ヤンデレの装者たちに死ぬほど愛されて眠っちゃうビッキーの話 作:nagato_12
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『響さーんっ! デートしましょうデースっ!』10:12
『ごめん、今日はちょっと用事があるから……また今度誘ってね!』10:24 既読
『わかりましたデスッ! では駅前で、待ってるデスねっ☆』10:25
『ごめん、今すぐはちょっと行けないんだ……』10:27 既読
『ふっふっふー、実はなんと! もう駅前に到着しているのデースッ! どうデスか? ビックリしたですか??』10:27
『切歌ちゃん? ごめん、今日は無理なんだ。ちょっといま手が離せないの』10:29 既読
『今日は映画を観に行きたいんデスよ。好きな映画シリーズの最新作が、昨日から公開されているのデス☆』10:29
『切歌ちゃん! 話を聞いて! 実は今クリスちゃんと一緒にいるんだけど、クリスちゃんの様子がなんだかおかしいのっ!』10:31 既読
『大丈夫デスよ! その映画は響さんの好きな、アクションモノの映画なのデスッ! きっと面白いと思うので、安心していてくださいデスッ!』10:31
『なんだかすごく不安定というか、小さな子みたいに急に泣き出しちゃったりしてて……このまま放っておいたら一体なにをしちゃうかわからないような、そんな危険な状況なんだッ!』10:33 既読
『あ、でもでも、響さんが構わないというなら、いま流行りの恋愛モノの映画を観るという選択肢もあるデスッ! 思わずキュンとしちゃうような、素敵な場面が目白押しと、ネットの評判に書いてあったデスっ!』10:33
『映画なんてどうでもいいよッ! 切歌ちゃん、さっきからどうしたの! ちゃんとワタシの話を聞いて!』10:35 既読
『クリスちゃんが変なんだ!』10:35 既読
『それにしても、今日の駅前は人がいっぱいデスよ~、なんだかアタシ、酔ってきちゃいそうデス』10:35
『いい加減にして! いくら切歌ちゃんでも、それ以上ふざけるとおこるよ! 大変なの!』10:37 既読
『あ、なんか怖そうな人たちが、アタシの隣に座ってきたデス。金髪の不良さんデス、恐ろしいデス』10:37
『切歌ちゃん! さっきからどうしちゃったの!』10:38 既読
『悪ふざけはやめて!』10:38 既読
『でででーす、まさかの話しかけられてしまっちゃったデスよ!』10:39
『もういい加減にして!』10:40 既読
『あ、なんか』10:40
『やば』10:40
『い』10:40
『?』10:41 既読
『……切歌ちゃん?』10:41 既読
『たすけて』10:41
『切歌ちゃん!?』10:42
『ねぇ、どうかしたの!?』10:42
『なにかあったの!?』10:43
『切歌ちゃん!!』10:43
『不在着信』 10:44
『不在着信』 10:44
『不在着信』 10:45
『不在着信』 10:45
* * *
「――うぁあああああああッッ!! 嫌だ嫌だ嫌だぁ――嫌だよぉッ! わたしを見捨てないでぇ……ッ!」
「すぐ帰ってくるからッ! 絶対すぐに帰ってくるから――だからごめんッ! クリスちゃんッ!」
取り乱したように泣き喚いていたクリスちゃんを、家に置き去りにして、気が付けばワタシはクリスちゃんの自宅から飛び出していた。
握り締めていたスマートフォン以外なにも持たず、全力全開の全力疾走で、最寄り駅を目指して走り続ける。
明らかに危険だったあんな状態のクリスちゃんを、部屋に独りぼっちにさせてしまったことで、ワタシの心が強烈に痛んだが――事態は一分一秒を争うような、そんな危険な状態に陥っているかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなかった。
走りながら、ガングニールを纏って飛び出して行けば早いのではないかとも思い付いたが、ギアのペンダントはクリスちゃんの家でくつろいだときに、机の上に置き忘れてしまっていたことを思い出して、
「……ワタシのバカぁッ!!」
迂闊な数分前の自分を、思いっきりぶん殴ってやりたい気分だった。
一瞬、引き返してクリスちゃんの家に取りに戻ろうかとも考えたが、こうなってしまえばこのまま走ったほうが幾らか到着が早い。
ワタシは自分のトップスピードをさらに越えるような速度で、駅前に向かって、懸命に走り続けたのだった。
「――切歌ちゃんッ!!!」
大勢の通行人で賑わう、駅前のロータリーにようやく辿り着いて。
見慣れた明るい色の髪をした背中を見つけたワタシは、名前を叫びながら思わず走り寄った。
「あっ、響さんっ!」
彼女は振り返るなりワタシの姿を見つけて、パァっとその表情を弾ませる。
「怪我とかしてないッ!? 大丈夫ッ!?」
慌てて彼女の身体をぐるりと見回したが、切歌ちゃんの身体に怪我や汚れといった、目立つような問題点は見つけられなかった。
どうやら自分は、最悪の事態になる前に間に合うことが出来たらしい――と、そんな風に安堵の息を吐きかけたところで。
「そんなに急いで駆けつけてきてくれるだなんて……アタシのこと、心配してくれてたデスか響さんっ!」
と、切歌ちゃんが嬉しそうな表情を浮かべて、はしゃいでいた。
「当たり前だよッ!! いったい何があったの!? 変な人に声を掛けられたりしたのッ!?」
彼女に詰め寄るように、捲くし立てるように質問をするワタシ。すると彼女は。
まるで何でもないことを言うように、涼しい顔でこう答えた。
「あぁ、あんなの――軽い冗談デスよ」
ああしたら、響さんがすぐに来てくれるんじゃないかと思ってデスねッ!
にっこりと、嬉しそうな笑顔の切歌ちゃん。
「じょ――冗談……?」
「そしたら響さんはビックリの早業で、アタシのもとに駆けつけてきてくれたデスよっ! いや~アタシってば、愛されていますデスな~!」
満足げに頷きながら、照れたように言う彼女。
そんな切歌ちゃんに、ワタシは――
「ふっ――ふざけないでッ!!」
頭がカッと熱くなったのが、嫌でもわかってしまった。
「いくらなんでも、言っていい冗談と悪い冗談があるよッ!? さっきまでワタシが、一体どれだけ切歌ちゃんのことを心配していたかわかるッ!? もし切歌ちゃんになにかあったらと思って、急いで走って来たのにッ!! それが冗談だったなんてッ!!」
突然、怒鳴り声を上げて怒ったワタシがよほど目立ったのか、周りを歩いていた通行人たちから一斉に、視線を向けられてしまった。しかし、そんなことに構っていられるような余裕は、煮え立った今のワタシの頭には残っていなかった。
「クリスちゃんのことも凄く心配だったのに、それを放ってまでこっちに来たのにッ!!」
「わぉ!? ってことは、クリス先輩よりアタシを選んでくれたってことデスかッ!? さすが優しい響さんデスッ! アタシ惚れ直しちゃったデスよぉ~ッ!」
しかし、そんなワタシの怒鳴り声にも――切歌ちゃんはまるで、子供がはしゃいでいるような調子で、陽気に笑っているのだった。
「――ッ!! もういいよッ!! 切歌ちゃんなんて知らないからッ!」
目の前が真っ赤になるような錯覚を感じるくらいの激しい怒りを覚えて、ワタシはその場で踵を返して、もと来た道を戻ろうとする。
すると、後ろから切歌ちゃんに手を引っ張られた。
「……あれ? どこ行っちゃうデスか? 映画館はこっちのほうデスよ響さん?」
不思議そうな顔をする、切歌ちゃん。
「離してッ! 映画なんて行かないよッ!」
掴まれた手をバッと振り払おうとして――それが異常な握力で掴まれていることに、ワタシは気が付いた。
ぎりぎりと。掴まれているワタシの手が鈍い痛みを放つほど、切歌ちゃんの手が強くワタシの手を掴んでいる。
「っ!? き、切歌ちゃ――」
「おかしいデス。おかしいデスよ響さん。だって響さんはこれから――アタシと一緒に、映画を観に行ってくれるんデスよね?」
いつの間にか切歌ちゃんの両目が、ワタシの顔のすぐ近くにまで近付いてきていた。いつの間に距離を詰められたのだろうか。
「ひッ……」
どろりと、いつもの切歌ちゃんらしくない――濁ったような目。じっとりとした嫌な湿り気を含んだような視線。それはまるで――
(えっ、この眼――さっきのクリスちゃんと同じ……っ?)
「さぁ、早くデートに行きましょう響さんっ。早く行かないと、大人気の映画デスから、並びの席が取れなくなっちゃうかもしれないデス!」
「痛いッ! や、やめてよ切歌ちゃん離して! ワタシ、デートなんて行かないよッ! なんでこんなことするのッ!?」
みしみしと。握られていたワタシの手首の骨が、嫌な音を立てた。
「……? 不思議なことを言うんデスね、響さんは」
切歌ちゃんは、ワタシの目を覗き込みながら、そして言った。
「――付き合っている二人が休みの日にデートに出掛けるのは、当然のことなんデスよ?」
ゾワリと。皮膚が逆立つような悪寒が、ワタシの身体を撫でていく。
「……つっ、付き、合ってるって」
いったい、切歌ちゃんは何を言っているんだろう? 激しい混乱と疑問符が、ワタシの頭の中を埋め尽くしていく。
冷たい汗が、自分の身体を徐々に伝い始めた。
「や、やめて……ッ! この手を、離してよ……ッ! 切歌ちゃ――」
「あぁー、もう……うっさいデスなぁ」
切歌ちゃんが、ようやくワタシの手を離してくれた。ジクジクと鈍い痛みの残った手を、ワタシはもう一方の手で押さえて、その痛みに思わず表情を歪ませる。
「なんで響さんが嫌がったりするんデスか? 響さんはアタシのこと、大好きなんデスよね? 愛してくれているんデスよね? 今日の映画だって、ずっと前から二人で楽しみにしてたじゃないデスかぁ」
知らない――切歌ちゃんが一体なんの話をしているのか、ワタシには全然わからない。
怒りで沸騰していたハズのワタシの頭が、徐々に別の感情に――恐怖によって、塗り替えられていくのがわかった。
切歌ちゃんは急に、まるでワタシを叱責するような厳しい口調になったかと思うと、そのままの勢いでワタシに詰め寄ってくる。
「今日だって――今日だってッ! 朝起きたときにアタシに『大好き』って電話してきてくれたくせにッ! 映画楽しみだねってそう言ってたくせにッ! 会うのが待ちきれないって、そう言ってたくせにぃッ!!」
ぶちぶちと、なにかが無理やり引き千切れるような、変な音がした。
「……ひッ!?」
見ればそれは、切歌ちゃんが自分の髪の毛を、乱暴に手で引き千切っている音だった。
ざわざわと。その光景を目の当たりにした周囲の人間から、どよめきのような声が広がっていくのを、ワタシは肌で感じ取っていた。
まるでそんなこと少しも気にしないという風に、一心不乱に異常な行動に走り続けている、目の前の切歌ちゃん。しかし、恐怖で身が竦んでしまったワタシには、それを止めることは出来なかった。
「嘘吐きうそ吐き嘘つきうそつき嘘つきウソ吐きィ――ッ!!」
「……ぅあ、ぅぁあああッッ!!」
気が付いたときには。
恐怖の限界を迎えたワタシは、思わずその場から逃げ出すようにして、情けなく駆け出してしまっていたのだった。
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次話は明日の午前零時に投稿予定です。