やはり岸波白野の青春ラブコメは王道か?   作:魔物Z

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今回は前回の続きです。

面白くできていればいいのですが…。



岸波白野と周りの女性たち。 その2

 

 

 

 

 

バイトが始まり一時間。

 

そろそろ夕食の時間も近づいて客足が増える時間だ。

 

「あれ?店長」

 

「なにかね少年?」

 

「少し材料足りないと思うんですけど?」

 

「そういえばそうだったな。今日の発注する量を間違えたのか、数が少なかったことを忘れていた」

 

「なんでそういう大事なことを忘れているんですか…。もうじきお客さんの数も増える時間なのに」

 

「そのときが来たらどうにかすればいいさ」

 

どれだけ楽観的なんだ…。

 

「それでは今から君が買いに行けばいい」

 

「別に構いませんが、なんか嫌な予感がします」

 

「大丈夫だ。君のいない時間の分のバイト料を減らすだけさ」

 

「それひどくないですか?そちらのミスですよね?」

 

「小さいことを気にしていると友人がいなくなるぞ」

 

その友人が一人もいないんだよ。

 

それと嫌な予感はそれとは別な感じなんだよなぁ…。

 

「わかりました。材料は今の在庫量を自分の見た感じで少ない物だけ買いに行きますね」

 

「ああ、任せたよ」

 

俺は冷蔵庫の中を確かめて買う物のメモを取って厨房を出る。

 

厨房を出たあとすぐにカレンと目が合った。

 

「あら白野先輩。サボリですか?」

 

「俺はそこまで落ちぶれてはいないよ」

 

そこまで俺は信用がないか…。

 

「少し材料が足りないみたいだから買い出しに行って来るだけだよ」

 

「なるほど。そういう口実を使ってサボるわけですね」

 

「なんで俺がサボる前提なの!?」

 

「仕方がありません。白野先輩がサボらない様に私が見張り役としてついて行ってあげましょう」

 

「それこそサボリの口実に使ってない?」

 

「そんなわけないじゃないですか。私はただ白野先輩と一緒に居たいだけですよ」

 

う、ウソくさい…。

 

普通に言われたら嬉しい言葉なのに、この子が言うとウソに聞こえるよ。

 

それにかなり演技っぽかったし…。

 

「いや、俺は自転車で行こうかと思ってるんだけど…」

 

「それでは歩いて行きましょう」

 

「ねぇ、話し聞いてた!?」

 

「白野先輩。喋っている時間があるのなら早く行きましょう」

 

君のせいでしょうが…

 

カレンは俺の腕を引っ張って裏口から外へ出る。

 

仕方がなくカレンと歩いてスーパーに行くことにした。

 

カレンはなぜか一緒に歩くときは手を繋いだり、腕を組んできたりする。

 

それで他の男性からの負のオーラや鋭い視線で嫌な汗を掻いている俺を見て悦んでいる。

 

歩いて十分、よく桜と買い物に来るスーパー。

 

移動中でも辛いのに、こういう人の多いところで腕を組まれるとさらに辛い。

 

スーパーにいる奥様方が、『若いっていいわねぇ』とか『可愛らしい新婚さんですこと』みたいなことを言うし…

 

それとスーパーに入ってから男性とは違う、鋭い視線を背後から二つ感じる。

 

後ろを振り向きたくはないが、正体も気になるので振り向くと誰もいない。

 

「あれ?おかしいな…」

 

「白野先輩。どうかしましたか?」

 

「いや、いつも以上に怖い視線を背後から感じてるんだけど誰もいないんだよな」

 

『顔のない王』とか『圏境』の使い手か?

 

「…そういうことですか。フフフ」

 

なぜここで愉悦笑い?

 

「白野先輩」

 

「ん?なに、っ!」

 

いきなりカレンが抱きついて来た。

 

その瞬間、背後の鋭い視線が殺気に変わった。

 

ヤバい!この感覚ムーンセルで何度も味わったアレだ!

 

『逃げなければ殺される』と俺の第六感がそう叫ぶ。

 

カレンが抱きついていて走れないから仕方がない。

 

「すまないカレン」

 

「キャッ!は、白野先輩!?」

 

俺は買い物カゴをその場に置いて、カレンを抱えて(お姫様抱っこ)外へと逃げる。

 

スーパーと他の建物の間の通路の奥に行き、物影にカレンを抱いて隠れる。

 

『――さんを見失―――した…』

 

『――野、許さ――い…』

 

聞いた覚えがある感じ声だったが今はそれどころではない。

 

数分が経ち、殺気がスーパーとは違う方向に消えて行くのを感じ気が緩む。

 

「ふぅ。一時はどうなるかと思った…。カレンは大丈夫?」

 

「……」

 

俺の腕の中で大人しくなっていたカレンに問うが反応がない。

 

カレンの顔を覗いてみると、頬を赤らめて惚けた感じの表情をしている。

 

「か、カレン!?大丈夫か!?」

 

カレンの顔の前に手を振るって訊く。

 

「ひゃい。らいじょううれしゅ…(はい。大丈夫です)」

 

ダメだ。大丈夫じゃねぇ。殺気に当てられたせいか滑舌も悪くなっている。

 

でもいつもとのギャップか、すごく可愛いな…。

 

まぁカレンも、雪ノ下さんや留美ちゃんと同じで桜と同じくらい大事な妹みたいな感じだから、当たり前か。

 

「立てる?」

 

「……」

 

無理そうだな…。

 

それで俺はカレンの手を取り引っ張り上げる。

 

立たせたはいいけれどふらふらとしていて危なそうなので肩に手を回して支えてあげたら、顔を真っ赤にして殴ってきた。

 

カレンはあまり力がないから痛くはなかったが、怒らせてしまったかな?

 

このあと話しかけても無視したり、顔を背けたりで嫌われてしまったみたいだ。

 

どうしたものか…。

 

買い物を済ませて店に帰るまでカレンはずっとこんな感じだった。

 

帰って来た俺たちを見て奥さんは微笑んで、店長はニヤリっと愉悦笑みを浮かべた。

 

この家族の笑いのツボがわからない。

 

 

 

 

 

バイトも終わり家に帰ろうとしたのだが

 

「白野先輩」

 

やっとカレンが話してくれた。

 

こういうのは嬉しいな。

 

「なにかな?カレン」

 

「白野先輩は明日は暇ですか?」

 

明日は留美ちゃん達との約束があるから暇ではないな。

 

「ごめん。明日は用事があるんだよ」

 

「そうですか。友達のいない白野先輩が休日に用事とは驚きました」

 

「それひどくない…」

 

話せるのは嬉しいけど、俺をバカにするところは嬉しくないなぁ…。

 

「それじゃあ、また月曜日学校でね」

 

「はい。それではまた」

 

俺は自転車に乗り店を後にした。

 

 

 

 

 

家に着いて自転車を倉にしまって玄関にむかう。

 

「……」

 

なぜだろ…。この戸を開けてはいけない気がする…。

 

だけど入らないといけないのはわかっている。

 

「…よし」

 

そっと玄関の戸に手をかけてから、覚悟を決めて戸を開く。

 

「た、ただいまぁ…」

 

……………。

 

返事はない。もう二人とも寝たのかな?でも電気はついてるし、聞こえなかったのだろう。

 

戸を閉じ鍵を掛ける。

 

靴を脱いで居間にむかうと

 

「兄さん帰って来たんですか…」

 

「お帰り白野…」

 

いつもと変わらない表情で迎えてくれるのはいい…だけどなぜか怖い。

 

何と言えばいいのだろうか、シンジタンクからエリザベートを守った後のセイバーやキャスター、生徒会メンバーの女子から感じた寒気というか悪寒というか…

 

「ごめん聞こえなかったかな?ただいま」

 

笑顔で言ってみるが何も答えてくれない。

 

「俺がいない間に何かありましたか?お二人さん?」

 

桜は物静かな声で、

 

「何かですか…。そうですね。夫の浮気現場を見たって感じでしょうか…」

 

「あの…桜さん何を言っているのかわからないんですが…、まずは包丁を置きましょうか」

 

「ああ、すみません…。果物ナイフほうがよかったですか…?」

 

怖っ!どうした桜!俺の可愛い桜に戻ってくれ!

 

留美ちゃんのほうを見ると、

 

「白野…。許さない…」

 

何を許さないのか知らないけど、すごく怖い。

 

そのあと『たわしコロッケ』なるモノが出てきたり、台所で空の鍋を混ぜている桜がいた。

 

マカナイがあってよかった。

 

って!なにがあったんだよ!俺がバイトに行っている間に!!

 

 

 

 

 

「今日はいつも以上に疲れた…」

 

俺は布団の中に入り今日あったことを思い返す。

 

雪ノ下さんの勘違いに、留美ちゃんのお迎え、バイトでのカレンとのこと、スーパーでの殺気、最後に桜と留美ちゃんの変化、体力と精神が共に減っていった一日だ。

 

今夜はしっかり寝よ。ムーンセルでは何をしようかな…ん?この気配は留美ちゃんかな?

 

俺の部屋の前に人の気配を感じる。桜とは違うから留美ちゃんだろう。

 

布団から出て、自分の部屋の戸を開く。

 

「っ!」

 

俺が出てきて留美ちゃんは驚いたようだ。

 

「どうしたの留美ちゃん?」

 

「なんで私がいるってわかったの?」

 

どうしてかって言われても困る。

 

「カンかな?」

 

「?…ねぇ、白野。白野の部屋に入っていい?」

 

うっ!年下の女の子がパジャマ姿での上目使いはかなりヤバいな。

 

「べ、別にいいけど、どうかしたの?」

 

留美ちゃんは何も言わずに部屋に入って、俺の布団へ潜っていった。

 

「……」

 

どういうことだ?

 

ああ、あれか。人の家に泊まったはいいけど、一人で一つの部屋を使って寝るのが怖かったみたいなヤツかな?

 

確かにこの家の部屋数は多いからなぁ、留美ちゃんを一人にしてしまったから少し怖かったのだろう。うん。そうに違いない。

 

でもその場合、普通は桜のところに行くよな。

 

「……」

 

考えれば考えるほど謎だな。

 

「白野。寝ないの?」

 

「いや、留美ちゃんが俺の布団に潜ってるから、どうしたものかと悩んでた」

 

「白野がいけないんだよ。白野が…」

 

ヤバい、留美ちゃんからよくわからない黒いモノを感じる。

 

「え、えーっと…それでは俺はどうすればよいのでしょうか…?」

 

「一緒に寝て」

 

「……」

 

「早く」

 

「わ、わかった。今から布団を持って来るから」

 

「なにを言ってるの?同じ布団に決まってるでしょ」

 

なんだろうな…。バイトから帰ってから桜と留美ちゃんがすごく怖い

 

「…わかりました」

 

こうして俺は留美ちゃんと寝ることになったわけだけど

 

「留美ちゃん。枕はどうするの?」

 

留美ちゃんはこの部屋に来たわいいけど枕を持ってこなかったし

 

「大丈夫。白野の腕を使うから」

 

「……えっと」

 

「何」

 

こうして俺は留美ちゃんに腕枕をして寝ることになった。

 

なんか留美ちゃん将来、雪ノ下さんみたいな感じになりそう…。

 

『あなたには拒否権はないわ』とか言いそうだな。

 

「ねぇ白野?」

 

「どうしたの?」

 

腕枕をしているせいか留美ちゃんとの距離がすごい近いな。

 

「白野は好きな人とかいるの?」

 

なんだこの修学旅行の夜みたいな会話。まぁ、こういう会話をした覚えがありませんが…。

 

「そういうのはまだわからないかな」

 

好みと言われれば桜と即答する気もするが…。いやでもなぁ、うーん…。なんかこういうの難しいよなぁ。

 

「そうなの?…それじゃあスーパーのアレなんだったんだろ…」

 

『そうなの?』は聞こえたけどその後のほうは小さな声でもごもごと言っててよく聞き取れなかった。

 

「それじゃあ、白野は女誑し?」

 

「留美ちゃん。そんな言葉どこで習ったの?」

 

誰だ小学生に女誑しなんて教えたの!?

 

「お母さんが録画してる昼ドラを一緒に見てると出て来る。それでお母さんがその人のことを白野みたいな人だって言ってた」

 

鶴見先生!何言ってるんですか!!

 

「留美ちゃん。友達が出来ないような人にはそういう人はいないんだよ」

 

「でもその昼ドラの人も女の人以外からは嫌われてて、友達がいなかった」

 

「……」

 

もしかしたら俺って女誑し?

 

いやいや、確かに周りには女性は多いけど、みんな俺のことはそういう風には思っていないから大丈夫だろ。うん。大丈夫だ。

 

「留美ちゃん?」

 

「……」

 

どうやら俺がバカみたいに悩んでいる間に留美ちゃんは寝てしまったようだ。

 

俺も寝るか。

 

トントン

 

「?桜か?開いてるよ」

 

「あの兄さん。さっき留美ちゃんの様子を見にいったんですけど、留美ちゃんが―――」

 

桜は俺の横で俺の腕枕でスヤスヤと寝息をたてている留美ちゃんを見て固まった。

 

「兄さん…」

 

「な、なんでしょうかさ、桜さん」

 

「なぜ留美ちゃんが兄さんの布団で寝ているんですか?腕枕で…」

 

こ、怖い…。

 

「あ、アレだよ。怖かったんじゃないかな、一人で寝るのが」

 

「そうですか…。わかりました」

 

ふぅ、よかった。変な勘違いがなくて。

 

「それでは私も兄さんの布団で寝ますね」

 

「え!なんで?ご、ごめんなさい。なんでもございません」

 

すごく怖いせいで少し言葉がおかしくなった。

 

桜は普段は優しいのだが、怒ると雪ノ下さんよりも怖い。

 

兄妹として長い付き合いだが未だに桜の怒りの沸点がわからないんだよなぁ。

 

桜が布団に入って来るのはいいんだが、さすがに三人で一つの布団に入るのは狭すぎる。

 

「なぁ、桜。さすがに三人は狭すぎるから布団持って来ないか?」

 

「大丈夫です。私が兄さんにピッタリくっついて寝るので。…あの女の匂いが消えるまで…」

 

最後の言葉の意味がわからない。それに、それだと俺が大丈夫ではない。さっきも言ったが俺の女性の好みは桜がかなり近い。

 

あと桜は中学生とは思えないほどに発育がよろしいため、雪ノ下さんやカレンよりも胸が大きい。

 

この夜、俺の理性と俺の中のオヤジの戦いで一睡もできずに朝のトレーニングの時間をむかえた。

 

眠っていないためムーンセルには行けなかった。

 

明日理由を聞かれても答えられない。特にセイバー、キャスター、エリザベート、それとジャンヌとアタランテ、あの二人は最近前の三人と似た感じの雰囲気を出している。

 

他のサーヴァントは絶対の笑うよな、特にギルとクーの兄貴とドレイク姐さん。

 

アーチャーとアストルフォは別だ。彼らは親身になってくれるから。

 

絶対に二人みたいな友人を作ってみせる。

 

 

 

 

 

桜がしっかりと俺に抱きついていため桜が起きるまで布団から出れなかった。

 

ありがとう。俺の理性。人間として踏み出してはいけない道を歩まずに済んだ。

 

その後、寝ている留美ちゃんを起こさないように俺の腕と枕をすり替えて、いつもよりも遅い時間にトレーニングをした。

 

トレーニングを終えて風呂場で汗を流し、私服に着替えて居間に行くと少し不機嫌な留美ちゃんと上機嫌な桜が待っていた。

 

「おはよう。留美ちゃん」

 

「白野。なんで起こしてくれなかったの?」

 

「休日だし、気持ち良さそうに寝てたからね。それに家を出る時間は十時くらいのつもりだったから」

 

それに現時刻は8:30になる前だから十分時間はあると思う。

 

「そう。でも今度は起こしてね」

 

その場合また俺の布団で寝るつもりですか?

 

どう答えるべきか…、でもまぁ大丈夫だろ。

 

「いいよ。今度から気を付けるね」

 

「うん」

 

そして三人で朝食を食べて、出掛ける準備をして、十時前になり三人で駅へとむかった。

 

 

 

 

 

今日のお出掛けの移動費、昼食代は全て俺が出すことにした。

 

この二人はセイバーと違って高額のモノを欲しがらないのが救いだよ。

 

あまりPPTとサクラメントには手を付けたくないからな。

 

『ららぽーと』に着いて行先は女性二人に任せることにした。

 

二人は案内板のパンフレットを見ながら何処を回るかなどを話している。

 

俺はそれを少し離れたところで眺めていると

 

「あれ?白野くん?」

 

はぁ…、この声はあの人だな。

 

あの人は別に嫌いではないけど、雪ノ下さんのこととかでちょっと苦手なんだよな。

 

それにあの人は俺と同じくらい、いや、それ以上の目、洞察力があるからなぁ。

 

ため息混じりに俺が後ろを振り向き「久しぶりですね。陽乃さん」と挨拶をする。

 

「やっぱり白野くんだ!久しぶり!」

 

そんなこと言いながら俺に抱きついて来た。

 

「会うなり抱きつくのは止めてくれませんか。陽乃さん」

 

初めて陽乃さんに会ったのは俺が雪ノ下さんとの勝負が始まって一年、俺が五年生のとき。

 

雪ノ下さんを迎えに来た車に陽乃さんが乗っていて、そのとき陽乃さんが俺に興味を持って話しかけてきたのが出会い。

 

今でも思うが俺はバカだったと思う。

 

小さな頃から俺の観察眼は十分に優れていたため、陽乃さんの地雷をいきなり踏み抜いてしまった。

 

『雪ノ下さんのお姉さんですか?なんでウソで作ったような笑顔で話すんですか?』

 

それで俺は自分が言ったことで雪ノ下さんと陽乃さんが驚いた顔をしたことに気付いてから、

 

『すみません。そういうことは失礼でしたね。家庭の事情のようなモノ、周りの人間に良い印象を持たせるためにそうなってしまったんですよね』

 

さらに二人は驚いてしまった。

 

本当に我ながらバカだったよ…。

 

それから俺に興味を持ち始めて、中学になって雪ノ下さんと再会して以降、陽乃さんが俺に会うたびになぜか抱きついてくる。

 

アレだよな、雪ノ下さんへに悪戯みたいなものだよな…。

 

そうだとしたら今は必要なくない?癖みたいなものか?

 

「いいじゃん。白野くんは私のお気に入りだから」

 

たまにはやり返してみるか。

 

「そうですか。俺も別に陽乃さんのことは嫌いではありませんよ。妹に優しいお姉さんって感じで共感が持てます」

 

俺は陽乃さんの心の中にあるであろうことを言ってみた。

 

「…君って本当に私と同じって感じだよね」

 

さっきみたいにふざけた感じではない真面目な声で陽乃さんは答える。

 

「俺はあなたみたいに仮面は着けてませんよ」

 

「君の場合は仮面というよりも、壁かな?心の壁。他人、自分ですら通さない壁。だから君はいつも私の仮面のような人間でいられる。それもほとんどの人、あの雪乃ちゃんですらわからないほどの…」

 

本当にこの人は俺よりも良い目を持ってるよな…。

 

もしかしたらこの人は俺の過去、この世界で俺が父さん(トワイス)に出会う前の五年半のことを調べているかもな…。

 

桜も知らない、俺と父さんしか知らないことを…。

 

「それに私たちはお互い人の考えや心を読むのが得意だしね」

 

「そうでもありませんよ。俺はあなたと違って、人を操るのが不得意ですから…」

 

本当に俺もこの人と自分が似ていると思うよ…。

 

「前も言いましたけど、俺の前では仮面を外してもいいですよ。あなたの本当がどうであれ、俺はあなたを嫌いにはなりませんから」

 

「そっか…。やっぱり雪乃ちゃんには勿体ないな」

 

急に最初の明るいふざけた感じの声に戻る。

 

「そういえば白野くん」

 

「なんですか?」

 

「白野くんの後ろの二人がすごく怖いけど、どうしてかな?」

 

さっきから気付いていますよ。

 

「まぁ、わかって言ってるのは知ってますけど、陽乃さん。あなたが抱きついてるからでしょ」

 

「兄さん…その人は誰ですか…」

 

「白野。その女は誰」

 

怖っ!

 

「ふむふむ、なるほど」

 

今この人ニヤリと笑ったよ!この感じ昨日のカレンと同じ感じだよ!

 

そして陽乃さんは俺から離れて

 

「私は白野くんのかの―――」

 

「この人は雪ノ下陽乃さん。雪ノ下さんのお姉さんだよ」

 

「チッ。よろしくね…えっと…白野くんこの子たちはどちらさん?」

 

「なんで舌打ちするんですか!?」

 

「それは白野くんが私の告白の邪魔をしたからだよ。乙女心をなんだと思っているのかなぁ」

 

「俺にはその告白だかの前の顔が、悪巧みをしている悪魔の笑みに見えましたよ!」

 

この人もカレンと同じで俺をからかって喜ぶタイプだな。

 

少し違うか陽乃さんは喜んで楽しむ、カレンは悦んで愉しむだな。

 

「はぁ、えっと妹の桜と鶴見留美ちゃんです」

 

「よろしくね。桜ちゃんと留美ちゃん。鶴見ってことは鶴見先生の娘さん?」

 

「そうですよ。俺が鶴見先生と仲がいいので、留美ちゃんとよく会うようになったんですよ」

 

俺と陽乃さんが話していると、

 

「はじめまして、岸波桜です。雪ノ下さんにお姉さんがいたなんて初めて知りました」

 

桜は礼儀正しくお辞儀をして挨拶をする。

 

「……」

 

留美ちゃんは何も言わずに頭を下げて俺の後ろに隠れる。

 

「あれあれ?嫌われちゃったかな?」

 

「どうでしょうか?でもまぁ、誰だって初めての会う人にはこんな感じだと思いますよ」

 

「白野。早く行こ」

 

「そうですね。兄さん時間も勿体ないので早く行きましょうか」

 

なぜか二人が急かしてきたから仕方がないか。

 

「陽乃さん。二人が早く行きたいようなので、俺たちはこれで失礼しますね」

 

「これは完全に嫌われちゃったね。まぁいいか私の狙いはあくまで白野くんだしね。またね白野くん。チュ(投げキッス)」

 

陽乃さんは去っていった。

 

いまどき投げキッスって…。

 

「あの人は本当に変わらないなぁ。それじゃあ二人ともぉ…」

 

振り返って二人を見たら、なぜか昨日の夜と同じ感じがするなぁ。

 

「えーっと、どうなされましたか?」

 

「私はそろそろ兄さんの女性関係について、しっかり話し合おうと思います」

 

「白野。女の人と遊びすぎ、ハーレムでも作るの?」

 

「意味がわからないよ!どうしたらそうなるのさ!」

 

俺はセイバーじゃないぞ!それにハーレムってどう作るんだよ!俺に好意を持ってる女性がいないし。ムーンセルには五人ほどいるか…。

 

「あら白野先輩ではないですか」

 

このタイミングでカレン……

 

もぉ、ヤダ!

 

 

 

 

 

その後カレンがなぜか合流。

 

用事があるとは言ったけど、何処で、誰と、何をするとは言っていないのになぜわかった。

 

それからの時間が本当に苦痛だった。

 

美人を二人、美少女を一人を連れて買い物。周りの人間からの視線、三人からの恐怖を感じながら時間は過ぎていった。

 

胃がすごく痛い…。

 

買い物は、留美ちゃんには雪ノ下さんが好きな『パンダのパンさん』のぬいぐるみを買って、

他の二人は何故か指輪を欲しがってきたけれど、財布の中の都合上、指輪二つは無理なので千円代のネックレス、桜には桜の花、カレンには十字架のネックレスを買ってあげた。

 

あとは計画通りに進み、帰りにマフィンの材料を買って家で留美ちゃんに作り方を教えながら一緒にマフィンを作った。

 

夕食を食べ終え、今は留美ちゃんを家まで送った帰り道。

 

「昨日から一睡もしないで、よくここまでできたなぁ」

 

でも、すごく充実した休みでもあったな。

 

携帯の着信音が流れた。

 

「ん?この音は雪ノ下さんからのメールかな?」

 

なになに…

 

『岸波くん。さっき姉さんからメールがきたのだけど、今日、複数の女性と出掛けたようね。明日詳しく聞かせてもらうから。覚えておきなさい』

 

「……」

 

ムーンセルでも思ったけど…女の子って怖い。

 

 

 

 

 

この夜、俺がアーチャーのところを訪れて女の子との良好な過ごし方を聞いてみたのだが、『マスター。それは私にもわからないよ…』だそうだ。

 

 

 

 

 




今回は陽乃さんの登場。

俺ガイルの世界なので、白野くんにも触れられたくない過去的なものを考えてみました。
真相はいかに…。

次回は比企谷の嫁、戸塚回です。

誤字などがあったらよろしくお願いします。

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