナーの指示に反応する速度を上げる……ですか?」

 

「そう。トレーナーの指示を聞いて、出す技を理解して、技を出す。この行程が速く終われば速く終わるほど、技を出すまでのスピードが上がるの。それじゃあとりあえず、マロンさんかピカさんに技を指示してみて?」

 

「はい。ええと……ピカさん、『でんこうせっか』!」

 

 ピカさんは指示を聞くと、一瞬のタメのあとその目が見据える標的に向かって突撃した。……まあ、その標的って俺な訳だが。いや、あんま痛くないけどさぁ。なんでわざわざ俺を標的にしたのさ。めっちゃどや顔でこっち見てるし。あんまり俺をなめるとあれだぞ? ええと、怒るぞ? ちょっと睨んでみたりしちゃうぞ? ……あ、だめだ。ピカさんめっちゃ笑ってる。全然効いてねぇわ。こうなったらあれだ。ちゃんと『にらみつける』してやろうか? ……いや、まあ、やらないけどさ。

 

 まあ、冗談はここまでにして。……おい、今『冗談じゃなくて本気だったろwwww』とか言った奴。あとでインファイトな。で、今のピカさんの『でんこうせっか』だが、正直言うとめちゃくちゃ遅い。避けるのは余裕だし、ピカさんが『でんこうせっか』を出しはじめた後から技を指示されても俺が先に攻撃できるくらいには遅い。実際『でんこうせっか』の速度は中々のものなのだが、その前のタメが長いことで技を受ける側が反応しやすくなってしまっているのだ。あれがもし一瞬で発動できるなら、反応するのは難しいだろう。

 

「うん、おっけーおっけー。じゃ、ジュカインに同じ技使ってもらおうか。『でんこうせっか』」

 

 瞬間。弾丸のような速度でジュカインはフィールドを駆ける。発動の瞬間が見えなかった。その磨きあげられた『でんこうせっか』の一撃は、彼女の標的に反応することすら許さず吹き飛ばした。標的は何が起きたのかすらわからず、ただ視界(世界)が回転するに任せて地面に叩きつけられた。……まあ、その標的ってのが俺なんだが。

 

「ダ、ゲ、ダァ……! (お、ま、えぇ……!)」

 

 ついつい恨みの声が口からこぼれてしまった。いや、でも仕方ないだろうこれは。くそいてぇし、俺が攻撃される意味がわからんし、ジュカインお前絶対狙ってやっただろ。さっきピカさんが俺を標的にしてたからあえて俺に攻撃しただろ! なんでこういうところでボケのセンスを発揮してくるんだアイツは! 

 ……で、当の本人はいつも通りの冷たい目で俺を眺め、ふんと鼻をならしているわけなのだが。お前マジいい加減にしろよ。

 

「す、すごい……。アユさんが指示した瞬間に、もう『でんこうせっか』が出てました……よね? 正直、速すぎて全然見えなかった、です」

 

「うんそう。これも結構な訓練の賜物だけどね、強くなるにはこの反応速度って結構重要なんだ。実力派互角の、ギリギリのせめぎあいになったとき。勝負を決めるのはポケモンのすばやさじゃなくて、指示への反応速度だったりするからね」

 

「それで、その、反応速度を良くするにはどうするんですか……?」

 

「ひたすらバトルします!」

 

「……はい?」

 

「結局これはねぇ、反復練習しかないのよ。指示への反応速度を高めるには、ポケモンとトレーナーの相互理解が必要不可欠。ということで、ひたすらバトルあるのみって感じかな。ルミアとピカさんは、私とダゲキのペアとこれからずーっとバトルします」

 

「ま、またバトルですかぁ……?」

 

「はーい、そんな露骨に嫌そうな顔しない。このバトルにはルミアの特訓も入ってるんだから」

 

「私の特訓も、ですか?」

 

「うん。ルミアの弱点は判断が遅れるところと、采配の鋭さが感情に左右されること。次の手を迷ったり、焦りすぎちゃったり、予想外のことに驚いたりして指示が止まるのが痛いの。これの解消法もひたすらバトルして経験を積むしかないからこそのバトル! ってね」

 

「はぁい、わかりましたぁ……」

 

 ルミアはうんざりといった感じで返事をする。が、あのバトル一回程度で疲れてしまうようでは、確かによろしくない。さっきのバトルは緊張感も薄く、のんびりとしたバトルスピードだったためにさほどの集中力も要求されなかった。ジムバッジを集め、上のステージに進んでいくほどバトルスピードはもっともっと上がるし、緊張感ももっともっと高まる。残念ながらルミアの今のこの様子では、上のステージでのバトルで一試合も持たないだろう。

 アユのやろうとしているそれは荒療治ではあるが、確かに効果のあることなのだ。

 

「さて、特訓内容も言ったところで早速始めようか。マロンさんはジュカインに任せるね。しっかりと『じならし』を教えてあげて。……あ、そうだ。ジュカイン、ちょっと姿勢低くしてくれる?」

 

 そう言ってジュカインの姿勢を低くさせると。アユはジュカインになにがしか耳打ちをした。それが終わるとアユはにっこりと笑って、

 

「よろしくね!」

 

 とジュカインに言う。ジュカインはため息と共に頷いた。……なんの相談をしていたのだろうか? わざわざ耳打ちをしたところから隠す必要があることだろうが……さっぱりわからん。

 そして、ジュカインはマロンさんを連れてフィールドからちょっと離れたところへ行った。自分達の特訓でバトルを邪魔しないための配慮だろう。それを見送ったアユは、こちらに向き直ると改めて宣言した。

 

「じゃ、私たちはバトルだね。ダゲキ、ルミア、ピカさん、準備して。今から大体二時間くらい、全力で行くからね!」

 

 その宣言と共に、ルミアとルミアのポケモンたちの地獄の特訓が、本格的に開始された。

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