ダゲキ「俺のトレーナーはかなり無茶だと思うのだが皆様はどう思うだろうか?」   作:個人情報の流出

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一番最初が少年視点、前半がダゲキ視点。後半が三人称視点です。


メガシンカとの対峙

 今でも覚えてる。って言っても、そんなに昔のことじゃない。俺が、新米だった頃の話。俺はあるトレーナーにこっぴどく負けて、そのトレーナーに言われたんだ。

 

『あなた、才能無いと思う。トレーナーやめるか、ポケモンを変えたら?』

 

 ずっと頭にこびりついて離れない言葉。呪いみたいなもんなんじゃないかとも思う。それほどまでにトラウマで、それほどまでに悔しかった。ぶっちゃけ、これを言ったトレーナーとはもう二度と会いたくない。

 

 そう、思っていたんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなところで何してんの、お前」

 

 フード付きトレーナーにジャージのズボンと言う、動きやすさを重視した服装。逆さにかぶったキャップ。容量の大きそうなリュックサック。なんというか、お世辞にもお洒落とは言えない格好をした少年は、なんとなくアユへの敵意が見えるような、そんな口調でそう言った。

 

「……別に、あなたには関係ないでしょ」

 

 ぐしぐしと涙を拭いながらアユは言う。そんなアユの姿を見て、少年は大きなため息をついた。

 

「泣いてんのか? なんで?」

 

「うるさい」

 

「うるさいってなんだよ。理由くらい教えてくれたっていいだろ」

 

「教える義理無い」

 

「いいじゃんか泣いてる理由くらいさぁ!」

 

「もうしつこい! もう一回言うからよく聞いてよ! 別に、あなたには、関係ないでしょ!」

 

 もっともである。これは少年が突っ込みすぎだ。誰にだって聞かれたくないことと言うのはあるものである。

 

「いや、そりゃ関係ないけどさ。スッゴい無表情で血も涙もなさそうだったあのアユが泣いてたらそりゃ気になるだろーが」

 

「知ったようなこと言わないでよ、一回会っただけのクセに! ……私だって、泣いたりするもん」

 

 え、一回会っただけって。一回会っただけって。それでこんなに親しげに話してるのかこいつらは。その一回にどんなことがあったんだ。

 

「なーんか面白いなぁ、アユが弱ってるとか。超ウケる」

 

「ウケるじゃない! もう、もうもうもう本当(ほんっとー)にうるさい! どっか行ってよ、ほんとに!」

 

「……まぁ、どっちかっつーとお前と関わりたくはないけどさ」

 

「なら関わらなきゃいいじゃない」

 

「いや、そうなんだけどさぁ。……見返してやりたい相手に偶然会ったんだ。関わらないではいさよならなんてもったいないだろ」

 

「……そう」

 

 少年はアユの隣にどかっと勢いよく座った。一通りの言い合いの後、アユはうつむいてしまった。

 

「殿堂入りしたんだってな、ダゲキ一匹で。さっすが神童ですわ。桁が違うねぇ」

 

「……神童って呼ばないで」

 

「なんだよ、嫌なのか? 自分で名乗ってたくせにさぁ」

 

「昔の話でしょ、それ。今は名乗ってない」

 

「昔って言ってもそんな前じゃないだろ。何があったんだよ?」

 

「……別に、なんにも」

 

「ふーん」

 

 少年はぐーっと伸びをすると、じろじろとアユに視線をぶつける。アユが身じろぎしたのを感じる。不快なのだろう、単純に。

 

「何?」

 

「いや、変わったなと思ってさ」

 

「あなたは驚くほどに変わってないわね。そのダサい格好とか」

 

「余計なお世話だ」

 

「で、変わったって?」

 

「いきなり話戻すのな。……いや、何? 昔のお前ならもっと俺のこと相手にしなかっただろうなって思ってさ」

 

「……そーかもね」

 

「やっぱり、何かあったんだろ?」

 

「だから何もないって」

 

「はぁ……なんっか調子狂うなぁ」

 

 そう言うと、少年はこれまた勢いよくベンチから立ち上がった。そして、腰のボールを一つ取りだし、アユに突きつけた。

 

「おい、バトルしろよ」

 

 唐突のバトルの申し込みである。

 

「……なんで?」

 

「だってお前すっげー暗いし。バトルでもやって気分転換しようぜって話。それにさ、俺も殿堂入りしたんだよ。だから、お前にリベンジしたい」

 

「……殿堂入りおっそ」

 

「お互い様だろ。お前、イッシュの殿堂入りが初めてだってテレビで言ってたじゃないか」

 

「……私の気晴らしに付き合うのを口実にリベンジしたいだけなんじゃないの?」

 

「それの何が悪いんだよ」

 

「私、今ポケモン二匹しか持ってないけど」

 

「お前本当に何があったんだよ!? ……はぁ。別に二対二でもいいからやろうぜ」

 

「ため息つきたいのはこっちなんだけど……。もう、わかった。やればいいんでしょ? さっさとやろう」

 

「言ったな? 今さらやっぱやめるとかなしだぞ?」

 

「一度いいっていったんだからやめないわよ。知ってるでしょ? 私がそんな人間じゃないの」

 

「それはもちろん」

 

「じゃあもう行こう。ポケモンセンターのバトルフィールド借りるんでしょ? 早く行かないと利用時間過ぎちゃうから」

 

 そう言ってアユは立ち上がり、ポケモンセンターへ向かってすたすたと歩き出した。なんだかアユが俺と二人で居たときとも、家族と居たときとも違う感じだ。ホウエン地方では、アユの知らない一面がたくさん見られるな。

 

「おい、ちょっと待てって! バトル相手を置いていくな!」

 

 それに。あの暗い空気も、彼がちょっとだけ変えてくれた。デリカシーの無い男だが、その点には感謝しなければなるまい。

 

 

 

 

 

 

 アユと少年がポケモンセンターに入ったとき、センターは大パニックになった。

 アユは分かりやすく有名人である。ミナモに帰ってきたことはもう知られていると思うが、近くにいるのを知っているのと実際に目の前にいるのでは大違いだ。そりゃあ騒ぎになるだろう。意外だったのは少年の方。彼、つい先日殿堂入りを果たしたばかりらしいが、ホウエン地方での久々の殿堂入りトレーナーらしく、メディアに大きく取り上げられたばかりだそうだ。

 そんな二人が揃ってポケモンセンターにやって来たりしたら、そりゃあパニックになる。サインだの、握手だの、ポケモンバトルの申し込みだのに殺到され、フィールドを借りるのすら苦労していた。結局、二人して後で全員相手するから待っていてくれとセンターにいた皆にお願いして、今ようやくフィールドに立っているところだ。

 ……しかし、まあ。

 

「すごい観客……」

 

「俺、こんな大勢の前でバトルすんの初めてかもしれない」

 

 ギャラリーが多い。とにかく多い。これ、さっきから人が増えてないだろうか。というか、これからも人が増えるのではなかろうか。お父さんにはあまり遅くなるなと言われているが、これはちょっと無理だろう。中にはカメラ構えてるやつもいる。おい、ちゃんと許可とれ許可。

 

「まあ、でも。何人見てようが関係ないでしょ。いつも通りやるだけ。違う?」

 

「違わないねぇ。ついにお前をギャフンと言わせるチャンスだ。観客に動揺してちゃもったいねぇよ」

 

「じゃ、ルールの確認。お互いポケモンの数は二匹ずつ。使用できる技は四つまで。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になったら決着。これでいい?」

 

「おう! ……なあ、アユ」

 

「何?」

 

「お前、前に俺には才能が無いって言ったよな?」

 

「……言ったね、そんなこと」

 

「その言葉、撤回させてやる」

 

 少年はニヤリと笑う。その笑みは獰猛でいて楽しそうで、彼が本当に実力のあるトレーナーなのだと感じさせられた。

 

 互いが一つずつ、ボールを手に取る。一瞬だけにらみ合い、そして、同時にボールを投げた。

 

「行け! クチート!」

 

「チート! (出番だな!)」

 

「行って、ダゲキ!」

 

 任された、アユ。今回も君を勝たせてみせよう。敵はクチートと呼ばれていた。見たことがないのでタイプはわからないが、見たところ鋼タイプは入っているだろう。体は小柄だが、大きく発達した牙……顎? のようなものを持っている。パワーはあると思っていた方がいいだろうか。とにかく、まずはアユの指示を待とう。

 

「初っぱなから飛ばしていくぞ、クチート! メガシンカ!」

 

 少年の声に呼応するように少年の手首に巻かれたバングルと、クチートの胸元の石が輝く。クチートは丸い殻のようなものに包まれ、殻が割れて出てきたのはさっきまでのクチートではないクチート。

 

「チィィィィィィットォ! (おっっっしゃあ!)」

 

 二つに増えた顎は凶悪にきらめく。こちらに振り向く目が自信ありげに輝いている。

 ……メガシンカ、か。いつか戦うかと思ったが、早いな。驚くほどに対峙が早かった。これは、証明しなくてはなるまい。俺は、メガシンカなんかには負けないとアユに証明せねばならない。

 

「……ダゲキ、『ほのおのパンチ』!」

 

 指示は『ほのおのパンチ』。はがね単タイプならインファイトを指示するだろうから、あいつははがねではないか、なにかしら複合タイプを持っているかのどちらかだな。……さて。なんなら一撃で仕留めようか。

 一歩でクチートの目の前まで詰め寄り、スピードを乗せた『ほのおのパンチ』を叩き込む。俺とこの技はタイプが違うために威力は低いがはがねタイプにはこうか抜群だ。それに、俺がトップスピードを拳に乗せてぶん殴った。倒れて当たり前だろう。

 ……倒れていなければ、おかしいのだ。だって、今のは俺の全力の一撃だ。滅多に出さない本気も本気。技の威力が心許ないからって、それだけで耐えられる一撃ではないのだ。それなのに。俺の拳を受けたクチートは、自身のトレーナーと同じように獰猛に笑っていた。

 

「クチート! 『じゃれつく』!」

 

「っ!? ダゲキ、こらえる!」

 

 二つの大顎がしっかりとこちらを向く。俺はアユの指示に瞬時に反応して、こらえる体勢を作る。それとほぼ同時に、鋼鉄の顎がこちらをぶん殴ってきた。ああ、確かにこれは『じゃれつく』だ。本当にじゃれついているだけのような動きで、こちらに攻撃を加えてくる。しかし、その攻撃の重さは『じゃれつく』なんてものじゃない。じゃれつくような軽い接触で、こちらは目眩をおこす。軽い接触で、意識が遠のく。流石アユ、的確だ。これは、これはこらえるをしていなければ確実に一撃で戦闘不能になっていた。

 さて、これを耐えたところで次だ。次の命令はなんだ? もう切り札のこらえるを切ったということは、こいつを一撃で仕留める必要があるだろう。『ほのおのパンチ』では距離的に威力が足りない。ならば、そうか。昨日も使ったあれを使えばいい。『ほのおのパンチでインファイト』をすれば、こいつは沈むだろう。なあ、そうだろうアユ? 俺はそうするぞ。……さあ、『じゃれつく』が終わった。散々やってくれたじゃないか。今、お前を倒してやる。

 

「待って! ダゲキ!」

 

 はぁ? 何を、待つ必要がある? 敵の攻撃が終わった今こそ攻撃のチャンスが……

 

「クチート、『ふいうち』」

 

 ドガッ、と、音がする。俺の腹にクチートの鋼鉄の顎がめり込んでいた。……なぜだ? おかしいだろう。俺の方が早く技を出したはずだ。一方的な攻撃を許さないために、アユの指示を予想して動いたはずだ。なのに、それなのに、なぜ。俺の拳が届く前にやつの顎が届いている? あいつは、攻撃する素振りなんて、見せてすらいなかったのに。

 ドサリと音がした。それが、自分が倒れた音だということにしばらく気がつかなかった。周りから聞こえた歓声と、自分の視界が地面しか捉えていないことに気がついて、やっと自分が倒れたのだということを自覚した。

 自分が負けたのだということを、自覚した。

 

「戻って、ダゲキ」

 

 赤い光に包まれて、ボールの中に納められたのを自覚した。……すまない。アユ、すまない。君の期待に応えられなかった。

 

「……ごめんね」

 

 だから、そんな悲しい顔をしないでほしい。俺が、悪かったから。

 

 

 俺が倒れてもバトルは続く。アユはもう俺と二人旅ではなく、ジュカインも連れているのだから。アユは俺のボールをベルトに戻し、代わりに隣のジュカインのボールを手に取った。

 アユはしばらくの間、そのボールをじっと見つめていた。いつしか決意を固めたように強くうなずいたアユは、フィールドに向かってボールを投げ込んだ。

 

「お願い、ジュカイン!」

 

 ジュカインが無言でフィールドに降り立つ。それを見て、少年の顔が少しこわばった。

 

「……先手、必勝だ。クチート! 『ほのおのきば』!」

 

「チート! (了解!)」

 

 俺を襲った脅威の顎が、ジュカインに向かう。それをただ冷静にみていたジュカインは、ちらり、と指示を仰ぐようにアユを見た。

 

「『じしん』」

 

 ジュカインがフィールドを踏みしめ、じしんを起こす。攻撃のために地面を走っていたクチートには、それを回避することができなかった。

 こうかばつぐんであろう一撃を、しかしクチートは耐えた。顔を歪め、大ダメージを受けた様子はあったものの、しっかりとその足で地面を踏みしめていた。ジュカインに向かう速度はかなり遅くなってはいたけれど。

 だが、きっと。ジュカインとアユと戦っているときのそれは、致命的な隙なのだ。

 

「ジュカイン、『くさむすび』」

 

 『くさむすび』に足をとられ、転倒し。

 

「もう一度、『じしん』!」

 

「『まもる』だ! 『まもる』を使え、クチート!」

 

 再び襲い来る『じしん』を『まもる』で凌いだ。しかし。

 

「ジュカイン! 『はかいこうせん』!」

 

 極太の熱線が、クチートを呑み込んだ。

 

「クチート!」

 

 すべてを焼き焦がすビームが去った後、クチートは目を回し、メガシンカが解除された状態でフィールドに倒れていた。明らかに戦闘不能だ。クチート対ジュカインは、ジュカインが遠距離からの火力で圧倒する形で終わった。

 

「……ごめん、クチート。お前をジュカインに勝たせてやれなかった」

 

 クチートをボールに戻した少年は、次のボールに手をかける。

 

「クロバット、出番だ!」

 

 クロバット、あれも見たことの無いポケモンだ。恐らくタイプはひこう。『じしん』を無効化出来て、高く飛べば『くさむすび』も通じない。アユが見せた技三つの内二つを潰す見事な選出だ。

 

「クロバット、『あやしいひかり』!」

 

 そして、『はかいこうせん』の反動で動けないジュカインに『あやしいひかり』が放たれる。ジュカインは混乱状態に陥った。

 これは一気にアユが劣勢だ。このままではクロバットのこうかばつぐんの一撃でジュカインが沈んでしまうだろう。……あの時、俺が倒れなければこんなことにはなっていなかったのだが。

 

「確かに『はかいこうせん』は強力な技だけど、打つタイミングを間違ったんじゃないか? これでお前はほぼ詰みだ」

 

「まぁ、確かに。状況だけ見ればそうかもね。でも」

 

「でも?」

 

「そう言うときこそ、お喋りをしてないでバトルに集中するべきじゃない? ジュカイン、『たたきつける』!」

 

 次の瞬間。ジュカインがものすごいスピードで動きだし、空中のクロバットを地面にたたきつけた。

 

「……は?」

 

「ジュカイン、しっかりクロバットを踏みつけて。それで逃げられないはずだから」

 

 唖然とする少年を置いてきぼりにして、ジュカインがクロバットを踏みつけて動けなくする。

 

「じゃ、終わりにしよう。ジュカイン、『じしん』」

 

 地面に押し付けられて逃れられないクロバットを、『じしん』が襲う。たとえひこうタイプだったとしても、地面に体がついてしまっていては回避のしようもない。『じしん』をモロに喰らってしまったクロバットは、たまらず戦闘不能。この勝負、アユの勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 バトルの後。サインやら握手やらの対応を終えた二人はげっそりとして自らのポケモンの治療を待っていた。ちなみに、捌ききれたわけではない。あり得ないほど殺到するトレーナーたちに、見かねたジョーイさんが説得し、センターを閉めてくれたのだ。それでもまあ、ポケモンセンターに泊まるトレーナーの分はきっちりサインを書いたのだが。

 

「ちくしょー……結局勝てなかった」

 

 少年はサイコソーダを飲みながら言う。

 

「行けると思ったんだけどなぁ、ダゲキ倒したときは」

 

「そうだね、びっくりした。まさかあなたにダゲキを倒されちゃうなんてさ」

 

「ひっでぇ言い草だなぁ」

 

 本気で傷ついたような顔をする少年に、アユは思わず笑みを漏らした。

 

「お、笑った」

 

「何でそんな珍しいもの見たような顔してるの? 私だって笑う時は笑うよ」

 

「いや、だからさ。俺が前会ったお前は笑いすらしなかったんだって」

 

「……そうだっけ?」

 

「そうだよ。さっきも言ったろ? お前のこと、スッゴい無表情で血も涙もなさそうな女だって思ってたからな、俺は。バトルでボロボロに負かされた上に、あんなこと言われたらそう思うだろ?」

 

「あなた、才能無いと思う。トレーナーやめるかポケモンを変えたら? ってやつ?」

 

 アユはそう言って、イタズラっぽく笑う。だが、少年にとってはイタズラではすまない。正真正銘のトラウマを刺激されたのだ。気分は最悪の一言だろうことは、その雰囲気から察せられた。

 

「……まあ、あの時は、ね。調子乗ってたし、私」

 

「……俺の人生を変えた一言を調子乗ってたで片付けないでくれよ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「……なあ、アユ。俺、才能無いかな?」

 

 少年は真剣に問う。彼は、ずっと思い悩んできた。勝つことが少なかったときも、次第に勝てるようになってきたときも、ジムバッジを手にいれられるようになってからも、ジムバッジをコンプリートしたときも、殿堂入りを果たしたときも。ずっと、才能がないと言う言葉に縛られて、苦しんできた。

 だから、聞きたかった。自身に才能がないと言いはなったその本人に、聞きたかった。少年は強くなった。アユの言葉を振り払いたくて努力して、ついに殿堂入りを果たした。その自分に才能が無いのかと。その自分にも、才能が無いと言うのかと。

 

「才能、か。あるんじゃない?」

 

 一方。アユは非常に軽く答える。散々悩んできた少年を嘲笑うように、実に簡単に自分の言葉を覆した。

 

「……なんだよそれ。俺、馬鹿みたいじゃん」

 

「あれ、私なんかダメなこと言った?」

 

「別に? ダメなことは言ってねぇよ、何も」

 

「そう? ならいいけど」

 

 いいわけあるか、と少年は思った。無表情ではないけれど、血も涙もないところは変わってないんじゃないかな、と思う。そんなにあっさり才能があるなんて言われたら、どう反応していいのかわからない。ちょっとした憎しみすらわいてきてけれど……少年は、それを自分の中に押し止めた。

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「あの時、何でジュカインは混乱してる中で動くことができたんだよ? しかもその動きがめちゃくちゃ早いし」

 

「あー、あれねー」

 

 アユが少年のサイコソーダをひったくる。一口だけちょうだい、と言って、本当に一口だけ飲んで少年に返した。少年は、サイコソーダの飲み口を複雑な心境で見つめていた。

 

「ラムの実を持たせてたの。それで混乱を回復したってわけ。その後動きが早かったのは、私のジュカインの特性がかるわざだから」

 

「はは、なるほどな。……やっぱ敵わないわ、お前には」

 

 その時、テンテンテレテン、と軽快な音楽が鳴った。ポケモンの治療が終わった音だ。それと同時に、ジョーイさんが奥の部屋から出てくる。

 

「二人とも、ポケモンの治療が終わりましたよー!」

 

 少年はサイコソーダをぐいっと飲み干すと、立ち上がった。つかつかとジョーイさんの許へ向かい、ボールを二つ手に取ると、腰のベルトにセットする。

 

「お前と会えてよかったよ。さっきお前に会うまでは二度と会いたくもなかったけど、今はよかったと思う」

 

「そっか」

 

「またどっかで会ったらバトルしよう。じゃあな、アユ」

 

「あ、ちょっと、待って!」

 

 そう言って、少年はポケモンセンターを出ようとする。そんな彼を、アユは呼び止めた。

 

「……なんだよ」

 

「まだ、名前聞いてない。あなたの名前」

 

「それだけ?」

 

「大事でしょ、それだけのことでも」

 

「……はぁ。ほんと、調子狂うなぁ。ノブだよ。俺の名前はノブ。覚えといてくれよ」

 

「うん。そんなにダサい格好してるんだもん、忘れないよ」

 

「余計なお世話だ! ……今度こそ、じゃあな」

 

「あ、待って!」

 

「なんだよ! 一回で全部言えよ!」

 

 今度こそ帰ろうとしたところを再び呼び止められた少年……ノブは、キレぎみにアユの方を振り返る。

 

「いや……センター閉まってるから、ジョーイさんに開けて貰わないとここから出られないなぁと思って、さ」

 

「……そういえば、そうだったな」

 

 そのことがすっかり頭から抜け落ちていたノブだった。




ダゲキ初敗北。メガシンカに負けたダゲキは何を思うのか。
え? ノブって人物についてよくわからない? ごめんなさい、いつか番外編で書きます。
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