瓦解のテンシ、アクマの鮮血   作:福宮タツヒサ

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遅くなって申し訳ありません!

スランプが長引いたので……。

久しぶりの更新ですが、どうぞ楽しんでください!


第2話 思い上がり

一夏side

 

翌朝の食堂、僕とディアナさんは朝食をとっていた。

 

「お、これ美味しいね、一夏」

 

「う、うん……」

 

僕は顔を真っ赤にして地面に俯く。

昨夜はあんなことがあったから、恥ずかしくて顔を合わせられない。人生に嫌気が差し、我慢の限界だったとはいえ、同い年の女性の胸に顔を埋めて泣いたのだ。

でも、ディアナさん本人は気にも留めない様子。僕の隣で時折、微笑んでくれる。

その妖美な微笑みを直視してしまった僕は、耳まで真っ赤になり、顔から湯気が出そうになる。

それにしても、さっきから周りの女性達が僕らを見て騒いで気になるんだよなぁ。「先越された!」とか「私の一夏きゅんが!」「諦めたら駄目よ! まだチャンスがあるわ!」とか。何か嫌な予感しか起きないんだよなぁ。

案の定、そこへ……。

 

「……ねぇ。織斑くんだよね?」

 

「一緒に食べないかな?」

 

訊きながら僕に色目を使う人が三人いた。

ネクタイの色が違う、二年生の色だ。つまり僕らの先輩か。

愛想笑いを浮かべる僕。けど知ってる、この人は僕なんかに興味ないことを。

大方、僕が千冬姉さんの弟、世界最強女(ブリュンヒルデ)の弟だからという理由で接触を図ってるだけなんだ。もし僕が千冬姉さんの弟じゃなく唯の冴えない男子だったら、袋叩きに遭ってたに違いない。想像したくないけどね。

え? 何でそんなこと言えるのかって? ……分かるんだ。知りたくもないのに、分かってしまうんだ。過去にこんな視線を浴びせられたから。

彼女達の視線。フィギュアや展示物を見定めるような視線。誰も()()()()()()見ていなかった。

 

 

 

「ごめんなさい、先輩方。今は私と一緒にご飯を食べているの。でしょ、一夏?」

 

僕を物珍しそうに凝視する先輩達の視線を遮って、ディアナさんが横から入る。

僕の心情を理解しているみたい、咄嗟に僕を庇ってくれる。

 

「はぁ? あんたに聞いてないわよ」

 

ディアナさんが言った途端、先輩達はびっくりするくらい態度を豹変して彼女を睨みつける。

それに伴って、周囲の女性が同意したいと言いたそうな非難の視線を一斉に送ってきた。ほとんどの女性が苛立ち眉間に眉を寄せている、中には暴動に走りそうな人もいた。

すると———。

 

 

 

「…………ふぅ」

 

ディアナさんは深い溜息を吐いた。

本人曰く、唯の溜息らしいけど、僕には魔女の呪詛のように聞こえる。

現に、先程まで威勢が凄まじかった先輩達や周囲の人達は怯えた表情をして何も言葉を発さない。さっきまで騒がしかった食堂は、一瞬にして静寂に包まれてしまう。

その中、重々しくディアナさんは口を開いた。

 

「何度も言いますけど……今一夏は私と話しているんです。なので、ここはお引き取り下さい。先輩」

 

ディアナさんは笑みを浮かべたまま丁寧に言う。

先輩達は蜘蛛の子を散らすように、瞬時にその場から消え去った。一方、僕を含むその場にいた皆は開いたまま口が閉じなくなる。

 

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率良く取れ! HRに遅刻したらグラウンド十周だ!」

 

パンパン! と誰かの手を叩く音が食堂中に響いた。

手を叩いた方向へ視線を向けると、そこにいたのは白いジャージ姿の千冬姉さん、もとい織斑先生。

周りの女子達は織斑先生の言葉に従って食事の手を進める。

僕も朝からグラウンド10周はゴメンなので急いで食べる。

食べ終わった時、隣にいたディアナさんが片付けを手伝ってくれた。既に食べ終わって、僕が食べ終わるのを隣でずっと待ってくれたようだ。

とても嬉しいけど、反面申し訳ない罪悪感に苛まれる。

こんなにお世話になってるのに、彼女に何もしてやれない。

何か、僕にできることはないのかな? 彼女のために……。

 

 

 

ディアナside

 

早朝から……私は至福の時を味わっている。

私は今、愛する一夏の隣にいるからだ!

はぁ〜〜!! ハムスターみたいにモキュモキュとご飯を頬張る一夏の姿がと〜〜〜っても愛らしい! ここが公共の場でなかったら、一夏を喰べちゃうところだったよ♡

ま、一夏より早く起きた私は寝ている彼の姿を見て、迷うことなく頬っぺたにキスしちゃったんだけどね。本当は唇を奪いたかったけど、やっぱり私からじゃなく、一夏から迫って欲しいな、って思ってしまったの。

いや〜、我ながらすっかり処女(おとめ)ですね。前世は男だったのか? と自分でも疑うくらいだよ。

と、私と一夏の至福の空間に、問答無用で雌共が入ってきて、図々しく一夏に声を掛けてきた。

チッ……あっちの方に(織斑秋十)がいるだろ! 腰を振るならあれにしなさいよ! あっちも大歓迎でしょうよ!

……などとは言えない。言えるわけがない、一夏の前なのだから。

穏便に済ませようとしたら、リーダー格のビッチは私を睨んでくる。それに伴って周囲の雌共も、私を仇のような嫌悪の視線を送ってきた。

うん……それで? 『亡国企業』にいた奴らの方がもっと重度の高い殺気を送れるし、ぶっちゃけ私の方がもっと濃いのを出せるよ?

『亡国企業』にいた頃なんか、プライド高い一人の女が問答無用でISを装着して奇襲をかけて来た、なんて日もあったからね。むしろ生温い方よ。(因みに襲撃をかけた女は返り討ちされ、私の調教によって忠実な僕と化したエムによって撲殺されかけた挙句に解雇された)

 

「…………ふぅ」

 

溜息混じりに、ちょっと殺気を飛ばしただけで目の前の女共は勢いを失ってしまい、私を怯えるような目つきになる。周囲の女も同様に。

理解できたみたいね。その少ない単細胞みたいな脳味噌でも。

と、一悶着を終えた後、私は一夏の好感度を更に上げるために片付けを手伝う。

すると一夏は申し訳なさそうな表情を見せる。……可愛い!!!

きっと私に色々罪悪感を覚えているんだろうね。でも大丈夫よ! 今後、た〜〜〜っぷり請求してもらうから…………主に身体でね!

一夏と教室へ戻ろうとすると、

 

 

「リェータス。お前には話がある。今から私のところに来い」

 

「あの……早く行かないと遅刻するんですけど」

 

「山田先生には、リェータスは事情があって欠席するように言ってあるから心配無い」

 

織斑千冬に呼び止められてしまう。何もかも手配済みという雰囲気を醸し出す。

はぁ……メンドくさい。折角、一夏と一緒に教室まで歩こうと考えていたところなのに。邪魔すんじゃねーよ。

いいわ、一度この人と話はしなきゃと思っていたから。

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

千冬side

 

私、織斑千冬はディアナ・リェータスを呼び出す。

連れて来た場所は、学園内の使用されていない一つの倉庫。随分前から出入りされてない状態なので、辺り一面に埃がたまっている。

現在この場所には誰もいない。更識姉にも、今だけは監視の任務を外させている。つまり、誰にも気にせず、お互い思う存分話せるということだ。

 

「それで、授業をサボらせてまで、私に何の用でしょうか? 織斑先生」

 

何の用だと? お前は分かってるはずだろ! と激昂したい衝動に駆られるが、私はひたすら我慢する。ここで感情のまま行動してしまえば、教師としての威厳が成り立たないからだ。

 

「単刀直入に問おう。何が目的だ? ディアナ・リェータス? いや——『亡国企業』」

 

既に調べはついている。目の前の少女、ディアナ・リェータスの戸籍や、所属している会社が偽造だということは。こいつが『亡国企業』のスパイであるということも。

現IS学園の生徒会長である更識姉、並びに対暗部用暗部の『更識家』の工作員によって調べた情報だ。

今はまだ泳がせるつもりだったが、あまりにも(一夏)への接触が限度を超えている。

一夏の身柄が狙いだというなら私が黙ってないぞ? と、忠告の一つでもかましてやろうと思った。

ところが…………。

 

「……あぁ、知っていたんですか」

 

私の問いに対して、奴は一切動揺を見せなかった。

それどころか、私に向けて笑みを向けた。その笑みはまるで魔女、いや、【悪魔】だ。自分の所属する組織に対して無関心、まるで興味ないと言いたい顔。

 

「私個人、別に目的とかありませんよ。その男性操縦者のサンプルとか……でも強いて言うなら、一夏の唇とか肉片とか指とか爪とか、あと子種とかなら、とても欲しいですね。あ、もう一人のゴミ男は貰っても捨てますよ。無料で配られてもいりませんから」

 

私は絶句してしまう。それもそうだろう、リェータスの返答は、スパイとして潜入してきた者のそれとはかけ離れたのだったからだ。

自分で言うのもなんだが、目の前に(世界最強)がいるにも関わらず、否定もせず、狼狽える素振りを見せない。それどころか自分をスパイと認めた上で話してくる。あのバカと同じくらい気味が悪い。

それから、一夏への依存度が凄まじい。私でも絶句してしまうほどだからな。後、秋十への評価は低いな。まぁ、あいつは自分の持つ才能故に、傲慢な態度が多々あるからな……。一部の女子から嫌悪されても仕方ないだろう。今後の学園生活で公正させなくてはならんな。

と、話は逸れてしまったが、ディアナ・リェータスは続けて私に言う。

 

「貴女は勝手に対策でも何でもしていれば良いんですよ、別に。 私は、私のためだけに行動しているだけですから……もちろん、一夏のためにも、ですけど♪」

 

そう言って私の顔を覗き込んできた。

一目見て勘付いた。奴の瞳は狂っている。

付き合いの長い束も狂った目をしているが、人生に退屈したとかでバカな行為を繰り返している。退屈凌ぎで動いている束と違い、目の前の少女は明確な目的のために行動を起こしている。目的がはっきりしているという意味では、まだあいつよりマシな方だろう……。

 

「話は以上ですよね? だったら私はこれで失礼します。もう用もありませんので。

……それから一言。私の住処に土足で踏み込んで来たら、一夏の身内でも容赦しませんよ? お義姉さん(ブリュンヒルデ)♪」

 

ウインクをし、鼻唄交じりで私の目の前から去っていく。

どうやら今のところ、奴は学園に何もしないようだ。無論、一夏や秋十にもだ。秋十に関しては単純に心底興味がないというだけだろうが。

それにしても、お義姉さん、か……。私の前であんなに堂々とした宣言をしたのは奴が初だな。

一夏が良いと言うなら、私は一夏の相手が誰だろうが一向に構わんさ………()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし、今一夏はリェータスに心を開き始めていると見た。

一夏は厄介な女に感化されつつある、秋十は傲慢かつ怠惰な性格故に周りに誹謗中傷な態度を取っている。二人共、私が受け持つクラスの生徒であり、実の弟だ。唯でさえ初の男性操縦者で世界中から注目の的を浴びているというのに。

私は頭痛に苛まれながら授業の準備に取り掛かる。

 

 

 

〜〜〜◇〜〜〜

 

 

 

秋十side

 

クソクソクソ!!

箒と一緒に朝食を食べ、箒を口説きつつ周囲の女子も口説き堕とすはずが、あのディアナ・リェータスが出した異様な雰囲気の所作でそれどころじゃなくなっちまったよ!

あの女のせいで俺の計画が狂ってしまう!! 何だよ、本当にあいつは!? 俺がオリ主なんだぞ!!?

……まぁ良い。性格はクソ最悪だけど、身体は超俺の好みだからな。あいつも奪って、搾りカス(原作主人公)の前でたっぷりと堪能してやるよ!

再び決意が固まり、俺は箒の方へ視線を向けた。原作のシナリオ通りに、箒と剣道の訓練をするためだ。

 

「それじゃあ行こうぜ、箒」

 

前世はブ男だったが、今の俺は爽やか笑みを浮かべられるイケメンだ。あらゆる手を尽くして次々と女を堕としていく。

箒へ手を差し出すと、箒は躊躇した様子だった。

ん? 緊張しているのか、箒? 可愛い女だぜ。原作と違った反応なのはちょっと気になるけどよ。もしかしてあの女がいるせいで、ちょっとしたイレギュラーが発生しちまったのか? クソが! あのクソ女、ろくなことしねぇな!!

まぁ……俺は箒を攻略済みだからな。その辺は何とかなるっしょ! ヒロインズの中では一番の巨乳、束と一緒に姉妹丼にする日が楽しみだぜ。

……って、ヤケに手を握るのが遅くねえか?

まさか、こいつは搾りカス(一夏)に惚れているなんて言うんじゃねえよな?

 

「あ……あぁ。秋十」

 

恥ずかしそうに箒は俺の手を握る。

な〜んだ。恥ずかしがってただけか。暴力系ヒロインなんて、数々の二次創作ではアンチ対象にされていたけど、扱いが分かれば性欲発散できる最高の女だぜ!

俺はどっかの唐変木じゃねえからな、この調子でどんどんヒロイン、モブヒロイン、そして最終的には、この世界の女を全て俺の物にしてやるぜ!! 俺のハーレムのためになぁっ!!!!!

ヒャハハハハハハハハハハハ!!!!

 

 

 

箒side

 

私こと、篠ノ之箒は悩んでいた。このままで良いのか? ……と。

まず始めに言っておきたい。私は……ISが嫌いだ。上に“大”がつくほどにな。

私の姉さん———篠ノ之束が開発したISによって世界は激変してしまった。私の周囲の環境(セカイ)も。

剣道で優勝しても、私と対戦した彼女達は「“篠ノ之博士の妹”だから当たり前」とか「“篠ノ之博士の妹”ならISに携わるべきだ」と悪態を吐いた。審判や剣道部の顧問ですら、誰も私個人を評価してくれなかった。誰もが、私の今まで積み上げてきた努力を無下にした。

私を友達と言ってくれた同級生もいたが……その女達は姉さんに近づきたくて私に寄っただけだった。本当の友達など一人もいなかった。その後、彼女達は姉さんの仕業で転校していったが、別に彼女達がどうなろうと知ったことじゃない。後、姉さんに感謝の念も抱けない。当然だ、その実の姉が私の人生を、青春を奪った張本人なのだから。

そんな人生を送ってるうちに、私は他人を信用できなくなってしまった。信用できるのは身内と、彼だけ。私の幼馴染にして……初恋の男、織斑秋十。六年ぶりだというのに、彼は私の髪型を見た途端、私だと気づいてくれた。

だが…………。

 

「それじゃあ行こうぜ、箒」

 

昔から……彼の性格は横暴だ。今は私に爽やかな笑みを向けているが、この男は厭らしい視線を私の胸に向けている。私のコンプレックスの一つだいうのに。

今まで彼の行為でどれだけ迷惑をかけられたのだろうか……。

手を差し伸べられた私は、このまま秋十の手を取るべきなのかと躊躇してしまう。

すると秋十は少し苛立った雰囲気になる。

 

「あ……あぁ。秋十」

 

嫌われたくない! 彼にも嫌われてしまったら、今度こそ私は一人ぼっちになってしまう!!

秋十に嫌われたくない一心で、私は慌てて彼の手を取る。すると彼は満足そうに手を引っ張って連れて行く。もう私の味方は彼しかいない、そう思ってしまう。

私を“篠ノ之箒”として見てくれる唯一の味方……秋十の手を取るしか、今の私に取り残された道は無い。そう錯覚してしまった。

もう私は彼に恋なんて想いを抱いてない、とっくに消え去ったのだから。そう、私と彼の間にあるのは幼馴染なんて生温いものじゃない。これは“呪い”と呼べる繋がりだろう。

もし、もしもだ……秋十にも裏切られてしまったら……私はどうなるだろう?

怒りに狂って、私を見てくれなかった人を殺し尽くして、世界を壊すかもしれない。

気に食わないから世界を壊す。我ながら、姉さんそっくりな思考だな。流石、姉妹と言ったところか……想像したくない。

どの道、千冬さんや姉さんがいる時点で、世界を壊すなんて行為は実現不可能だろうけど。

そんな現実逃避をしながら、今日も私は悩み続ける。

 




う〜ん……主人公の描写が少ない気がする。
自分をオリ主と勘違いしている男が、違うと知った時どんな風に絶望するのだろう? と鬼畜な思考で制作中です。(笑)

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