瓦解のテンシ、アクマの鮮血   作:福宮タツヒサ

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やまや党の皆様は絶対に閲覧しないで下さい! トラウマになるかもしれませんから!


第7話 誓いの鐘

マドカside

 

「エム……貴女、自分が何をしたのか分かってるのかしら?」

 

現在、イギリスから強奪したIS『サイレント・ゼフィルス』を纏った私は地面に膝をついた状態で、IS『ゴールデン・ドーン』を身に纏ったスコールに銃口を突き付けられている。

ディアナお姉様の命に従って『亡国企業』を壊滅させよと行動を起こした。私がお姉様の使いと知らず油断しきってる組織本部に入り込み、そこでISを展開して戦闘員や非戦闘員に限らず目の前の人間は殺し尽くした。逃げ惑う奴も、命乞いする奴も一人残らずだ。

そこへ血相を変えたオータムとスコールがやって来て交戦する。

流石に組織内でも有力な二人と纏めて戦った私は歯が立たず、私のISが大破した。対してスコールは部分展開したISの銃口を残して、いつでも私の眉間に引き金を引ける準備をしていた。

 

「泳がせてあげたけど、流石においたが過ぎたわね。覚悟はできてるかしら? 二度と陽の光を拝められないかもしれないわよ」

 

表情こそ笑っているが、瞳に込められた殺意の視線が私の体を射抜く。

体内にナノマシンを仕掛けられた私は自由を制限されていた。だがお姉様の神々しい力で私は解放された。故にスコールに従う理由などない。

一方、スコールの隣にいるオータムは馬鹿みたいに怒りを隠せない。ゴミを見るような視線を向けてながら苛立ち気味でスコールに抗議する。

 

「おい、スコール! こんな裏切り者さっさと殺そうぜ!」

 

「まだよ、オータム。きっちりと尋問するまで生かしとくべきよ。それに……」

 

二人は私の処遇について言い合いをしている。もちろん、逃がさないように私の頭に銃口を向けたままでだ。

……だが、実にくだらない内容だと私は落胆する。こんな奴らに私は自由を縛られていたのか。お姉様ならこんな低レベルの考えなどしないのに。

あの方に会えてから今までの価値観が全部どうでもよくなった。

私は冷めた視線を送りながら語る。

 

「……実に低脳な会話だな」

 

「あぁんッ!? テメェ、自分の置かれてる状況が分かってるのかよ!? 今ここでブッ殺してやるよ!!」

 

「そうか……なら好きにすると良い。命など、今の私にとっては目的遂行のために利用する道具の一つでしかない」

 

「? ……どういう意味かしら」

 

私の言葉を理解できないという表情をする愚図共。そのままの意味だということにも気づかないのか?

そうそう、スコール。最初にお前がお姉様と遭遇して、私と巡り合う奇跡を作ってくれたな。そこには感謝しているよ。織斑千冬のクローンとして見放され、朽ちるはずだった私の命を拾ってくれたことも含めてな。

だが、その感謝もこれでお終いにするとしよう。正直、あの方以外に慈愛を受けるなど虫唾が走る。元から要らないものだったが、もう貴様達の気遣いや親切心など不要だ。

そう、お姉様の……あの言葉があれば私はそれで良い!

 

『エム……いや、マドカ。私はいつも傍にいるから……安心して逝きなさい』

 

“いつも傍にいる”、“いつも傍にいる”、“いつも傍にいる”……嗚呼、これほど身に染みる言葉があるだろうか? いや、あるはずない!

お姉様が傍いる……その想いだけで、私は自分の死など恐るに足らん!

 

「エム、貴女何を……?」

 

「ハハ、これで私は……ディアナお姉様の寵愛を受けることができる!」

 

私の体の底から湧き上がる高揚感を押しとどめることができず笑みを浮かべてしまう。

ようやく二人はハッと気づく、『サイレント・ゼフィルス』のBTが一つもないことに。途端に先程まで私を殺せと訴えていたオータムは表情を青ざめる。

どうした? 先程までの威勢はどこへ消えてしまったんだ? 所詮は口先だけか……。

つくづく貴様達が愚鈍な人種なのかよく分かった。所詮この世の“ヒト”など崇高な存在であるお姉様に比べたらゴミにも等しい。貴様達に、お姉様と同じ世界に生きる価値などない!!

 

「まさか……エム! 貴女は!」

 

「スコール、そいつはもうダメだ! 此処を出るぞ!」

 

私を放置したまま元同僚の二人は目の前から去って行く。

馬鹿め、貴様達に安息の地などあるわけも無いだろう。どこにも所属してない無法者のテロリストに誰が手を差し伸べてくれると言うんだ?

それに比べて私は大丈夫だ。そう……例えこの身が消滅しようとも、この行為がお姉様の心に強く刻まれることになる。それこそ私の喜びであり、私の至福だ!!

私が念じるように操作すると、本部の各所に仕込んだビットが全て爆発する。

突如発生した爆炎によって施設の大事な柱や機械に燃え移り、『亡国企業』の施設は態勢を維持できなくなる。

地面が引き裂かれ、アラーム音が鳴り響き、燃え盛る爆炎の中で脱出する手段もない私は一人取り残される。

だが悲観することなど皆無だ。

何故なら……あの方の言葉があるからだ。

だから私の命など惜しくない。織斑千冬のクローンとしての強さを求めていた私が生きてる実感を湧くことができた。

 

「フフフ……アハハハハハハハハッ!!」

 

刹那、凄まじい爆発が私の傍で起こった。紅蓮の爆炎はその場を吹き飛ばし、私の命と身体を燃やす。炎の渦に包まれながらも、私は魂の極上の喜びに酔い痴れていった。

私の傍には神ではなく、敬愛なる【悪魔】が憑いている。その事実だけが私の人生に価値を見出してくれた……。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

一夏side

 

一昨日のことだ、秋十兄さんと篠ノ之さんが死んだ。学園内の廊下で二人の死体が発見された、と。

秋十兄さんが篠ノ之さんを死に追いやったという噂が学園中に流れるのもあっという間だった。それに伴い、僕への風当たりが強くなった。当然だろう、僕はその弟なんだから。僕のことをフィギュアかマスコットとして見ていた女子達も、今ではゴミを見るような非難の視線ばかり。大抵の教師陣も僕を鬱陶しく思ってるらしく。度々「何でこんな男が千冬様の弟なのかしら……?」と愚痴をこぼしているのを見かけた。

でも、例外だっている。担任の千冬姉さんと副担任の山田先生。だけど一人の生徒として扱うため、必要以上に僕を庇ってくれなかった。

そして………。

 

「おーはよ、一夏♪」

 

同居人のディアナさん。彼女も態度を変えず僕に接してくれる。僕を庇ってるからディアナさんにも悪い噂が流れてるというのに、気にせず気を遣ってくれるんだ。

僕はボソッと呟く。

 

「ディアナさんって、綺麗で、とても強いよね……」

 

「そっかぁ……一夏にはそう見えるのか」

 

そう言うディアナさんの顔は少し暗かった。

少なくとも、僕の知ってるディアナさんは綺麗で強くて、とても凛々しい印象を絶やさない女性だった。だからこんなディアナさんは珍しかった。

気になった僕が尋ねると彼女は話してくれた。

彼女の周りで知ってる人が謎の失踪を遂げたり事故死したりして、ディアナさんだけが生き残る。それ故にディアナさんは自分が“死神”と思い込むことがあった。

完璧超人かと思ってたけど、この人も女の子なんだなって実感が持てた。

……でも、同時に妙な違和感を感じる。()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()感じだ。まるでステージの上に立っている女優を観るような気分だ。

この人は嘘をついている……かもしれない。怖いモノなんてないのかもしれない。

でも、それでも僕は……。

 

「ぼ、僕だけは……ディアナさんを残さないから」

 

そう言ってディアナさんの手を握る。

一人になる辛さは一番知っている。自分の意志が周りに制限される辛さは誰よりも受けたつもりだった。自負でも自慢でもない。

だから——僕は君なしではいられなくなった。

 

「……うん。ありがとう一夏」

 

ディアナさんは元気が出たと言いながら、ほんわかとした笑みを見せる。

この先どうなろうとも、僕はディアナさんの傍にいると決めた。恋とか愛とかそんな生温い類の感情じゃない。もっと深いものだ。彼女無しでは生きられない体になってしまった。

 

 

 

 

ディアナside

 

事が上手く進み過ぎて、私は笑みを抑えられない。

まずあのクズ二人組の成果(自殺)で一夏は学園内で孤立した。教師である織斑千冬も一人の生徒に必要以上に構ってやることはできないので迂闊に手出しできない。一夏は唯一の味方だと認識している私に依存するしか道はなかった。

でもね、これは全部一夏のためなんだよ?

一夏はここにいちゃいけないの。一夏を理解できないゴミ溜めな世界にいたら【天使】の価値が損なうだけ。私が力尽くで君を奪いに来ても、君の姉が許してくれないに決まってる。そして、君自身が許してくれない。だって……一夏は優しいから。薄汚れた女の子に手を差し伸べられるほど、優しい男の子だもん。

だから……一夏にとっての世界は私だけだと認識させる他ない。

 

「ねぇ、一夏……」

 

私の、一世一代のプロポーズ。

今の一夏なら、私を受け入れてくれるでしょ?

 

「私と一緒に暮らさない?」

 

一夏を連れて、どこか遠いところで二人っきりで暮らす。お城でも別荘でも、誰もいない無人島でも良い。とにかく一夏と一緒なら、私にとってはどこも天国だから。

私と一夏は手を取り合ってお互いに顔を見つめる。

病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も……死が二人を分かつまで、共にいることを誓います。

結婚式に流れる聖書の一部を読み上げて、私と一夏は永遠に一緒にいることを誓う。

 

「今晩、ここを出て一緒に新天地を見つけようね」

 

「うん。でも、僕はどこでも良いよ」

 

「うん。私も、一夏といられるならどこだって構わないからね」

 

傍にいてくれれば、悪魔の巣窟だろうと天使の楽園だろうと構わない。依存し依存される関係、他は何も必要としない。

そして、二人の距離はゼロになる。

 

 

 

〜〜◇〜〜

 

 

 

深夜の三時、徘徊する者がほぼいない時間帯。

最低限必要な量の荷物を備え、二人分の飛行機チケットを忘れてないか確認して、私と一夏は校内を歩いていた。IS学園から出た近くの空港で乗るチケットは、事前にマドカに用意させたものだ。

IS学園を出た後に飛行機で海外へ行き、誰も住みつかないような無人島へ引っ越す手筈だ。

色々問題はあるけど、今は誰にも遭遇しないように学園外へ出ることが最優先だ。

適当に誰かから奪った“特典”で監視の目を掻い潜り、玄関近くまで来たところで忘れ物に気づく。一夏との誓いの指輪だ。

一夏は同じ様な物をまた買えばいいと言うけど、私にとってはこの世でたった一つしかない宝物だ。だから私は一夏との元愛の巣へ戻り、机の上に置かれたままの指輪を発見した。

銀色の指輪を左の薬指に嵌め、私は扉に来たところで踵を返す。

今度こそ、さようなら。

音を立てずに扉を閉めて、一夏の元へ戻ろうとした時だ。

 

「何をしているんですか!?」

 

深夜で誰もいないはずなのに私を止める声がした。

チッ、やっぱり簡単に通してくれるわけないよね。

ホルスタイン女——山田麻耶がいた。大方、『亡国企業』のスパイである私を監視していたんでしょうね。

ホルスタインは私を凝視しながら、震える手で胸元の待機状態のISを握り締めている。

相手も闘う気満々のようだし、仕方ない。予定と狂ってしまうが、ここで始末するか。

ホルスタイン女は覚悟を決めた表情をすると……ISを地面へ放り投げた。

何を考えているんだ? 降伏する気?

 

「……例え貴女がどんな人物でも、この学園に所属している以上、私達の掛け替えのない生徒です。生徒に銃口を向ける教師なんて、教師失格です」

 

……ふ〜ん、それがお前の戦い(説得)ってわけ? この場で殺されるかもしれないのに。頭の中がお花畑なおめでたい性格なこと。とても元日本代表候補生とは思えないね。

私が内心で見下しているのにも気付かず、ホルスタインは続けて言う。

 

「織斑くんに好意を持つことは一向に構いません。正当な手段で貴方達が幸せになるのなら私は喜んで応援します……ですが、こんな卑怯なやり方はすぐに止めなさい!」

 

……何なのさ、この女は。

私のことを理解している面をして、何も知らないくせに。

なのに……()()()()()()()()()()()()()

 

「本当に織斑くんに愛されたいのなら、正面から彼と向き合いなさい!」

 

「……でも、それで拒絶されてしまったら、私は二度と立ち上がれないかもしれない」

 

「そうなるとしても、その気持ちは決して無駄ではありません。その苦い思いが全て、貴女達を成長させてくれるのです」

 

ホルスタインの凛とした声が響く。その言葉を正面から受けた私は黙り呆けてしまう。

そんな私の顔を見て、ホルスタインは安堵したような表情を見せる。メガネから覗く瞳が歓喜に満ちて、私に向けて手を広げていた。

私が改心したと思ったのかしら?

殺人鬼でも生徒だから恐れず接するなんて、伊達にこの世界でまともな原作キャラをやってないわね。

だから………。

 

「…………甘いんだよ、()()()()

 

「ッ!?」

 

目に見えない速さで駆け寄る。

声を出す前に背後に回り込んで口元を塞ぎ、山田先生の体を固定させる。ついでに彼女の内ポケットを弄って、スマホをその辺に放り投げる。もう彼女は助けを呼ぶこともできない。

大声を出せない状態で、山田先生は私を見てくる。それは信じられないという表情だ。

 

「一体いつ、私がお前に気を許すと言ったの? どの道、お前が慕ってる織斑千冬が私達の関係を赦してくれないのよ、絶対にね」

 

感染疑惑の人間を殺すように、織斑千冬側のこの女を生かしてはおけない。

たとえ優しい人でも、私のことを応援してくれるとしても、私の障害になるなら仕方ない。

 

「だから……ごめんなさい」

 

まったく誠意が伝わってこない言葉だと自覚しながら、私は山田先生の喉笛にナイフを深く突き刺す。

生肉をねじ込んだ感触がナイフ越しに伝わり、噴水のように血が噴き出す。

山田先生は目から涙を流しながら、身体がガクガク震え出す。

 

「んんっ〜〜〜〜〜!!! んんっ! んっ……んっ……ん………」

 

腕の中で必死に踠きながら口を塞がれた状態で絶叫する。しかし声がどんどんか細くなっていき、私の腕を掴んでいた手は地面に垂れ落ち、とうとうピクリとも動かなくなった。

突き刺していたナイフを抜くと、傷口から赤い滝が流れ落ち、糸が切れた人形のように地面に横たわる。

山田先生の亡骸を見下ろすと、床に血がたまって、その中に芋虫みたいな物体が浮かんでいる。目から光が完全に失われていて絶命した事実を物語っている。

人を殺すことも躊躇わない殺人鬼相手に、生徒だから手出ししないという馬鹿みたいな理由で、最期まで私の身を案じていた女の哀れな末路。

だからウザいのよ。善人振って、挙げ句の果てには殺される最期を迎えるなんて。

……でも、ありがとう。この腐った世界で、あんたは一夏の次にまともな人間だったわ。

 

「貴様、そこで何をしておるッ!?」

 

タイミングが良すぎるだろ、と思わず悪態を吐く。

声がした方角には肩で息をしながら、血相を変えた織斑千冬がいた。

 

 

 

千冬side

 

報告に行ってたせいで遅くなってしまった。

ディアナの足元で横になってる人物を見て私は目を疑った。

 

「ま、や……!?」

 

近くにリェータスがいたが、構わず麻耶の元へ駆けつけた。

首に手を当てるが、既に手遅れだった。首から血が溢れ出して、まったく息をしていない。

遠く離れた地面に麻耶が持っていた待機状態のISがあった。リェータスと争った形跡が見当たらない。心の底から生徒想いの麻耶のことだ、学園生徒であるリェータスに説得しようと試みたんだろう。

昔からそうだ、麻耶は私なんかには勿体ないくらい気遣いのできる良い後輩だった。私のことを『世界最強(ブリュンヒルデ)』としでなく、一人の『織斑千冬』として慕ってくれた。

なのに、なのにっ……すまない、麻耶。

麻耶の亡骸を地面にそっと下ろし、大切な後輩を亡き者にした【悪魔】を見据える。

 

「貴様……覚悟はできてるだろうな?」

 

【悪魔】——ディアナ・リェータス、逃げようともせず、ずっと泣き崩れる私を待っていたみたいだ。

根性があるようだな……いや、私から逃げられないと判断して敢えて残ったのかもしれん。

だが、その考え自体が間違いだったと教え込むしかない。命を以ってな。

懐から真剣を抜く。第一世代のISブレードではなく、日本刀だ。

奴に特殊な攻防は効果ないと報告がある。だからISではなく何の細工もしていない刀で勝負を持ち込む。

リェータスは怯えた様子も見せない、寧ろ返り討ちにしてやると言った様子だ。

 

「前々から貴女は目障りだと思っていた。それにしても殺気がダダ漏れだよ?」

 

「黙れ、この異常者! 貴様に一夏を渡すものか!」

 

「ふん……貴女なら一夏を守れるとでも思ったの? 弟一人を救えなかったダメ姉のくせに?」

 

「ッ……!!」

 

痛いところを突かれて黙ってしまう。

そうだ、私は秋十の行いの悪さを知っていたのに、叱咤して改心させることができなかった。世間から姉失格と蔑まれてもおかしくない。

でも……たった一人、唯一生き残った一夏だけは、何が何でも守り通すと決めたんだ!

意に決して刀を握り直すと、リェータスは手を翳した。

何をする気だ……? と警戒心を上げていると、突然目が光った。

その時……!

 

「な……!?」

 

突然、体から力が抜け落ちるような、言い知れない感覚に陥る。

こ、これは……!?

私が困惑して固まってると、笑みを浮かべたリェータスがこっちへゆっくりと歩み寄る。自分の勝利を主張するかのような憎たらしいものだった。

 

「折角、殺気がダダ漏れだって忠告してあげたのに……私の能力で貴女からIS適性の能力を奪ったのよ。そうね、精々今の貴女のIS適性はE以下かしら? 大逆転ね」

 

なるほど、どこで手に入れたかは知らぬが、これで過去数々の命を奪うことが可能だったわけか。

そう言うと、リェータスはナイフの刃先を私に向けて頭上へ上げる。

 

「一夏に嫌われたくなかったから貴女は殺さないでおいてあげたけど、ここで止められたら一生離れ離れになってしまう……私達の幸せの糧になってちょうだい♪」

 

自分勝手な言い分をつらつら垂れ流すと、躊躇せずナイフを振り下ろす。

だが……!

 

「———甘いぞ、小娘!!」

 

金属音が鳴り響く。

交差するナイフと真剣……結果、奴の手元のナイフは粉々に砕け散り、そのままの勢いで真剣の刀身はリェータスの目を斬る。

 

「ッ———!? あ、ぐぅッ……!!」

 

予想外だったリェータスは一瞬で驚愕に染まり、おぼつかない足取りで後退する。激痛のあまり、奴の掌からナイフが落ちた。

血を流す目を押さえながら、ディアナは睨みつけてくる。視界を遮られたことへの憎悪か、未だに異能の力で私から力を搾取するつもりなのか。

だが、何も起こらない。やはりあの輝いた目が奴の力の源だったようだ。

奴の能力は無効、私に効くはずもない。

 

「ど、うしてっ……!? 貴女はもう、IS適性がゼロに等しいのに……!!」

 

息を切らしながら困惑気味で尋ねられる。

案外間抜けだな。ISがない状況で私が負けると思ったか? そんな力に頼らずとも素手でIS操縦者を薙ぎ倒すことなど、私にとっては造作もない。

 

「『世界最強(ブリュンヒルデ)』の力がなくなったとしても、貴様みたいに他者から奪うことしかできん奴に私は負けんさ」

 

「な、んだよぉ……あんたの方がよっぽど反則じゃん……素手で倒せるって、ほぼチートだよ……」

 

「……言い残すことはそれだけか?」

 

そう言って、私は小娘の喉笛に真剣を突きつける。決して反撃の隙を与えない、瞬きも許されない状況だ。

この女が一夏を、私の家族を誑かした。

原因はこの小娘とはいえ、一夏は全然悪くないと強く主張できない。まだ手を血で染めてないとしても、小娘と逃亡しようとした。恐らく私がいくら言っても、周囲から非難の視線を浴びせられるのは免れないだろう。

だからせめて、私だけでも家族として傍にいる。ずっと支えていかなくてはならない。

そのためにも……この【悪魔】を殺して、全ての清算を終える!

 

「覚悟しろ、ディアナ・リェータスッ!!」

 

 

 

 

 

「———止めてぇええええ!!!!」

 

廊下中に叫び声が響いた。振り下ろした真剣は宙で静止してしまう。

その声は私にとって、そして小娘にとっても聞き間違えるはずのない声だった。

暗闇から一つの小さな影が飛び出して私に体当たりしてくる。さほど大したことない威力だったが、呆然とした私は力が抜け切って、リェータスから遠ざかってしまう。

 

「一、夏……!?」

 

呆然としながら、掌から真剣を地面に落としてしまう。

その男こそ、私が何が何でも守り通そうと決意した家族にして実弟……一夏だった。

 





次回で最終回です。
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