ダゲキ「俺のトレーナーはかなり無茶だと思うのだが皆様はどう思うだろうか?」 作:個人情報の流出
全国のルチアファンの皆様申し訳ございません。私にはルチアの魅力を書ききることができませんでした。許してください、何でもしますから!
あ、あと今回から物語がちょーっと動きますよ。
ミナモシティコンテスト会場。ポケモンコンテストが盛んなホウエンの地で、最も大きい会場だ。そこで開かれるコンテストはくおりてぃが高く、ミナモのマスターランクコンテストで活躍するコーディネーターは例外なくトップクラスの実力を持つ。と、アユがそう言っていた。
つまり、そのミナモのポケモンコンテスト『かわいさ』部門で幾度となく優勝を勝ち取った経験のあるアユのお母さんは、『かわいさ』部門でぶっちぎりのトップコーディネーターであり、伝説のコンテストスターに名を連ねる人物だということだ。
――――そんな人が、違う部門のマスターランクコンテストに現れたらどうなるか。
『皆様お待たせいたしました! ミナモシティマスターランクコンテストライブうつくしさ部門、まもなく開始です!』
やたらとテンションの高い司会者が高らかに宣言する。会場のざわつきが一瞬にして静まり、皆一様に中央のステージに注目する。
「ダゲキ、ジュカイン、始まるよ」
アユが音量をギリギリまで絞った声でそう言った。アユの左隣に座るジュカインの顔からは、相変わらず表情を読み取りづらい。俺と話していたときにはべらべらと喋っていたし、表情も多少わかりやすく変化していたのに、人間がいるときには頑なに喋らず、無表情を貫いている。なんでだろうな。
俺はといえば、アユの右隣に座って、やや前のめりになってステージを見ている。俺たちの席はステージを囲むようにして出来た円形の客席の正面で、一番前の席だ。いわゆる、VIP席というやつ。受付の際、アユのお母さんの招待だからとここに案内されたのだ。流石アユのお母さんである。
『それでは、今回の出場者の紹介と参りましょう! 今回、私たちは十年に一度もない幸運に出会ったのかもしれません! 皆様、声援の準備をよろしくお願いします。エントリーナンバー一番! ミナモシティのレジェンド、ホウエンかわいさ部門コンテストのクイーン! 伝説を作り、そして一時コンテストから離れた彼女が、なんとうつくしさ部門にて現れました! ミナモシティの、アサヒーっ!!』
司会者がマイクがあるというのに全力で叫ぶ。それとほぼ同時に、上品でいてシンプルな黒のドレスを身に纏ったアユのお母さんがステージに出てきた。なんというか、その、うつくしいです。はい。ポケモンのうつくしさを競うコンテストなのに、コーディネーターもうつくしいとはこれいかに。
そして、アユのお母さんの登場に会場が沸き立つ。アユのお父さんなんか、流石はアサヒだとか言って泣いている。おい、アユのお母さんまだなにもやってないぞ。なぜ泣く。
『続きまして! 新進気鋭、見せ方奇抜にして周囲を圧倒させる若手コーディネーター! キンセツシティの、アキト-っ!』
続いて出てきたのは奇術師のような格好をした男。アユのお母さんよりもやや控えめな声援を受け、恭しく礼をしている。なんだ、コンテストっていうのはなんでもありなのか?
『三人目! この人だって負けていない! コンテスト黎明期から活躍し、あのアダン選手のライバルとも言われた男! この素晴らしい面々に触発され、コンテストライブに戻って参りました! ルネシティの、ソテツーっ!』
次に出てきたのは、妙齢のダンディーな男性だ。艶やかな黒髪をオールバックにし、チャーミングに髭を生やしている。これは、なんだろうか。彼は立ち居振舞いがうつくしい。聞けばベテランのコーディネーターのようで、それ相応のオーラがある。会場は先程とは違う、黄色い声援で埋め尽くされていた。
『そして、ついに最後の一人です。うつくしさコンテストライブと言えばこの人! 皆様ご存じでしょうから、多くを語る必要などないでしょう! ルネシティの……ルチアーーーーーっ!!』
――――瞬間。会場がグッと沸いた。アユのお母さんの時とも、奇術師のような彼の時とも、ベテランの彼の時とも違う。会場全体が一帯となった声援が、まだ出てきてもいないそのルチアという人物のために上がる。そして、その声援を受けて現れたのは、水色の髪をサイドポニーにし、その髪をまとめているのは煌めく宝石のはまったティアラのようなアクセサリー。アイドル風の衣装を身にまとい、他の三人よりも圧倒的なオーラを放つ少女。
「皆ーっ! 今日も声援ありがとーっ! 『コンテストライブ! 一期一会の素敵な出会い!』 この出会いに感謝して全力で演技するから、皆も楽しんでいってねーっ!」
そうして、観客の興奮冷めやらぬままにコンテストが始まる。だが、なぜだろうか。まだ始まってもいないというのに、優勝はあの少女になるのではないかと予想ができる、出来てしまう。これが、コンテストスターと言うものなのだろうか。
「ルチアちゃん、すごいな……」
アユが呟く。それはお父さんも同意のようで、深く頷いていた。
「アサヒが若い頃でもこんなことにはなってなかった……。そりゃあテレビナビで何度か見たことがあるが、比べ物になんねぇな、生ってのは……」
「うん。……お母さん、頑張って……!」
『さあ、まずはおひろめ審査です! 皆様、登録されたポケモンを出してください!』
四人はそれぞれボールを一つ手に取り、ステージに投げ込む。アユのお母さんはサーナイト。ソテツは……なんだろう、白いキュウコン? そして、ルチアはチルタリスを繰り出した。どれもこれも見た目からうつくしいポケモンばかり。そして、見た限りコンディションも抜群だ。トップコーディネーター恐るべしである。
しかし、しかし、だ。この場に一匹、場違いとも呼べるようなポケモンを繰り出した者がいる。それは彼だ。アキトと呼ばれた、奇術師のような男。彼が繰り出したポケモンは……。
「ネンドール……?」
アユが訝しむように呟く。それもそのはず、ネンドールと呼ばれたポケモンは、ぶっちゃけて言えば不細工なのだ。こう言うとネンドールが好きな人間には怒られるかもしれないが、これがうつくしさコンテストに出場している、と言うことを考えてほしい。周りのうつくしいポケモンと比べてしまえば、不細工と言わざるを得ないだろう。場違いにすぎる。現に、客席からも疑問の声が上がっている。コンディションには素晴らしいものがあると思うのだが、どうして彼はネンドールを選んだのだろうか。
審査員たちが点をつけていき、結果がモニターに表示される。暫定一位はルチアのチルタリス。それに僅かの差で追いすがるお母さんのサーナイトと、ソテツのキュウコン。アキトのネンドールは、当然というか大差をつけて最下位だった。
『続いて! アピール審査と参りましょう! 現在トップにいるのはルチア選手とチルタリスのチルル! そこからあまり差がなく、アサヒ選手のサーナイト、ソテツ選手のキュウコンと続きます。アキト選手は他三人から大きく差をつけられ、最下位となってしまいました! アピール審査でどうひっくり返るのか、見物です! では、アサヒ選手からどうぞ!』
ここからがアピール審査。一組につき一回、技を繰り出して、演技をする。一塊の演技として技を組み合わせても良いらしく、一つの技で皆を圧倒するか、技の組み合わせで魅了するかという戦略があるらしい。そして、アユのお母さんは技を組み合わせるタイプだ。
「サーナイト、『みらいよち』」
まず使ったのは『みらいよち』。これは時間差で相手にダメージを与える技だ。
「『ひかりのかべ』」
そして、ひかりのかべを幾重にも、サーナイトの頭上に展開し。
「『れいとうパンチ』」
それを上方向への『れいとうパンチ』ですべて破壊する。『ひかりのかべ』の破片と、氷の粒がきらきらとステージに舞う。それだけでも相当にうつくしい。言葉を失うような光景だ。
しかし。それだけでは終わらないらしい。
「『サイコキネシス』」
サーナイトはきらきらと散った破片を上空中央に集めた。暫しの静寂。サーナイトとアサヒのお母さんは、なにかをじっと待ち続ける。そして。
「今!」
お母さんの指示で、『サイコキネシス』が解除された。それと同時に上空で星のように『みらいよち』が輝き、そこからスノードームのようにきらきらが降り注ぐ。圧巻のパフォーマンスである。自然、会場から拍手が起こる。パチパチとまばらだった拍手は次第に大きくなり、大声援がアユのお母さんに届く。
『素晴らしい、素晴らしいアピールでした! かわいさ部門のエキスパートは、うつくしさ部門でも強い! 技枠を四つ使いきったアピールは見事の一言! アサヒ選手、どうもありがとうございました! 続きまして、アキト選手、どうぞ!』
次はネンドールのアキトだ。お世辞にもうつくしいとは言えない見た目のネンドールで、どうアピールをするのだろうか。
「ネンドール、『しんぴのまもり』を纏え!」
コーディネーターの指示に従い、ネンドールが虹色の光に包まれる。これは、中々綺麗なものだ。アユもアユのお父さんも見入っている。会場の観客たちも同じだった。
「さあ、仕上げだ! ネンドール、『こうそくスピン』!」
ネンドールが光って回る。演技の内容としては、言ってしまえばそれだけだ。しかし、たった今ステージに立つネンドールからは、謎の神々しさを感じる。これを、この姿をもし、会場の全員がうつくしいと思うのなら、それは。きっと、うつくしいのであろう。
声援は上がらない。拍手は起こらない。ただ、全員が言葉を失っていた。
『……うつくしい。うつくしいアピールでした。私からは、それしか言うことがありません! アキト選手、ありがとうございました! 続きまして、ソテツ選手、アピールをお願いします!』
次はソテツと、あの白いキュウコンだ。しかし、そもそもあれはなんなのだろうか? 色違い?
「すごいな、リージョンフォームのキュウコンだ」
アユのお父さんがそう言った。はて、リージョンフォームとはなんだろうか?
「アローラ地方で生まれたキュウコンの、本来とは別の姿だっけ。あの子を捕まえるために、アローラまで行ってきたのかな、あの人」
ふむ。別の地方だと別の姿になる、というのがあるのか。なんとまあ、凄いことだな、それは。俺もポケモンではあるが、ポケモンは謎でいっぱいだ。
「キュウコン、『オーロラベール』!」
渋い声が会場に響き渡り、キュウコンがオーロラを作り出す。オーロラはキュウコンを包み込み、まるでドレスのようにキュウコンを彩った。
「さて……キュウコン。会場の皆様に、私たちのゼンリョクをお見せしようか!」
そして。ソテツの腕につけたブレスレットとキュウコンのネックレスが眩い輝きを放った。ソテツが不思議な舞を躍り、それに呼応するようにキュウコンの力が高まっていく。
「『レイジングジオフリーズ』!」
キュウコンの足元から大きなこおりの台のようなものが競り上がり、その上に乗ったまま、『れいとうビーム』のような、しかしそれよりも何倍も強い冷気を放つ光線をステージ中に放った。ビームが通った部分は凍りつき、氷山のようなものを作り出す。聞いたこともないような技を繰り出したキュウコンは、一瞬にしてステージに南極のような光景を作り出したのだ。
……背筋が震える。正直俺は、あんな技を受けて立っていられる自信がない。フィールドに氷山を作り上げるために分散されていたパワーをもし余すこと無くぶつけられたら……
「あれは……Z技か!」
「お父さん、知ってるの?」
「一度だけ見たことがある……。あれも、アローラ地方特有の物だ。アローラ地方にはカプ神と呼ばれる四体の守り神がいて、そいつに認められたものだけが使える、トレーナーとポケモンのゼンリョクを相手にぶつける技……だったはずだ。俺も、一回だけ使われたことがある」
「その時は、勝ったの?」
「……負けた。Z技の一撃でボーマンダを倒されてな。しかしあれは、ゼンリョクで放つ分エネルギーの制御が難しい技だ。それをコンテスト用に調整するなんて並大抵のことじゃあないぞ」
……Z技。あんな、あんなものがあるのか。もし、もしも、あれを手に入れることが出来たなら……俺は、もっと強くなれるのだろうか。
「仕上げだ。キュウコン、『れいとうビーム』」
最後に上方向に『れいとうビーム』を放ち、枯れた樹木のような物を作って、ソテツはパフォーマンス終了。終了と共に生み出された氷は全て砕け、あの素晴らしい世界の証拠はどこにも残らない。フィールド全てを自分のものにする、すさまじいパフォーマンスだったといえよう。会場も、最高潮と言えるほどにボルテージが上がっている。……最後。ルチアという少女のパフォーマンスはどんなものになるのだろうか。
『今の。今の技は、一体なんだったのでしょうか!? ソテツ選手の素晴らしい演技に、皆様拍手を!』
煽られるまでもなく皆すでに拍手をしている。なぜだろう、あの司会者どこかズレている気がする。なんかいまいち乗れない。下手くそなのでは?
『では、最後のアピールに移りたいと思います! 皆様おまちかねのルチア選手、どうぞ!』
「……皆」
しん、と。会場が静まり返った。今の、皆という言葉はルチアが発したものだろう。あんなに賑やかだった会場に、うるさいほどの声援が響いていた会場に、ポツンとした小さな声が通り、そして、一瞬にして会場が静かになったのだ。
「今日の皆さんのアピール、
――――瞬間。ルチアの髪を留めるティアラと、チルタリスの首元のネックレスが共鳴するように輝いた。
「チルル! メガシンカ!」
チルタリスが厚い厚い殻のようなモノに閉じ込められる。その殻には次第にヒビが入っていき、チルタリスがそれを破り出たときには。面影を残して、全く違う姿に変わっていた。彼の胴を包んでいたモコモコふわふわの毛は今や全身をモコモコふわふわと包み、ひらひらとキレイな尾は伸び、体色は少し薄くなっただろうか。その姿はうつくしかった。そして、その存在感は圧倒的だった。小細工も、パワーも、なにもかも及ばないだろうことが、俺にはわかった。
またか。また、俺の知らないポケモンの可能性が現れたのか。能力が強化されているのを感じる。例えばあのポケモンと戦ったとして、俺は確実に苦戦するだろう。アイリスのオノノクスの比じゃない。一対一ならまだしも、あれと消耗した状態で戦ったら…………この先は、あまり考えたくはないな。
「いっ……くよー! 『ぐれーす★ファンタジー』!」
会場に、月が現れた。何を言っているのかわからないと思うが、俺も何が起こっているのかわからない。ただ、月が現れた。そして、虹色の尾を引きながら、華麗に月まで飛んでいくチルタリス。その姿を見て……会場が、感動に包まれた。
コンテストライブは終わった。結果はわかると思うが、一応言っておこうか。
一位 チルル&ルチア
二位 キュウコン&ソテツ
三位 ネンドール&アキト
四位 サーナイト&アサヒ
である。アユのお母さんは、最下位だった。
俺たちは今、アユのお母さんの楽屋に居た。お母さんに何か言わなきゃ、というアユの言葉からここまでやって来たのだが、アユのお母さんは案外落ち込んでいなかった。
「いやあ、見事においていかれちゃったねぇ。手厳しいなぁ、うつくしさコンテストっていうのは」
と、アユのお母さんは語る。
「元々うつくしさ部門はポケモンコンテストの中でもトップレベルのコンテストだからね。いくらかわいさ部門のトップコーディネーターだからって、それにあぐら掻いてちゃ優勝なんて夢のまた夢か。……うん。楽しかった! また出よっかな、うつくしさコンテスト!」
晴れ晴れとした顔で伸びをするお母さんに、俺も、アユも驚いている。お父さんだけはやれやれといった感じで笑っているから、わかっていたのだろうか。
「あのさ、お母さん。……その。悔しくないの? だってお母さんはかわいさ部門のトップコーディネーターで、なんども優勝してて……それなのに、最下位で。悔しくないの!?」
そんなお母さんに、アユは詰め寄る。今まで見たこともないような顔をして、辛そうに言う。……これは、きっと。悔しいのはアユなのだろう。
「悔しいよ。悔しいに決まってるじゃないの。行けると思ったし、やれると思った。でも、やれなかった。それが、悔しいわけないさ。でもね、アユ。悔しければ、コナクソーってもっと努力するでしょ? そうすれば、いつか優勝できるかもしれないじゃない。その過程が楽しいのよ。……ずっと忘れてたなぁ、こんな気持ち。いい? アユ。悔しさは、人を成長させるの。覚えときなさいね」
「……そっか」
アユはどこか納得していない様子でそう言った。……悔しさは人を成長させる、か。それが、本当なのなら俺は……。
「さ、帰ろ帰ろ! 皆お腹すいたでしょう? 今日も美味しいご飯作るからね!」
「あ、私は、ちょっと出掛ける。心配しないで、すぐ戻るからさ」
「ポケモン一匹でチャンピオンを倒した殿堂入りトレーナーのどこを心配するってんだよ! むしろアユを襲うヤツが心配だなぁ!」
「えぇ!? それは酷くない!?」
「あっはっはっはっは! 冗談だ冗談だ! ま、あまり遅くならないうちに帰ってこいよ! じゃあな!」
「うん。じゃあ、また後で」
そう言って、アユはお父さんとお母さんと別れてコンテスト会場を出る。俺とジュカインをボールに入れたままふらふらと歩いていたアユは、最初からそのつもりだったのか、はたまた偶然か。公園にたどり着いていた。アユは、比較的新しめのその公園の、新しいベンチに腰かけた。
「……こんなところに、公園出来てたんだなぁ」
誰に聞かれるでもない一人言。それが妙に寂しそうで、俺は少し心配になった。ボールから出ようかとも思ったが、アユが俺を出さないのだ。きっと、出てきてほしくないのだろう。
「ねえ、ダゲキ、ジュカイン、聞いてる?」
アユの問いに、俺はカタリとボールを揺らして答える。隣のボールからはなんの反応もなく。中々薄情なやつだな、ジュカインも。
「お母さんはね。すごいコーディネーターなの。かわいくて、よく考えられたパフォーマンスで観客を魅了して。ちっちゃい頃に見たお母さんのパフォーマンス、すごかった。今はトレーナーやってるけどさ、一時期私もコーディネーターになる! って言ってたくらい、私はお母さんに憧れてたんだ。ずっと一位で、ずっとトップの、お母さん。でもさ、最下位だって。かわいさコンテストでトップのお母さんはうつくしさコンテストじゃ最下位だって」
アユの声は、震えていた。
「すごいのに、すごいのに、すごいのに、すごいのにさ。最下位だって。私悔しくてさ。自分のことじゃないのに自分のことみたいに悔しくてさ。すごいお母さんが最下位だって言うのが何となく納得できちゃうのが悔しくてさ。最下位なのにお母さんが笑ってるのが悔しくてさ。……最下位なのに、お母さんが一位だったときより楽しそうなのが悔しくてさ。もう、なんか、私バカみたいだよね! ……どうすればいいんだろうね、こういう時ってさ」
……アユは何を望んでいるんだろう。わからない。俺にはわからない。なぜアユは俺をボールから出さないのだ。出してくれれば頭くらい撫でるのに、涙くらい拭うのに、なぜ出さないのだ。自分から出てくるのを待っているのか?それとも、泣いている姿を見られたくないのか? ……こんなアユを見るのは始めてだ。だからわからない。アユがどうしてほしいのか、これっぽっちもわからない……。
「お前、アユか?」
そんなどうしようもない状況を救ってくれたのは。
「あなたは……あの時の?」
「……こんなところで何してんの、お前」
アユと同い年くらいの男の子だった。