ヤンデレの装者たちに死ぬほど愛されて眠っちゃうビッキーの話 作:nagato_12
ただビッキーに怖い思いをさせて虐めてみたかっただけの内容になります()
「――はい、響さん。温かいものをどうぞ」
S.O.N.G.基地の中にある、小さな研究室。
たくさんの薬品や、なにかの資料らしい分厚い背表紙をした本が、所狭しと並べられているそんな場所で、ワタシはエルフナインちゃんが差し出してきてくれたマグカップを、静かに受け取っていた。
「……ありがとう、エルフナインちゃん」
お礼を言いながら、ワタシは淹れてもらったカップの中身を、少しだけ傾けた。
口の中に出来ていた切り傷に、それが滲みて少し痛かったけれど、暖かなその温度が、すっかり冷え固まっていたワタシの身体を解してくれたみたいに感じて、ちょっとだけ心地が良かった。
「すみません……友里さんの見様見真似で淹れたもので、大して美味しくはないとは思うんですけど……」
「ううん……そんなことないよ……」
わざわざワタシのために用意してもらった椅子の上で、ふるふると首を振るワタシ。
正直、今のワタシには口にしたものの味なんて、ほとんどよくわからなかったけれど、エルフナインちゃんがせっかく出してきてくれた親切を無駄しないためにも、ワタシはただ微笑んでみせた。
エルフナインちゃんはそんなワタシを見ながら、安心したように「えへへ、それなら……よかったです」と小さく笑ってくれた。
二人の間に、少しの間の気まずい沈黙が流れる。
「――ごめんね、エルフナインちゃん……いきなり、こうして押しかけて来ちゃってさ」
ようやく、自分の中で『話す』覚悟を決めたワタシが、そんな風におもむろに口を開いた。
「あ、いえ……それは、大丈夫なんですけど……」
なにか――あったんですか?
エルフナインちゃんがこちらを窺うような目で、不安そうにワタシを見ていた。
カップを握っていた自分の手に、無意識に力が篭もる。
「え、えっと――ね」
「随分とその……顔色が、悪いみたいですけれど……。それに、その……傷だらけで……」
心配するような、エルフナインちゃんの声。
それは――そうだろう。
きっと今、ワタシはとても酷い顔をしているんだと思う。
血の気は真っ青、顔には殴られたような大きな腫れがいくつも出来上がっていて、焦点の合っていないような茫然とした目で、エルフナインちゃんを見ているワタシの顔。もしかしたら鼻血を出した痕なんかも、エルフナインちゃんにはわかってしまうのかもしれない。
エルフナインちゃんの研究室の中には鏡を置いていないので、わざわざそれを確認する術はないけれど、見なくたってワタシにはわかっていた。
きっとワタシは今――死にそうな顔で、椅子に座っているのだ。
「……でも、少しだけビックリしちゃいましたよ」
エルフナインちゃんがそう言いながら、その場を取り繕うような、ぎこちない作り笑いをする。
「ここへ来るなりいきなり『匿って欲しい』だなんて――そんなことを、響さんが言うんですから」
自分の指先がわずかに、また少しだけ震えたのがわかった。
「もしかして、未来さんと喧嘩でもしたとか――」
「あ、あの……ッ、……あのね。エルフナイン……ちゃん」
エルフナインちゃんの言葉を遮えるようにして、意を決したワタシはそこで、震える唇を懸命に動かした。
「みんなの、様子が……ね……」
――みんなの様子が、おかしいんだ。
ワタシは少しずつ、エルフナインちゃんに向かってポツリポツリと今日起こった出来事のすべてを、打ち明け始めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日は、久しぶりの完全な休日だった。
リディアンはお休みで、S.O.N.G.での戦闘訓練も特に予定されていない、そんな日。
こんな日は一日中ダラダラしながら、同居人である未来と一緒に、寮の部屋でまったり過ごす事も多いのだけど、今日は朝早くから、クリスちゃんのお家で遊ぶ約束を取り付けてあった。
玄関先でお気に入りのスニーカーを履きながら、外へ出る準備を整えていると。
「――いってらっしゃい、響。車とかにちゃんと気をつけるんだよ?」
そんな風に、未来が見送りに来てくれた。
「うん、わかってるッ! いってくるね、未来ッ――未来もピアノの特別講習がなかったら、今日は一緒にクリスちゃんのお家に遊びに行けたのに……うう、残念だよぉ」
「仕方ないよ、講師に来てくれた先生の都合で、今日しかレッスンが出来ないみたいなんだから……」
少しだけ残念そうに眉を下げながら、未来はそう言って笑った。
「あとで、クリスちゃんと一緒に写真とか撮って送るねッ! それじゃあ、行ってきまーすッ!」
ワタシは未来に笑顔で見送られるまま、元気に部屋を飛び出していったのだった。
* * *
「あれ? お手紙が来てる……?」
部屋を出て、学校寮のフロアロビーまで差し掛かった辺りで、ワタシは自分たちの部屋番号が標されたポストの中に、見慣れない封筒が入れられていることに気が付いた。
「んん、なになに……? 『Dear Hibiki.Tatibana』……? あっ、これマリアさんからだッ!!」
白い封筒に、特徴的な赤色と青色の縞模様。それはテレビの中なんかではよく見る『エアメール』と呼ばれるものだった。差出人に記された名前を見て、ワタシの顔がパッと明るくなる。
「海外で活動中の大人気アーティストから、こんなエアメールが届くだなんてッ。えっへへぇ、ワタシってばまるで業界人みたいですなぁ……ッ!」
にやつく頬を押さえながら、行儀が悪いとは思いつつも、ワタシはすぐさま封筒の封を切った。中から淡い水色の模様のついた、お洒落な柄をした便箋が何枚か出てくる。
「さっすがマリアさん、大人っぽくてで綺麗な字だなぁ……ッ! う~ん、それになんだか、海外の匂いがする気がする……ッ!」
くんくんと便箋を軽く嗅いでみたりしながら、ワタシは目を輝かせて手紙の中身を読んだ。
どうやら手紙は、最近のマリアさんの近況を伝える様なモノであるらしい。
手先の器用なマリアさんらしい、達筆な文体で記されたその手紙の中身には、マリアさんが最近経験したことがいくつか書かれていた。
マリアさん達が滞在している海の向こうでは、もうじき大きなコンサートが開催される予定らしく、翼さんと一緒にリハーサルをしながら毎日を過ごしているらしい。生真面目が過ぎる翼さんについての愚痴なんかも、少しだけ書いてあった。
「ふふッ、マリアさんと翼さんらしいなぁ~ッ!」
手紙を読みながら、思わず顔が綻んでしまう。
しばらく逢えていない大切な人達のことを考えながら、ワタシの胸は幸せな気分でいっぱいになったのだった。
「……ん? でも、なんでこのエアメール、ワタシ宛なんだろ? 未来にはもう別で送ってあるのかな?」
封筒に標されていた、綺麗な筆記体のワタシの名前を見ながら、ふと違和感を覚えた。マリアさんなら、未来とワタシの二人に宛てて手紙を書きそうなものだけど、宛先はおろか本文の中身にだって、未来の名前は出てきていない。
もしかしたらワタシと未来は分けて、それぞれ個別で宛てて手紙を書いてくれているのかもしれない。エアメールだから、こちらに届くのにも時間差があるとか……? ううん、どうなんだろう。
「そうだッ! ちょうど良いし、せっかくだからクリスちゃんにも見せてあげよ~っと! ――……ん?」
そんな事を思い付きながらワタシが、マリアさんからの手紙を読み終えようとした、そんなときだった。
文言の最後のほうに『I love you.』という横文字があることに気が付いて、ワタシの胸が少しドキリとした。
「あ、あっはは~……ッ、も~、マリアさんってばッ! 海外流のジョークはわかっててもびっくりしちゃうよぉ~……ッ」
思わず照れ笑いのようなものを浮かべながら、便箋を丁寧に折りたたんで、封筒の中へと戻すワタシ。
やっぱり海外に住んでいる人は違うんだなぁ、と。一瞬、手紙の冗談を真に受けてしまいそうになった自分が、少しだけ恥ずかしかった。
「また今度、マリアさんにお手紙のお返事を書こーっとッ!」
肩に提げていたオレンジ色のポシェットに、エアメールを大切に仕舞い込んで、ワタシはロビーの正面玄関へと歩き出した。あんまり遅くなって、クリスちゃんが心配をかけちゃうかもしれない。急がないと。
ワタシはお友達から届いた嬉しいお手紙に上機嫌になりながら、寮の外へと出撃していったのだった。
* * *
「あー、クソッ!? おいコラッ、ハメ技はズリぃぞッ!?」
「ふっふーんッ! 食らうほうが悪いんだよクリスちゃんッ! ワタシにこのキャラを使わせたら、右に出る者はいないのだぁッ!」
そんな風に、ぎゃあぎゃあとやかましく騒ぎ合いながら。テレビの画面に映ったお互いのキャラクターを見つめて、仲良く並んでテレビゲームをして遊ぶ、ワタシたち。
クリスちゃんとどこか屋外へ、出掛けて行ってもホントは良かったんだけど、クリスちゃんが『新しいゲームを買ったんだ』ととある有名なゲームのディスクを取り出してきたので、今日は一緒にクリスちゃんのお家でそれをプレイすることになった。
「お前なんでンなに上手ェんだよッ!? 全ッ然勝てねーぞッ! くっそー!」
「このシリーズは未来と一緒に散々やってたからねーッ! 昨日今日始めたような、まだまだひよっ子ちゃんには、そう簡単に負けたりなんかしないよーッ!」
コントローラーを握りながら、悔しそうに叫ぶクリスちゃんに、余裕な表情を浮かべながら応えるワタシ。
「ちっきしょーッ! もう一回! もう一回だッ! バカに舐められンのは我慢ならねぇーッ! わたし様の実力を見せてやるッ!」
「ふっふー、何度やっても結果は変わらないよクリスちゃんッ! 未来には全然敵わないけど、ワタシだってそれなりにこのゲームはやってたんだから――って、ひゃあッ!?」
不敵に笑ってみせようとしたところで、思わず変な声が出てしまった。
「あ? どうしたンだよ、いきなり」
クリスちゃんが不思議そうな顔をしている。
「い、いやッ、ちょ、ちょぉーっと、〝ビックリ″しちゃって……」
なんと、クリスちゃんがワタシの座っていた場所のすぐ隣にまでやってきて、わざわざそこへ座り直してきたのだ。
「さっきは画面がよく見えなくて負けたんだッ! だから今度は、ぜったい負けねぇーッ!」
息巻くように宣言するクリスちゃん。
「え、えぇ~……?」
そんなクリスちゃんの声が、耳のすぐ近くから聴こえてきて、ワタシはまた少し驚いた。というか、もうワタシの肩とクリスちゃんの肩が、触れ合っているような距離だ。クリスちゃんの体温が直にわかって、なんだかドキドキしてくる。
「め、珍しい事もあるもんだね……?」
「あン? お前だってよく、わたしに抱きついて来たりするじゃねぇーかッ。お互い様だっ!」
た、たしかにそうかもしれないけどさ……。
クリスちゃんの息遣いがすぐそこから感じて、なんだか変な気分だった。さっきからワタシの隣に座ったクリスちゃんが、自分の身体をわざとワタシに凭れかけさせてきているような、そんな錯覚さえしてくる。
なんだかいつもより、クリスちゃんが甘えん坊さんな気がする……? 気のせいだよね……?
「おらッ! ンなわけでもうひと勝負だッ!」
クリスちゃんがそう言って、コントローラーを動かした。対戦の始まる音がする。
「わわわッ、ちょっと待ってよクリスちゃ~んッ!」
ワタシは慌てて、自分の分のコントローラーを握り直したのだった。
* * *
「あれ、着信だ――ん、切歌ちゃんから……?」
クリスちゃんと、白熱のゲーム合戦を繰り広げてしばらくが経った頃。
ゲームの読み込みを二人で待っていると、自分のポケットに入れたままにしてあったスマートフォンが、わずかに震えたのに気が付いた。
取り出して見てみれば、そこにはメッセージアプリの着信を知らせるマーク。どうやら相手は、切歌ちゃんからのようだった。
『響さーんっ! デートしましょうデースっ!』
どうやら、遊びのお誘いであるらしい。
(あっはは~『デート』だって……もう、切歌ちゃんったら……ううーん、でも困ったぞ? 今クリスちゃんと遊んでる最中だしなぁ……)
「……誰からだよ?」
「ひゃぁッ!?」
突然自分の膝の上に、なにかひどく暖かい感触が乗ってきて、思わずビックリした。慌ててその正体を見ると、そこにはなんとクリスちゃんの頭があった。
「く、くくッ、クリスちゃんッ!? ど――どうしたの突然ッ!?」
ワタシの膝を枕にするように、寝っ転がるような姿勢でこちらを見上げている彼女の姿に、今度こそワタシは心の底から驚いてしまった。
いつもこういったスキンシップをワタシが取ろうとすると、彼女は顔を真っ赤にさせながらすぐに怒鳴るのに、今日に限ってクリスちゃんの方から、積極的にワタシの身体に触れてくるだなんて……なにかおかしい。
「……わたしと居るのに、スマホなんて見てるからだよ」
「えっ、あ、ご、ごめんねクリスちゃん……ッ?」
なぜだか反射的に、そう謝ってしまったワタシ。というかクリスちゃんが話すたび、彼女の息がワタシの太ももにぶつかって、なんだか少しくすぐったい。
「で、でもホント、珍しいねッ! クリスちゃんの方から、甘えてきてくれるだなんてさ……ッ!?」
ほ、ほらッ、いつもはワタシがやったら、すぐにチョップされるじゃない!?
声を大きくしながら、ワタシがそんな風にわざとおどけたように言うと、
「……迷惑、か?」
じっと真剣な顔をしながら、上目遣いでコチラを見つめている彼女の視線に気が付いた。
なんだかそれが、いつもの彼女のものとは違うような――じっとりと濁った、変な湿り気を帯びたような輝きをしているような気がして。
「へッ!? あ、いや、ううんッ。全然だいじょうぶ……だけどッ」
……なにか嫌な事でも、あったのっ?
ワタシは思わず、そんなことを彼女に尋ねてしまっていた。
「別に……ンでもねぇから。いつものお返しだ」
「……く、クリスちゃん?」
ぎゅうっと。それだけ言うとクリスちゃんはワタシの膝に顔を埋めて、まるでワタシを抱きしめるような形で、両手を腰に回してきていた。
普段の彼女らしくない、そんな直接的な行動に、すっかりワタシが目を白黒させたりしていると――
「それで――″誰から″の着信だったんだよ……?」
顔を埋めたまま、クリスちゃんがそう尋ねてきた。
「あ、あぁ、えと……切歌ちゃんから、だよ? 今から遊びに行かないかっていう、そんなお誘いだったみたい。あ、そうだッ! もしクリスちゃんさえ良かったらさッ、今日は切歌ちゃんも一緒に三人で――」
ピクリ、と。ワタシの返答を聞いたクリスちゃんの頭が、膝の上でわずかに動いたのがわかった。
「……い、行くのか?」
「えっ……?」
彼女の様子が突然、ふっと切り替わったような、そんな奇妙な感覚を感じたような気がして。
「――ワタシを捨てて、そっち行くのかよ……ッ?」
ぎゅうっと。ワタシに抱きついていたクリスちゃんの手に、更に力が篭められたのがわかった。
「えッ!? そ、そんなッ、違うよクリスちゃ――」
「い、嫌だ……そ、そんな酷いこと、言うなよぉ……ッ!? な、なぁホラ、今日はなんでもお前の言うこと聞いてやるからさ……ッ!?」
バッと顔をコチラに上げて、クリスちゃん。その顔は、今までワタシが見たこともないような必死の形相をしていて、慌てて否定しようとしたワタシは、そこで一瞬だけたじろいでしまう。
「なっ、えッ!? ちょっ、ど、どうしたの急にッ!? クリスちゃ――」
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だぁッ! どこにも行かないでくれっ! なぁ、今日はずっとわたしと一緒に居てくれる約束だっただろ……ッ!? 一緒に居てくれよッ、頼むよぉ……ッ!」
ワタシの肩を掴んで、悲鳴をあげるように叫び出すクリスちゃん。
え、なに――なにこれッ!? 突然の異常事態を前に、ワタシの頭の理解が追いついてこない。辛うじてわかることは、目の前に居るクリスちゃんが明らかにいつものクリスちゃんじゃない、おかしい様子だということだけ。
ぎりり、と。ワタシの肩を力いっぱいに掴んだクリスちゃんの爪が、肉に食い込んでいくのがわかった。
「いッ、痛ッ――や、やめてよッ、クリスちゃん……ッ! ちょっ、や、やめて――ってばッ!!」
どんっと。思わず突き飛ばすような形で彼女の身体を押し出すと、まるで人形でも突き飛ばしたかのように抵抗もなく、クリスちゃんの身体は向こうにあった壁の方へと吹っ飛んでいった。
「はっ、はぁ、はぁ……――あッ!? ご、ごめんねクリスちゃんッ! わ、ワタシったらつい、その……ッ! 怪我とか、してな――」
慌てて彼女に駆け寄ってみると、クリスちゃんは目から大粒の涙をボロボロと流しながら、
「嫌だ……嫌だ嫌だぁ……捨てないで、ワタシを見捨てないで……。良い子にするから、ちゃんと言うことも聞くから……だから、お願いだからぁ……っ、わたしを一人ぼっちにしないでよぉ……っ」
と。
まるで壊れたラジオみたいに、クリスちゃんはぶつぶつと同じような意味の言葉を、うわ言のように呟き続けていた。
「く、クリス――ちゃん……?」
まるで変わり果ててしまったかのような、友達の異常な姿。ワタシはなにがなんだかわからない、上手く状況を呑み込むことが出来ないままに、倒れこんでいる彼女の身体へとにじり寄った。
そして、彼女の身体に寄り添ってあげるような、そんな姿勢になって、落ち着かせるようにわざとゆっくりとした口調を意識しながら、彼女に話しかける。
「だ、だいじょうぶ、だいじょうだよ……クリス、ちゃん。ほら、ワタシがちゃんと傍にいるから、ねっ? 今日は一緒に遊ぼう? 切歌ちゃんのお誘いはちゃんと断るから、ほら……見て――ねっ?」
『ごめん、今日はちょっと用事があるから……また今度誘ってね!』
そんな返信文を打ちこんで、クリスちゃんにそれが見えるように、自分のスマホの画面を見せてあげる。
「……ほんとう?」
クリスちゃんは、溢れ出した涙を手で拭うこともしないで、ワタシの顔をじっと覗き込んできた。じっとりと湿り気を孕んだ、濁ったような彼女の瞳が、ワタシの姿を映す。
「う、うん……ッ! だからほら……安心して、ね?」
まるで小さな子供でもあやすみたいに、ワタシはクリスちゃんの綺麗な銀髪を、手で撫でてあげた。
「……みすてないで、ね」
ぎゅうっと、さっきと同じようにして、クリスちゃんがワタシの身体に抱きついてくる。
「うん、わかったよ。だからホラ、だいじょうぶ……」
ワタシはそう言って、優しく微笑んでみせた。
(このクリスちゃんの様子、やっぱり変だ……ッ。いったい、どうしちゃったんだろう……?)
もしかしたら、ワタシの知らない場所で、彼女の身になにか辛い事が起きていたのかもしれない。そのせいで、彼女は一時的に、小さな子供みたいな不安定な状態になっている……とか。
だとしたら、少しでも長く、ワタシがクリスちゃんのそばに居てあげなきゃ――
あまりに異常な様子を見せるクリスちゃんの姿に、自分の脳みそを懸命にフル回転させながら、ワタシが必死に解決策を考え出そうとしていると。
「もしみすてたりしたら――わたし、死んでやるから」
低くて、そして異質な響きを孕んだような、クリスちゃんの言葉。
「――ッ!?」
ゾクッとして、ワタシは慌てて彼女の方へと向き直った。
しかしクリスちゃんは依然、ワタシの身体に顔を埋めたままなので、いったい彼女が今どんな表情をしているのかは窺えない。
(……どう考えても、今のクリスちゃんは普通の状態じゃない――誰か、そう……他の誰かに助けを呼んであげないと)
あまりの彼女の不安定ぶりを目の当たりにして、危険な気配を感じ取ったワタシが、この状況を打開する策を考え出そうとしていると。
切歌ちゃんに返信を打ったワタシのスマホが、自分の手の中でわずかに震えたのが分かった。
ワタシは、画面を見た。
『わかりましたデスッ! では駅前で、待ってるデスねっ☆』
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続きは明日の深夜零時に投稿予定です。