やはり岸波白野の青春ラブコメは王道か?   作:魔物Z

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今回は戸塚くんの登場!
と白野くんのことを少々。

誤字などがありましたらすみません。大目に見て下さい。


岸波白野の噂。

 

 

 

 

 

「それで岸波くん、言い残したことはあるかしら?」

 

「いいえ、ありません」

 

「ゆきのん、もうこれでいいんじゃない?キッシー謝ってるみたいだし。理由はわからないけど」

 

そう俺は今、部室でお昼を食べている雪ノ下さんに土下座をして謝っている。

 

由比ヶ浜さんの前で…。

 

彼女が怒っている理由は昨日俺が複数の女性、桜、留美ちゃん、カレンと出掛けたことのようだが、別にそれで怒っているわけではない。

 

というよりどう考えても、雪ノ下さんが怒っているのは陽乃さんのこととみて間違いはないなだろう。

 

あの人のことだから、あることないこと言って雪ノ下さんを激怒させたにちがいない。

 

それで陽乃さんのことを怒りたくても由比ヶ浜さんいるから切り出せず、あまり関係ないことで怒っているようだ。絶対にそうだ。

 

「そ、ならこれで終わりにしてあげるわ。それと他にまだ聞きたいことがあるから部活が終わったら少し残るように」

 

絶対に陽乃さんのことだよな…。

 

今の説教タイムは意味なかったようなぁ。

 

「なにかしらその反抗的な目は」

 

「そんな目をした覚えがないのですが…、あ、そうだ。雪ノ下さん」

 

俺は土下座の態勢を止めて立ち上がる。

 

「なにかしら」

 

「この前の言ってた罰だけど、俺は何を買いに行けばいいの?」

 

「罰?」

 

由比ヶ浜さん意味がわからなそうなに頭を傾げる。

 

「それはあとでいいわ。それより岸波くんは今日は何処でお昼を食べるのかしら?」

 

「罰を終えたら、その辺を歩いて静かな場所を見つけて食べようと思ってるけど」

 

「それなら、今日はここで食べるといいわ。」

 

「それだと迷惑でしょ。雪ノ下さんと由比ヶ浜さんに」

 

「私は別に構わないわ。…むしろ傍にいてくれたほうが…」

 

途中で声が小さくなって聞き取れなかったけど、雪ノ下さんはここで食べることは構わないようだな。

 

「由比ヶ浜さんは?」

 

「あたしも別にいいよ。というかキッシーのお弁当が気になる。ゆきのんのお弁当さ、すごいんだよ。自分で作ってるらしいんだけど、キッシーのもどんな感じかなぁって」

 

「俺も自分で作ってるよ」

 

家では毎朝俺が弁当を作る。というより桜は中学生だから弁当はいらないからな。

 

去年までは父さんの分も作っていた。それで弁当は俺、朝食は桜が担当。

 

「ホント!どんなのか見せて」

 

由比ヶ浜さんがすごい期待している目で見てくるぞ…。やばいな、緊張してきた。

 

俺は自分の鞄から弁当箱を取り出して中身を見せる。

 

「期待に答えられればいいんだけど…、どうかな?」

 

「す、すごい…なにこの料理本の見本みたいなやつ」

 

「岸波くんのお弁当は、彩りも栄養もバランスがしっかり取れるように考えてあって、いいお嫁さんになりそうね」

 

「俺は男だけどね…」

 

前々から『お弁当はしっかりバランスを良く』とオカンからならったからなぁ。

 

「まぁ俺の弁当のことはいいとして、罰のことだけど」

 

「ねぇ、キッシー?」

 

「ん?なにかな」

 

「罰ってなに?」

 

由比ヶ浜さんは知らないから当然気にはなるよな。

 

「罰ってのはね、この前俺が雪ノ下さんを待たせちゃったことがあって、それで雪ノ下さんが怒ったことがあったんだよ」

 

「それで?」

 

「それでその罪滅ぼしみたいな感じで罰を受けることにしたんだよ。その罰の内容が一昨日の土曜日に決まってね、その内容が昼休みのときに飲み物買いに行くってことだったんだよ」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

「もしよかった由比ヶ浜さんの分も買いに行こうか?」

 

「え、い、いいよ。あたしのことは気にしなくて、迷惑でしょ」

 

「別にそんなことはないよ。どうせ買いには行くんだし」

 

「で、でも…、あ、そうだ!」

 

何かいい考えを見つけたのかな?

 

「ゲーム!ジャンケンで負けた方が罰ゲームで買いに行くヤツで決めよ!」

 

「由比ヶ浜さん。それは止めた方がいいわ」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんを止める。

 

「え、どうして?」

 

「岸波くんはジャンケンが異常に強いのよ」

 

そう。俺はジャンケンが強い。

 

運がいいわけではない。初詣でおみくじを引いても『大吉』が出た覚えがない。

 

一番良くても『吉』。引いた内容に絶対に『女難の相』があった。

 

だけどジャンケン強い。運は悪いが、目が良いからだ。

 

これは観察眼や洞察力ではなく、動体視力のほう。

 

サーヴァントやエネミーとの戦いで鍛えられたせいか、本気を出せば人の動きぐらいならスローモーションで見えるくらいだ。

 

さらに目に魔力を集中させるともっとよく見える。

 

俺は魔力を使うことは礼装のコードキャストを使う以外はできないようで、身体のどこか一点に集めるみたいなことはできなかった。

 

だが目だけは別だった。目だけには魔力を集めてその力を底上げすることができた。

 

これは俺が知らないうちにムーンセルでの戦いで会得したスキルに近いかもな。

 

だから俺がジャンケンに強い理由は、相手の手の動きを見てから出す。

 

いわば『高速あとだし』だ。

 

雪ノ下さんはそれを知らないからなぁ。知ったら絶対に怒られるよなぁ。

 

それでも俺は一度だけジャンケンに負けたことがある。

 

相手はあの人、陽乃さんだ。

 

あの人は俺の目の動きでなにをしているのかを理解して、その対抗策を見つけ出したわけだ。

 

対抗策は一度だけしか使えないため、あれ以降は陽乃さんとジャンケンはしていない。

 

勝ち逃げをされているわけだ。

 

「ゆきのん。ジャンケンが強いって、ジャンケンって運でしょ」

 

「そうなのよ。彼は運はないはずなのになぜかジャンケンだけは強いのよ」

 

俺って雪ノ下さんからジャンケンだけが強いって思われているのかぁ。

 

もっと努力しないとな。

 

「ホントかなぁ。それじゃあ試しにキッシー、ジャンケンしよ」

 

「別にいいけど、今回は罰ゲームはなしでやろう」

 

そのほうがいいだろ。もし罰ゲームがあるなら俺は負けを選ぶし。

 

「わかった。よーしやるぞー」

 

由比ヶ浜さんはあのジャンケン前にやる怪しい行動をする。

 

あの両手を捻ってその隙間から何かを見るヤツね。

 

「見えた。ジャンケン・ポイ」

 

確かに見えた由比ヶ浜さんが腕を振っている間に、中指と人差し指が動くのが。

 

俺が出したのはグー、由比ヶ浜さんはチョキ。

 

「言ったでしょ。彼、ジャンケン強いのよ。」

 

「…。で、でも一回だけだし、もう一回。ジャンケン・ポイ」

 

俺はパー、由比ヶ浜さんはグー。

 

「……。もう一回。ジャンケン・ポイ」

 

また俺はパー、由比ヶ浜さんはグー。

 

そのあとも、何度もやったが俺が全勝した。

 

「ど、どうして…」

 

「え、えっと俺そろそろお弁当を食べたいから早く飲み物を買いに行ってくるよ。雪ノ下さんはいつもの、『野菜生活100いちごヨーグルトミックス』でいいかな?」

 

「ええ、よくわかったわね」

 

「一緒に食べてたときに、毎日飲んでたからね。由比ヶ浜さんは?」

 

「うーん。ジャンケンで強いとかあるんだなぁ…。え、ごめんキッシー、何か言ってた?」

 

「由比ヶ浜さんは欲しい飲み物あるかな?って」

 

「大丈夫。ていうかあたしが買いに行く」

 

「いや、罰ゲームはなしって言ったから」

 

「でもすごいモノを見せてもらったし」

 

まぁあれだけ勝てるのはすごいな。

 

「でもこれ俺の罰だから、由比ヶ浜さんにやってもらうのは…」

 

「それなら、あたしがゆきのんとジャンケンして負けたら買いに行く」

 

「なぜここで私が入ってくるのかしら?由比ヶ浜さん」

 

「だってキッシーがジャンケン強いから?」

 

理由関係ねぇ。しかも疑問形。もしかして気付いた?

 

「それにゆきのんとこういうことやってみたかったし」

 

「だとしてもやらないわ。自分の糧くらい自分で手に入れるわ。そんな行為でささやかな征服欲を満たして何が嬉しいの?」

 

ならなぜ俺をパシらせようとしているのかな?雪ノ下さん。

 

「ゆきのん、自信ないんだ」

 

由比ヶ浜さん。雪ノ下さんの挑発のやりかたわかってるな。

 

「いいわ。その安い挑発に乗ってあげる」

 

結果は由比ヶ浜さんがジャンケンに負けて由比ヶ浜さんが買いに行くことになった。

 

雪ノ下さんは勝った瞬間、無言で小さくガッツポーズをしていた。

 

本当にこの子はたまに可愛らしい行動するよな。

 

「キッシーは何が欲しいの?」

 

「俺のはいいよ。俺、お昼は水筒にお味噌汁入れてきてるし」

 

「キッシー、できるOLみたいだね!」

 

「俺は男だけどね…」

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

結局、由比ヶ浜さんはチャイムが鳴り終わるまで帰って来なかった。

 

予想は知り合い、比企谷あたりと出会ってしまい話しこんでしまった感じだろうな。

 

部室を出たとき息を上げて来た由比ヶ浜さんと鉢合わせて、雪ノ下さんが理由を問い詰めたら俺の予想通りだった。

 

 

 

 

 

放課後、部活で比企谷が面白いことを相談してきた。

 

「無理ね」

 

「いや無理って。お前さー」

 

「無理なものは無理よ」

 

比企谷はどうも今日の選択の体育の時間に戸塚彩加という男子生徒にテニス部に入部しないかと誘われたことを雪ノ下さんと俺に相談してきた。

 

体育の選択科目はテニスとサッカーで比企谷はテニスを選んだようだ。

 

で、そのテニス部に所属している戸塚くんに勧誘されたようだ。

 

一応俺も選択はテニス。

 

人気だったがジャンケンで決めたので当たり前に勝ち残った。

 

でもボッチの俺には相手がいないので体育教師でテニス部顧問の厚木先生と打ち合っている。

 

前、何故かムーンセルでみんなでテニスをしたことがあったから普通以上にできた。

 

というか英雄に勝てるわけないじゃん…。

 

この前の授業で基礎が終わって試合が始まったのだが、俺は多くの生徒に完勝しすぎて誰も相手をしてくれなくなった。

 

それで厚木先生からテニス部の勧誘されたが止めておいた。

 

さすがに部活の架け持ちできるほどの時間がないからな。

 

「岸波はどう思う?」

 

「うん。今の比企谷ならまだ無理じゃないか。理由は雪ノ下さんと同じだし、比企谷の悪巧みもわかっているからね」

 

「え、えーとなんのことでしょうか?」

 

比企谷は引きつった顔をした。

 

「岸波くん。その悪巧みってなにかしら?」

 

「比企谷はしらを切ってるみたいだから言ってもいいよな?」

 

「ちょっ、まっ―――」

 

「ええ、いいわよ。」

 

「俺の予想では、この話の流れをうまく利用し円満に奉仕部を退部して、テニス部に入部するようにみせかけてテニス部も少しずつ休んでいって、やらなくなるみたいな感じかな?」

 

「……」

 

「比企谷くん。言いたいことはあるかしら?」

 

「……。戸塚のためにもなんとかテニス部強くならんもんかね」

 

「あ、逃げた」

 

「図星だったようね。でも珍しいわね。誰かの心配をするような人だったかしら?」

 

「やーほら。誰かに相談されたのって初めてだったんでついなー」

 

それだけじゃないだろ。口元が緩んでるし。

 

「私はよく恋愛相談とかされたけどね」

 

雪ノ下さんが比企谷に対抗して自慢げに言ったが、次第に表情が暗くなる。

 

「…っていっても、女子の恋愛相談って基本的には牽制のために行われるのよね」

 

「へぇ、そうなんだ」と俺。

 

「は?どういうこと?」と比企谷。

 

「自分の好きな人を言えば、周囲が気を使うでしょ?領有権を主張するようなものよ。聞いた上で手を出せば泥棒猫扱いで女子の輪から外されるし、なんなら向こうから告白してきても外されるのよ?なんであそこまで言われなきゃいけないのかしら……(あと、恋愛相談者の六割が岸波くんの名前を上げてきたのよね…。それどころか今のクラスの女子のほとんどが岸波くんのことを意識しているし、彼は誰にでも優しくしすぎなのよ。少し腹が立ってきたわ)」

 

雪ノ下さんはいろいろと頑張ってたんだなぁ。

 

あれ?なぜか雪ノ下さんが睨んできたぞ。

 

「それでお前たちならどうする?テニス部を強くする方法」

 

「そうね…。全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」

 

笑顔が怖いな。

 

「ははは、雪ノ下さんらしいな…。まぁ俺の場合は人それぞれに合った練習メニューを考えてから、それをやってもらうかな」

 

「どうしてそうなるの?」

 

「簡単だよ。比企谷や雪ノ下さんが由比ヶ浜さんと同じ方法で友達を作れるかい?」

 

「難しいわね」

 

「いや、無理だろ」

 

「だからその人の長所や短所を見つけてそれに合った方法でやるんだよ。まぁ時間は掛かるけどね」

 

それともう一つ、これはムーンセルでわかったこと。

 

「または、自分よ―――」

 

ガラッと部室の戸が開いた。

 

「やっはろー!」

 

由比ヶ浜さんが現れた。

 

ボケはさて置き、由比ヶ浜さんの後ろにジャージ姿の女子生…いや男子生徒だな。

 

「あ…比企谷くんっ!」

 

「戸塚か…」

 

ああ、この生徒が戸塚彩加くんか。これで比企谷の反応も理解できるわ。

 

でも、アストルフォ以外にもいるんだな。男の娘。

 

「比企谷くん、ここで何しているの?」

 

「いや、俺は部活だけど…お前こそ、なんで?」

 

「今日は依頼人を連れてきてあげたの、ふふん。ほらなんてーの?あたしも奉仕部の一員じゃん?だから、ちょっとは働こうと思ってたわけ。そしたらさいちゃんが悩んでる風だったから連れてきたの」

 

「由比ヶ浜さん」

 

「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから。部員として当たり前のことしただけだから」

 

「由比ヶ浜さん、別にあなたは部員ではないのだけれど…」

 

「違うんだっ!?」

 

「ええ。入部届をもらっていないし、顧問の承認もないから部員ではないわね」

 

「書くよ!入部届くらい何枚でも書くよっ!というかキッシーは知ってたの!?」

 

「え?まぁ、副部長だし」

 

「なんで言ってくんなかったの!?」

 

「こういうのって雪ノ下さんが言うかなぁって、それに前々から雪ノ下さんが『いつになったら由比ヶ浜さんは入部届を持ってくるのかしら』って言ってたし」

 

「岸波くん、あとで話があるから」

 

笑顔だけど怖い。オーラみたいなやつ?

 

「ゆ、ゆきのん」

 

由比ヶ浜さんは嬉しそうに涙目になる。

 

「由比ヶ浜さん、彼の言葉は忘れなさい。いいわね」

 

「わ、わかった」と言って由比ヶ浜さんは頷いた。

 

「わかったなら。早く入部届を出すように」

 

雪ノ下さんは頬を赤らめて目を逸らしながら由比ヶ浜さんに言う。

 

「うん!ありがと、ゆきのん」

 

由比ヶ浜さんはルーズリーフに丸い女の子らしい字で『にゅうぶとどけ』と書き始めた。

 

「で、戸塚彩加くん、だったかしら?何かご用かしら?」

 

「あ、あの…」

 

「戸塚くんはテニス部を強くしたいんでしょ?」

 

「えっ!?ど、どうしてわかったの?」

 

「さっき比企谷がそういうことを相談されたって、戸塚くんのためにもどうにかならないかな?って俺たちに聞いてきたんだよ。」

 

俺がそう言うと、戸塚くんが比企谷のほうをむいた。

 

「ほ、ホントなの比企谷くん?」

 

「お、おお」

 

比企谷が答えると戸塚くんは頬を赤くして比企谷の左手を両手で握って笑顔で

 

「比企谷くん、ありがとう」

 

戸塚くんの行動で比企谷も照れながら空いている右手の人差し指で頬を掻いている。

 

「いや、まぁ初めて相談されたからな、そ、それに…」

 

なんだろこの初々しい感じ。この二人で恋愛とか始まらないよね?

 

「ねぇ岸波くん」

 

「なにかな雪ノ下さん」

 

「何度も言うけど勝手に話を進めないでくれる。それで戸塚くん」

 

「は、はい」

 

比企谷の手を握っていた戸塚くんが雪ノ下さんの声で驚きながら比企谷の手を離し雪ノ下さんのほうをむく。

 

それよりも比企谷が戸塚くんに手を離されたときすごく悲しそうな顔をしたぞ。しかも雪ノ下さんのこと軽く睨んでるし…。

 

「戸塚くん、あなたは何を依頼しにきたのかしら?」

 

「あ、あの…、テニスを強く、してくれる、んだよ、ね?」

 

雪ノ下さんにむいていた視線も喋るにつれ比企谷のほうへと変わっていく。

 

「由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけど、奉仕部は便利屋ではないわ。あなたの手伝いをし自立を促すだけ。強くなるのもならないのもあなた次第よ」

 

「そう、なんだ…」

 

戸塚くんがしょんぼりと肩を下げると、比企谷が由比ヶ浜さんをちろっと睨む。

 

「へ?何?」

 

「何、ではないわ。あなたの無責任な発言で一人の少年の淡い希望が打ち砕かれたのよ」

 

雪ノ下さんの言葉に由比ヶ浜さんは首を傾げる。

 

「ん?んんっ?でもさー、ゆきのんとキッシーならなんとかできるでしょ?あとヒッキー」

 

「俺はおまけか?」

 

雪ノ下さんは由比ヶ浜さんの挑発?に乗って戸塚くんの依頼を受けることになった。

 

雪ノ下さんの方法で…。

 

「戸塚くんは放課後はテニス部の練習があるのよね?では、昼休みに特訓をしましょう。コートに集合でいいかしら?」

 

「りょーかい!」

 

「わかった。昼休みにすることもないから俺はいいよ」

 

「それって、…俺も?」

 

「当然。どうせ昼休みに予定なんてないのでしょう?」

 

これで明日から戸塚彩加テニス強化計画が始まった。

 

「そういえば岸波」

 

「どうした比企谷?」

 

「由比ヶ浜が入ってくる前に言ってた方法はなんだったんだ?」

 

「またはのあとに言おうとしたヤツのこと?」

 

「そうそう」

 

「あれは、『または、自分よりも強い相手と戦い続けること』だ」

 

「なるほどな、ゲームと同じってことか。もらえる経験値が違うからな、ああいうの」

 

「言い方はあれだけど間違いではない。基礎ができていれば強い人と戦い続けていく内に必然と強くなっていく。って感じだな」

 

シンジタンクのときがそうだったな。慎二もエリザベートも俺が強くなっているって言ってたし。

 

「でも、それは無理じゃねぇか」

 

「どうして?」

 

「だってよ、その強い奴がいないから戸塚が困ってたわけだし」

 

「探せばいると思うよ。強い相手が結構身近に」

 

 

 

 

 

戸塚くんは部活にむかうため部室を出る前に俺の方にやって来た。

 

「えっと、君が、岸波くんだよね?」

 

戸塚くんはアストルフォとは違うタイプのだな。

 

アストルフォが元気ッ子って感じで、戸塚くんはお淑やかって感じだ。

 

「そうだけど、どうかしたかな?」

 

「あ、あのね、岸波くんって怖いイメージがあったんだけど、優しい人でよかった。これからよろしくね」

 

「え?どうして怖いと思ってたの?」

 

「え、えっとね、岸波くんの噂話があって、それで怖い印象があったんだ」

 

「噂話?」

 

「「それだ!!」」

 

噂話という単語で比企谷と由比ヶ浜さん立ち上がり叫んだ。

 

そのせいで俺と雪ノ下さんと戸塚くんが驚いてしまった。

 

「急にどうしたの、驚かせないでくれる」

 

雪ノ下さんが冷たい視線で二人を睨む。

 

「いや、わりぃ。それであれだ、俺が入部したときに岸波の名前に聞き覚えがあったのがその噂話ってやつだ。由比ヶ浜もそうだろ?」

 

「う、うん」

 

「俺自身、その噂って知らないんだけど」

 

「私も知らないわ」

 

アレか、あの雪ノ下さんに入学初日に告白して玉砕したってヤツか?

 

「その噂が結構ひどいやつが多くてさ、でもキッシーのこと知っちゃうと全部出鱈目だってわかる。キッシーはそんなことをしない優しい人ってわかるもん」

 

「それってどういう噂か教えてくれないかな?」

 

「でもキッシーは嫌な気分になると思うよ…」

 

由比ヶ浜さん少し辛そうな顔をした。

 

「そうか、わかった。俺はそういうのは慣れているけど、君が辛いなら言わなくていいよ。ごめんね」

 

俺の慣れているという言葉に雪ノ下さんも辛そうな顔をしてしまった。

 

小学校や中学にあった俺の噂は大抵雪ノ下さんとセットで使われていた。

 

その九割が俺が悪役的な扱いをされていたせいで雪ノ下さんを少し困らせてしまったことがある。

 

悪いのは俺なんだから気にしなくてもいいって言ったんだけどな…。

 

「戸塚くん。部活に急がないともう始まっちゃうよ」

 

「う、うん。ありがとうね。みんな、明日からよろしく」

 

一人一人が戸塚くんに対してあいさつをしたら、戸塚くんは部室を出て行った。

 

「なぁ比企谷、お前なら俺の噂言えるか?」

 

「ん、ああ、お前が気にしないっていうなら構わないぞ」

 

「ちょっとヒッキー!」

 

「いいよ、由比ヶ浜さん。俺も周りからどう思われているか気になるし、みんなもその噂の真相が気になるでしょ?」

 

「う、うん…」

 

由比ヶ浜さんが納得してくれたようなので比企谷が話し始める。

 

「俺が知ってる岸波の噂は三つ。バカみたいなのが二つで、ひどいのが一つ」

 

「全部頼むよ。」

 

「バカみたいのは『お前がこの辺を縄張りにしてた暴走族を解散させた』と『中学時代に同じ中学の生徒を病院送りにした』ってのだ。それで最後の一つは『中学時代に平気で動物を殺してた』ってやつ」

 

そういうのか…。

 

「その噂は全部ウソみたいね。中学時代のことは私が知らないはずがないもの」

 

「だよねぇ。キッシーがそんなことするはずないもんね」

 

「いや、その噂は当たってはないけど似たことをした覚えはあるよ」

 

俺の言葉を聞いて全員の顔が青ざめた。

 

「今からその噂の真相を最初のほうから言うね」

 

「まずは暴走族のことだけど、あれは俺一人ではないんだよ」

 

これを言う場合は俺がバイトをしていることを言う必要があるな。

 

「実は俺バイトをしているんだけどさ」

 

「それは初耳だけど、暴走族と何が関係あるのかしら?」

 

「関係はないよ。バイト先の店長が関係してるんだよ」

 

「さらに意味がわからなくなったぞ」

 

「これは俺が高校に入って、バイトを初めて一月のことだ。俺は寝たら結構大きな音がしても起きないんだけど、その時期俺が住んでる周辺の地域を夜に暴走族がバイクを乗り回してたんだよ。」

 

「ああ、確かにあたしが一年生のときも結構うるさくて眠れなかったことがあったけど、ある日突然消えたのを覚えてる」

 

「俺はいつものように眠ろうと思ってたら、店長が俺の家まで来て『少年。それでは行くとしよう』って言ったきたんだよ」

 

「完全にわけがわからん」

 

「俺も意味がわからなかったから『何処にですか?』って聞いたんだよ。そしたら『私の安眠を邪魔する者は子供だろうと容赦はしないさ』と言って俺の腕を引っ張って俺を連れ出してったんだよ。俺寝巻だったのに。いやぁ恥ずかしかったなぁ暴走族の前に寝巻で立たされてるんだもん。で、店長が『さぁ少年よ、共にこの悪ガキどもに灸を添えてやろう』って言い始めていきなり開戦したわけだ」

 

アレは本当にシュールな絵面だったな。

 

ガチな暴走族五、六十人対中華料理屋の店主と寝巻姿の高校生二人。

 

「それで結果は?まぁ噂通りか」

 

「俺たちが勝ったな。無傷で」

 

「すご過ぎて意味わかんない」

 

「まぁ、俺が倒したのなんて一割程度で、残りの九割は店長が倒したし」

 

「店長何モンだよ!」

 

「趣味で八極拳やってたみたいだよ」

 

「趣味の域を超えてると思うけれど」

 

「それで店長がその暴走族のトップ、族長だっけ?まぁそんな感じの人の両腕両足を逆に曲げてその暴走族は解散したんだよ。解散理由を族長さんが事故ったことにして」

 

「だから店長何モンだよ!」

 

「でもまぁこれで一つ目は岸波くんが巻き込まれた感じの噂だったわけね」

 

「まぁそうだね」

 

「無傷で一割倒している時点でスゲェと思うけどな。お前んところの店長が異常すぎるせいかよくわかんねぇな」

 

次はアレだな…。

 

「次のは、二つの噂は一つとして考えてくれ。ただ気分のいいものではないのは噂の内容でわかってると思うけど、大丈夫かな?」

 

この話は俺も辛いし。

 

「私は構わないわ」

 

「俺も別にいいぞ。気にはなってたし」

 

「あ、あたしは……。ううん、聞く、あたしも聞く」

 

「ありがとうみんな。これは俺が中学二年生のこと、雪ノ下さんが海外へ留学していたときのことだ」

 

 

 

 

 

俺は雪ノ下さんとの勝負が無くなっていた間も努力はしていた。

 

でも時間はやっぱり余ってしまった。だからあるとき俺は近所にある神社に行ってみることにした。

 

神社の周りを散策していたら境内の裏から小さな鳴き声が聞こえて、鳴き声のほうをへ行ってみるとそこには段ボールがあって中に子猫が五匹いたんだ。

 

その子猫たちは衰弱しきっていて危ない状態だった。

 

俺はその段ボールを持って家まで走った。

 

家に着くと俺は子猫たちに食べ物をあげたり、温めたりして一生懸命看病をした。

 

そして朝になり、五匹全部がどうにか一命を取り留めた。

 

本当に嬉しかった。俺でも命を助けることができるんだって、守ることができたんだって。

 

ある程度元気になってから俺は新しい段ボールに毛布を入れ、それに子猫たちを入れて元いた場所に戻すことにした。

 

さすがに家で飼うことは難しいと思ったから。

 

それからは毎日のように子猫たちにご飯をあげに行ったり、雨の日は傘を差しに行ったりと頑張って面倒を見た。

 

だけどある日そこから子猫たちがいなくなってしまった。

 

猫だからひとりでにふらっとしていなくなったのかと思った。旅立ってしまったと思った。

 

でもそれが嬉しかった。俺が頑張ったからあの子猫たちは自立して前に進めたんだと。

 

だけどそれは違った。

 

次の日俺の下駄箱の中に五匹の内の一匹が血塗れの死骸になって入ってた。

 

 

 

 

 




最後は少し暗い感じ終わっちゃいましたね

次回は噂の真相の後半とテニスバトルくらいには持っていきたいですね

それではまた次回

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